諭吉佳作/men『からだポータブル』

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https://open.spotify.com/album/70lRejJTj4EpBV9TGC9bDD

 

 

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 すげーーー忙しない音楽性。音色自体はデジタル風味のあるチェンバー(室内楽)系。使っている楽器の数はそんなでもないのだろうけど、音数が多い。そしてどの音にも打楽器的(サンプラー的?)なフィーリングがあるのがおもしろい。具体的に言うなら持続的な音遣いが少ない? スラーが少ない。それらの点が合わさってとても小気味いいサウンドになっている。ミニマルテクノやある種のギターロックなど、自分が「ちゃかぽこ系」と呼ぶ音楽に通じる快感がある。

 

www.youtube.com 「ちゃかぽこ系」の例

 

 曲によっては流れを成す(=メロディー・フレーズを構成する)かわからない、「単体の音」もあったりする。いわゆる「点描的」なプレイ。プレイ? その極致が#2「まま」で、この曲では音がぱらぱらとした雨の粒になってランダムに叩きつけられているようなサウンドが聴ける。いやちゃんと聴けばリコーダーみたいな音のパートにもほのかな歌心を感じ取れるのだけど。とりあえずアルバム中で一番抽象的な味わいが強い、不思議な曲だと思う。幾何学的な現代芸術をえんえんと見させられている、みたいな感じがする(どんな感じだ)。

 

 

 

 楽曲の大きな特徴として、「メロディーやコードのセンスがめちゃくちゃ奔放」なことがある。なにが飛び出してくるかわからない。湯浅政明のアニメーション感? やりたい放題やんけ……みたいな感想が漏れる。その場で思いつきで展開しているかのような……ちょっとした即興のように感じられる瞬間もある。

 単純に展開が早い(繰り返しが少ない)……のもあるけど、それよりもなんというか「思わせぶり」なところがあまりないという印象。四字熟語で言えば「不言実行」みたいな(?)。聴き手が予感する前にもう展開しちゃう、みたいな。思わせぶりというか……「匂わせ」が多すぎるとダサくなるし、逆にまったく無いとイミフになっちゃうんだけど、本作はイミフ寄りだけど大枠ではポップスの範疇にある感じ。個人的には好ましいバランス感覚だなとも思うけど、いや普通にチャレンジングすぎるとも思ったりする。

 いや正直難しい音楽だと思う。噛み応えがいっぱいある。曲が複雑なだけならまだしも、この作品、かなりテンポが速いんだよね。音のメリーゴーランドや~~~とか思うけど実態はもう一段階上のジェットコースターなんだよな。予感ポイントも含め楽曲はきっちりと構築されてるんだけど、それが掴めるくらい聴いた頃にはもうその楽曲にハマっているよね。。

 

 

 

 自分がたびたびしている(けどうまく言語化できたことのない)「歌心」の話。「あ~~~」って、単純に大きな声を出すのって、野蛮かもしれないけどけっこう気持ちいいと思うんですよ。その「プリミティブな快感」を残した、あるいは積極的に取り入れた音楽とかメロディーを、自分は「歌心がある」と感じている・形容しているっぽいんですけど。。

 

www.youtube.com 「歌心がある」の例。ビブラートかけるの気持ちいいんだよ。究極は演歌とかになるのかも。ゴスペルか?

 

 なんでいきなり歌心の話を始めたのかというと、こんなハチャメチャに忙しない音楽性なのにも関わらず、今作にも歌心を感じたからです。身体性が乗っかってるというか。「歌もの」なんですよこのアルバム。テンポ速くて音程の動きもめちゃあって、もう歌うの超難しいと思うんですけど、しっかりと“熱く”歌い上げてるんですよ。決めるとこ決めてる。

 そしてその歌心がより強く現れるのがアルバム後半(#5~#8)だと思う。ということで自分が好きなのもアルバムの後半です。前半は後半と比べれば現代音楽というかプログレッシブみが強い(そこにきっちりと歌を乗っけてるのがすごいんですけど)。

 

 

 

