Standing On The Corner [Red Burns]とその周辺について

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 ニューヨークを拠点に活動するプロジェクト、あるいはグループであるStanding On The Corner(以下SOTCと表記)のセカンドアルバム(ミックステープ)。2017年にセルフリリースで発表。

 

(ネットで調べて、自分が把握した順に文章を書いているので、流れ的にわかりにくいところがあるかもしれませんが、ご容赦ください。)

 

www.standingonthecorner.com

 グループのホームページ。今作やその前のセルフタイトルのアルバムがダウンロードできます。

 

 

 この作品については、自分の2017年の年間ベスト……の番外編で一度取り上げているのですが、最近またちょくちょく聴いているということと、当時も今もこのグループのことがよく分かっていないので、そこらへんを整理したいなーと思ったことからもう一度取り上げます。

2017年よく聴いた音楽 番外編その2 - ヨーグルトーン

 

 

 

 

 自分がこのグループを知ったのは、Pitchforkでの今作のレビューでした。

pitchfork.com

 評価の高い作品はバンドキャンプやサウンドクラウドで作品をお気に入りしておく…という習慣が自分にはあります。一応今作もバンドキャンプのページがあって、お気に入りはしてあるのですが、基本的には彼らのHPから落としたものをローカルな環境で聴いていました。

 

 

 彼らがPitchforkの誌上で初めて登場したのは2018年の1月のことでした。(たぶん)

pitchfork.com

 上昇中のグループとして特集記事が組まれています。記事のタイトルではグループのことを「Post-Genre Crew」なんて呼んでいたり、記事中最初の文では「ポスト-ジャンルの世界で、スタンディング・オン・ザ・コーナーはポスト-ポスト-ジャンルの音を鳴らしている」(意訳)なんて書いていたりして、もうなにがなにやらといった感じですが、なんとなく新しくて折衷的な音なのかなというイメージが湧きます(まあここら辺は実際に音を聴いた方が早いです)。

 

 

 

 

 与太話はさておき、グループの基本的な情報をまとめたいと思います。

 

 グループの主要なメンバー二人。

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上記のPitchforkの特集記事より引用

 左側の眼鏡でヒゲな方がGio Escobar(現在たぶん23~24歳)。ブルックリン出身でこのグループの創設者。ボーカルとソングライティングを主に担当。15歳の時にYouTubeを使って音楽を掘り始めたという。

 右側の背の高い方がJasper Marsalis(Gioとだいたい同い年)で、Gioが彼にデモ音源を渡したところからグループの活動が始まったらしい。二人はあるパーティーで初めて出会ったそうだが、Marsalis側のGioに対する印象はあんまり良くなかったとか…

 

 

 メインのメンバーはこの二人のようですが、上記の記事や『Red Burns』のダウンロードページにあるように他にもいろんなメンバーがいて、グループというより一種のコミュニティのようなものになっているようです。

 

 より踏み込んだ情報が欲しい方はこちらのThe Faderの記事を読むといいです。

www.thefader.com

 

 

 

 

 

 ここからはこのグループに関連するアーティストについてまとめていきます。小文字でちょっとした作品紹介付き。

 

Slauson Malone

  後述するMedhaneとのユニット、Medslausの作品。

 どうやらJasper Marsalisの別名義らしい。Marsalisの方が本名でしょうか。音源はだいたいこのページから落とせます。たびたび取り上げられているのでTMTでの検索結果のページも貼っておく。

 

 

 

 

Caleb Giles

 STOCのメンバーが全面的に協力していて、サウンド的にも一番SOTCに近い。他の作品と違うのが、ループ感(≒サンプリング感)が少ないこと……なのだけど、これもSOTCの全面的参加で説明できそう。そしてそれゆえに掴みどころがあまりない… 2017年発表の『Tower』はもっとフレッシュな感じです。

  SOTCのサックス担当、兼ラッパー。こちらもまだ弱冠20くらいの年齢。SOTCのメンバーの中でも若い?のかどうかわからないけど、一番SOTCの音に影響されている感じがする。

 

 

