2012~2013年の推し盤です。
レギュレーション的なやつ
・2010年1月1日~2019年8月25日(『紙版~』の発行日)に発表された作品からチョイス
・チョイスにあたっての指標は以下の3つ
「音楽性のユニークさ」「作品の完成度」「自分の好み」
作品はそれぞれの年ごとにアルファベット順(あいうえお順)で並んでいます。
2012
░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ / [▣世界から解放され▣] (self-released)
Internet Clubを筆頭に、様々な名義で大量の作品を発表しているRobin Burnettによる、珍妙な名義の作品。昔のラジオやテレビの音声をサンプリングし、テンポを変えつつループさせるSignalwave、あるいはBroken Transmissionと呼ばれるスタイルの作品で、デッドな録音も相まって虚無感がすごい。OPN『Replica』はBurnettのお気に入りの一枚らしいが、そちらで見られた抒情性や乾いたユーモアはここにはない。非常にユニークな作品。
Actress / R.I.P. (Honest Jon's)
まるで悪酔いしたかのような、抽象的で不安定なダンス・ミュージックを展開していた2010年作『Splazsh』に続く3枚目のアルバムは、掴めなさはそのままに、よりアンビエントに寄った内容になった。特定のジャンルにとらわれない、「Actressの音楽」としか呼べないような作品で、その掴めなさからはDean Bluntの名前なんかも浮かんでくる。「Jardin」「N.E.W.」など、ビートレスなアンビエント・トラックはどれも出色の出来。
Andy Stott / Luxury Problems (Modern Love)
昨年の2枚のEPに続くアルバムは、Andyのピアノの教師をしていたというAlison Skidmoreの耽美なボーカルを大きくフィーチャー。EPのジャケットが象徴していたトライバルなイメージから一転、4AD的なゴシック風味のダブ・テクノという領域を開拓した。超重量級のベースと共に、10年代に強烈な存在感を残した作品。
Avec Avec / おしえて (Maltine)
Seihoと二人でSugar’s Campaignとしても活動しているトラックメイカー/作曲家のTakuma HosokawaによるソロプロジェクトであるAvec Avec。音数控えめの上品なアレンジやs.l.a.c.k.を彷彿とさせるヨレたビートなど注目点はいくつかあるが、なによりもポップスとしての強度の高いソングライティングが魅力的。個人的には芳川よしのと共に、邦ポップ界のトレンドを塗り替えていくのではないかと期待していたアーティスト。アルバムを待つ。
Azealia Banks / 1991 (Interscope)
アメリカはハーレム地区出身のラッパー/シンガーによるEP。プロデューサーに時代の寵児といえるLone、Machinedrumらを迎え、現代的なビート・ミュージックとヒップホップを見事に融合させたサウンドを作り上げた。収録された4曲すべてがキラーで、インパクト・完成度ともに最高の一品。盛り上がりたいとき、大音量で。
Balam Acab / Wander / Wonder (Tri Angle)
レーベルのカタログナンバー1の作品となった『See Birds』に続くアルバム。まるで水中から鳴らされているようなくぐもった音響が特徴の神秘的なR&B。全編に渡って水の音がフィーチャーされており、まさにジャケット通りの「深海音楽」となっている。重く響くザラついたベースと、水面から差す光を彷彿とさせるエレピの高音のコントラストがひたすらに美しい。
