お待たせしました。更新再開。
レギュレーション的なやつ
・2010年1月1日~2019年8月25日(『紙版~』の発行日)に発表された作品からチョイス
・チョイスにあたっての指標は以下の3つ
「音楽性のユニークさ」「作品の完成度」「自分の好み」
作品はそれぞれの年ごとにアルファベット順(あいうえお順)で並んでいます。
2014
Angel 1 / "Allegra Bin 1" (1080p)
ロサンゼルスを拠点とするプロデューサーの2014年作。実験的な感性でIDMとアンビエントの境界を行き来するエレクトロニック・ミュージック。音数は少ないが楽曲は複雑。展開は非常に練られており、盛り上がりも用意されているので繰り返し視聴することで本作の真価は見えてくるだろう。リズム面にも同様のことが言え、限られた音数でよくこれだけの深みを出せるなと感心する。個人的にはソングライティングのネクストレベルを提示した、2010年代屈指の作品と思っている。激推し。
Aphex Twin / Syro (Warp)
イギリスのミュージシャンによる13年ぶりの新作。革新的な表現はないが、盛りすぎでない、洗練されたアレンジで楽曲をきちんと聴かせる作品になっており、ソングライティングの充実度で言えばキャリアベストと言えるアルバムとなっている。アナログ機材にこだわって作られたサウンドは派手さはないが耳馴染みが良く、オリジナリティに溢れている。冒頭の「minipops 67 [120.2] [source field mix]」は独特の歌心と深化したソングライティングが堪能できる新たな代表曲。
D'Angelo And The Vanguard / Black Messiah (RCA)
アメリカのSSWによる15年ぶりの新作。音が潰れるのも厭わないような圧のある迫力のサウンドで、初期Funkadelicのような泥臭いファンク~R&Bを展開する。前作『Voodoo』の蕩けるような甘さ・すき間が聴き手をロックする呪術的グルーヴはここにはないが、曲も演奏も相変わらず極上であり、独特なミックスも含めやはり特別な作品である。統一感のないベスト盤的な趣の前半に比べ、「Back to the Future (Part I)」から始まるアルバム後半にはスムースな流れがある。
Down Hazard / Afterparty (self-released)
アメリカのアーティストの最初の作品。蒸気に包まれたぼやけた音像が特徴のラウンジ~アンビエント。音の輪郭が掴めなくなるほどにリバーブのかけられたサウンドはまるで布団に包まっているかのよう。楽曲はブラスやストリングスも出てくる柔らかなラウンジ調で、快適さよりは穏やかさが勝る。完全に逃避を目的としたサウンドだが、しかし居心地がいいのは確かである。最終曲では初めてはっきりとしたドラムが現れ、爽やかで雄大な曲調も相まって霧が晴れたような心地に。
Gem Jones / Admiral Frenchkiss (Goaty Tapes)
アメリカはアイオワ出身らしいバンドの2014年作。ローファイでフリーキーなサイケデリック・ポップ。ボーカルや一部の楽器のプレイには過剰なエフェクトがかけられダブ・レゲエの影響も感じられる(「God in U」は曲からしてレゲエである)。ザラついた音色、破れかぶれの演奏、絶叫とファルセットを行き来するボーカル…とかなりジャンクな味わいだが、バンドのエネルギーがストレートに伝わってくる。楽曲はハイクオリティで、特にボーカルのメロディーが非常にキャッチー。bandcampの作品ページはバンドのものとレーベルのものと二種類あり、それぞれ内容が異なるので注意。
Giant Claw / DARK WEB (Orange Milk)
実験的なレコードレーベル「Orange Milk Records」の主催者の一人であるKeith Rankinによる2014年作。R&Bや、ジュークやトラップなどのビート・ミュージック、果てはクラシックなど様々なジャンルのサウンドを一つのキャンパスにぶちまけた作品で、非常に錯綜した内容だが、新しさ・オリジナリティのある作品となっている。情報量が多く意味不明なところもあるが、おぼろげながら展開らしきものも見えるという、絶妙なバランス感覚の上で成り立っている。個人的なイチオシは「Dark Web 006」。だんだん上昇していく。
