Steve Mason [Meet The Humans]


 スコットランド出身のミュージシャン、スティーブ・メイソンの3rdアルバム。2016年発表。
 毎回、年末から年明けにかけては個人も含め各メディアのベストアルバム記事を読み漁って、自分が見逃したその年の優れた作品を探し回るのが通例となっていますが(音楽ファンだけなのでは?)、この作品も自分が見逃していた2016年の傑作の一つです。
 リリースは2016年の2月26日、名門のDomino傘下のDouble Six Recordingsより。聴いたきっかけはワルシャワさんの年末ベスト記事でした。

 スティーブ・メイソンといえば90年代に超がつく名作を残したThe Beta Bandの元フロント・マンですね。といってもあまり話を見かけないので日本ではそこまで有名ではないかもしれません。それでもあの辛口で知られるピッチフォークの90年代の100枚に選ばれている、と聞けば反応する方もいるのではないでしょうか。

Top 100 Albums of the 1990s | Pitchfork
The Beta Band: "The Three EPs" (1999) | Lomophy ←名訳です。こちらぜひ読んでください。以下、引用。

意図的にチャレンジしたアルバムにさえ滅多に存在しないような音楽的なまとまりが、『The Three EPs』では全く意図せずして成し遂げられている。

 いや、かっこいいですね…。これでめちゃくちゃハードル上がっちゃうかもしれませんが、実際にいくら褒めても足りないくらいの傑作なので心配しなくても大丈夫です。
 もし彼らのことを全く知らなかった、という人がいたら、このThe Three EPsから入るのもオススメです。とりあえず一曲貼っておきますね。

 いや〜いいですねえ。テンポはゆっくり目ながらもベースなどリズム隊がしっかりしていていつまでも聴いていたくなります。そんなあからさまに作り込んでるという印象はないんですけど、最後まで聴くと(これで完璧なんだな…)と謎の感動に包まれます。
 音楽性は、ぼくの言葉だと「ピンク・フロイド meets ヒップホップ」なんて表現になりますね。フロイドと言っても「原子心母」〜「おせっかい」の頃のかなりフォークに寄った時期のフロイドですが。自分の一番好きな時期のフロイドですね。

 …たぶん、バンドとしての代表曲は「Dry The Rain」になると思うんですけど、この牧歌的な曲が好きすぎたのでこちらを載っけました。「Dry The Rain」も神曲なので、こちらもぜひ音源を入手して聴いてみてください。



 The Beta Bandがかなり好きだったので、解散した今でも年に数回は主要メンバーから音源が出てないかチェックしていまして、今作(「Meet The Humans」)の情報も一応キャッチはしていたんですけど、あまりにメディアからスルーされていたので自分もスルーしてしまっていました。前作はけっこう取り上げられていたんですけどね、ピッチでも高評価でしたし。周りに流されずにしっかりと自分の基準で作品を選び、今作を取り上げたワルシャワさんには感謝しています。



 さて今作についてですが、とりあえず一曲お聴きください。この曲を聴けば今作のサウンドがだいたい掴めるんじゃないかなあ、と。

 The Beta Band時代からのトレードマークであったアコースティック・ギターとヒップホップゆずりのいつまでも聴いていたくなるグルーヴはそのままに、今までよりもなんとなくサウンドが優しくなっているように感じます。これはエコーでしょうか、どことなく音の輪郭がぼやけているような印象がアルバム全体にあって、これによってどこかより広い場所で音楽が鳴っているかのような感覚を覚えます。The Beta Band時代の開放的で風通しのよいサウンドがよりスケール感を増し、そこにさらに少しドリーミーな響きが加わった、というような感じです。で、そのサウンドがまた彼のジェントルな歌声にマッチしているんですな〜。聴いているとゆっくりと心が解きほぐされていくような感じがします…。

 そのサウンドの気持ちよさ・スケールの大きさからはRadioheadの「OK Computer」なんかを連想しますし(「Subterranean Homesick Alien」(めっちゃ好きなんですよこの曲…)とか「No Surprises」とか、あの辺です)、いつもよりポジティブで優し気なところからはDeerhunterの「Fading Frontier」なんかも連想してしまいますね。

 この曲は全編に渡ってアコギの響きが気持ちいい、アルバムのリード・トラックです。先ほどの曲よりもノリがよく、アルバム中最もロックな曲となっています。前述の「Fading Frontier」で言えば「Snakeskin」にあたる曲ですかね。ひと昔前のゲームを想像させるPVも味があります。2D好きなんですよ自分。



 ここまでサウンドについて語ってきましたが、ワルシャワさんも言っているようにこの作品、曲がどれもいいんですよね。そういう意味では昨年のCass McCombsやParquet Courts、Steve Gunnらの作品と一緒に語ってもいいように思います。…まあどれもワルシャワさんのリストで取り上げられてるんですけどね。



 リリースからほぼ一年後と、聴くのがかなり遅くなってしまいました。実際今作を聴いていいな〜と思ったのが一月のはじめ頃で、今年最初のお気に入り曲まとめ記事にもあるように自分的には2017年最初のbest new musicでした。記事として取り上げるのもこんな時期になってしまい、サボってるなー作品に申し訳ないなーなんて思ってしまうわけですが、改めて考えると今作の開放的なサウンドが一番映える季節ってちょうど今頃かもなあ、とも思います。爽やかで柔らかなサウンドを求めている人は一度聴いてみてください。



8.4