Burial / Truant (Hyperdub)
2012年の年末に唐突にリリースされたシングル。収録されている2曲共に複数のパートから成り立つ10分を超える大曲で、アーティストの非凡な構成力を窺わせる。今作の一番のポイントが楽曲のコーラス部分における祝祭的・陶酔的なフィーリングで、Burialの従来のイメージを打ち破っている。ディープ・ハウスやデトロイト・テクノにおける最高の瞬間と同種の感動があり、ダブステップが苦手な人にもぜひ一度チャレンジしてほしい。
前作から楽曲・演奏共に大幅にレベルアップした2nd。特に友人やファンを招いて録音されたという特大スケールのコーラスワークには「大勢で力を合わせることの喜び」が詰まっており、作品に豊かさと祝祭感をもたらしている。大量の引用や隠喩の組み込まれたコンセプト・アルバムでもあり、多面的な魅力を持っている。邦楽史に残るであろう傑作。
Death Grips / The Money Store (Epic)
Hellaなど様々なバンド・プロジェクトに関わるドラマーのZach Hillを中心として活動する3人組のメジャーデビュー作。エレクトリックな質感の暴力的なサウンドに凄まじい風貌のMC Rideによる怒号とも取れるようなラップが被さる。ほとんどの曲が2~3分の長さでアルバムとしてのテンポが良いこと、「I've Seen Footage」を筆頭にキャッチーな楽曲がそこここに配置されていることから、ハードなサウンドのわりに聴きやすい内容となっている。
Dirty Projectors / Swing Lo Magellan (Domino)
David Longstrethを中心とするバンドの6作目。不定形なリズムを奏でるパーカッション、女声の華やかなコーラス、フリーキーなギターなど、基本的な音楽性は前作と地続きだが、今までよりも「歌」を中心に据えた楽曲が揃えられている。キャッチーなのは冒頭の3曲だが、シンプルな編成で聴かせる、どことなく枯れた味わいのある中盤以降の流れも良い。風通しの良さが魅力。
Fiona Apple / The Idler Wheel ... (Epic)
女性SSWによる7年ぶりの新作。ピアノとパーカッション(+ベース)というミニマルな編成で、格調高い音色と生々しい録音により異様な緊張感が生まれている。ボーカルはリズム感、表現力ともに最高のすばらしいパフォーマンスで、流し聞きを許さないような迫力がある。妥協の一切ない作品で向き合うのにエネルギーが要るが、それに見合った感動がある。風格ある傑作。
Frank Ocean / Channel Orange (Island・Def Jam)
OFWGKTA出身のシンガーによるメジャーデビュー作。上品にリヴァーブのかけられた柔らかなサウンドが特徴の内省的なR&B。多彩な楽曲が収録されているが、個人的には「Sierra Leone」や「Pilot Jones」などで聴ける洗練されたソングライティングが非常に魅力的(「Sierra Leone」はこの10年でも最高の曲の一つと思う)。最小の音で最大の効果を上げるアレンジもすばらしい。非の打ち所がないアルバム。
Jam City / Classical Curves (Night Slugs)
Night Slugsからのアルバムとしては2作目にあたるJack Lathamのデビューアルバム。ベースミュージックの肝とも言えるベースの持続音を排しソリッドな音でまとめることで楽曲のリズム部分を極端に強調したサウンドが特徴。ソリッドでビビッドな音色が生み出す人工的・未来的なイメージは当時鮮烈な印象を残した。今作が示したサウンドはその後、PC Musicによりキッチュな方向へ発展させられていく。
Julia Holter / Ekstasis (Rvng Intl.)
