『2010年代の200枚』(2010~2011年)

 2010~2011年の推し盤です。 

 

 

muimix.hatenablog.com

 

レギュレーション的なやつ

・2010年1月1日~2019年8月25日(『紙版~』の発行日)に発表された作品からチョイス

・チョイスにあたっての指標は以下の3つ

 「音楽性のユニークさ」「作品の完成度」「自分の好み」

 

 作品はそれぞれの年ごとにアルファベット順(あいうえお順)で並んでいます。それでは……

 

 

 

 

 

 2010

 

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Ariel Pink's Haunted Graffiti / Before Today (4AD)

 今までのアリエル・ピンクは目まぐるしく展開する楽曲が特徴だったが、その目まぐるしさの原因となっていた「個々のフレーズの繋ぎ」を滑らかにすることにより極上のポップ・アルバムが誕生した。もともと一つ一つのフレーズには光るものがあっただけに、今作のブレイクスルーが感慨深く映る。今回初となったバンド編成もアイデアの共有を通じ楽曲の洗練に一役買っているように思う。

 

 

 

 

 

 

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Beach House / Teen Dream (Sub Pop)

 ヴェルヴェッツ直系のシンプルなソングライティングが光る1st、そこからSSW的に楽曲を複雑深化させた2ndを経てたどり着いた3rdは、雪の結晶のように純化・洗練された楽曲と、対照的にスケールを増したサウンドが互いを引き立てあう、最高のドリームポップとなった。今作のヒットを皮切りに彼らはより広い場所へと向かうが、「Zebra」「Norway」など、アンセミックな楽曲もこの時点で既に登場していたりする。

 

 

 

 

 

 

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Deerhunter / Halcyon Digest (4AD)

 前作におけるまるで廃墟から鳴らされているかのようなゴーストリーな音響はそのままに、よりポップに、彩度を増した楽曲群が一枚のアルバムとして見事な調和を見せる4th。#2「Don't Cry」を筆頭に、2~3分でまとめられたポップ・ソングが宝石のような輝きを放つ一方、長尺の曲では聴き手をノスタルジックなトリップに誘う。

 

 

 

 

 

 

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Flying Lotus / Cosmogramma (Warp)

 ビートミュージックを下敷きに、ヒップホップやジャズ、エレクトロニカなど多彩な音楽性が高密度に詰め込まれた作品。アリス・コルトレーン(彼の血縁でもある)やサン・ラの作品に通じるようなスピリチュアルなフィーリングがある。

 

 

 

 

 

 

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Four Tet / There Is Love In You (Domino)

 かつて「フォークトロニカ」と呼ばれたジャンルの中心にいた人物の10年作では、もはやその区分けの必要がないほどに、アコースティックな音とエレクトリックな音が自然に融合している。キュートで、人懐っこくて、キラキラしたサウンドはまるでカラフルな万華鏡を覗いているかのよう。エレクトロニカというジャンルの集大成、または新しいスタンダードという印象がある。

 

 

 

 

 

 

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Joanna Newsom / Have One on Me (Drag City)

 三枚組の大作だが楽曲のクオリティは以前と同様もしくはそれ以上という驚くべき傑作。各楽器は中心となる歌を邪魔しないよう上品な落ち着きを保っており、それが本作を聴き疲れのしない作品にもしている。質・量ともに最高級のSSW作品で、長い時間をかけてでも向き合う価値のある作品。三枚組ではあるが各ディスクは6曲収録/約40分とコンパクトにまとまっている。

 

 

 

 

 

 

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Kanye West / My Beautiful Dark Twisted Fantasy (Roc-A-Fella)

 個人的に「一人ハリウッド」などと勝手に呼んだりしているカニエの、異常なエネルギーの籠った異常なスケールの作品。今後ポップミュージックでこれを超えるスケールの(しかもまとまりのある)作品が現れるかどうか。横綱級のヘビーさであり、最後まで聴き通すには相応の体力を要求される。King CrimsonAphex Twinの超有名なフレーズのサンプリングもカニエの剛腕っぷりを強調する。

 

 

 

 

 

 

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LCD Soundsystem / This Is Happening (DFA)

