お気に入り曲まとめ(2023.3~5)

https://hausumountain.bandcamp.com/album/walkthrough



 

 

 HausMo本の作業を始めてからはレーベルの作品ばかりに触れていたのであまり自由な探索はできてません。いつものことだ。

 

 

 

Steely Dan『Gaucho』

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 『Gaucho』。Steely Danが長い活動停止に入る前に発表された作品で、彼らのディスコグラフィーの一つの区切りとなっている。今まで『Aja』しかまともに聴いてなかったのだけど、一昨年に1stに触れて(この時点で完璧かいっ!)と感動してから徐々に過去作を聴いていき、とうとうGauchoに至りました。

 

 一聴した感じ、とにかく聴きやすい印象。特に前半部分はむしろつまらないと感じてしまうほどに聴きやすい。

 引っかかりが少なくて、そのままつるっと流せてしまう。一番の要因は常に安定しているリズムで……個人的にはロック/ポップスというよりはハウスに近いと感じた。もちろん全て人力なのだろうけど、あまりに全体が整っている。今作と比べると『Aja』はかなりファンク~プログレ寄りで、リズムが途切れるのも厭わずにキメや外しを配置していて、なんというかロック的なケレン味があったなと思う。

 

 場の空気を乱さない、節度を保った音楽で、クラブやバーよりはもう少し公共感のあるラウンジなんかで流されるのが似合っている。音楽の盛り上がりで我を忘れることがない。

 ムードやグルーヴはもとより、テンションの高さや音楽的な情報量までも最初から最後まで安定している(=つまり「まとまり」がある)ため、アルバム単位で聴きやすく、かつカジュアルに楽しめる。めちゃめちゃ高品質なアルバムです。音の取捨選択を極めた結果のミニマルなアレンジが大人の余裕のようなものを醸し出している。ごく個人的な感想なのですが、完璧さとカジュアルさを両立させているのがすごいなと思う。

 だいたい全曲好きな感じ。なのでアルバム単位で取り上げましたが、1曲挙げるならタイトルトラックである#4「Gaucho」でしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

Theo Parrish『DJ-Kicks Detroit Forward』 

 

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 Theo ParrishMoodymannの作品が普通にサブスクで聴けることに時代を感じたりしませんか。なんとなく、中古も常にそれなりの値段で取引されていたアーティストという印象があるので…。

 大きい作品で、まだ前半くらいしか消化できてないけど前半だけでも充分に良い。"Detroit Forward"と銘打たれているようにデトロイトのアーティストの楽曲でまとめられているらしい。ジャズ~ファンク~ソウルのエッセンスだけを抽出したような内容。

 序盤の#2「Simba's Theme」~#3「When the Sun Falls」が本作の音楽性を象徴したような内容で、作品全体に対する試金石のようなものとしても機能する。ローファイでラフでミニマルなマシンファンクなのだけど、個人的にはこのローファイ加減・ラフさ加減(そしてメロディ加減か)を楽しむにはある程度の慣れが要ると思うので。この2曲を楽しめるならミックス全体も大いに楽しめるだろうと思う。

 そうでなければ少し鍛錬というか慣らしが必要かもしれないけど、とはいえ、デトロイト周辺のこの手の音楽としては非常にフレンドリーというか聴きやすい作品がまとまっていると思う。基本メロディアスだし。巨大さもあって、この作品があればしばらくこの周辺の音楽は自力で掘らなくてもいいな…となりそう。すばらしいです。

 

 

 

 

 

 

 

Kurt Rosenwinkel『Reflections』、『Berlin Baritone』

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 ここからは前回のまとめでにわかにジャズ(ギター)にハマった流れで聴いて気に入った作品をたちを紹介。

 前者はWikiを見るに、ジャズのスタンダード?なバラードをギター・ベース・ドラムの編成で演奏した作品で、オリジナル曲は#4のみ。落ち着いた雰囲気、楽曲、そして何より落ち着いた各楽器の音色が特徴。音的にまったく尖ったところがない。たぶんこのアルバム、嫌いな人いないです。

 

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 後者は低音域が拡張されたバリトン・ギターによるソロで、#5以外はオリジナルの即興演奏らしい。こちらも音色的に落ち着きがあり、聴き疲れるということがない。ただ繰り返しが少なく、特定のフレーズが頭に染みついて離れない、といったようなポップス的な楽しみ方はなかなかできない。しかしそれは何度でも聴ける(=飽きない)ということの裏返しでもあり……

 といった感じの二作。どちらも夜にぴったり。安牌すぎる感もあるけど、いや抗えないですよこの音は……。

 

 

 

 

 

 

 