ロサンゼルスに拠点を置く女性SSWの2nd。アタックの柔らかい音でまとめられたチェンバー・ポップ。メロディーや和声にどことなくクラシック音楽のような趣があり(彼女が「アカデミック」と形容される所以と思われる)、その点でSSWとしての強力なオリジナリティを獲得している。透き通ったボーカルもすばらしい。当時のトレンドでもあったドローンやエレクトロニクスも上品に忍ばせており、彼女の音楽的な探求心の高さが窺える。
Ogre You Asshole / homely (Vap)
Modest Mouse(バンド名を決めるきっかけにもなった)をはじめとするUSインディに影響を受けたロックバンドの飛躍作。クラウトロック仕込みのグルーヴで『ゆらゆら帝国のめまい』に通じるメロウなシティポップをスケール大きく展開していく。抽象的かつ寓意的な歌詞だが音への乗せ方が巧みで音楽的な快感は一切損なわれていない。その後バンドは坂本慎太郎のソロと共振するように作品のメッセージ性を強めていく。
QN / New Country (SUMMIT)
神奈川出身のラッパー/プロデューサーがSIMI LAB脱退後にリリースした作品。英語も自然に組み込まれた、滑らかに流れていくテンション低めのラップはもちろんだが、乾いた質感の小気味良いトラックがとても気持ちいい。タイトだがストイックではなく遊び心がある。アルバム最後の「船出 〜New Country〜」~「Flava」の流れはポジティブなリリックも相まって感動的。
Ricardo Villalobos / Dependent and Happy (Perlon)
チリで生まれドイツで育ったDJの3枚目のスタジオアルバム。プログラミングの細かさに圧倒されるミニマル・ハウスで、職人の手によって配置された非常に細かな音素材群が奇妙なグルーヴを紡ぎだす。とにかくサウンドが小気味良く、危険な中毒性がある。コミカルな「I'm Counting」を経ておぼろげなコードが浮かびだす「Put Your Lips」~「Samma」が中盤のハイライトか(CD版の感想)。作り込みがすごすぎて、聴いていると変態と呼ばれるのもやむなしと思ってしまう。
Sacred Tapestry / Shader (PrismCorp)
ヴェイパーウェイブの仕掛人の一人であるVektroidの、別名義で発表された作品。1曲目こそ王道のヴェイパーウェイブだが、それ以降はまっとうなアンビエント/ニューエイジな楽曲を挟み、アルバムは次第にサイケデリックな色を増していく。「花こう岩Cosmorama」「移住」あたりは初期のOPNのシンセシスを彷彿とさせる。ラスト2曲は過去の自作曲?をドロドロに溶かしたもので、Vektroidというペルソナの(バッドな)走馬灯のようである。
Shackleton / Music for the Quiet Hour
(Woe To The Septic Heart!)
ダブステップにトライバルなリズムと怪奇趣味を混ぜ合わせた特異なスタイルで知られるアーティストの2nd。Vengeance Tenfoldというボイス・アーティストと共に作られた本作は5パートから成る大作で、ホラーな音響で魅せる序盤、夜のジャングルに厳かなコーラスが降り注ぐ中盤を経てよりサイケデリックな世界へ突入していく壮大なトリップ・ミュージック。オルガンをフィーチャーしたこれまた巨大な『The Drawbar Organ EPs』とのセット。
Sun Araw / The Inner Treaty (Sun Ark)
カリフォルニアを拠点とするアーティストのソロ6作目。ダブを通過したスモーカーズ・デライトなトリップ・ミュージックであることは変わらないが、今作では重さを極限まで減らし、音の隙間を拡大することでどこまでもとぼけた脱力ファンクを完成させた。この浮世離れしたサウンド・グルーヴは隠居した仙人が作ったようでもあるし、野性の猿が作ったようでもある。ユニークで笑える音楽。
Voices From The Lake / Voices From The Lake
(Prologue)
日本のフェス「Labyrinth」をきっかけに生まれた、イタリア人テクノアーティストのDonato DozzyとNeelによるプロジェクトのアルバム。曲同士は全て繋がっており一つのライブセットのようになっている。線形なリズムの上でのスローなビルドアップという、テクノの基本あるいは王道とも言えるアプローチを、リスナーがその変化に気づかないほど滑らかに実行した「迷いの森」のような作品。
