お気に入り曲まとめ(2021.11)

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https://othersongs.bandcamp.com/album/oh-man

 いつものやつ! 最近時間的な余裕があるので全体的に長めです。

 

 

Lewis Taylor / Lucky、Bittersweet、Whoever、Track、Damn

 from『Lewis Taylor

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 イギリスのアーティストの、セルフタイトルのデビュー作(96年)。9月にピッチでSunday Reviewにて取り上げられていたのがきっかけで聴きました。1月にディアンジェロがラジオ番組にて本作の日本盤ボーナストラック「I Dream the Better Dream」を流したこと、8月にイギリスのBe With Recordsが本作をレコードでリイシューしたこと、極めつけとして6月にインスタでアーティスト本人から「年内に新作出るかも!?」という投稿があったようで、今年はなんというかLewis Taylorの流れがあったようです。

 

 ぶっちゃけめちゃくちゃ良い作品です。リッチな質感の夜向けネオソウル(ネオソウルはだいたい夜向けか…?)。これは感覚的なもので伝わるかわからないんですけど、"黒い"というよりは"暗い"サウンド、音響です。なにに由来するものなのかうまく言語化できてないんですけど、これがツイートに書いた「トリップホップみたいな」という表現に繋がってます、自分の中で。

 一番の特徴は超ドラマティックなソングライティング。リードトラックである「Bittersweet」が典型ですけど、普通にヴァース・コーラスを繰り返した後に、楽曲の終盤に「キメの大サビ」とでも言うか、それまでの流れをすべてひっくり返すような感動的なパートがね、あるんですよ…。伝わる人には伝わると思うんですけど、例えるなら七尾旅人「コナツ最後の日々。」または「「思いつき!思いつき!!」 なに? 「キャトル・ミューティれるの。」」みたいな感じです(改めてすごい曲名だ…)(ぜひ聴き比べてみてください)。

 

 今回お気に入りとして取り上げた曲の、「Track」まではまんまアルバムの1~4曲目となっています。最初からお気に入りの曲…というか名曲が続くということですね。強すぎる…。「Lucky」はジェフ・バックリィの「Grace」と構造が似ています。Bittersweetの感動的なラストパートの勢いのまま突っ込む「Whoever」は作中で一番キャッチーな曲かも。曲構造も比較的シンプルです(といっても最後はやはりドラマティックに転調して終わるのですが)。4曲目「Track」もBittersweet的なドラマティックな構造。なんかこう連発されると感覚がマヒしてきますが、ハチャメチャな構成力がなきゃこんな曲は作れないと思います。

 お気に入りに挙げてないですが続く「Song」もすごい入り組んだ、ドラマティックな曲です。ここまでくるともう無敵だなという感じ。#8「Right」は珍しくレイドバックした風味の曲でリラックスできる。

 

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 そしてお気に入り最後の曲#9「Damn」がまたすごい…。マクロな構造はそんな特筆することもない…こともないか、6分のうち後半の3分ほどは「曲の終わり」というよりは「アルバムの終わり」を演出するためのパートで、ループしながらどんどん盛り上がっていくのですが、そこは個人的な本題じゃないので置いといて。コーラス部分のコードの流れ・響き、メロディーの絡みが、もう単純に「今まで聴いたことがない」。なんだこれ?という。非常に不思議かつスウィートな感覚があります。ぶっちゃけ何が起こってるのかよくわからないので誰かに分析してほしい(似たような曲があったらそれも教えてほしい)。主要なメロディーもエレピとバックコーラスと本人のボーカルがうねうねと絡まっていて、それらを追っているうちによくわからーん、けど気持ちいい~~~となる。個人的には不思議感なら「左腕◇ポエジー」とかザッパの「Little Umbrellas」「It Must Be  A Camel」とかが通じてる……ような気がしないこともないみたいな感じなんですが。

 

 振り切れた楽曲構成力が堪能できる名盤だと思います。普通にJeff Buckley『Grace』と同じくらい評価されるべきな気がする。めちゃ濃いのでなかなか気が重いけど他のアルバムも聴こうな。何も考えずに書いてますがここまで書くなら記事単発で上げればとか思う。

 

 

 

 

 

 

 

君島大空 / 傘の中の手、笑止、火傷に雨、花曇

 from『縫層』

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 印象的な名前だから普通に認知していたけど聴いてなかった人。前の諭吉佳作/menから流れで聴いてやべ~となった作品。これも『からだポータブル』同様、公式にはEP扱いらしいけど、別にアルバムとしてもいいのではとか勝手に思う。EPでこのクオリティ出されるとアルバムへの期待がヤバくなりすぎてキツいんですよ!

