お気に入り曲まとめ(2023.6)

https://www.jambase.com/article/ben-junta-hunter-addresses-ask-trey-response-debut-phish-album

 

 

 6月のお気に入り音楽のまとめです。

 

 

 

Phish / Fee、You Enjoy Myself、Esther、Golgi Apparatus

 from『Junta』

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officechipmunk.sakura.ne.jp

 前回のお気に入りまとめの最後に触れたPhishの1st。89年に自主リリースされて、92年にエレクトラからCD2枚組で再発。

 この前にも二作デモ作品があったらしい……けど、それを差し引いても豊富な経験を感じさせる構築的な楽曲が目立つ(そもそも全体の半分くらいは約10分か10分超えの大曲だし)。そして非常に端正な楽器のタッチ。ラフなところがなく、クラシックやジャズといったようなバックグラウンドを感じさせる。実際はどうか知らないけど。

 とにもかくにも、これが一作目とは思えないようなクオリティと充実度。それでいてバンド固有のスタイルというか、固有の音楽のおもしろさも備えているように思える。驚異的な作品だと思う。

 

 音楽性のベースは大らかなアメリカンロックと入り組んだプログレッシブロックプログレの気難しく頭でっかちなところをアメリカンロックのカラッとした爽やかさで中和している。ピアノの澄んだ音色の貢献は大きい。

 インスト部分にはロックというよりは室内楽的なノリとでもいうようなものがある。みんなで頭をつき合わせて、譜面の指示に忠実に、集中して丁寧に演奏しているイメージ。そういう意味ではGentle Giantも浮かぶし、真面目にふざけるところなんかはザッパっぽくもある。

 全体の割合としてはインスト部分の方がずっと多く、だからインスト部分の良さがわかってくるとアルバム全体が好きになってくると思う。そういう意味で試金石はやはり#2、#3で、この2曲を掴んだ頃には作品の虜になっていることだろう。体験としては全体を先導するギターや鍵盤の動きをずっと追っていく形で……似てるのは例えばSonic Youthの『Murray Street』やDeerhunter「Nothing Ever Happened」でギターのフレーズをずっと追っていくあの感覚で、だからそれらを楽しめた人は多かれ少なかれ本作も楽しめるのではないかと思う。……この例示でどれくらいの人に伝わるのかわからないですが。「Rain On Tin」を何度も聴いて解きほぐしていくあの体験ですよ。

 

 なんて言いつつ、そもそもボートラを加えて二時間超えの大作でもあり、自分自身まだアルバム全体を消化できてはいない。#6までは聴いたけど。なので#7以降を今後はじっくり聴いていこうと思う。

 1曲目「Fee」のイントロのぬるっと感もね、味があるというかなんというか。あまりに気負っていなくて、逆に肝の大きさを感じさせる。マイペース……ではあるんだけど、内容に自信がないとできないような気もする。わかりやすい、「名盤」っぽい始まり方じゃないんだよね。「Fee」のイントロの話というよりはアルバム全体のイントロの話。ジャケットもそうだけど! おもしろいです。

 

 

 

 

 

 

 

Youth Lagoon / Rabbit、Idaho Alien、Prizefighter、Deep Red Sea、Trapeze Artist

 from『Heaven Is A Junkyard』 

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 Youth Lagoonが登場した頃(2011年)にはもうピッチフォークをリアルタイムで見ていて、だから彼の活動の高評価ぶりは知っていたのだけど……なんと今回が聴くの初めてです、彼の作品…(少し恥ずかしい)

 もっと早く聴いてればよかったね~と思いました。良い…。一番の特徴は幽玄で儚さを感じさせるサウンド全体の処理。アタックをできるだけ丸めて、全体を中低域に収めて耳当たりを良くして……その上で、ピアノにおけるプリペアド・ピアノみたいな、少し音をひしゃげるような加工が一部で施してある。そのおかげで、例えばBoards of Canadaが作る小曲のような、浮遊感のある、なんとなく懐かしいような雰囲気が生み出されている。

 とにかくこのサウンドの独特な味付けが良くて……このテイストがアルバム全体に渡って統一されており、作品をまとまりのあるものとして強く印象付けている。回りくどいね。傑作ということです。曲が良いのはもちろんだけど、やっぱアルバム単位で独自の、一定のサウンドがばっちり決まってると印象が良い。「この作品は他の作品と違う」ということがはっきりと分かるからな~。おそらく過去作から続くサウンドのテイストだとは思うんだけど、記名性があるというか、ネームバリューが生じるレベルでキャラが立っていると思います。