YYU / TIMETIMETIME&TIME
(Beer On The Rug)
アーティストによるフォーク風のギターの弾き語り音声をダブステップ/ジューク通過後のビート感覚でカットアップした……アヴァン・フォーク作品? 元の音素材が乾いた質感なため最終的なアウトプットにもカラッとしたフィーリングがある。どういう場所で録音されたかはわからないが、Deerhunterに通じるようなゴーストリーな、というか空虚な響きがある。珍しいスタイルの作品。
Zazen Boys / すとーりーず (Matsuri Studio)
向井秀徳率いるバンドの4年ぶり5th。過去作を聴いていないので比較はできないが、複雑な楽曲を正確に弾きこなすバンドの運動神経が堪能できる内容となっている。テンポは速く、サウンドは硬質で、キメはいっぱいとわかりやすくカッコいいので人に薦めやすい。フレーズが妙に長く捻くれていたりするので初聴時など戸惑うこともあるが、その分繰り返し楽しめるようになっている。
ミツメ / eye (mistume)
東京を中心に活動するバンドの2nd。ニューウェーブ・シンセポップ風のスタイルへの挑戦など新たなサウンドの探求もしつつ、基本は引き締まったバンド・アンサンブルで聴かせるギターロック。「cider cider」「towers」ではリズム感抜群のバンドのポテンシャルが存分に発揮されている。川辺素による個性的な節回しの気だるげなボーカルも独特な風情を加えている。現代日本のインディー・クラシック。
千葉は浦安出身のバンドの、ミニアルバムを挟んだ2nd。ヨレたギター・サウンドと、同じくらいにヨレたバンド・アンサンブルで流行り廃りとは無縁のグッド・メロディーを響かせる。その様子はさながらPavementが初期のビートルズをカバーしているかのよう。楽曲はどれも3分前後でまとまり、シリアスさを笑い飛ばすようなポップさに満ちている。個人的にはバンドの最高傑作。
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2013
5lack×Olive Oil / 5O
(高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.)
ラッパーの5lack(S.l.a.c.k.)と音楽プロデューサーのOlive Oilによるコラボ作。5lackの自在なラップは言わずもがな、Olive Oilによる「繊細にして大胆、実験的にして郷愁的な、チルアウトでありながらビートがしっかりした、そしてドライでありながら叙情性のある」*1トラックがとにかく良い。アルバムはちょうど真ん中にあたる#6「鼓動」からメロウな味わいを増していく。邦ヒップホップの最高峰の出来では。
Andrew Pekler / Cover Versions
(Senufo Editions・Fantôme Verlag)
~scapeからクリック/グリッチ通過後の感性でジャズを解体~再構築した作品を出していたアーティストの2013年作。非常に抽象的なエレクトロニカで、例えるならばサンプリング元を日本のコマーシャルから退屈なラウンジ・ミュージックに変えたシグナルウェイブ。文脈は失われ、ただムーディで美しい音の響きだけが残る。ライブラリーとラウンジの中間の雰囲気を放つ幽玄な電子音楽。
Axel Boman / Family Vacation (Studio Barnhus)
スウェーデン出身のDJ/プロデューサーによる1st。Roman Flugelの作品に通じるような上品さ・柔らかさもあるが、同時に華やかで開放的なフィーリングもある。それは特に冒頭の4曲において顕著で、流していると思わず部屋の窓を全開にしたくなる。中盤以降はベッドルームが似合うような落ち着いたムードに移っていくが、アルバム前半の、朝の時間帯が似合う爽やかな流れが非常に印象的。
bo en /pale machine (Maltine)
本名名義でゲーム音楽も製作しているロンドン出身のプロデューサー、Calum Bowenの1st。コード進行とリズムに凝ったマルチネらしいカラフルなポップで、チャイルディッシュかつどこかノスタルジックなメロディーが涙を誘う。日本語と英語が自然に同居する素直で飾らないボーカルも曲調に合っている。30分に満たない短い作品だが流れは考えられており充実感もある。フリーダウンロード。