Gobby / Wakng Thrst For Seeping Banhee (UNO)
ニューヨークのプロデューサーによる2枚目のフルレングス。ジャンクといえばこれこそジャンクというか…あまり楽曲としてまとめる気がなさそうな、散漫で、あまりに気ままなエレクトロニック・ミュージック。メインの要素はミュージック・コンクレートとエレクトロニカで、無邪気な音の響きが全編を支配している。シリアスさとは無縁で、その軽やかさはラウンジ・ミュージック的な楽しみ方も可能にしている。一番の魅力は意味不明なところか。DFAからの次作はもっとポップになっており、そちらと比べると今作はアンビエント的である。
HTRK / Psychic 9-5 Club (Ghostly International)
メルボルン出身のバンドが、ベーシストの自殺によりデュオ体制となってから初めてのアルバム(3rd)。蜃気楼のように掴みどころのないダウナーなR&B。Junior BoysやHot Chipの滑らかなエレクトロニクスをベースにグッと音数を減らし、優しくダブ処理をかけたようなサウンドで、現代のベッドルームに適応したPortisheadのような趣がある。曖昧でおぼろげな曲調・サウンドは『Selected Ambient Works Volume II』にも通じる。ミニマルだが危うさを感じるほどにディープな作品。
Kassem Mosse / Workshop 19 (Workshop)
ドイツ出身のプロデューサーによるデビュー作。適度にムーディで、適度にグルーヴィ。全体としてはあまり捉えどころのない、アブストラクトなテクノ。どの文脈にも依存しない、不思議な作品……なんて思っているけどRA誌では絶賛されており、自分が良さを分かってないだけのような気もする……がそれゆえに向き合う価値のある作品というような気もする。ちょっとみなさんの感想が見てみたいです。アングラ感・アウトサイダー感はある。
Lamp / ゆめ (P.S.C.)
日本のバンドによる7th。ボサノヴァの洒脱なコード感・リズム感をうまく落とし込んだ、華麗で複雑なポップス。メロディーははっきりしているし、テンポもミディアム、実験的な音遣いもないまさに「ポップス」なのだが、滑らかにさりげなく変化していく楽曲は非常に濃い味わいがあり、聴けば聴くほどに良さが沁みてくる。ブラスやストリングスを用いたアレンジは従来よりもふくよかで秋や冬に映えそうだ。一曲選ぶなら「さち子」で、ビートルズの「Strawberry Fields Forever」や「Penny Lane」に匹敵するマジカルな名曲である。
Mac DeMarco / Salad Days (Captured Tracks)
カナダ出身のSSWによる2nd。Jerry Paperに通じるへろへろ感を持ったギター・ロック。一応ロックバンド的な編成・サウンドのためベッドルームよりは開放的な空気があるのだが、どちらにせよとてものんびりとした風情である。楽曲はシンプルでほとんどの曲が3分台。聴き心地も軽く、ちょっと時間ができるとつい流してしまう。2曲目「Blue Boy」はこれ以上ないほどに洗練された楽曲で、この10年でも屈指のポップソングと思う。
Mark Barrott / Sketches From An Island (International Feel)
ウルグアイで発足し後にイビザへとその拠点を移したレーベル「International Feel」の主催者による1st。トロピカルなフィーリングのダウンテンポ~バレアリック。ころころとしたドラムにフルートやギターによる軽やかな調べ、極めつけに野鳥の囀りと、気分はまさに南の島。秀逸なのは日中の明るい時間帯だけでなく、夕方~夜にかけての穏やかな流れも音楽で表現されていることだ。優しくて暖かなヒーリング・ミュージック。
Parquet Courts / Sunbathing Animal (What's Your Rupture?)