Chamber Tones / Cow Daisy、Lovesong For Y.、Beijro Partido、Everytime We Say Goodbye

 from『Chamber Tones』

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 前回のまとめで大きくフィーチャーしたJesse Van Ruller率いるChamber Tonesの初作。『Spirits High』と並んで年間ベストに入る予感。両者に共通するのはメロディーを中心に聴かせる意識で、それこそがおそらくはJesse Van Rullerの個性であり……自分の感性と共鳴する部分でもあるのだと思う。

 機能的にはイージーリスニングに近い、聴きやすさに配慮したスタンスで……だからこれがジャズのファンにどれくらい支持される内容なのかわからない。個人的にはジャズってプレイヤー同士がぶつかり合う音楽という側面もあると思っていて、そういう側面を重視する聴き手には、今作のメロディーパートを中心に調和しきったスタイルはあまり響かないのかもなと思ったり。

 先に紹介したKurt Rosenwinkel『Reflections』もメロディーに振った作品だと思うけど、それと比べても差を感じるレベルでメロディー中心に組み立てられている。それには「メロディーよりも前に出ない」という他のパートによる配慮もあるし、「メロディーに忠実に弾く(遊び過ぎない)」というメロディーを担当するパートによる配慮もある。

 アルバム前半はよりかっちり作曲されている印象。なので後半部分の方がジャズっぽいかも。そもそもギター、クラリネット(+サックス)、ベースという編成の時点で好みか? 名盤だと思う。

 

 

 

 

 

 


Bill Evans『Some Other Time: The Lost Session from The Black Forest』

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 今年の4月?、PitchforkでBill Evansの発掘盤が取り上げられていて、へ~Bill Evansなんて取り上げるんだ…と思いながらアーティストページに飛んだら2016年にも一度取り上げていたことを発見(しかもBest New Reissue)。

 ということで2016年にリリースされたBill Evansの作品。概要はリンク先を見てほしい。特筆すべきはちゃんとスタジオで録音されたものだということと、Bill Evansのキャリアでは貴重な、Jack Dejohnetteと組んだときの音源ということ。

 まあでもそんな情報は気にする必要はなくて……とにかく内容が優れている。お蔵入りにされてたのが意味わからんクオリティ。演奏はもちろんだけど、録音が良すぎる。現代の作品として聴けてしまう。

 聴いているとメロディー・リズム・コード、それぞれのおもしろさを極めた達人による遊びを眺めているような気分になる。ピアニストすごすぎる。自由自在じゃん。

 別にBill Evansに詳しいわけでもなんでもない素人の感想ですが、え、これ『Waltz for Debby』に匹敵する内容じゃないですか? 本当にめちゃくちゃ良い作品に思える。Bill Evansのファンによる評を読んでみたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

Ahmad Jamal Trio『At the Pershing: But Not for Me』

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www.ele-king.net

 

 エレキングが4月にアップしたこの記事で知ったアーティスト。上述のBill Evansの作品のレビューでも出てきた「カクテル・ピアノ」という表現がこの記事にも登場する。カクテルでも飲みながら楽しめるようなイージーな演奏をする人や演奏自体に対して皮肉を込めて使われる言葉……らしいけど、自分にとってはそういう性質はむしろ好ましく映る。

 とりあえず世間一般で代表作とされているらしい作品から。#6「Poinciana」を除けばほとんどが2~3分の、シンプルでわかりやすい楽曲が揃っている。経験値の不足からか、アーティストの個性のようなものは自分は感じ取れないですが、とにかく聴きやすいです。なるほど、こういう毒にも薬にもならなそうな感じを指してそう形容されてるのかもなと思わなくもない。

 まあそもそもジャズ自体ぜんぜん通ってない人なので、他のいろいろな作品に触れた結果、それらとの比較を通じて今まで個性と思ってなかった部分が個性として再認識される……みたいなこともあるかもしれない。ということでのんびりとジャンルに付き合っていこうかと思っています。BGMとしても機能するような作品しか聴かないかもしれませんが…。

 

 

 

 

 

 

 

Lifeformed × Janice Kwan『TUNIC (Original Game Soundtrack)』

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 ここから少しゲーム音楽。けっこうゲームプレイしてるんだけどもう一年くらいゲームの感想をまとめられていない。

 今年触れた神ゲーの一つ『Tunic』のサントラです。透明感のあるエレクトロニックな音色がゲームの世界観と合っている。ゲーム画面を見てもらえれば分かるんですけど、色鮮やかなとても綺麗なルックのゲームなんですよ。オブジェクトの幾何学的なデザインやツルっとしてノイズの少ないテクスチャーなど、ゲームの視覚的な要素がサウンドと完璧に調和している。

 特にゲームのメインテーマとも言えそうな「Forget to Forget」……とそれのバリエーションである「Memories of Memories」、「Remember to Remember」が出色の出来。メロディーと音色の際立った楽曲で、ゲームの内容と共に自分の中に記憶として強烈に焼き付いてしまっている。曲が流れるだけで当時のゲームプレイが蘇る。日常で不意にこの曲を聴かされたら感動で少し動けなくなってしまいそう。