Boards of Canada / Tomorrow's Harvest (Warp)
スコットランド出身のデュオによる8年ぶり4th。以前と比べて音数は少なく、テンポはゆっくりになり、音色も彩度の低い落ち着いたものとなった。結果、サウンドの快楽性と引き換えに臨場感・没入感が高まり、まるで長尺のSF映画のサウンドトラックのような印象に。ゆっくりと展開していく楽曲は雄大さを感じさせる。音が重なっていく様子をイメージしながら聴くと良い。
Chance The Rapper / Acid Rap (self-released)
シカゴ出身のラッパーによる2作目のミックステープ。ドラム・ベースを差し置いて最前面に出てくるのがキーボードで、AORや教会音楽を連想させるその音色は都会的・祝祭的なイメージを作品に加えているのだが、そこにチャンスの粗野な(ソウルフルとも言える)ラップが乗ることでどこかチグハグな、それこそ「お祭り」のような雰囲気が生まれている。エネルギッシュでフレッシュな作品。NonameやChildish Gambinoといった豪華な客演にも注目。
D/P/I / Fresh Roses (CHANCEIMAG.es)
Sun ArawやPocahauntedのライブにサポートで参加したりもしている、LAを拠点に活動しているプロデューサーのAlexander Grayによる作品。雑多なサンプリング・コラージュにコロコロとした電子音をまぶしたサウンドは(全体に音域が高めなこともあると思うが)非常に軽やかで、総体としての響きは実験的ながらも聴き心地は爽やかである。Nuno Canavarro『Plux Quba』がアメリカの西海岸で作られていたらこうなっていたのかも…と想像したりする。
Deep Magic / Reflections Of Most Forgotten Love (Preservation)
上述したAlexander Grayの、アンビエント志向の名義で発表された作品。今作では住まいを共にしていたらしいSean McCannとMatthew Sullivanに影響を受けたミュージック・コンクレートを展開している。楽曲は抽象的だがムードはポジティブで、(感覚的なもの言いで申し訳ないが)なにより一つ一つの音が優しいのだ。世にアンビエントの作品は数あれど、ここまで暖かなフィーリングを持った作品はそうないだろう。柔らかな光があふれるアルバム。
DJ Koze / Amygdala (Pampa)
ドイツ出身のDJ/プロデューサーが自身のレーベルから出した2nd。ファットで柔らかな音遣いと多用されるボーカルが人肌の温かみを感じさせるポップなハウス。(おそらく)本人によるボーカルを始めとしたユーモラスな音がそこかしこで見られるが楽曲の展開は非常に丁寧で、この遊び心と繊細さが同居した懐の広さが魅力の一つかもしれない。#5「Das Wort」はそれが見事に表れた素敵な一曲。シルクの手触りを持った滑らかな作品。
DJ Rashad / Double Cup (Hyperdub)
シカゴを拠点としていたDJ/プロデューサーによる1st。ジューク/フットワークという、シカゴ発祥の高速のリズムに特化したダンス・ミュージック。イギリスのPlanet Muによるコンピ『Bangs & Works』で聴けたような荒々しさ・ストリート感は抑えられ、代わりにソウルフルなボイスサンプルとデトロイト・テクノやジャングルで聴けたようなヒロイックなコードを被せてスムースに仕上げた。個人的には現代版の『Black Secret Technology』に思える。
DJ Sprinkles / Queerifications & Ruins: Collected Remixes By DJ Sprinkles
アメリカ出身日本在住のマルチメディアプロデューサー、Terre Thaemlitzのハウス名義によるリミックス集。弾性のあるベースと柔らかなパッドが耳を惹く、王道のディープ・ハウス…なのだけど、とにかく楽曲のスケールが大きい。長尺だが緩急の効いた展開で聴き手の感情をゆっくりと開放させていく。本作には収録されていないがThe Mole「Lockdown Party」のリミックスも秀逸。CD二枚組。