 まとめ。めくるめく展開を見せる楽曲に点描的で小気味いいサウンドが組み合わさって、総じて軽やかさ・忙しなさがすごい。「軽やかで複雑なポップス」という意味では蓮沼執太『メロディーズ』を連想するし、「奔放すぎるメロディー・コードのセンス」からは長谷川白紙を連想した。レコメン系のプログレに並ぶ複雑さを湛えつつも最終的に作品を「歌もの」としてまとめてしまうボーカルパフォーマンスにはアスリート的な強靭さも感じる。例えるなら最高級のフィギュアスケートのようなもので、ひらひらと舞うメロディーとボーカルにただただ魅了される。すごく変わったSSWものの傑作。

 

 

 

 ここからは曲ごとに書きたいことだけ書いていきます。

 

 #1「ムーヴ」楽曲的にも音的にも一番密度が高い曲だと思う。これを作品の頭に持ってくるのはマジでかましてるな~という感じ。ご挨拶です。ボーカルも息をつかせずずっとハイテンションなので非常に圧が強いです。歌というか半分ラップ。というか音優先っぽい歌詞も含めてちょっとしたフリースタイルみたいなものかもしれない。

 

 #2「まま」フレーズを成しているかわからない点の音が点滅する、抽象的で不思議な曲。アニコレの「I Think I Can」のようにこんがらがっている(エンディングのぐるぐる螺旋がいいんです)。音は気持ちいいけどメロディーが気持ちいいかというとぶっちゃけ微妙。圧の強い曲によくわからない曲が続くアルバム序盤が一番ハードル高いです。

 

 #3「ショック」2曲目に続いて不思議な印象の曲。この曲もすごくこんがらがっているけど、同時にかなりドラマチック。終盤(2:03~)の滑り落ちる?かのように上がり下がりを繰り返すところが不思議でイミフだけどすごい良い。なんとなくクラシックのピアノ曲でありそうとか思ってる。

 

#4「外B」メロディーが飛び抜けてキャッチーな小曲。2分ちょいだけど1番2番ブリッジ3番~としっかり展開しきっている(濃密~)。アルバムで一番最初に好きになる曲かも(他の曲がどうしようもなく複雑なので…)

 

#5「この星にされる」作中で一番歌謡曲してる曲。珍しく湿度が高い。2分40秒あたり、空気を変えて、「コース料理の~」の部分の展開がめちゃ好み。

 

#6「くる」最初、なんか幽霊に憑依された人の話かと思ったけど違いました。これ車の歌だ! テーマが分かると感動もひとしお(マジで)。井手健介と母船「ポルターガイスト」しかり鹿乃おかえり」しかりくるり恋人の時計」しかり、人間と人間以外のものの関係を歌った曲が昔から個人的にツボ。

 詞の話はさておき、曲もメロ・サビとはっきりとわかるのでアルバム中では比較的キャッチー。ラスサビ、「(その)滑らかな曲線も 深く沈む声も 鮮やかな肌色も」エモすぎる…。詞とメロディーのハマり具合も最高です。名曲。

 

#7「はなしかたのなか」単純にフレーズの組み合わせ方がポップ。不思議さとポップさ、そして歌心のバランスが一番取れてるかも。好き。

 

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#8「撫で肩の…………」#7の良い要素にさらに半ラップの小気味よさと勢いを加えて最強になった曲。アルバムで一番好きです。スキップするかのように始まった曲がピアノのコードを起点にガラッと空気を変えるところ(0:57~)で鳥肌立つし、そこに再びスキップするかのようなフロウが乗ると良すぎてマジで泣く。「鯉と路頭 トロ 泥 そろそろ 喉」の押韻良すぎて死ぬ。意味はよくわからんけどそれ以上に音が良いからいいんだよ! この曲はマジで「舞ってる」感じする。美しいわ…

 

 アルバム後半…特に#6~#8の流れはマジで良い。前半は攻め気味。良くなるまでかなり聴き込み要るけど、すごい作品だから頑張って聴いてほしい。