「日光浴する動物」というタイトルが秀逸な、ニューヨーク出身のバンドの3rd。全体的にテンポが少し下がり、気だるげな空気になっている。演奏にもボーカルにもどこか投げやりな感じがあるのだがグルーヴだけは維持されており、その弛緩と緊張の狭間を往くようなバンドのアンサンブルが魅力なのだろうか。スローなジャムナンバーである「She's Rolling」「Instant Disassembly」にてグルーヴのユルさは頂点を迎える(異様な中毒性がある)。ユニークさゆえに今作を選出したがより引き締まった内容の前作も傑作。
Ragchewshack / ALONE / TOGETHER (self-released)
京都出身のバンドによる1st。90年代のオルタナティブ・ロックのマナーにのっとった爽やかなギター・ロック。特定の世代の音楽ファンには問答無用で刺さるであろうギターサウンドも良いが、素直なトーンで朗々と歌い上げるボーカルがすばらしい。今作に清涼感や、いい意味での青臭さを加えているのがこの純朴なボーカルなのだと思う。バンドはこのアルバムをもって解散するが、ボーカル、ギター含む主要メンバーは「なみのり」というバンドを結成、大阪を拠点に活動中である。
Real Estate / Atlas (Domino)
アメリカはニュージャージー出身のバンドの3rd。初期のFeltやThe Clienteleのようなギターのアルペジオを中心としたアンサンブルにナイーブな歌声が乗るギター・ポップ。今作からドラムとキーボードのメンバーが加入し5人体制に。演奏は過去最高の洗練を見せる。Wilcoの近作を手掛けるTom Schickをプロデューサーに迎えWilcoのスタジオで録音されたサウンドはどこまでもクリーンで滑らかである。一曲一曲の充実が嬉しい、現時点での最高傑作。
Various / Meili Xueshan I&II (Hi-Hi-Whoopee)
インターネットを介して良質な音楽を探求・紹介していた日本のブログ「Hi-Hi-Whoopee」がキュレートしたコンピレーション。エクスペリメンタル界隈の有名無名のアーティストが大量に参加しており、これ一作でシーンの概観をある程度掴むことができる。ブログの作品ページにはアーティストの紹介文があるので聴く際に参考にするといい。D/P/I、Angel 1、Giant Claw、Ramziなどは聴けばそれと分かるあたり流石と思う。ディスクはないが二枚組(20曲x2)のフリーダウンロード。
Various / PC Music x DISown Radio (PC Music)
ロンドンを拠点とするレーベルがDISown Radioのために制作したミックス作品で、ニューヨークのRed Bullスタジオで披露された。レーベルのアーティスト6組(A. G. Cook 、GFOTY、Danny L Harle、Lil Data、Nu New Edition、Kane West)が10分ずつ担当した計60分のミックス。ベース・ミュージックを下敷きにしたエレクトロ・ポップで、ヘリウムを吸ったかのような奇妙な高音のボーカルとキッチュでビビッドな音色、高速で展開する濃密で躁的な曲展開などを特徴とする。高い・低い、早い・遅いはあるがその中間がない、極端な音楽である。グロテスクではあるがまさに「耳にこびりつく」ようなポップさがある。
森は生きている / グッド・ナイト (P-Vine)
日本のバンドによる2nd。はっぴいえんどやThe Bandから影響を受けたアーシーなロックをソフトなサウンドで展開した傑作1stに続く作品は、より複雑な楽曲をより骨太なサウンドで奏でる非常に濃い作品となった。あえてラフさを残したサウンドはハード・ロック的なダイナミクスを獲得している。リーダーの岡田拓郎がこだわった録音・ミックスは、例えばGrizzly Bearの作品のようなマジカルな響きをアルバムに加えている。組曲形式の「煙夜の夢」は尺がなんと約17分にも及び…これだけ豊かなサウンドの、エネルギーの込められた作品はそうそうない。今作発表の約一年後にバンドは解散している。
猫 シ Corp. / Palm Mall (self-released)
オランダ出身らしい謎な名前のアーティストの2014年作。Mallsoftという、現実のショッピングモールで流れる音楽・雰囲気にフォーカスしたヴェイパーウェイブのサブジャンルの代表的な作品。ラウンジ~ニューエイジ調のインストに利用者の話し声や雑踏、店内アナウンスをミックスし広大さを感じさせる音響で鳴らして見せた22分に及ぶ表題曲「Palm Mall」がとびきりすばらしい。まさに音で感じるショッピングモールである。以降も店内で流れていそうな無味無臭の、人工的なポップスが流れていく。