DJ Sprinkles / Where Dancefloors Stand Still
「ダンスフロアが凍てつくとき」と題された、日本の風営法改正へのリアクションの意味も込めたDJミックス作品。黄金期のディープ・ハウスを用いたウォーミーで多幸感あふれる作品で、特に#8「Forestfunk I (No Damkkb Mix)」から始まる優しさと恍惚に満ちたアルバム後半の流れはハウス・ミュージックの真骨頂と言える。#13「Never No More Lonely」は涙なしでは……。本作に限らず彼女の作品はcomatonse recordingsの通販で入手できる。
Galcher Lustwerk / 100% Galcher (Blowing Up The Workshop)
Blowing Up The Workshopという実験的なミックステープ・プロジェクトに提供された、自作曲のみで構成されたミックス作品。靄がかかったような上モノが特徴的といえば特徴的だが、それ以外の要素は非常にシンプルなハウス。シンプルなものの組み合わせでここまで聴かせる作品が作れることに驚かされる。終盤の20分、徐々に盛り上げて至る最終曲のユーフォリックな響きはミックス史に残る。全編で感じられる親密な空気は豊かな音のすき間が作り上げているのだろう。
HAPPLE / ドラマは続く (マインズ・レコード)
ロックバンド・いなかやろうのメンバーによって結成された三人組バンドの1st。ユニコーンや小沢健二、果てはXTCやTodd Rundgrenとも比較される土岐佳裕のソングライティングがすばらしい。バンドによるアレンジもキュートなフックがいっぱいで、一度聴けば耳に残るような名曲が並んでいる。上述のアーティスト名にひっかかるものがあればぜひ一度YouTubeで「涙をみせて」のMVを。エヴァーグリーンなポップス名盤。
James Holden / The Inheritors (Border Community)
イギリスのDJ/プロデューサーによる7年ぶり2nd。モジュラー・シンセによる荒々しく破壊的なサウンドが特徴のプリミティブなテクノ。60~70年代の混沌と恍惚が同居したクラウトロックを彷彿とさせる楽曲群はまさしく型破りなパワーに満ちている。いくつかの曲にはまるで古代の儀式のような狂乱があるが、実際そういうものに影響を受けているらしい(クラブでの音楽体験を古代の異教儀式に重ねているようだ)。ぜひ「Blackpool Late Eighties」までたどり着いてほしい。
Jerry Paper / Fuzzy Logic (Digitalis Limited)
Orange MilkやHausu Mountain、近年はStones Throwなど多くのレーベルを渡り歩くアメリカのSSW、Lucas Nathanの2nd。ふわふわというよりはへなへななシンセ・サウンドがトレードマークのベッドルーム・ポップ。楽曲の構成はかっちりとしていて地味にリズムも豊かなのだが、とにかく音色がユルい。音程すら不確かで、1曲目のイントロからもうズッコケてしまうのだが、これがまたアンビエントなポップとして聴くと極上なのだ……zzz
Jessy Lanza / Pull My Hair Back (Hyperdub)
カナダ出身のSSWによるデビュー作。セクシーさと神秘性をあわせ持つボーカルが魅力的なR&B。同郷であるJunior BoysのJeremy Greenspanがプロデューサーとして製作に参加しており、サウンドもそれに連なるミニマルで滑らかなものになっている。終盤3曲の内省的な流れが白眉。全9曲、約35分とコンパクトにまとまっており、サウンドの聴きやすさもあってついリピートしてしまう。とても洗練されたアルバム。
Jon Hopkins / Immunity (domino)
Brian Enoとの関わりの深いプロデューサーによる4th。アンビエントに通じる空間的な音響とクリック/グリッチ通過後の緻密な打ち込みが自然に融合したスケールの大きなテクノ。アルバムは前半が猛烈で雄大なテクノ、後半が夜空を揺蕩うようなアンビエントと明快に分かれている。#2「Open Eye Signal」はMVが作られており、これが作品の開放的で雄大な側面を見事に映像化しているのでぜひ一度見てほしい。至高のサウンドデザインが堪能できる一作。