 Lewis Taylorに続く配置になったのはただの偶然なんですが(良かったやつ思いついた順に挙げてるだけだからね)、音楽性には通じるところがあります。曲がファッキンすごい。それこそ『雨に撃たえば...! [Disc 2]』に匹敵する。というか個人的には「00年代のクリック~グリッチ通過後のエレクトロニカ…通過後の初期七尾旅人」みたいなイメージです。わかりにくいね。

 

 (申し訳ないけど1曲目の「旅」は飛ばしてしまうことが多い。)

 「傘の中の手」イントロ・間奏のギターのアルペジオが印象的。明快な四分のリズムに乗るメロが普通にかっこいい。三拍子、あるいはスローな四拍子と取れるサビでパッと世界が広がったような、時間の流れがゆっくりになったかのような感覚を覚える。最近触れた中では月ノ美兎・長谷川白紙の「光る地図」のサビに通じる感覚です。キメの細かいエレクトロニクスによる絢爛・壮麗なイメージもすごい。衝撃的な一曲です。

 「笑止」キラキラサウンドから一転してハードなギターが唸りを上げるロックチューン。刺々しいAパート、うっとりするほど流麗なBパート、ほぼほぼブレイクで儚く美しいサビと、メリハリがこれ以上ないほどについている。めっちゃカッコいいっすね…。

 「散瞳」イントロ~Aメロすごく好きなんだけど、サビが奔放すぎて、ストップ&ゴーが激しすぎてちょっとついていけない。メロディードリブンすぎる? 破れかぶれで突っ込んでいくところがロックっぽいっちゃぽい。同世代の人にしか伝わらないですがルインズスターみたいなサビの動きです。「ルインズスターみたいな」ってけっこう形容として便利だと思う。

 「火傷に雨」は前曲とは逆にめちゃ整理されたパターンで、メロの明確さ・リズムの平易さもあり作中で一番キャッチーかも。既にテレビCMとかなにかとタイアップとかしたりしてませんか? おれが何かの監督orプロデューサーなら確実にオファーしますが。

 「縫層」は他の曲同様超気合い入ってるのだけどサビでちょっと乗り切れない。これは個人的な問題です。

 「花曇」締めらしく?、テンポゆっくりめのバラード。比較的シンプルなアレンジ(めっちゃ不定形のノイズ入ってますが)だからこそ伝わるコード展開の巧みさ。曲が複雑なので具体的な場所を指定するのが難しいのだけど、歌詞で言うと「春の歌が聴こえる~」のところで(こう来る!?)となって、そのまま続く「壊れた鏡を並べて~」のところではぁ~~~とくそデカい感嘆の嘆息を漏らします。なんやねん。まあ実際に聴いてみてください。

 

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 すごい、マジですごい作品です。お気に入りに挙げてない曲もありますが、どの曲も凄まじいクオリティです。すごい手の込んだサウンドとアレンジ、そしてソングライティングなのだけど、それでもメインストリームのポップスに通じる聴きやすさがあるのは、おそらく曲の聴きどころ(聴かせどころ?)がきちんと整理されているから。何も考えずに作品を聴いたときに、耳が自然とメインのメロディーにフォーカスするように全体がデザインされている。