 さらっと流したけれど楽曲もシンプル&キャッチーで良い。アルバム終盤(#8以降の3曲)はエモに振れていくので、そこだけが個人的に少し不満というか好みじゃないのだけど、それまでは完璧ではないでしょうか。全10曲中7曲が名曲だったらもう名盤だろ。名盤です。

 1曲目の「Rabbit」がちゃんとキャッチーなのも偉い。好きな奴!って一瞬で分かった。あと、なんとなくシンプルなリズムのキャッチーさがよくわかる作品でもあるなと思った。なにもリズムがないところにドラムが入ってくるだけで乗っちゃうもんね。自分がチョロいだけか。

 

 

 

 

 

 

 

Meshell Ndegeocello / Fool Of Me、Satisfy、Sincerity、Grace

 from『Bitter』

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 ピッチフォークの最近のSunday Reviews(過去の名盤を取り上げる企画)で知った作品。語感がいいので名前の音だけは覚えていたミシェル・ンデゲオチェロ……実は彼女の作品も未聴でした。これを機に聴いていきましょう。

 感傷的なバラードが揃えられた内省的なネオソウル。サウンドで目立つのは情感豊かなストリングスで、聴き手を優しく包み込んでくれる。実質的なオープニングとなる#2「Fool of Me」から好みドンピシャで感動。浮遊感を醸すほのかなエレクトロニクス(ナイジェル・ゴッドリッチを少し思い出す)も名盤のイメージを強くする。

 まあ、だから……Beckの『Sea Change』とか、アルバムの方向性としてはそういう感じの作品です。スタイルの根っこにブラックミュージックはあるけれど、音楽の効能としては同じところを目指していて……つまり癒しですね。

 なんか調べてみたら初期の作品はアルバムごとにぜんぜん音楽性が異なるらしい。しかしどちらにせよクオリティは信頼できそうなので……ゆっくり掘っていこうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

MF DOOM / Rhymes Like Dimes、Red And Gold、Operation: Greenbacks、The Mic

 from『Operation: Doomsday (Complete)』

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↑ 3曲目を聴いたときの感想

 クールでメロウでユーモラスなサンプリングのセンスが初期から完成されていたことがよく分かる。個人的にこのセンスはヴェイパーウェイヴにそのまま通じているものでは?と感じていて。いやまあサンプリングでキャッチーなループを作ろうとしたらこういう感じになるのかもしれないけど。

 なんにせよ色んなものから色んなものへと繋がるクソでかい参照点として今後も語り継がれてゆくのではないかと思われる作品。

 

 

 

 

 

 


Califone『villagers』(アルバム)

www.youtube.com ねこ~!! 鍵盤を……

 相変わらずゴツゴツした音響だ。今回も楽曲というよりは音響含めたサウンド全体で勝負しているような印象。おもしろい奇妙な音がそこかしこで鳴っている。わりとジャケットはサウンドを表していると思う。

 全体に渋く枯れた味わいの楽曲が並ぶ中、中央に配置された「comedy」が一際強いエモーションを放つ。Father John Mistyしかり、コメディって名前で実際に喜劇っぽい曲調の曲に出会ったことないかもしれない(偏見)。

 遠近感や質感を惑わせる「非楽音を扱うセンス」はいまだに輝いていて、まだまだ学ぶべきところがあると感じる。まあこれも前提として良い楽曲が書けてはじめて機能する類のものの気がするけども…。

 

 

 

 

 

 

 

feeble little horse / Slide

 from『Girl With Fish』

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 アメリカのピッツバーグの四人組の2ndらしい。久々にインディーロック聴いたなと感じる。マナーに囚われない自由さがあって、そこにインディーを感じているのかも。

 基本はギターロックで、シューゲイザー的な轟音を気軽に振り回してくる。DeerhoofとかBrainiacみたいなフリーキーさがあり、1曲の中で大胆に楽曲が展開する。#9「Pocket」のぶち壊しとかなんなんだ(しかしそれがクセになる)。…それゆえに1曲通して安定して気持ちいいということがなく、曲単位でお気に入りを挙げにくい(1曲の中に快と不快が入り混じっている)。機能をあまり気にしない、そのときの気分やバンドの化学反応を重視するスタイルと思う。