デトロイト出身のDJ/プロデューサーのデビュー作。リズムを前面に押し出したラフな音色のマシン・ファンク。メロディーやコードといったものはほとんどなく、代わりにリズムと、目の前でツマミを回しているかのような生々しいエフェクト操作で展開を作っていく。Theo Parrishに通じるゴツゴツした質感のサウンドは異様な迫力があると同時に、スムースな音色に慣れた耳には新鮮に響く。リズム特化の「Flemmenup」~ソウルフルな「Crushed!」がハイライト。
Lil Ugly Mane/ Three Sided Tape [Volumes One]
(self-released)
多くの名義を使い大量の作品を発表しているTravis Millerの、Lil Ugly Mane名義による未発表曲やインストゥルメンタルをまとめたミックステープ。様々なタイプの楽曲が無造作に(ぶつ切りで)繋がれていくさまは分裂症的な不気味さがあるが、困ったことにどの曲も非常にポップ・キャッチーで、訳もわからぬままについリピートしてしまう。サウンドはややチープでB級映画的な、ジャンクな魅力がある。
Logos / Cold Mission (Keysound)
イギリスのプロデューサーのデビュー作。無音部分を大胆に配置することでリズムを最大限に強調したグライム。Jam Cityの11年作におけるグライムの骨格だけを抜き出したようなサウンドに、無重力空間を連想させる冷たいアンビエンスと無音を加えさらにメリハリを強めた。予測不可能なビートと静謐なアンビエントが交差するアルバム前半はエレクトロニック・ミュージックの歴史に残る出来と言っていい。聴き手の想像力を強く喚起する作品。
Maxo / LEVEL MUSIC PURCHASE (self-released)
アーティストがニューヨーク州立大学パーチェス校に在籍中に手掛けた作品で、同校のキャンパスがもしゲームだったら…という設定で作られており、各楽曲はキャンパス内の場所(と時間)に対応している。リズムとコード進行に凝った楽曲は高密度で機能的。スーパーファミコンの音源を使用したサウンドはキュートでノスタルジック。ベースのプレイにはジャズの影響も? 常に歌が最前面にある。個人的にはポップスの理想形のひとつ。全曲インストゥルメンタル。
My Bloody Valentine / m b v (MBV Records)
アイルランド出身のバンドによる22年(!)ぶりの新作。基本的な音楽性は変わっていないが、そもそも前作『Loveless』と同レベルの楽曲・サウンドを再び作れたこと自体が偉業である。アナログな手法にこだわって作られたサウンドは「マイブラ節」としか言いようがない。楽曲は多少複雑さを増し(特に#2、#3)今まで以上の深みを湛えている。キュートなポップ・ソングの「new you」、暴風雨のようなドラムンベースの「wonder2」など新たな試みもあり。理想的なフォロー・アップ。
Oneohtrix Point Never / R Plus Seven (Warp)
レーベル移籍後の6th。ソフト・シンセによる人工的でハイファイな音色が特徴的なエレクトロニック・ミュージック。滑らかなサウンドとしばしば顔を出す教会音楽風のハーモニーが美しいイメージを作り出す。メロディーはあるがポップ・ソング的な繰り返しはないため曲は掴みにくい。「Zebra」や「Problem Areas」といったキャッチーなリフを持つ曲がアルバムを多少取っつきやすくしている。「Still Life」のMVは一見の価値あり。
RP Boo / Legacy (Planet Mu)
ジューク/フットワークというジャンルのオリジネイターの一人と目されるシカゴ出身のプロデューサーの1st。リズムに特化したジャンルの中でも特にリズムに凝った作品で、聴くとリズムには進化する余地がまだこんなにあったのか、と驚かされる。最先端のダンス(?)ミュージックであり、実験的な側面もあることは押さえておこう。「Red Hot」~「There U'Go Boi」の流れの無敵感。リズムもここまでくると人間の運動神経というものについて考えてしまう。
Stellar OM Source / Joy One Mile (Rvng Intl.)