豊平区民TOYOHIRAKUMIN / MUSIC IN THE AIR (Dream Catalogue)
札幌は豊平区を拠点として活動するアーティスト(名前まんま)の2014年作。当時bandcampでリリースしていた小規模な作品群を改めて一枚のアルバムとしてまとめ直した作品。輪郭のにじんだサウンドの、真夜中のラウンジミュージック。主にキーボード・サックスで奏でられるメロディーは明快で親しみやすい。冒頭4曲は比較的アッパーな曲が並んでいるのだが、5曲目「VERTIGO」からアルバムはグッとメロウな色を増していく。仕事後に歩く夜の街の、穏やかで開放的な空気が詰まっている。
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2015
beirut / No No No (4AD)
サンタフェ出身のZach Condon率いるバンドの4th。深みのあるボーカルとブラスが醸し出す大らかなフィーリングと、キーボードとドラムが中心の小気味よいアレンジが魅力ののどかなポップス。約3分の楽曲が9つ並んだアルバムは全体で30分にも満たないが、ボリュームの代わりに流れはとても練られており、特に中盤、「Perth」~「Pacheco」の流れはうっとりするほど滑らかである。驚きはないが平和な時間を過ごさせてくれる愛すべき小品である。
日本のバンドによる3rd。シティポップ風の楽曲に、ソウルクエリアンズの手掛けた作品を彷彿とさせる本格的なブラック・ミュージックのサウンドを組み合わせた意欲作。前作で大きな支持・人気を得た後での極端な洋楽志向への転換にはリスナーを啓蒙するという意図があるのかもしれない。個人的にはサウンド・アレンジはまさに国内最高峰のクオリティと思うが、相対的に?楽曲・メロディーが弱く感じられてしまった(この部分は意図されている可能性もあるが)。とはいえこのサウンドをモノにするバンドの力量には感嘆するほかない。
CFCF / "The Colours of Life" (1080p)
モントリオール出身のプロデューサー・Michael Silverによる2015年作。ウィンダム・ヒル作品などから影響を受けたニューエイジ/アンビエント。シンセの柔らかな響きの上でピアノ、ギター、マリンバなどが軽やかに舞い踊る。爽やかでキラキラした…なんというかユートピアなサウンドである。楽曲の展開の仕方はミニマル・ミュージックのそれであり、リズム的な訴求力も十分。この手のジャンルの新たなスタンダードにもなりうる、完成された作品。
Container / LP (Spectrum Spools)
ナッシュビルを拠点に活動するアーティストの2015年作。身体に直接訴えかけてくるハードなミニマル・テクノ。重くザラついた音色でリズムにフォーカスしたストイックなダンス・ミュージックを展開する。3~4分とコンパクトにまとめられた楽曲には(ドラムに顕著だが)パンク・ロック的なわかりやすいカッコよさがあり、それには彼の生まれ育ったロードアイランド州プロビデンスのハードコアな地下シーン(Lightning Boltなどの本拠地)が影響しているようだ。MVの作られた「Eject」で一度サウンドを体感してみよう。30分に満たない尺も潔く映る快作。
Courtney Barnett / Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit
(Milk! Records)
オーストラリア出身のSSWのデビュー作。早口のお喋りのようなボーカルが身近な日常を独自の視点から描写する、ややヘロヘロでゴキゲンなギター・ポップ。同郷であるThe DronesのDan Luscombeが弾くギターはちょいサイケ・ローファイでコートニーのボーカルスタイルにマッチしている。おそらく歌詞も大きな魅力なのだろうが、類まれなソングライティングと地元ミュージシャンによる緩みながらも決めるところは決めるバンドアンサンブルだけでも存分に盛り上がることができる。中盤、「AQUA PROFUNDA!」からの疾走感ある流れが白眉。
DJ Metatron / This Is Not (Giegling)