 ザラついた音色の、隙間を維持した緊張感のあるアンサンブルにキレ気味のボーカルが乗るという基本的な音楽性は前作と変わらない。驚きなのは(これも前作と同様だが)完成度の高さで、これ以上足せる音も引ける音もないといった具合である。James Murphyのリスナーとしてのレベルの高さが本作の完成度を高める一助になっているように思う。

 

 

 

 

 

 

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Lone / Emerald Fantasy Tracks (Magicwire)

 Boards Of Canadaに大きく影響を受けたドリーミーなエレクトロニカIDMを展開していたLoneがダンスフロアに急接近した作品。Flying Lotusに通じるビート感覚もあるが基本は四つ打ちで、ドリーミーな音色のコードで楽曲を展開させていく。終盤3曲の流れが素晴らしく、その陶酔感は『Geogaddi』収録曲に匹敵する。

 

 

 

 

 

 

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Mount Kimbie / Crooks & Lovers (Hotflush)

 ダブステップのドリーミーな発展形で、野田努いわく"ブリアルとBoards Of Canadaの溝を埋めようとしている"作品。Loneの作品と決定的に違うところはフロア向けでない点で、夕焼けの差し込むベッドルームが似合うサウンド。美しく、メランコリックなアルバム。#10「Mayor」はわかりやすい盛り上がりがありクラブでも機能しそうだ。

 

 

 

 

 

 

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Pantha Du Prince / Black Noise (Rough Trade)

 清涼感のあるベルや鍵盤打楽器の響きを中心に据えた点描的なミニマルテクノ、というスタイルはRA誌で満点評価を獲得した前作『This Bliss』と地続きのものだが、レーベルつながりかインディー界隈のゲストを招いて製作された本作では、テクノから少しはみ出し、より折衷的な音を聴かせる。どこか浮世離れした雰囲気がある。

 

 

 

 

 

 

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Silvanian Families / Afterwars United (Maltine)

 アニメからサンプリングしたであろう音声をカットアップして大胆に使用しており、まさしくその点で好みが分かれるかもしれないが、楽曲のクオリティは非常に高い。#2「Good Morning, Sir」は盛り上がり必至のキラートラック。権利の問題で公式なリリースはなさそうだが、いつかアルバムが出ることを願う。フリーダウンロード。

 

 

 

 

 

 

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Sufjan Stevens / The Age of Adz (Asthmatic Kitty)

 過去作のトラディショナルで優しいサウンドはここでは脅迫的なエレクトロニクスに取って代わられ、歌われる内容もアメリカの歴史から自分自身についてのパラノイアックなものへと変化した。ただ楽曲のポップさだけが変わらずにリスナーを惹きつけ続けている。よくわからないがエモーショナルな叫びが木霊する怪作。

 

 

 

 

 

 

 

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Tyler, The Creator / Bastard (OFWGKTA)

 おそらくシンセによる、まるで煙か雲のような柔らかい音色の持続音が特徴的な、ダウナーで催眠的なヒップホップ。タイラーのラップを除き、サウンド的にザラついたところが少なく、ベッドルームでも問題なく流せる。ATCQの5thと音楽性が似通っており、彼らが活動を続けていればこんな作品を作っていたかもしれないと思う。

 

 

 

 

 

 

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七尾旅人 / billion voices (felicity)

 『911FANTASIA』というコンセプチュアルな大作に続くアルバムで、バラエティ豊かな楽曲が詰め込まれている、全体に共通するような特徴はないが、代わりにいろんな層のリスナーに届きそうである。前半4曲の流れは完璧。「どんどん季節は流れて」「Rollin' Rollin'」という2曲のアンセムを収録。

 

 

 

 

 

 

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2011

 

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Andy Stott / Passed Me By / We Stay Together (Modern Love)

 ダブテクノの密度を感じる重い低音と大胆なサイドチェインの合わせ技で、地響きのようなサウンドを作り出したエポックメイキングな作品。なにはともあれ「North To South」を大音量で聴いてみてほしい。三田格も書いているが迫力がすごいので精神が弱っているときは×。

 

 

 

 

 

 

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Biosphere / N-plants (Touch)

www.youtube.com

 日本の原子力発電所をテーマにしたアンビエント作品で、どこか無機質でひんやりとしたムードが特徴。シンプルなポリリズムが印象的な#2「Shika-1」を筆頭に、クラウトロック的なリズムの遊びがそこかしこに仕込まれており、アンビエントだけでなくラウンジ~イージーリスニング的な聴き方も可能となっている。(一応、本作の録音は震災前にはほぼ終わっていたという。)