 なんというか曲や音のテクスチャーはすごく複雑なんだけど、リズム面含めたアレンジが「必要以上に複雑にしない」感じがあって、それがすごく効いている気がする。

 諭吉とかの新世代、なんかデフォルトで曲構造が一般的なそれよりも一段階複雑な感じ。自分の好みでもあるし、音楽を数聴いてりゃ自然とそうなるだろうみたいなイメージもある。『縫層』もとにかく濃密なので、正直まだ消化できてない。なんだかんだ全体を通して一番印象的だったのは「傘の中の手」における、キラキラした音の破片が宙を舞っているかのようなサウンドかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

betcover!!『時間』(アルバム)

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 一時期TLでめちゃ話題になっていた盤。お気に入りではないのだけど聴いたので(本当に)軽い感想。

 坂本慎太郎のようなボーカルのサイケデリックロック。曲というかメロディーのセンスがあんまり自分と合わないのだけど、それでも通しで聴かせる謎の構成力がある。これはマジですごいと思っている。個人的に似てる作品を挙げるならピンク・フロイドの『狂気』(実際影響を受けているのでは。わからんけど)。

 気になるのはアレンジの幅の狭さ。バンドサウンドやライブでの再現にこだわっているのかもしれないけど、これのせいで?もろもろのメリハリが薄く、全体的に朴訥とした印象になっている。それ自体は悪くないんだけど、これが複雑な楽曲と組み合わさるとなんかね、すごく楽曲が掴みにくくなるんだよね(ということを身をもって体感している、今)。これいま何パートだ!?となる。手がかりがメロディーくらいしかねえ…よくわからんけどずっとウネウネと続いているな……みたいな感じになる。

 構成力はマジで図抜けているので今後がすごいことになりそう。なにも知らずに勝手なことを書くけど、外部のアレンジャー・プロデューサーと組んだらこれまたすごいことになりそう(もうやってたら申し訳ない)。好きな曲は「回転・天使」です。

 

 

 

 

 

 

 

Steely Dan / Dirty Work、Midnight Cruiser、Reelin' in the Years、Fire in the Hole、Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)、Change of the Guard、Turn That Heartbeat Over Again

 from『Can't Buy A Thrill』

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 Ajaくらいしか聴いていない自分の落ち度なんですが、スティーリー・ダンの1stがめちゃくちゃ良かった。完璧主義っぽいユニット(バンド)だとは聞いていたけど、実際1stの時点で完璧だとは思わないじゃないですか? 1stが黄金の72年でAja(6th)が77年。5年くらいかけて完璧になったのかな?とかAjaの評判しか知らない人は思うわけですよ。それが……この完成度……

 なんとなく気難しい印象があったけれど、ここではとにかく風通しの良いロックを演っている。牧歌的だったり情熱的だったりするけど、基本的には爽やかだ。1曲目の「Do It Again」だけちょい曲調違いますが…。

 自分自身正しく認識できているかわからん概念なのでアレなんだけど、「ウエストコースト・ロック」っぽいフィーリングがあります。実際の拠点はニューヨークらしいんですけど、サウンドにはなぜかカラッとした空気がある。ロックらしい超かっこいいギターの音色のせい? 『Aja』がかなり室内(しかも夜中)の空気だったので、個人的には以外な点でした。(追記:NY出身なだけで活動はLA? よくわからんっす)

 

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 #2「Dirty Work」アルバム内で一番牧歌的で、1曲目とは落差がある。エレピとブラスのほわ~っとしたプレイが沁みます。ボーカルの表現力も一級品で、いやマジで、完璧なんですよね。なんなんだ。一時期この曲が脳内でずっと流れていました。#4「Midnight Cruiser」この曲のサビ聴きました? こんなにヒロイックなさ、王道のロックをやるなんて思ってなかったんですよね。これもう映画の主題歌だろ。存在しないハリウッド大作映画のワンシーンが脳内で再生されるんだよな。間奏部のギターのユニゾンも完璧。#6「Reelin' in the Years」1曲目に並びシングルカットされた曲。軽快でキャッチーでたしかにシングル向きな気がする。初見でノれるんですよね。#7「Fire in the Hole」不思議・ミステリアスな曲。ピアノに絡むスライドギターが謎さを加速させる。こういう捻りがスティーリー・ダンらしさなのかも? #8「Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)」爽やか系。サラッと聴けます。歌メロが歌っていて非常に気持ちいい。曲名がそのままサビの歌詞となっていて、つい一緒に歌っちゃいます。#9「Change of the Guard」これも軽やかな曲。クイーン「華麗なるレース」収録曲のフィーリングに近い。#10「Turn That Heartbeat Over Again」サウンドが軽やかだからすらっと聴けちゃうんだけど実際かなり変な曲な気がする。でも軽やかだからな~変な部分に耳が向かない…