Prince Of Denmark、Traumprinzなど様々な名義を使い分けるドイツ人?アーティストが自身の所属していたレーベルに提供したミックス作品。どこか敬虔な印象のあるアンビエント/ディープ・ハウス。オープニングの慎ましやかなビルド・アップが象徴するようにとても繊細な音楽で、じっくりとリスナーを恍惚に導いてくれる。中盤でクラブ/ダンスに接近するが基本は穏やかなトーンで統一されたヒーリング・ミュージック。レーベルのHPからダウンロードすることができる。
DJ Sotofett / Drippin' For A Tripp (Tripp-A-Dubb-Mix)
(Honest Jon's)
Sex Tags Maniaを中心に様々なレーベルから多彩な作品をリリースしてきたノルウェー出身のプロデューサー/DJによる1st。6人ものゲストとコラボレーションし、複数のスタジオを巡って制作された作品。レゲエとハウスの中間のような開放的で爽やかなフィーリングが全編を覆っている。Mark BarrottやRamziに通じるバレアリックな感性があり、どちらかと言えば窓を開けてスピーカーで聴きたい作品だ。宇宙とイビサを巡る自由な気質のハウス・ミュージック。
Domenique Dumont / Comme Ça (Antinote)
正体が謎とされてきたアーティスト(Arturs LiepinsとAnete Stuceによるラトビアのデュオという噂がある)によるデビュー作。チープで暖かな音色がノスタルジーを醸し出す、キュートなシンセ・ポップ。楽曲にはエキゾチックでトロピカルな雰囲気があり、聴いていると地中海のリゾートにバカンスに来たかのような気持ちに。前半はアップテンポなポップ、後半はムードたっぷりのラウンジ・ミュージック。日没の、世界が急速にその色を変えていくマジカルな瞬間を音楽に焼き付けたかのようなアルバム後半がとにかくすばらしい。異国情緒あふれる傑作。
eagle shadow / B-Side-Jams and OLd Tracks: Vol.1 (self-released)
イギリスのアーティストによる初期の作品。打ち込みのシンプルなリズムにギター・キーボードによるジャムっぽいプレイが乗る。少し黒さを感じる、独特のユルいグルーヴと、90年代のIDMを彷彿とさせるキーボードの柔らかい音色が特徴。現代的なベッドルームで一人孤独にブルージーなジャムを演奏しているかのような。ゲーム音楽~ラウンジに通じる機能性・快適さもあり。
Euglossine / COMPLEX PLAYGROUND (Beer On The Rug)
アメリカのGainesvilleを拠点に活動をする作曲家/マルチプレイヤーであり、レーベル「Squiggle Dot」も運営するTristan Whitehillの2015年作。ゲーム音楽やニューエイジに連なるキラキラした音色で演奏される浮遊感のあるフュージョン。アーティストによるPat Metheny風のメロディアスなギター・プレイが光る。カンタベリー的なこんがらがった部分もあるが、基本的にはアクションゲームにおける空や海のステージのような清涼感に満ちている。作品とは関係ないが2013年頃にYouTubeにアップされたMedusa Studiosにおけるライブ映像は必見。
Graham Kartna / Ideation Deluxe (Beer On The Rug)
カナダはハミルトンを拠点に活動するマルチメディア・アーティストによる2015年作。音程の外れたシンセがノスタルジーを刺激する、カンタベリー・ロック的にこんがらがったポップ。ネガティブとポジティブを自在に行き来するコード先行の楽曲は複雑だが深い味わいがあり、聴くごとに沼にはまっていくような感覚を覚える。コードの動きに埋もれがちだが「My Great Movie 01」などで聴けるように独特な歌心もある。10年代屈指のユニークさを持つ、濃密な作品。
Home Blitz / Foremost & Fair (Richie Records)
(名曲にしか使用を許されない曲名ってありませんか)
アメリカはニュージャージーで活動するバンドの2nd。フォークからプログレまで、広範なジャンルのサウンドを短い時間にギュッと詰め込んだパワー・ポップ。冒頭の「Seven Thirty」~「I'm That Key」の流れに顕著だが高速でめまぐるしく展開する楽曲が聴き手を振りまわす、エネルギッシュなポップである。勢いだけかと思いきや牧歌的でのんびりした曲や実験的な曲などで流れの緩急も作られている。楽曲の密度のわりに聴き疲れしないのは爽やかな録音と軽快なアンサンブルのおかげか。ギターのジャーンという音が気持ちいい。クセになるポップさを備えた痛快作。