 

 

 

 

 

 

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The Caretaker / An Empty Bliss Beyond This World

(History Always Favours The Winners)

 映画『シャイニング』に登場する「The Haunted Ballroom」をコンセプトに始まったプロジェクトは、その名の通りお化けの舞踏会場を想起させる音楽を提供するが、11年発表の今作では比較的穏やかなフィーリングが表出している。「古き良き」暖かみを演出するノイズ・環境音の上でおぼろげな音色の鍵盤とブラスが奏でられる。いつになく明快なメロディーが親しみを感じさせる。オプティミスティックなエンディングも感動的。

 

 

 

 

 

 

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Cass McCombs / Wit's End (Domino)

 スロウコアもかくやというようなゆっくりなテンポが特徴の、メランコリックなバラッド集。サウンドは柔らかく浮遊感があり、あまり現実感がない。アンビエントとしても機能しうるが、日常的に聴くには少し暗すぎる。たまにゾッとするような瞬間があるのだ。彼岸と此岸の狭間で鳴っているかのような、魔的な魅力のある作品。

 

 

 

 

 

 

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Destroyer / Kaputt (Merge)

 上質なシーツのような滑らかな手触りを持つポップアルバム。都会的で洗練されたアレンジはSteely DanなどのAORを彷彿とさせる。深くリヴァーブがかけられた柔らかな音像は同時代のベッドルームポップと共振するが、ハイファイな録音からきているのだろうか、開放的なフィーリングもあり、屋外でのリスニングにもバッチリ映えてしまう。スマートなアルバム。

 

 

 

 

 

 

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The Field / Looping State of Mind (Kompakt)

 GASの深い霧の奥から響いてきているかのような幻惑的な音響と、テクノ由来の場を盛り上げることに特化した曲構造を組み合わせたThe Field。11年発表の3作目はそのタイトルが象徴するように、反復の持つ魅力を最大限に引き出した陶酔的なものになった。聴き手をトランスさせる力はこの10年間に出た作品の中でもトップクラスだろう。次作の『Cupid's Head』ではアルバム単位で聴き手を深くトリップさせることに挑戦しており、こちらも必聴。

 

 

 

 

 

 

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Girls / Father, Son, Holy Ghost (True Panther Sounds)

 1stでは50s~60sの伝統的なポップスを参照していたが、今回は少し時代を下り、70sのハードロック・プログレッシブロックを彷彿とさせる長尺で激しい曲が増え、その点が好みの分かれるポイントとなっている。しかし魔法がかかっているとしか思えないような珠玉のポップスもまた収録されており、それらに触れるためだけにでも今作を聞く価値はある。

 

 

 

 

 

 

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Grouper / A I A : Alien Observer/Dream Loss (Yellow Electric)

 サウンドが長く引き伸ばされドローン化したギターを用いた弾き語り作品。ギターのアタックは不明瞭になり、そのことが作品に幽玄な響きをもたらしている。二枚組で、『Alien Observer』の方がメロディアスで多少馴染みやすい。個人的にはGrouperの最高傑作。何重にも重ねられたドローン・サウンドはまるで音の毛布のよう。ぜひスピーカーで。

 

 

 

 

 

 

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James Blake / James Blake (Atlas・A&M)

 ダブステップ以降のビートメイク・サウンドデザインが施された、折衷的で現代的なSSW作品。オートチューンに代表されるボーカルのデジタル処理も特徴的。本作で示されたサウンドは間違いなくポップミュージックの枠組みを広げたが、あまりに先鋭的だったため、「その先」へ至る作品が現れず、そのことがさらに本作を孤高のものにしている。

 

 

 

 

 

 

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James Ferraro / Far Side Virtual (Hippos In Tanks)

 デジタルでクリアーな響きのサウンドと、快適だが人間味のない演奏・楽曲が特徴で、Daniel Lopatinによる『Chuck Person's Eccojams vol.1』と並んでヴェイパーウェイブの始祖と見なされる。サウンド的に不穏なところはないのだが、そのことが逆にリスナーの心を不穏にさせる。ヴェイパーうんぬんという事前情報を仕入れずに触れた方が純粋に音楽作品として楽しめるような…。