 お気に入り曲を精査したらB面の曲が全部入ってしまった。B面は完璧ということで…。聴いたきっかけはSpotifyのサジェスト。なんか一時期「72年のロック」みたいなカテゴリがホーム画面に出てきていて、そこから聴きました。マジで良かったのでありがとねSpotify…。

 

 

 

 

 

 

 

Tierra Whack / Black Nails、Hungry Hippo、Pet Cemetery、Silly Sam

 from『Whack World』

www.youtube.com ビデオ付きで普通に全編聴ける…

 イヤホンをする習慣がない。過去には現場のコンセントから勝手にスマホを充電して問題になったりしているうちの職場の実習生たち。車でおれが好きな音楽をかけていてもそれに負けない音量で、後部座席でTikTokを見ています。

 だいたい流れてくるのはモダンな…?ミニマルでエレクトリックなサウンドR&Bが多い……気がする。それを受けて自分も似たような音楽をかけてみたり……ということでTierra Whackです。オサレなR&Bの引き出しが少なすぎるんだよな。

 なんだかんだでそれなりに馴染んでしまった。とはいえハマりすぎることもなく、というのもやっぱり1分は物足りないから。軽やかでポップなのは良くて、個人的にはピッチの8.3という評価は妥当に思える。

 この作品がTikTokっぽいと感じるのは、どの曲もパッと終わってパッと始まるからです。TikTokの投稿を適当な時間で区切ったものをまとめてコンパイルしたらこのアルバムみたいなものになると思う。自分で書いておいてなんだけどこれやったらマジでアルバムできちゃうな。というかもうやってる人がいるかもしれない。『TikTok Weekly』みたいなタイトルで…

 TikTokがいつから流行り始めたのか、Tierra WhackがTikTokから影響を受けているかどうか、実際にはわかりませんが、なんか関係があったらおもしろい。余談ですが彼女らのTikTokからはマジでバンドサウンドが一切流れてこないので、ロックはもう完全にオッサンの音楽になってしまったんだなあという感慨を抱いたりします。

 

 

 

 

 

 

 

Sault /

Eternal Life、Hold Me、Pray Up Stay Up

 from『Untitled (Black Is)』

 

Strong、Fearless、Free、You Know It Ain't、Uncomfortable、Little Boy

 from『Untitled (Rise)』

 

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www.ele-king.net

 

www.ele-king.net

 

 そういやこの前話題になってたな、聴くか…と聴いた作品ですが、よくよく確認してみたら話題になったのはもう一年以上前のことだったらしく、絶望しています…。

 グループの情報については上のエレキングの記事が詳しいです。当初はめちゃ匿名的に活動していて、その謎さに惹かれるところもあったらしい。メンバーのInfloことDean Josiah Coverはプロデューサーとしても活躍していて、今年のLittle Simzの新作が決定打となりまさしく時代の寵児的な扱いを受けている……ような印象。

 

 二作品挙げていますが、基本的に『Untitled (Rise)』の方について述べます。

 いたるところで触れられているけれど、ソウル、ファンク、ロックなど、複数の音楽ジャンルを跨いだ音楽性が特徴。中でもアフロ‐アメリカンの音楽をベースにしているところはTV on the Radioと似通っているかも。

 『Untitled (Rise)』ではさらにダンスミュージックの要素が大幅に増していて、そこが本作のユニークな点となっている。サウンド自体は他の作品と大きく変わっているわけではないけど、楽曲の構造が、展開の仕方がよりダンス・クラブに寄っている。ビンテージな質感の音色もあって、MoodymannTheo Parrishのファンならあまり違和感なく聴けるんじゃないかと思う。

