ポップス信仰と冗長さへの嫌悪

 

 

 とりあえずこの記事では「ポップス=大衆の方向を向いた音楽」とする。

 自分が思うポップスの良さって、

 

①(より大衆に注目されるため、目立つために)新しい音楽を取り入れること

②(大衆が飽きないように)表現が洗練されること(尺も短くなる)

③(大衆に愛されるために)従来の馴染みのいい要素も入れること

 

 がある。①と③のバランスが大事で、③だけだと永遠に車輪の再発明をしていく感じになるのでは。しかし③があるからこそ聴き手に予想をさせることができる(後に気持ちよく裏切ることができる)わけで……まあ互いに引き立てあう関係だと思う。

 個人的に大きいのが②の洗練で、実はこれこそがポップスのユニークな特徴なのではとか思う。洗練ってのはつまり、よい少ない要素でより多くを感じさせることだと思う。で、これってたぶん「圧縮」に必要なプロセスで……ということはつまりポップスって圧縮の音楽なのでは? そして洗練・圧縮っておそらく「時間あたりの快感」を増やす唯一の方法で……じゃあポップスって(一定時間内での)快感の強度をいかに上げるかという音楽ジャンルなのでは??

 

 

(いやここまで突っ込むつもりはなかったのですが(↑))

 

 自分は洗練を愛している……というかもはや信仰しているところもあるのですが、それと引き換えに?冗長さを嫌っている一面もあります。裏切らないのなら安易に予測させるなや!とか思ったりします。のだけど、これってもしかして、先に洗練された音楽に触れてしまったからなのでは?とか思いましたさっき。

 

 

 

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 要するに、禁断症状なんじゃないか、という。洗練された(≒圧縮された)音楽の方が快感の強度が高いとして……自分の中で快感のハードルが上がってしまったのでは?

 上に貼った「とろける哲学」なんて、3分半の間で何度裏切られたかわからんみたいな曲なんですが、こういう曲ってある意味では「劇薬」と呼べるのかもな、なんて。冗長な音楽がつまらなく感じてしまう副作用がある。

 

 

 

 ということで、自分のこの冗長さへの嫌悪は洗練されたポップスへの接触が育んだのかもなーという話でした。……とこれで終わってしまうとなんか寂しいので続けるんですけど。

 

 

 

 最近、昔の作品を聴き直していて思ったのですが、はっきり書きます。「冗長と思える音楽も聴けるようになった方がいい」。まあ元から聴けないわけではないので、より正確に言うなら「冗長さへの(過度な)嫌悪感を捨てろ」という感じです。洗練への志向は捨てなくていいけど、その過程で育まれうる冗長さへの嫌悪感は、ちゃんと認識しておけ、そしてできれば嫌悪するなという話です。

 

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 個人的に、冗長だなと感じる音楽ってじつは結構あったんですよね。たぶん読んでていい気分にならないと思いますが、たとえば『Who’s Next』とか『Houses of the Holy』とか。さすがにアルバム全体ではないんですけど、この2枚で言えば冒頭2曲が個人的に冗長で(「Baba O'Riley」~「Bargain」、「The Song Remain the Same」~「The Rain Song」)、その2曲を聴いているうちに飽きちゃってもうアルバムの再生を止めてしまう、なんてことがそれなりにありました。

 

 しかし! 今回の聴き直しで、そこの部分さえ受け入れられればそれらはやっぱ名盤だなと感じたんですね。なので……………………これ、「なので」と言えるほどに強い論理じゃないんですけど、とにかく、もう少し冗長さに対して寛容になってもいいのでは?と今回感じたんですよね。

 

 マジで弱い主張で申し訳ない。これ、言ってしまえば「もう少し手加減してくれ」「ハードルを下げてくれ」と言ってるようなものなので。ただ、少し寛容になるだけでより楽しめるようになる作品がぐっと増えると思うんですよ。まあ楽しめるレベルにまでいかずとも、「自分が嫌悪していること」を自覚できるようになるだけでも、なんというか気の持ちようがだいぶ変わってくるんじゃないかと思います。

 

 ただ、これ特に申し訳ないなと思うのが若い世代に対してで。というのも、自分が冗長さに少し寛容になってきたのって、もしかしなくとも加齢のせいなのでは?と思うんですよ。歳をとって時間感覚が鈍くなったからなんじゃないかと、そう思っているんです。なので……より「現在」を生きている若者にとっては受け入れにくい主張というか提案なんじゃないかなと。

 

 まあでもね……できるだけ作品に対するヘイトは持たない方がいいですよ。精神衛生的にも。自分が冗長だな、つまらんなと思ってる作品が世間で高評価だったらムカつくじゃないですか。自分にとってそれはヨシュア・トゥリーだったりするんですけど(実際今でも年寄りの音楽だなと思ったりするんですけど)。でも、だからこそ今、自分がそれらの作品をかなり楽しめていることが驚きなんですよね。。 けっこうね……自分の嗜好って変わるもんですね。今のところは楽しめるものが増えるというポジティブな変化なのでいいですが、逆に「洗練を楽しめなくなる」みたいなネガティブな変化も起こるのでしょうか。まあとりあえず30歳くらいまではネガティブな変化は起こらないっぽいので、それまでは安心して音楽を楽しんでいっていいっぽいです。サンプルサイズ=1ですけどね。