 

 

 

 

 

 

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Julianna Barwick / The Magic Place (Asthmatic Kitty)

 自身の声を幾重にも重ね、教会音楽のように荘厳に響かせた実験的なアンビエント作品。ほぼボーカルのみで形作られたサウンドは単純に音として迫力があり、ヘッドホンなどで聴くと音が脳天を突き抜けて空に昇っていくかのような感覚を覚える。癒し系なイメージのジャケットだがその実プリミティブなパワーに満ちた作品。

 

 

 

 

 

 

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Leyland Kirby / Eager To Tear Apart The Stars

(History Always Favours The Winners)

 抒情的なコードの響きとメロディーが美しいアンビエント作品。The Caretaker名義の作品では時間の経過(レコードに積もったチリ)を表現するために使われていたノイズが、ここでは空間の広がりを演出するために使われており、音の粒の細かさもあってまるで宇宙の、天の川のただ中にいるかのような気分にさせられる。音響に興味がある人に一度聴いてみてほしい。

 

 

 

 

 

 

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Machinedrum / Room(s) (Planet Mu)

 当時のエレクトロニック・ミュージックにおける流行のサウンドを、驚異的なバランス感覚でひとまとめにした作品で、変な例えだが、BurialやFour Tet、LoneやFlying Lotusが集まってジュークを踊ろうとしているような感じである。既存の表現をうまくつなぎ合わせてオリジナリティのある表現に昇華させた作品。

 

 

 

 

 

 

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Macintosh Plus / Floral shoppe (Beer On The Rug)

 「好きな音楽を選んで、一部分をループさせて、スローダウンして、そこにエコーをかける」というDaniel Lopatinが『Chuck Person's Eccojams vol.1』で(「自分の好きな部分だけ聴きたい」という欲望に基づいて)試みた手法を、よりアンビエントな方向へ発展させた作品。執拗な反復により、スクリューされたサンプリングはリスナーの耳に(強引に)刻みつけられる。

 

 

 

 

 

 

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Oneohtrix Point Never / Replica

(Software・Mexican Summer)

 『Returnal』やそれ以前の作品と地続きのイマジネイティブなシンセサウンドに、出所不明の謎のサンプリングを大胆に散りばめた作品。基底にあるのは抒情的なアンビエンスだが、サンプリングの奇妙な音色がそこに退廃的な雰囲気と軽妙なポップネスを加えている。『~Eccojams』由来のスクリュー+反復という手法もうまく作品に組み込まれ、楽曲のキャッチーさを上げている。

 

 

 

 

 

 

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Panda Bear / Tomboy (Paw Tracks)

 前作から4年ぶりとなる3rdソロは、厚いリヴァーブの膜はそのままに過剰なループが廃され、よりソングライティングに重点が置かれた作品となった。深いアンビエンスの中で陶酔的なヴォーカル・ワークを堪能することができる。ソロやバンドの近作に見られた躁的なテンションは消え、ジャケットのイラストに通じるようなどこか寂しげなムードが流れる。

 

 

 

 

 

 

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Ricardo Villalobos / Max Loderbauer / Re: Ecm (ECM)

 Ricardo Villalobos とMax Loderbauerの二人がドイツの老舗ジャズ・レーベルの楽曲を使い再編したリミックス盤。制作にあたってECMからマルチ音源を貸与されなかったこともあり、原曲の雰囲気が色濃く残ることになった。静謐なジャズとミニマル・ダブの上品な融合を楽しむことができる。CD二枚組。

 

 

 

 

 

 

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Roman Flugel / Fatty Folders (Dial)

 Alter EgoやSoylent Greenなどの複数の名義で多くの作品を発表してきたアーティストによる、初の本名名義のアルバム。オープニングトラックである「How To Spread Lies」が象徴的だが、エレガントで柔らかな質感があり、フロアでなくともリビングや携帯プレーヤーなどでカジュアルに楽しむことができる内容となっている。

 

 

 

 

 

 

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Royal Headache / Royal Headache

(R.I.P Society・What's Your Rupture?)

