d'Eon [LP]


 最近新作をリリースしたディオンの2012年作。Hippos In Tanksより。


D'Eon - LP  | ディオン、グライムス | ele-king

 d'Eonって検索するとChevalier d'Eonばかり出てくる。こっちについては最近やってるfgoで出てきてたなあくらいでぜんぜん知らないんだけど、今回取り上げるd'Eonについてもそれと同じくらいぼくは情報を持っていない。
 上に貼った優れたレビューとか、他にもこれだとかでグライムスといっしょになんかやってた人だな〜ってのは覚えてたけど、それだけ。そもそもグライムス自体まともに聴いていない。でもこの前、気まぐれで彼の作品を聴いてからはけっこうな回数リピートしている。



 音楽性を一言で表すならアンビエントR&Bって感じだろうか(アンビエントというには表現がエクストリームだと思うけど)。自分的にはR&Bって結構ハードル高くて、あんまり聴かないし気に入ることも珍しいんだけど、今回この作品を気に入った、というよりは馴染むことができたのには理由があって、それは多分自分がシンセの音を好きになってきたからだと思う。
 OPNのRiftsなんかほぼノンビートだしわかりやすいと思うけど、今作も基本的にはあんな感じのソフトな音使いで統一されている。昔の自分ならこういうサウンドは見向きもしなかっただろうけど、今の耳で聴くとこれがとても心地よく響く。


 アンビエント〜なんて書いたけれども、それは作品の表面部分だけの印象であって、少しまじめに聴くとこれが異様なエネルギーが込められた作品ということがわかる。自分の経験から一番雰囲気が近い作品を上げるとするならば、Sufjan Stevensの[The Age Of Adz]になるかな。躁状態というか… ただ全部マシマシな感じのあちらよりもアルバム全体としては整っている印象。…なんだけど、それでもあちこちからヤバげな雰囲気が漏れ出ていて(漏れるというかそもそも抑えようとはしてないんだけど)、ガチ感としてはこっちの方に軍配があがる。自分でも何書いてるかよくわからなくなってきたけど、とにかくすんごい力の籠った作品ってことです。



 で、力作にありがち(特にヒップホップ界隈)なこととして、インタールードが多いってのがあると思うんだけど、今作についてもそれが当てはまる。全体の半分くらいは歌のない、メディテーショナルかつサイケデリックなトラックとなっている。時間的にもかなり長いのでアレな感じと思いきや、作品全体で音色やテンションがわりと一定なおかげですいすい流れていく。


 上のレビューで橋元優歩が

シンセがさまざまに紡ぎ出す音は、いずれもわずかな試聴では気持ちよさげで白昼夢的、スムースですらあるかもしれない。だがこれを心地よく流しっぱなしにするなどとは、筆者には考えられないことだ。

 というふうに書いている。実際その感覚はすごくよくわかる。例えばジョジョプッチ神父に対する印象みたいな、「畏れ」といったような感覚。とか言いつつぼくはそれこそBGM的に流しっぱにしているんだけど、でもこういう雑な聴き方もありなんじゃないかと思う。だって真面目に聴いたらそれこそ気が狂いそうな…




 とにもかくにも、大変な力の籠った作品です。ナチュラルに、真面目に狂っている感じがします。そのわりにはとても聴きやすいので、OPNとか、シンセの音が好きな人は一度試してみてほしいです。個人的にはもうちょい、歌を増やしてほしいですけど、代わりにここに収められている歌ありの曲はどれも名曲です。メディアの評価はいまいちかもしれませんけど、今リイシューとかされたらそれも変わるんじゃないかなと思います。



8.6