Various『Xtalline : 001』(Siren for Charlotte)

https://eneiongaku.bandcamp.com/album/xtalline-001

 本邦随一のディガーである門脇綱生と音楽ライター&歌人の鴉鷺による、「遠泳音楽」をテーマとする新レーベル「Siren for Charlotte」。そのレーベル第一弾となるコンピレーション作『Xtalline : 001』のレビュー・感想です。

 

 

 

 

 コンセプトとなる「遠泳音楽」やシューゲイザーについては、Bandcampの作品ページにて門脇・鴉鷺を含む錚々たるメンツによって語られているので、一度読んでみることを勧めます。

 

 自分は各曲について、個人的な整理や感想を述べていこうと思います。

 

 

 

 

 

#1 門田匡陽 + yna - Kireigoto

線の細いギターにピアノ、ささやかなエレクトロニクスに鳥の囀り。全体的にフラジャイルなサウンド。儚い雰囲気の醸成が巧みで……例えば病院のベッドから窓の外の景色を眺める、そんな情景が浮かんでくる。メロディーに乗らない「帰ってきて」に素の姿を、本心を垣間見る。サビですごい低音鳴ってビビった。

 


#2    Storm Drunk Whale (달리는 감자 머리) - Running Potato Head

ジャギーをそのまま残したデジタルにローファイなサウンド。勢いのままに鳴らされるギター、ドラム、そしてボーカルにエモを感じる。焦燥感。音の膜が何層にも重ねられたサウンドは王道のシューゲイザー

 


#3    溶けない名前 - まぼろし買います

無機質なリズムにミニマルな楽曲。ほんのりニューウェーブ~ポストパンク感もあるが、線の細い、適度にメロディアスなボーカルが親密さを生んでいる。ギターとドローンによるシューゲイズ・サウンドにはゆらゆらとした効果がかけられ、距離感の不明な掴めなさが生じている。おぼろげで、幽霊がバンドをやってるみたい。

 


#4    衿 - beatrice

グリッチ通過後のエレクトロニカ 雰囲気のあるピアノとストリングスにうっとりしているとやがてノイズの嵐に突っ込みにわかにエクスペリメンタルな世界へ。ドラムが急かし、ぼろぼろの音像のまま速度を上げていく。遠くからメロディーが響いてくる。ぼろぼろになりながら光に向かって駆けていく子どもの映像。光を抜けた先は—— 物語性の強い曲。

 


#5    iga - close

ほんのり加工されているようなボーカル。歌い方も、わざと言葉を聞き取りにくいようにしている? 彩度の高いエレクトロニクス主体のR&B。光芒のようなレーザーのような厚いストリングスが空をイメージさせる。おれもくるり好きだよ。

 


#6    Kazuma Sugawara - still life

鳥の囀りが意識を外へ、そのままドローンがゆっくり上に持ち上げていく。いつしか柔らかいピアノの音が現れ、細かなエフェクトが揺らめく。アルペジオと共に曲の輪郭が描かれてゆく。登っていくメロディーとそれを迎えに行くドローン。美しい。

 


#7    world's end girlfriend - Plein Soleil (Blue Confession)

崇高なボーカリゼーション。電子的な音色。雄弁なコード・安定したアルペジオは情景描写的で、枕元でおとぎ話を聞かされているかのよう。滑らかな曲線を描いて盛り上がっていく。滑らかに自在に楽曲を展開させていくさまには盤石の作曲能力を感じる。ベイシスケイプの仕事を連想する幻想音楽絵巻。

 


#8    響現 - にゅうどうぐも (feat.π)

アタックのぼやけた、曇ったウワモノが特徴的。雲から音がしたらこんな感じかも。さらに盛り上がれそうなところで翻す気まぐれさ、軽やかさ、平熱感。具体的に言えば、「いつの日にか できなくなるの」から新しく展開することができたと思うけど、そこからまたAメロに戻り、ずっとループしていく。突き抜けたい気持ちと突き抜けない楽曲。もやもやしている。

 


#9    アメリカ民謡研究会 - あの美しいハーモニカの色。

上昇を繰り返すポジティブな音楽部分と、躁的/鬱的に分かれる朗読部分が互いに絡み合い展開していく。音楽と朗読、それぞれが構造を持ち、重なり合って縞模様を作っていく。終盤、ライザーサウンドのように上がり、加速した果てに鬱的なパートが現れるこの落差、エモさ。

 


#10    that same street - Vesuva

久しぶりに明瞭なギターの味。雰囲気のあるイントロを抜けるとエクストリームな表現が飛び込んでくる。ボカロ?の電子的で澄んだボーカルと絶叫。後景として神秘的なサウンドが重ねられているが、基本はオーソドックスなバンドサウンド。全体にエモーショナルな邦ロックの系譜にあって目立つのはボカロと絶叫の対置で、二者の音的・イメージ的な距離は聴き手に引き裂かれる感覚を呼び起こす。

 


#11    Astrophysics - face the future

#7(world's end girlfriend)の物語的な描写にドラムンベースを組み合わせエモさと疾走感を付加。おとぎ話というよりはもっとハードで重く、言ってみればサイバーパンクな世界観。1:20の鮮やかな転身でぐいっと引き込まれる。静と動のメリハリがよく利いていてそのまま最後まで連れていかれた。

 


#12    Parannoul - Acryl

オーロラのようなウワモノと儚げなボーカルが切ない楽曲によく合っている。アルバムのトリ前を飾るに相応しい、強い雰囲気のある、終わりを感じさせる曲。心臓の鼓動のようなこもったキックが印象的で、それが安定したリズムを獲得する数秒(4:45~)にハッとさせられる。

 


#13    Lacrima - ) (

荘厳さと儚さを併せ持ったウワモノの音響が印象的。調和/非調和の境で揺らめくギターのリードに気を惹かれているとやがて空から神々しいコーラスが降り注ぐ。感情が爆発し、楽曲はさらなる混沌へ。そのまま熱量を上げていき、頂点へ至ったところでフッと全てがかき消える。劇的。

 

 

 

 

 聴き手をどこかへ連れていくもの、内心でどこか遠くを想うもの、知らないどこかから鳴らされているもの…… 形はさまざまだけど、「ここではないどこか」を志向する点で繋がっている。

 今まで多様な作品で朧気に感じられていた共通点。この繊細な感覚の輪郭を捉え、適切な名前を付けたことがまずもっての功績だろう。それは今作や続く作品によって世界に羽ばたき、人々を繋げつつまた新たな美学の礎となるはずだ。レーベルの行く先に祝福があらんことを。

 

 

 

 

 

 実はリリース当初に門脇さんからDLコードを頂いていたのだけど、RVNG本の作業で聴く機会を作れず、初聴がこんなタイミングになってしまったのでした。

 新たな美学を提唱しつつ高いクオリティも備えた優れたコンピレーションだと思います。改めて、レーベル発足&リリースおめでとうございます。今後の活動も応援しています。