 シドニー出身のバンドによる一枚目。ガレージ・パンクと60年代のポップスを融合させた楽曲をソウルフルなボーカルと切れ味のあるアンサンブルで軽快にかっ飛ばす。3分を超える楽曲はなく、とことん潔い。とにかく一度「Surprise」という曲を聴いてみてほしい。1分半という短い時間の中にロックンロールのすべてが詰まっている。バンドは2017年に惜しくも解散している。

 

 

 

 

 

 

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Sandro Perri / Impossible Spaces (Constellation)

 カナダはトロントの重要人物による2ndアルバム。ホーン・セクションやパーカッション、エレクトロニクスなど多様な楽器をおおらかでトロピカルな感性でまとめあげる。本人のボーカルやソングライティングも優れているが、多くのプロデュース業/ミックス業をこなした経験から来ているのか、なによりも各楽器のアレンジがすばらしい。サウンドが特定の文脈に寄っていないので語られる機会が少ないが、トロピカルな『Aja』とも言うべき名盤である。

 

 

 

 

 

 

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Sepalcure / Sepalcure (Hotflush)

 MachinedrumことTravis Stewartと、Braille名義で活動するPraveen Sharma二人によるユニットの作品。『Room(s)』にジュークの苛烈さの代わりにエレクトロニカ/IDM由来の抒情性を加えたイメージで、言うなれば『Crooks & Lovers』とのあいのこといった印象。この時期のHotflushはダブステップをいかに次につなげるかという点で他より一歩抜きんでた存在だった。

 

 

 

 

 

 

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Tune-Yards / w h o k i l l (4AD)

 ベースとドラムが主成分のパーカッシブで暴力的なグルーヴを、さらにパワフルでリズミカルなボーカルが乗り回す、原始的なパワーに満ちた作品。Merrill Garbusのボーカルは例えばジャングルで生まれ育ったビョークのようで、野性的な魅力に溢れている。2011年に最もフレッシュに響いた一枚。

 

 

 

 

 

 

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Washed Out / Within & Without (Sub Pop)

 プロデューサーにDeerhunterやAnimal Collectiveの作品を手掛けたベン・アレンを迎えて制作されたフルアルバムは、よりアンビエントの色を増し、チルアウトに特化した内容となった。解像度を増したシンセのひんやり・ふわふわした音色に包まれるとまるでプールにぷかぷかと浮いているかのような心地になる。サウンドも雰囲気もPanda Bearの『Tomboy』と似ているところがある。

 

 

 

 

 

 

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鴨田潤 / 「一」 (カクバリズム)

 イルリメ名義でポップなヒップホップを展開していたアーティストの本名名義の作品はミニマルな構成の弾き語り作品となった。軽やかなフロウを纏った、歌と語りの中間のようなボーカルが身近でパーソナルな世界を描写する。その風情はさながら高田渡の現代版といった様子で、部屋で流していると歌詞がじんわりと心に沁みてくる。レーベルとの関係が不安だがこのスタイルでの新作を期待している。

 

 

 

 

 

 

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坂本慎太郎 / 幻とのつきあい方 (Zelone Records)

 ゆらゆら帝国解散後にリリースされたバンドのフロントマンのソロ作。『めまい』~『空洞です』のAOR・シティポップ路線をより軽やかに・ミニマルに昇華させたような音楽性で、演奏のテンションの低さ・グルーヴの隙間の多さから、まるで幽霊が演奏しているのではないかと妄想してしまう。この時点ではまだ飄々としている坂本だが、次作以降、急速に作品のメッセージ性を強めていく。

 

 

 

 

 

 

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山本精一 / ラプソディア (P-Vine)

 プレイグラウンド』に引き続き千住宗臣(ドラムス/パーカッション)とのデュオ体制で作られた本作。中心に「うた」があるのは変わらないが、それを支える、各楽器の生み出すグルーヴが格段にパワーアップしている。リズム隊だけでもいつまでも聴けるほどなのだが、そこにボーカルとギターによる極上の「うた」が乗っかるのだからたまらない。リズムが豊かすぎる歌ものの大傑作。

 

 

 

 

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2010年:15枚

2011年:26枚

 

 2010年は枚数少なめですが1枚1枚が強いですね。2011年はアンビエント/エクスペリメンタルが強かった印象。

 

 間違った記述や「これ入ってないのおかしいだろ!!」ってのがあったらコメントやらツイやらで教えてください~~~次回は遅くとも21には上がる…はず…