 いや、本当に神ゲーなんですよ。サントラもいいですけど、とにかくゲームの方をみなさんにプレイしてほしいですね。ゲームやれば音楽も一緒に楽しめるからな、ガハハ。

 

 

 

 

 

 

 

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド オリジナルサウンドトラック

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 流行のティアキンをやろうと思って前作のブレワイに手を付けたのだけどボリュームが大きすぎて一向にティアキンを始められない。まあそれはいいのですが、ブレワイがね、ゲーム性だけでなく音楽も最高というね…。

 「自然の息吹」(意訳)なんてタイトルにあるように自然を感じさせる表現・演出が極まっているゲームで、ゲーム内でてきとうに散歩しているだけで心が癒されていくのですが、その一環としての音楽を使った表現も非常に繊細ですばらしいです。

 フィールドのBGM……というか、ブレワイの世界を移動する体験をね、ぜひみなさんに一度体験してもらいたい。序盤の、カカリコ村~ハテノ村ルートを。いやまああルートはなんでもいいのですが。このゲームにおけるBGMの「背景感」をぜひ味わってもらいたい。ここまで背景に徹している音楽ってないですよ。

 一応書いておくと、基本はピアノ中心の抽象的なアンビエント。で、町やら村に入るとしっかりとしたメロディーのある楽曲が流れ出します。どっちもめちゃくちゃ良い。町・村のBGMは種類はそんなに多くない……というのもゲーム内にそこまで町や村がないからなのですが、代わりにどの曲も完璧な仕上がりです。

 演出として、時間帯によってBGMのアレンジがシームレスに変わっていきます。昼なら活発な、夜なら落ち着いたといった感じ。そしてサントラでは1曲の中にすべての時間帯のアレンジが収められています。なので……音楽につられて、一曲聴くごとに朝だ元気~→夜だ眠い~という風に聴き手のテンションも移り変わっていってしまいます(目まぐるしい)。

 ゾーラの里のBGMは初めてゲーム内で聴いたときは美しすぎて感動した。ウオトリー村は時間が経つにつれてテンポがめっちゃ下がるので本当に気を失いそうになる。最近は入眠用のBGMとして重宝しています。。

 

 

 

 

 

 

 

 ここからはHausMo関連のお気に入り。HausMo本である程度書いてるのでここではサラッと書いていきます。

 

Potions『Light And Dark』

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 ほんのりトロピカル感のあるラウンジ~エレクトロニカ。カタログ内でもしかすると一番機能的な音楽で、端的にBGMとして最高。

 

 

 

William Selman『Picture Of The Climate』

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 熱帯感のあるダブ~アンビエント。流れが大切にされているのがいい。

 

 

 

ROM『Possible Mountain』

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 00年代感の強いエレクトロニカ~ポストロック。Roberto Carlos Lange(Helado Negro)のキャリア初期の仕事。これが良かったので他の過去作も中古で集めてしまった。ROM、再評価されていいです。

 

 

 

Mukqs『Walkthrough』

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 ゲーム音楽とドローンインプロの融合。かなり珍しい音楽性だと思う。そして単純に楽曲が良い。名盤です。

 

 

 

Fire-Toolz『Drip Mental』

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 HausMoから出ているFire-Toolzの作品で一番好き……だしアルバムとして一番優れていると思う。ポップな楽曲のポップさと完成度がずば抜けている。

 

 

 

Mondo Lava『Ogre Heights』

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 エキゾチックなエレポップ。とにかくムードが強力。Domenique Dumont『Comme Ça』なんかを思い出す。

 

 

 

Nonlocal Forecast『Holographic Universe(s?)!』

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 プログレフュージョンだが、Angelの作品にしては珍しくストレートに哀愁を感じさせる表現が多くあり、気に入っている。

 

 

 

 

 

 

 

 あと消化できてないけど気に入りそうなのとしてQuicksilver Messenger Serviceの1stと2nd。自分はたびたび感電したようなギターサウンドが好きと言っていますが、それってつまり昔のロックのサウンドなんだよね。昔、こういうサウンドが主流だった時代があったんや…。このサウンドだったら延々と聴ける。そしてPhishの1st。HausMoのオーナーたちのフェイバリットバンドの一つということで興味が湧き。調べてみるとGrateful Dead直系のジャム・バンドでありながらプログレにも精通しているという(ということでOffice Chipmunkでも取り上げられている)。1作目の時点で趣味の良さが伝わる。アルバムいっぱいあるのでゆっくり聴いていこうか。

 

 

 

 曲単位でお気に入りを挙げられてないの、ちょっと加齢を感じますが。いやそれよりもちゃんとしたタイミングでこの記事をまとめたことを誉めてほしい。おわり!