 

www.youtube.com 名曲。

 ただ……ここがこのグループの一番の特徴だと思うんだけど、もろもろのセンスが異常に渋いんですよね。いぶし銀とでも言うか。それは特に楽曲のポップさのバランスと、先ほども触れた(ビンテージな質感の)音色のチョイスに現れてると思います。センスとしてはバンドのSpoonが近いのかも。古い質感の音と現行の音をうまく混ぜ合わせることでモダンさを追求する、みたいな。実際、Saultの音楽になんの情報もなく触れたら(いわゆるめかくしプレイ)正確な年代を当てられる気がしない。

 ぶっちゃけ評論家向け……というかオタク向けの音楽だと思っている。究極的には色んなジャンル・質感を取り入れる「バランス感覚」こそがこのグループの肝だと思っていて、またその部分を評価する人って自然と色んなジャンルを聴いてるオタクに限られると思う。バランス感覚が中心ってことはある程度のトレードオフで、突き抜けたところがないということになるような気も。個人的な評価としても8.0~は固いけど8.5以上はどうやってもあげられないみたいな感じ。

 しかしまあいつものことですが自分の評価には歌詞などコンセプトの部分は含まれていないので、そこを勘案したらまた変わってくるのかも。なんとなくですが『Untitled (Black Is)』の方が強く怒っている気がする。『Untitled (Rise)』はまだ祝祭性みたいなものがあり、音楽性もより快感重視になっているので個人的にはこちら推し。Little Simzの作品もそうでしたが、ストリングスの音色や使い方にはけっこう記名性というか特徴があるように思います(個人的な好きポイントでもある)。そして実は?かなり音楽性のブレないグループっぽく、どれか一つ作品を気に入れば他の作品もすべて楽しめる感じ。蛇足として、もうちょい早く聴いてれば『Nine』をダウンロードで買ってたのにな…と思っています、今。

 

 

 



 

 

Lil Ugly Mane『Volcanic Bird Enemy And The Voiced Concern』(アルバム)

 

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 Lil Ugly Maneって10年代にスカムな感性でブイブイいわせてた人で、自分も少し聴いていた(結局かなりポップだったので)のだけど、その彼がサプライズ?なのか唐突に新しいアルバムをドロップしました。

 そしてこれが全然スカムな感じじゃなくて困惑している。どちらかと言えば清潔まである。00年代のインディー系のエレクトロニカや北欧のシーンを想起するような(ベースにヒップホップはあるんですが)。

 全体におもちゃのようなファニーなサウンドがまぶされていて、軽やかで聴きやすいです。曲もポップスとして整っているし。どうしちゃったんだ、とも思うけど実際クオリティがとても高いので問題はない。個人的には#8「Beach Harness」から数曲の滑りのいい流れがハイライト。特に「Discard」「Headboard」というシューゲポップな2曲は強いですね。

 なぜ今このサウンド?という疑問はまあある(00年代のインディーに触れていた人なら少し懐かしく感じるでしょう)。けど、それにしても見事な転身ぶり。「堅気になった」みたいな感じするし、実際なにかのサウンドトラックとか、そういう仕事もできそうな気がする。いやマジで今後の振舞いが気になりますね。この作品だけ見たらぜんぜんDominoとかFat Catから出せそうだし(本人はそんなレーベル眼中にないかもしれませんが)。とりますばらしい新作が出たことを喜んでいます。

 

 

 

 

 

world standard + MOOSE HILL / starwheel l、snowy land、grass man、desert blue
 from『FUTARI graceful silence』

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www.333discs.jp

 

 ワールドスタンダードの作品で女性の裸体をジャケットにあしらったものが二つあって、その構図や雰囲気があまりにも似ているので関連があるのかなと思ったらありました。ワールドスタンダード鈴木惣一朗)+αという布陣によるコラボレーション・プロジェクト「FUTARI」というシリーズものらしい。でその第一弾が今回取り上げた『graceful silence』とのこと。

 MOOSE HILLって誰だろうなと調べたら日本人でした。伊藤ゴローという方でメイン楽器はギター。ということで今作も多くの部分ですばらしいギターがフィーチャーされています。全曲インスト。

