音楽以外にもあてはまると思いますが、基本音楽の話のつもりで書いています。
・新しさとユニークさの話
「新しい」という言葉にはおおまかに2つ意味があって、一つは
①「(ものごとを時間軸に沿ってみたときに)まだ時が経っていない」、あるいは「より現在に近い」
という意味。そしてもう一つは
②「今までにない」
という意味だ。さらに②の意味については、「今までになかったかどうか」という判定を個人の歴史において行うか、人類の歴史において行うかでまた微妙にニュアンスが変わる。
②-1 個人史において今までにない
②-2 人類史において今までにない
そして……ここはちょっと飛躍があるかもしれないのだけど、上記の①・②両方の意味で「新しい」ものごとが、①の新しさだけを失うと、それは「ユニーク」となる。
「ユニーク」とは「唯一の」「他に類を見ない」という意味の言葉で、例えばRPGのゲームでは「ユニークアイテム」なんて形で、そのものズバリの意味で使われていたりする(NPCなんかがよく装備してたりする)……というのは蛇足なのだけど、とにかく、「今までにない」「新しい」ものごとは、時間が経つと「(今現在)他に類を見ない」「ユニークな」ものごとになる。
自分が今までに触れたことのない作品に触れるとき、その作品は自分の個人史には存在していなかったのだから、②の意味の「新しさ」を感じることになる。そしてそれはその作品がずいぶん昔に発表されたものであったとしても同様である。
しかし中には過去に何度も触れた作品であるにもかかわらず、いまだに「新しさ」のようなものを感じる作品というものもあり……そういうとき、おそらくその作品には大きなユニークさが備わっているのだ。
何度も触れた過去の作品から新しさを感じるとき、そこにはユニークさがある。
逆に言えば、「ユニークな作品は古びない」。名作と語り継がれてきた作品にはなにかしらユニークなところがあるのではないか。
……記事タイトルの話はこれでおしまいで、ここからはもっと胡乱な話。
・真に「新しい」音楽とは?
(特に結論のない話です)
②-2 人類史において今までにない という意味での新しさを備えた作品、過去にあったと思うんだけど、それでも、その作品の一部には既存の表現があっただろう。
100%、新しい表現のみで構成された作品があったら?
Richard D. Jamesがピッチフォークのインタビュー(リンク先はRAのレビューページですが)で、”音楽ファンにとっての究極というのは、俺が思うに、俺たちに一切影響を受けていない他の惑星からやって来た音楽を聞くことだ” と語ったことを、新しい音楽について考えるときに思い出す。たしかに、そういう音楽(新しさ100%)があり得るとしたら、それを作れるのは宇宙人だけかもしれない(人類には不可能な気がする)。
ただ、そういう作品(?)があり得たとして、それを聴いてすぐに楽しむことができるかというと、微妙なように思う。今までの作品の楽しみ方が通用しないからだ。めちゃスリリングだったりめちゃ楽しかったりするかもしれないが、同じくらいにめちゃ退屈だったりするかもしれない。まあこれは「新しい」ものごとすべてに当てはまる問題(でもないけど)で、気にしてもしょうがないことではある。
これはまた蛇足というか与太話なのだけど、Aphex Twin『Selected Ambient Works Volume II』は真の意味で「新しい」……というかいまだにすごいユニークさを保っている怪盤(ユニークすぎると名盤というより怪盤と評したくなる)である。本当にユニークな音楽性なので、初めて聴く際には???となるかもしれませんが。……しかしこの作品がいろんなところで高く評価されていることは、とても良いことのように思います(駄作!と切って捨てられている未来も普通にあったんじゃないかと思う)。
・「新しさ」を「新しさ」とわかるには?