Jim O'Rourke / Simple Songs (Drag City)
アメリカのミュージシャン/プロデューサーによる、歌もののアルバムとしては3枚目の作品。タイトルとは裏腹にほぼプログレなソングライティングに複雑で豪華なアレンジが施された重厚な作品。かつてない強い感情が籠められており、それは本人の執るボーカルにも表れている(「Hotel Blue」の終盤は圧巻)。バンドのメンバーは日本人で固められており、ジムが日本に移り住んでから築いた人のつながりが生んだ作品とも言える。入り組んだ楽曲は掴むのに時間がかかるが聴くたびに魅力を増していく。個人的にはここまでエモーショナルな仕上がりになったことが驚きだ。
Kendrick Lamar / To Pimp a Butterfly (Top Dawg Entertainment・Interscope)
アメリカのコンプトン出身のラッパーの3rd。全16曲・約80分に及ぶ大作で、一流のミュージシャン・プロデューサー陣によって隅々まで完璧に作り込まれている。多面的で巨大な作品で、ブラック・ミュージック総覧的な趣があるが、リリックも含め自分には解き明かせない部分がまだまだある。胸を張って「好き!」と言える曲は正直多くないのだが、どの曲も非常に高いクオリティを誇っていることは分かる。こういう作品が出るとアメリカで生まれ育ってみたかったとの思いが沸きます。
LNRDCROY / Much Less Normal (1080p)
カナダはバンクーバーのプロデューサーによるデビュー作。ベッドルーム的な暖かで柔らかなサウンドでユーフォリックな空気を醸し出すハウス。クラシックなアンビエント・テクノをチルウェイブ通過後の瑞々しい感性で再構築したようなサウンドは(カナダで?)一種のトレンドとなり、その後もバンクーバーの1080pを中心に同様のスタイルの傑作が次々と生まれることとなった。本作は翌年Firecracker RecordingsからLP/CDでリイシューされているが、収録曲・曲順が変わっており聴き比べるのもおもしろい。
Maxo / Chordslayer (NHX)
ブルックリンを拠点に活動するプロデューサーの2015年作。2013年の『LEVEL MUSIC PURCHASE』発表後も「LEVEL MUSIC」で引き続きチップチューン・サウンドを作りつつ、同時によりリズムとコードにフォーカスしたポップの追究も行っていた。2014年にPC Musicからリリースしたシングル「Snow Other」で幕を上げる本作は『Chordslayer』のタイトルの通り、コードを殺す…というか超細切れにしたポップで、コードドリブンなポップスの究極系といった感じである。サウンド的にはアーティストの青春だったのだろうか、昔のゲームやニコニコ動画からのサンプリングが耳を引く。数瞬ごとに変わるコードをビジュアルで表現したウェブページも必見。ハイパーでエクストリームな傑作。
Neu Balance / Rubber Sole (1080p)
バンクーバーのSam BeatchとSebastian Davidsonのデュオによるデビュー作。クリック/グリッチ通過後のミクロな音遣いが光るエレクトロニカ。電子音はファニーで可愛らしく、純粋に「音」として魅力的。ラフなボイス・サンプルや繊細なフィールド・レコーディングが開放感を演出する。あまり目立った展開がないため掴みにくいかもしれないが、一度耳が開かれると途端におもしろく感じられてくる。早朝の静穏な時間によく映える、清涼感のある作品。
Ought / Sun Coming Down (Constellation)
モントリオールを拠点とする4人組バンドによる2nd。Talking HeadsとThe Fallをかけ合わせたような鮮烈なデビュー作に続く作品ではリリカルな空気を作り出していたキーボードが後退し、バンドのヘビーで獰猛な側面があらわになった。クールな表情を保ちつつもゆっくりと熱を上げていくというバンド得意のスタイルは今作でも健在で、それが踏襲された約8分にも及ぶ#5「Beautiful Blue Sky」はバンドの新たな代表曲。より歌とキーボードがフィーチャーされた2014年発表の前作も必聴で、二作合わせて個人的にポスト・パンクのニュー・スタンダードと思っている。
