Stereolab [Emperor Tomato Ketchup]


 ステレオラブの5枚目のアルバム。1996年発表。

Stereolab: "Emperor Tomato Ketchup" (1996) | Lomophy
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 ステレオラブディスコグラフィー上で一番有名な作品でしょうか。90年代のロック名盤として取り上げられているのをよく見かけますし、またこの時代のシカゴのロックシーンにおける重要人物であるJohn McEntireがプロデューサーとして参加しているということも、今作の知名度を上げている要因の一つかもしれません。(今作ではなく次作に対する記事ですが、参考になるのでこれも貼っておきます:Dots And Loops ★★★★ - ghostlawns

 以前取り上げたときにちらっと書きましたが、ステレオラブについてはYoutubeでいくつか曲を聴いてみて、(このグループは絶対気に入る!)という強い確信の元にアルバムを一気に何枚も注文したんですね。でほとんどの作品はその予感通りすぐに気に入ったんですけど、この作品についてはなかなか消化できず…消化というか、まず最後まで聴き通すことがなぜかできなかったんです。律儀に頭から何度も挑戦したんですけど、毎度4曲目までも至らずに他の作品に移ってしまう。。

 ですが、何度目かも知れないチャレンジで今作の4曲目までたどり着いたとき、そこからスラ〜っと最後まで聴き通せてしまったんです。



(ここからちょっとアレな記述が続くので注意)



 ストレーーートに書いてしまえば、今作の冒頭3曲がどうにも自分が苦手とするタイプの曲だったというだけのことなんですけど……いや、ちょっと言い訳させてください。1曲目はまだいいんですよ。アルバムのオープニングトラックということで、テンポゆっくり目で音数も少なく始まって、徐々にテンションを上げていく。これからなにか始まるぞ!という予感たっぷりな、迫力のあるトラックです。まあ役割としては次曲、あるいはアルバム全体に対するタメですよね。その意図は伝わりますし成功もしていると思います。
 そして続く2曲目なんですけど、これが自分に合わなかったんですよ。。 いやまあ合わないというか、とにかく退屈に聴こえるんですね。退屈というと聞こえが悪いので「シンプル」とでもいいましょうか。このアルバム中一番わかりやすい曲です。音楽やってる人なら数回聴くだけでコピーできるんじゃないでしょうか。しかしこれもなんとなく意図は察せるんです。NirvanaNevermindにおける「Smells Like Teen Spirit」にあたる曲だと思うんですこれ。凝ったことはしないけどみんながノれる、というよりはノれない人がいないように凝っている。いわゆるアンセムだと思います。もしかしたらなんかのテーマソングだったりするのでしょうか。

2曲目の「Cybele's Reverie」

 で、まあここまでは好みではないながらも意図はなんとなく伝わるし、積極的ではないにせよアリだなあと思うんです。ですが次の3曲目が… また、なんというか"タメる"系の曲なんですよね。1曲目の親戚とでもいいましょうか。ここでもう、うううう〜ってなって他の作品を聴き始めちゃうんですよ。これ以上の抑圧はもう耐えらんない!と言って。いやこれはもう完全に個人の感性によるのであれなんですけども。。 ぼく個人の話をすると、今作の1・3曲目のようにほとんど展開のない曲ってわりと苦痛なんですよ。それでもそういう曲を聴くとしたら、その次の曲でばーんと解放されることが分かっている場合ですね。解放があるからこそタメが映えるんです。わかりやすい例を挙げるとするなら、アンダーワールドのボーンスリッピーとかですね。

 この曲はタメと解放(なんかもっとちゃんとした呼び方とかあるのだろうか)を上手く使った曲のなかでも珠玉の一曲だと思います。これは一曲の中でタメて解放していますね。この曲以外にもアンダーワールドは同じスタイルの良曲をいっぱい作っているので、興味があったら聴いてみるといいと思います。最近の曲は聴けていないのでわかりませんが。





 ここまでうだうだ書いてきましたが、とにかく、自分にとっては今作のあたま3曲がどうしても退屈に聴こえてしまう、ということでした。2曲目でうまくハマれればまた違ったのかもしれませんが。。 しかし、今作についての評判を見ると、この2曲目、または3曲目がかなり人気っぽいんですよね。いや、まあこれに関しては完全に好みの話なのでなんともいえないんですけど… うーん、ちょっと外国人による感想も見てみたいですね。日本人の感想ばかり見てたので。
 でも個人的には、1曲目であれだけ溜めたのなら、続いて7曲目「The Noise Of Carpet」みたいな切れ味するどい快速ロックチューンを持ってきたりしてみてもよいのでは、とか思ってしまいますね。まあそうすると実際の2曲目の「Cybele's Reverie」の行き場所がなくなるんですけど…





 話を戻して、今作の真骨頂は4曲目以降だと思うんです。これ以降に、今までを補って(自分の場合です)余りあるほどの魅力が詰まっています。
 といっても、ドリームポップをガレージで演奏してみたかのような、根っこにある音楽性は今までと変わりありません。楽曲は相変わらずのヴェルヴェッツ直系の伝統的なものですし、全体を通して雰囲気があまり変わらないのも今まで通りです。今作が以前までと比べて進化している点はそのサウンドにあります。

 全体にサウンドが少し軽くパーカッシブになり、またリズムが豊かになったように思います。ここら辺はジョンマケ(こんな呼び方します?)の貢献なのでしょうか。今までで一番有機的なグルーヴが生み出されていると思います。
 8曲目「Tomorrow Is Already Here」なんかはこの変化がよく感じられる曲だと思います。…が動画がなかったので別の曲をペタリ。

 個人的に前作から今作へのこの変化はCANのTago Mago〜Ege Bamiyasi、あるいはEge Bamiyasi〜Future Daysの間の変化と被って映ります。より軽やかに、より陶酔的に… 重い部分は捨てて、上澄みの気持ちいい部分だけ抽出したような。今までで一番風通しがよく、またそれゆえにリピート率も高いです。



 アルバムの構成としては、1〜3までを前半、4〜10を中盤、11〜13を後半、という風に分けることができるかと思います。個人的なイメージでは1〜3で嫌々ながらも家を出発、4〜10で高速に乗ってなんだかんだノリノリに、11〜13で高速を降りて目的地到着――という感じです(これもまた勝手なイメージですが、ヨ・ラ・テンゴは夜のドライブミュージックに、初期のステレオラブは昼のドライブミュージックに最適だと思っています)。
 10曲目で思いっきり雰囲気変わるのですが、続く11曲目が終わりの始まり、というイメージですね。というのも、11曲目冒頭のシンセ(オルガン?)の音が、13曲目の終わりにもう一度流れるからです。まあそんな明確な意図があるかわかりませんが。
 それにしても中盤7曲の流れは完璧ですね。何度聴いたかわかりません。





 あらためて俯瞰で見てみると2曲目が一番冒険してるようにも思えてきますね。今までのアルバム――特に直近の2枚はある意味、金太郎飴的な魅力があって、一曲気に入ればもうアルバム全体がいい!というようなところがありましたが、それらに比べれば2曲目「Cybele's Reverie」があるぶん今作の方がバラエティ豊かと言えるでしょうか。実際この2曲目を足掛かりにして今作に馴染んでいくという人も多いようです。
 正直今でも2曲目だけはアプローチの仕方が他と違うよなーと思っています(もしかしたら12曲目もですかね)が、それ以外の部分については一つも文句はありません。特にサウンドの気持ちよさについては90年代における最高峰のものだと思っています。クラウトロックのお洒落で軽やかなバリエーションとしてぜひとも押さえておいてもらいたい一枚です。



9.2