 非常に雰囲気の強い作品で、流しているとこちらも感傷的になったりぽかぽかしたりします。というかぶっちゃけエロゲー・ノベルゲーのBGMっぽい。エロゲー・ノベルゲーは自分の青春時代と結びついているので、それらのBGMっぽい音楽を聴くとどうしても感傷的な気分になってしまう(個人的な問題)。なんにせよ、メロディアスで親しみやすい、またすごく細かな音遣いなんかもあったりする、非常に良質な音楽です。

 #8「desert blue」だけハードでシリアスな雰囲気で、ちょい異色な感じですがすごくかっこいいです。これいつかミックスで使うわ…。

 

www.inpartmaint.com

 なんでこの作品を聴いたのかというと、最近の自分は音楽聴くのにほぼほぼSpotifyを使っていて、そしてSpotifyにはワールドスタンダードの作品がこれくらいしかなかったからです。ワールドスタンダードの作品自体はちょくちょく集めていて、ディスカヴァー・アメリカ・シリーズの1枚目2枚目と『Double Happiness』『Allo!』以外の作品は、去年の『色彩音楽』も含めてすべて音源持っているんですが、もうPC内のファイルを探すよりもまずSpotifyで検索、というようなスタイルになっちゃってるんですね。Foobar2000のUIがSpotifyとほぼ同じになったらローカルな環境で聴く頻度も上がるかもしれないですが。

 …というような状況だったのですが、ごく最近、ワールドスタンダードディスコグラフィーがサブスク解禁されたようで。正直(ここまで音源集めておいて!?)みたいな気持ちもあるけど、普通に嬉しい気持ちの方が大きいです(結局音源持っててもSpotifyにある作品の方を聴いちゃうし)。出先でも聴けるし。記事にあるコメントの通り「暖炉の灯のような」音楽なので、これからの季節には合うと思います。

 

 

 

 

 

 

 

Scott Orr『Oh Man』(アルバム)

 TLで見かけて、ジャケットの雰囲気だけで聴いたら当たりだったやつ。カナダのアーティストが自身のレーベルから出した3作目?

 どこまでも柔らかな音遣いが特徴のアンビエント・ポップ。ちょっぴりジャズのフレーバーもあります(そういう意味ではNala Sinephroも浮かぶ)が、基本的にはThe Postal Service『Give Up』とKhotin『New Tab』の中間のような音楽性です。

 とにかくサウンドが心地よくて、自分の中で「とりあえずで流しておく作品」みたいな位置づけになっています。とりあえずこの音を部屋空間に配置しておこう(積極的に認知するわけではない)……みたいな感じになっている。それこそイーノのアンビエントシリーズや『Thursday Afternoon』みたいなつきあい方が可能です。Sandro Perri『Soft Landing』も近いかな?

 サウンドだけで満足してしまうので曲までまだ咀嚼できていません。……と書くとマジでイーノのアンビエントシリーズっぽいなこれ(曲構造を認知させない→展開が覚えられない→何度も聴いちゃう、という流れがあります)。アンビエントが好きな人全員に刺さるでしょう。おすすめ。

 改めて考えるとジャケットもすごいな、とか。抽象的だけど、ちゃんとそういう音楽が好きな層にリーチしてるんだもん。自分以外にもジャケットから入ったって人いるでしょ絶対。このジャケットならこういう音だろうな、というのがあるんだろうな実際。そしてそれをおれ自身、言葉で理解はできてないものの感覚で掴んでいるという…(だから聴いたわけだし)。こう書き出してみると不思議な感じですね。

 

 

 

 

 

 あと、まだ咀嚼できてないけど良さげな感じの音楽で、The Sundays(1st、2nd)、Adrianne Lenker『Instrumentals』、Saultからの流れでCleo Solの諸作、Iasos(今さら聴いてます)、Latin Quarter『Hearty Party』(DJミックス)などがありました。

 

 もう12月。一応12月分もまとめるつもりですが、年間ベストもあるしたぶん規模は小さくなると思います。わからんけど。終わり。