アナログ・シンセによるニューエイジ~アンビエントな作品を発表していた女性アーティスト、Christelle Gualdiによる2013年作。高密度でエクストリームなテクノ。細かい音が集まってメロディーラインが生み出されていく様子は点描的とも言える。一音一音ベロシティを変えることでリズムも生まれており、例えば沸騰してボコボコいってる水のような、忙しなくハイエナジーなサウンドである。テクノの熱狂的・衝動的な側面が見事にパッケージされた作品。
Vampire Weekend / Modern Vampires of the City
(XL Recordings)
ニューヨーク出身のバンドの3rd。テンポはスローに、音域は中低域に、音色はシックで落ち着いたものにそれぞれ変化し、今までで一番穏やかに聴かせる作品となった。それまでも室内楽的な、いわゆるチェンバー・ポップな楽曲はあったが、「Step」を筆頭に今作ではより本格的なアレンジが試みられ、もはやバロック・ポップの領域に。優等生すぎると思わないこともないが、実際、非の打ちどころはない。傑作。
Various / Livity Sound (Livity Sound)
Peverelist、Kowton、Asusuによって運営されているブリストルのレーベル「Livity Sound」の、2011~2013年に発表された楽曲をまとめたコンピレーション。シンプルで力強いテクノで、音数はミニマルと呼べるほどに絞られているが代わりに一音一音が迫力を持って鳴らされており、プリミティブなパワーに満ちている。ドラムにはトライバルな響きがあり、ジャケットのような怪しげなイメージがある。とにかく明快で存在感のあるサウンドであり、今作を聴いた後で他の作品を聴くとサウンドが物足りなく感じられるかもしれない。
Various / The Early Emissions (EPs 1-4)
(Firecracker Recordings)
スコットランドのエジンバラ発のレーベルによる、2004~2009年に発表された初期EPをまとめたコンピレーション。デトロイトに通じる「黒さ」を持ったビートダウン・ハウス。ディスコやジャズ、ソウルなどのブラック・ミュージックを広く取り込んだ、豊かな音楽性を持つ。サウンドは温かで柔らかく、1曲目のイントロの、エレピの震える響きだけで”連れていかれる”人もいるだろう。ビンテージな音色が親密な空気を作り出す。ムーディでタイムレスな魅力のある作品。
Various / THE IDOLM@STER 765PRO ALLSTARS+ GRE@TEST BEST!
(日本コロムビア)
今や巨大コンテンツへと成長した「THE IDOLM@STER」シリーズの、ゲーム・アニメから代表曲を網羅・収録したベストアルバムシリーズ。計4作出ており、それぞれ「SWEET&SMILE!」などのコンセプトに沿って楽曲がまとめられている。音楽性は多岐にわたるためここでは割愛。量があるためとっつきにくいかもしれないので、個人的に今作を気に入るきっかけになったおススメ楽曲を紹介する。「COOL&BITTER!」のディスク1・2のオープニングを飾る「9:02pm」「Mythmaker」の2曲。ぜひ一度聴いてみてください。
青葉市子 / 0 (Speedstar Records)
日本のSSWによるメジャーデビュー作となる4th。クラシックギターによる弾き語りで、シンプルなスタイルゆえに表現力の高さやソングライティングの良さが引き立つ。凛とした透き通った声は部屋の空気も聴き手の精神もシャキッとさせるようだ。七尾旅人の3rdのように物語をゆっくりじっくり展開していく楽曲もあれば、フィールド・レコーディングを導入し、録音したその場の空気をまるごと伝えるような楽曲もある(後者ではGrouperのようなアーティストが連想される)。
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2012年:25枚
2013年:31枚
10/21には記事が上がるはず…と言っておきながら一週間以上も待たせてしまいました。次回は……11月中には上がります! 上旬にアップできれば…