Pulse Emitter / DIGITAL RAINFOREST (Beer On The Rug)
ポートランドのベテラン・シンセサイザー・アーティストによる2015年作。冒頭の中華な旋律に少し驚かされるが中身はシンセの純粋な響きがこだまするスピリチュアル?なヒーリング・ミュージック。ジャケットやタイトルが想起するような、綺麗で透き通ったサウンドに包み込まれる体験ができる。『Far Side Virtual』のような人工感とでも言うべきものはもちろんあるのだが、それ以上に綺麗という印象が強い。合成音声が誘うバーチャルな森林浴。
Rodrigo Carazo / Oír e ir (INDEPENDIENT)
アルゼンチンのコルドバを拠点に活動するSSWの2nd。清涼感のあるサウンドと滑らかに、かつ自在に展開する楽曲が特徴のフォルクローレ…というかトラディショナルなフォーク。ブラジル音楽に通じるような豊かなリズム感と、独特な美しさのあるコード感覚・歌心が今作にもある。自分が南米の音楽シーンに興味を持ったのはAntonio Loureiroの存在が大きいが、彼の作品に通じるような清涼感・豊かな音楽性を持ちつつも、こちらはより「歌」を中心にまとめられている。なんとかして#2「SABIA SUENA」を聴いてほしい…!
Sufjan Stevens / Carrie & Lowell (Asthmatic Kitty)
ミシガン州出身のSSWによる2015年作。母の死を契機に制作された作品で、タイトルはその母と実質的な育ての親である継父の名前から取られている。ギターとピアノによる弾き語りに繊細な電子音が散りばめられた、内省的なフォーク。ボーカルはいつになくか細い響きで、それ以外のサウンドも彩度の低い落ち着いたトーンでまとめられている。音響とアレンジは今まで以上に凝っているのだが非常に繊細で、耳を澄まさなければその豊かさに気づかないかもしれない。切なげだが時代を越えた美しさを湛える作品。
Tame Impala / Currents (Universal Music)
オーストラリア出身のバンドによる3rd。中期ビートルズを彷彿とさせるポップなサイケデリック・ロックを、空間を塗りつぶすようなマッシブなサウンドでスケール大きく展開する…という基本路線は変わらないが、今作ではサウンドの中心がギターからシンセに代わり、サイケなElectric Light Orchestraとでも言うべき音楽に。「Yes I’m Changing」「‘Cause I’m A Man」といったミディアム・テンポのバラードに惹かれる。10年代に3枚の作品を残しており、バンドとしてのヘビーなグルーヴを堪能できる1st、よりSSW的なシンセ・ポップに転身した3rdとその中間の2ndがある。どれも良いのでお好きなものを。
井手健介と母船 / 井手健介と母船 (P-Vine)
吉祥寺の映画館バウスシアターで働く傍らで音楽活動を続けていた井手健介率いるバンドのデビュー作。ボサノヴァとフォークを混ぜたような軽やかで穏やかなサウンドを羅針盤~山本精一に通じる優しい響きの「うた」でまとめあげる。『ゆらゆら帝国のめまい』からも相当影響を受けているようで(「雨ばかりの街」はまんま「恋がしたい」のフォーク/ボッサ版である)、同作にあったメロウネスは今作にも引き継がれている。バンド「母線」の一部メンバーはJim O'Rourkeのバンドも兼任しておりその実力は折り紙付き。滋味深い逸品。
本日休演 / けむをまけ (ミロクレコーズ)
京都の(当時?)現役大学生によるバンドの2nd。『風街ろまん』の牧歌的なロック/フォークを下敷きに非常に雑多…というとアレだが多彩な音楽を取り入れた作品。結果的に細野晴臣のソロ初期作にあったような無国籍感というか(似非?)エキゾチシズムのようなものも備わることとなった。まさにタイトルのような掴めなさがあるが、基本的には土臭ささえ感じるようなのどかな音楽である(垢ぬけないボーカルともやもやした録音の影響が大きいような)。彼らも含む京都のローカルシーンは岡村詩野が『From Here To Another Place』というコンピレーションにまとめているので興味があれば。
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2014年:20枚
2015年:24枚