Phish『Junta』

 

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 前回のお気に入りまとめの最後に触れたPhishの1st。89年に自主リリースされて、92年にエレクトラからCD2枚組で再発。

 

 この前にも二作デモ作品があったらしい……けど、それを差し引いても豊富な経験を感じさせる構築的な楽曲が目立つ(そもそも全体の半分くらいは約10分か10分超えの大曲だし)。そして非常に端正な楽器のタッチ。ラフなところがなく、クラシックやジャズといったようなバックグラウンドを感じさせる。実際はどうか知らないけど。

 

 とにもかくにも、これが一作目とは思えないようなクオリティと充実度。それでいてバンド固有のスタイルというか、固有の音楽のおもしろさも備えているように思える。驚異的な作品だと思う。

 

 

 

 音楽性のベースは大らかなアメリカンロックと入り組んだプログレッシブロックプログレの気難しく頭でっかちなところをアメリカンロックのカラッとした爽やかさで中和している。ピアノの澄んだ音色の貢献は大きい。

 

 インスト部分にはロックというよりは室内楽的なノリとでもいうようなものがある。みんなで頭をつき合わせて、譜面の指示に忠実に、集中して丁寧に演奏しているイメージ。そういう意味ではGentle Giantも浮かぶし、真面目にふざけるところなんかはザッパっぽくもある。

 

 全体の割合としてはインスト部分の方がずっと多く、だからインスト部分の良さがわかってくるとアルバム全体が好きになってくると思う。そういう意味で試金石はやはり#2、#3で、この2曲を掴んだ頃には作品の虜になっていることだろう。体験としては全体を先導するギターや鍵盤の動きをずっと追っていく形で……似てるのは例えばSonic Youthの『Murray Street』やDeerhunter「Nothing Ever Happened」でギターのフレーズをずっと追っていくあの感覚で、だからそれらを楽しめた人は多かれ少なかれ本作も楽しめるのではないかと思う。……この例示でどれくらいの人に伝わるのかわからないですが。「Rain On Tin」を何度も聴いて解きほぐしていくあの体験ですよ。

 

 

 

 なんて言いつつ、そもそもボートラを加えて二時間超えの大作でもあり、自分自身まだアルバム全体を消化できてはいない。#6までは聴いたけど。なので#7以降を今後はじっくり聴いていこうと思う。

 

 1曲目「Fee」のイントロのぬるっと感もね、味があるというかなんというか。あまりに気負っていなくて、逆に肝の大きさを感じさせる。マイペース……ではあるんだけど、内容に自信がないとできないような気もする。わかりやすい、「名盤」っぽい始まり方じゃないんだよね。「Fee」のイントロの話というよりはアルバム全体のイントロの話。ジャケットもそうだけど! おもしろいです。