作品が、②-1 個人史において今までにない という意味で新しいかどうかは、まあ触れればわかるだろう(ここの部分については深堀りしません)。しかし、②-2 人類史において今までにない という意味で新しいかどうかを判別するのは難しい。というのも、人類史(というか人類の文化史?)に精通している必要があるからだ(厳密に判別するなら既存の表現を”全て”おさえておく必要がある(無理ゲー))。
人類史において今までにない という意味の新しさを感知するには、個人史を人類の文化史に近づける必要がある。
完全に、というわけにはいかないけど、ある程度のところまでなら近づけられるだろう。表現には類型がある。その類型をおさえていけば、それなりのスピードである程度のところまではいけるはず。
具体的に言うなら、「ジャンル」をおさえましょう。ポップミュージックならメタルやプログレ、ヒップホップなど。より高い効率を目指すなら、細かなサブジャンルの開拓は後回しにし、大きなジャンルを辿っていくべき(ブラックメタルやスラッシュメタルを掘る前により大きな枠である「メタル」や「プログレ」を掘ろうね、という)。各ジャンルの名盤を一枚ずつおさえておくだけでもずいぶん違うだろう。
……なんで急にこんな話をしだしたのかというと、事故防止のためである。なにがしかの新しさに触れ、「これは新しい!」と表明するときに、その新しさが個人史においてのものなのか人類史においてのものなのかを判別している人は、いる……と思うのだけども、両者を判別しているということを併せて表明することは(自分含めて)ほとんどない。するとどうなるかというと、「新しい」との評判を聞いて触れた作品が、自分にとってはまったく新しくなかった、というようなことが起こる。その評判を聞いて作品に触れた人はがっかりするかもしれないし、評判を流した人は「嘘つき」と責められるかもしれない(まあ「嘘つき」と口に出す人はそういないかもしれないが内心で警戒はされるだろう)。そこで「もうこういう表現はあるよ」というふうに話が広がれば、それはそのまま過去の作品の再評価にもつながるのですが。。
こういう事故は、上述のように個人史を人類の文化史に近づけることで遭遇率を減らすことができる。みんながみんな”そのレベル”に至れば事故率ゼロになるだろうけどまあ普通に無理だし、そもそも個人レベルでも厳しい話ですが。現実的には、なにかを「新しい」と表明する際に各々で気をつけるしかないと思う(”そのアーティストのキャリアにおいて”というふうに範囲を限定することは有効だと思う)。
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……この「新しさとユニークさの話」ですが、もともとは去年頒布した『POP-MUSIC GUIDE 2010年代の200枚』の後書きとして考えていたものでした。考えただけで、実際は時間がなくて書けなかったんですけど…。急に一日分の空き時間ができたので、思い立って書いてみました。
2010年代の200枚を選出するにあたり、指標にしたものの一つが「音楽性のユニークさ」でした。当初は感覚で選んだ指標でしたが、改めて言葉にして整理してみると、なぜこれを指標としたのかが分かります。「新しさ」にほど近い概念だからですね。
自分は「新しさ」をすごく評価しています。なぜなら「新しさ」こそがものごとを拡げ、進めていくと思っているからです(あいまいな表現でアレなんですが疲れてるので…)。
なので「新しさ」という基準で作品を選びたいけど、でも「新しさ」を理由に(時系列で言えば)古い作品を取り上げるのもなんかおかしくない?……と思って感覚的に選び取ったのが「ユニークさ」という指標だったのですね。
言葉の微妙な違和の話で、我ながらめんどくさいやつ…と思いますが、言語化してある程度気持ちよくなれたのでオッケーとします。
最後に、『POP-MUSIC GUIDE~』頒布時におまけとして配ったペーパーに書いたものなのですが、2010年代の200枚の内、自分が特にユニークなサウンドだと思った作品25枚のリストを置いておきます。2010年代の200枚もこのリストも、定期的に見直しをするという前提があったからこそ(2019年がまだ終わっていない)早いタイミングで発表できたところがあります。なので内容はちょっとあてにならない部分もあると思います。それを踏まえつつなにかの参考にしてもらえれば…。(ということでまた年末に200枚のメンテナンスができたら良いですね)
Actress / R.I.P.
Andy Stott / Passed Me By / We Stay Together
Angel 1 / Allegra Bin 1
AOTQ / e - muzak
DJ Metatron / This Is Not
Domenique Dumont / Comme Ca
Earl Sweatshirt / Some Rap Songs
Euglossine / COMPLEX PLAYGROUND
Foodman / Ez Minzoku
Giant Claw / DARK WEB
Graham Kartna / Ideation Deluxe
Jam City / Classical Curves
James Blake / James Blake
Jerry Paper / Fuzzy Logic
Khotin / New Tab
Logos / Cold Mission
Macintosh Plus / Floral shoppe
Meitei / 冥丁 / Kwaidan / 怪談
Pendant / Make Me Know You Sweet
RP Boo / Legacy
Standing On The Corner / RED BURNS
Sun Araw / The Inner Treaty
The Caretaker / An Empty Bliss Beyond This World
Will Long / Long Trax
Zebra3 / Warm Blanket
猫 シ Corp. / Palm Mall