 

 

Medhane

 今回紹介する中では一番抑制の効いた作品。ザラザラ感とメロウなフィーリングがちょうどいい。全体で約13分と短めでついついリピートしてしまう。

 メダン?メドヘン? 自分の曲をSlauson Maloneにプロデュースさせたり、Slausonと組んでMedslausなる名義で『Poorboy』という作品を出したりしている。Pitchforkにレビューあり。そこでも言及されているがEarl Sweatshirtが好きならおすすめ。

 

 

 

 

MIKE

 2017年作で、PitchforkでBest New Musicを獲得している。自分は後追いなのであれなんだけど、Earlの『Some Rap Songs』と音楽性がとてもよく似ている。これの、サウンドの密度を上げるとSome~になるような感じ。いやこれ傑作ですね、これを18歳で作ってるとか…。Special Thanksに今回取り上げた面々の名前が出てくる。

pitchfork.com

 2017年にBNMを獲得しているので、ここら辺のメンツの中では一番有名かもしれない。『Red Burns』の製作に参加しています。↑に貼った記事がMIKEの周辺について簡潔にまとめていて、やはりMIKE、Medhane、Standing on the Corner、Adé Hakimあたりのアーティストは密に繋がっているようです。いやAdé Hakimって誰?

 

 

 

 

Adé Hakim  a.k.a. Sixpress

 今回取り上げる中では一番ストレートにメロウで、かつスムースなので初聴時のウケはいいんじゃないか。ストリートというよりはもろにベッドルームの音で、Lo-fi Hip Hopのファンなんかにも受けそう。個人的に近く感じるのは初期のOFWGKTAの作品群。

 Sixpressという名義もある。先述のMIKEのアルバムで中盤の4曲をプロデュース(たぶんそれ以降の作品でも出てくる)。すぐ後のEarlの項でも出てきますが『Some Rap Songs』収録曲「Nowhere2go」の共作・プロデュース……などなど、自分の作品も出していますが裏方としてもとても活躍している模様。この記事によればニューヨークの若いラッパー集団「sLUms」(名前的にとても調べにくかった)のメンバーで、そこにはMIKEも所属しているらしい。

 

 

 ちょっと位置的にアレですがいい記事見つけたので貼っておきます。

pitchfork.com

 『May God Bless Your Hustle』のレビューがアップされた後に組まれたMIKEを紹介する特集記事。ザラザラした音の質感はMF DOOMとKing Kruleからきているらしい。ある日、バンドキャンプに上げていた初期のミックステープをEarlが購入したことに気づいたMIKEは彼にお礼のメッセージを送った。そのことがきっかけで二人は友人関係になったらしいです。友人というか…ぶっちゃけ今や師弟関係と呼べるような感じっぽい。そういうことね…そりゃ音楽性も似るところが出てきますか。

 

 

 

 

Earl Sweatshirt

www.youtube.com

 アルバム中一番ポップな出来では?

 知らなかったけど普通に繋がっているようですね。MIKEはまだしも今まで出てきたメンツがみんな繋がっているらしく、『Some Rap Songs』収録の「Nowhere2go」という曲では「I be with Mike and Med (Mike, Med) Nowadays I be with Sage and with Six-press, ya dig?」なんてラインも出てきます。

(MIKEとMed(hane)、Sage(Sage Elsesser。ライター、プロデューサーとして同アルバムにめっちゃ関わっている)とSix-press)

参考:Nowhere2go – Earl Sweatshirt 【和訳】 – SUBLYRICS

 

 「Ontheway!」という曲ではStanding On The Cornerが直接フィーチャリングされています。個人的にもこのアルバムのキラートラックと思っている曲。他にもアルバムのクレジットでグループの略称である「SOTC」という文字がよく出てきます。特にShamalってメンバーの名前をよく見かける…

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 EarlとGio(https://www.redbullradio.com/shows/earl-sweatshirt/episodes/july-27-2018-stay-insideより)

 