 とはいえソングライティングは基本的にポップで、慣れてしまえばまったく問題ない。そして、どの曲もだいたい2分ちょいくらいと短く、またアルバムの流れも良いので繰り返し再生するのに負担がない。いいアルバムだと思います。フレッシュ。

 

 

 

 

 

 

 

June of 44 / Lawn Bowler、June Leaf

 from『Tropics And Meridians』

www.youtube.com 1分半くらいまで飛ばしてもいい。無限に聴けるアンサンブル。。

 ツイッターにここら辺の界隈について定期的に語り続ける人がいて、だからこちらも定期的に聴いてみるか…?となったりする。

 アルバムの構成がRodan『Rusty』と似ていて、だから苦手な部分も似ている。1曲目~2曲目の流れが苦手です。3曲目からようやく好みな感じになってくる。今『Rusty』流してみてるけど、これ2曲目要りますか? 自分でも珍しいと思うのだけど、「好きじゃない」を越えて「嫌い」の領域に入っている。1曲目であれだけ完璧に溜めたのに、それをこんな形で解放しちゃっていいの?

 完全に『Tropics And Meridians』の話じゃなくなってて草。どうせだからもっと脱線しちゃうんですけど、自分はこういうスタイルの音楽や、ここら辺の界隈に対してコンプレックスがある。なんでかというと歌をめちゃ軽視しているように感じるから。音程つけないんですか? そもそも音色として叫びが好きじゃないし。そしてこういう歌感があまりない音楽からもちゃんと快を得ている人がけっこういるらしいことに嫉妬している。メロディー要素ガン無視してテンションの振り幅の大きさだけで感動してるのか? 本当に珍しいと思うのだけど「Shiner」には自分の嫌いな要素がきれいにパッケージされていて、そういう意味で個人的に価値がある。

 コードとメロディーの相互作用によるおもしろみが無さすぎる。あまりに無さすぎてコードとメロディーへの軽視という他人からは推し量れない内面の部分まで妄想してしまう。楽曲をリフ単位で構成することで演奏しやすくなってめちゃ良いグルーヴを生み出せている……ことはあるかもしれないけど、別にボーカルまで無調なリフっぽくしなくてもよくない?

 嫌いなものの話はここで終わろう。「Lawn Bowler」はそもそもそれぞれのリフ自体にかなり音程の動きがあり、そこで歌感が出ている。その上で、ねちっこいグルーヴが本当に良い。音の疎密でグルーヴが伸び縮みしてリズム的な面白さが出ている。これと比べたら「Shiner」は音程は動かないわリズムは単調だわでマジで自分の好みではない。脱線やめろ。「June Leaf」は途中でビートの感じが変わるのがおもしろい。どちらもイントロが長いと思うけど。

 改めてこのアルバムと『Rusty』って似てると思う。『Rusty』の方がサウンド・楽曲の構成ともにケレン味があって、ハマったときの威力は高そう。逆に『Tropics And Meridians』は少しマイルドになった感じで、苦手感と同時に最大火力も抑えられた感じ。だけど日常的に聴きやすいし、粘るグルーヴは新境地。どちらも3曲目以降は基本好きです。無駄に長くなった。気分を害したらすみません。

 

 

 

 

 

 

 ここからはまだあまり消化できてないやつ。

 

King Krule『Space Heavy』

 これは初聴時の感想で、これ以来まだ聴いていないので感想変わってるかも。とりあえずこの時点で作品が好きなことは確認できているのでそのうちまた再生すると思う。

 

 

Steve Spacek『Natural Sci-Fi

 どういう経緯で聴いたのか忘れた。Spotifyのサジェストだったかな? Dâm-Funkがアブストラクトになった感じ。音色の良さ……が充分に活きる空間/時間の広さがある。

 

 

Asake『Work Of Art』

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 自分が目立つところでそれしか聴いていないだけで他にももっとそういった作品はあるんだろうけど……という前置きはさておき、Tierra Whack『Whack World』みたいなミニマルで完成度の高いポップなR&B。#4「Sunshine」はもう曲単位でお気に入り。するする流れていく。オシャレで機能的でスマートで、まあ優等生的と形容したくなったりもする。

 

 

Labi Sffre『Crying, Laughing, Loving, Lying』

 Sunday Reviewsきっかけ。フォーク~ポップ。良いです。(力尽きた)

 

 

 

 

 

 おわり。やっぱ気の向くままに聴いていった方がお気に入りは見つかりますね。