 あとインターネット放送であるRedbull Radioでの「Earl Sweatshirt Stays Inside」というEarlがホストを務める番組で、2017–2018年にかけてSOTCのGio Escobarが一緒にホストを務めていたそうです。そんな繋がりがあったのね…。そしてこの番組の(今のところ)最後の放送ではなんとあのSolangeが出演したという…

www.youtube.com

 

 

 

 

Solange

www.youtube.com

 「ダ、ダ、ダ、ダウン~」っていう人力スクリューみたいな部分がすごく気持ちいいです。

 最近リリースされたソランジュの新作でもSOTCが5曲のプロデュースに関わっているとクレジットにあります(インタールードが多いですが)。

 自分も2017年のベストに挙げたソランジュの、待望の新譜。当然期待して聴いたんですが、すごく移り気というか、楽曲の1番、2番みたいなループが形成される前にそのままするする~っと次に展開していくような感じだったんですね。その感じが改めて考えるとSOTCの作る音楽に似ていて… 『When I Get Home』のこの直感的というか即興的な部分がもしかしたらSOTCやTierra Whackからきてるのかもな~と思ったり思わなかったり…

 

 

 

 

 自分が調べた範囲ではこんな感じでした。一応他にも、同じNYC拠点の集団であるEMC(リンク先合ってるかわからん…)やらDelivery Boysが関わってる…みたいな記述を見かけるのですが、これ以上は自分じゃよくわかりませんでした。

 

 

 

  最後に『Red Burns』についての感想を少し。

 

 

 約1時間の間に36曲もの短い曲が詰まった、ミックステープ的なアルバムです。グループのHPで配布されているものは1ファイル、Bandcampのページでname your priceとなっているものはSide X、Side Yの2ファイルで提供されています(中身は変わりません)。

 

 楽曲はヴァースやコーラスといった一般的な曲の捉え方にあてはまらないようなものが多く、雰囲気のあるメロディーやフレーズがまさしく一期一会というような感じですらすらと流れていきます。インタールード的な楽曲も多く……というかアルバム全体が一つのインタールードみたいな感じです。

 

 Pitchforkのレビューでは"Red Burns is a dazzling sensory experience, a city tour in which each track is like a street sign...and Red Burns seems designed as a sort of multidimensional diagram of New York City, the diverse perspectives it shapes, and the varying journeys inside its city blocks."というふうに書かれていて……要するにニューヨークの街を想起させるようなサウンド・アルバムの構成になっているようです。実際にニューヨークに住んだ経験のある人とそうでない人とでは作品の印象が変わってくるのかもしれません。「Standing On The Corner」という名前の意味の一つは、もしかしたらこのニューヨークの街を眺める視点のことなのかも……

 

 サウンドの中心にあるのはコロコロと表情を変える変調されたボーカル、ビンテージな響きのエレクトリック・ピアノとギターで、これらが酔いの回った頭でフラフラと道を歩いているかのような、ヨレヨレなグルーヴを紡いでいきます。作品全体に通底しているのが弛緩した空気で、気の知れた仲間と(雑多な)街をブラついているかのような気安さがあるのですが、それと同時にいつ何が起こるかわからないような、不安定な感じもあります。

 

 聴きやすいのはSide Xの方で、こちらは比較的メロウな雰囲気で統一されています。休日の朝や昼下がりのようなのんびりした時間帯にも合うように思います。一方Side Yの方は街の大通りから一本路地に入ったかのような感じで、少し猥雑で混沌とした空気が出てきます。

 

 個人的にお気に入りの曲は3:30からの「Sellin Soap」と16:03からの「Get it on!」で、どちらも今作の柔らかい面を凝縮させたような出来になっています。ただでさえとても掴みにくい作品なので、はじめはこれらの曲を目印に聴いていくといいんじゃないかと思います。

 

 

 

 

 

 ソランジュやアールの新作で起用されたことでさらに注目を集めるようなった彼らですが、今後もその動向に注目していきたいと思います。実際、ここまで弛緩した、ふにゃふにゃなフィーリングを出せるのはすごいと思う。また、彼らとその周辺、みんなめちゃくちゃ若いのヤバすぎますね。