Deerhunter [Fluorescent Grey]

 アメリカのロックバンド、Deerhunterが2007年に出したEP。

 もはや洋楽インディーファンには知らない人はいないだろうというレベルの存在になっていますけど、アルバムはまだしもEPまでは手が回ってないという人もいるのではないかと思って書く。どうでもいいけどDeerhunterとDeerhoof、アーティスト名順で並べるといつも一緒に出てくるのでちょっと微笑ましい。

 このEPは彼らのセカンド「Cryptograms」の数か月後にリリースされていて、PitchforkではCryptogramsに続いてとても高く評価されている(http://pitchfork.com/reviews/albums/10082-fluorescent-grey-ep/)。内容の方はというと、Cryptogramsがはち切れんばかりのエネルギーと緊張感を湛えた、暴力的なまでに快楽的なクラウトロックだった(といってもアルバム前半と後半でけっこう印象違うのだけども)のに対し、こちらは比較的穏やかな、しかしより陶酔的なものになっている。

 今作で自分が一番気を惹かれる部分は、なによりもその奇妙で心地いい音だ。いや曲もいいんだけど、そんなの彼らの作品全部に言えるし、まあとにかく今作で際立っているのはその音作りだと思う。
 例えばタイトルトラック「Fluorescent Grey」における(patiently, patiently)というボーカル。もしこの世に悪魔がいたらこんな声なんじゃないかなーと思うような、そんな不思議な声。まあボーカルについてはブラッドフォード自身の天性のものもあるだろうけど(セカンド収録の「Spring Hall Convert」とか神がかってますよ)、それの録り方・重ね方にはバンド側の工夫が確実にある。

 他に一番わかりやすい、というか目を(耳を)惹くのは、#2「Dr. Glass」の最初から最後まで流れ続ける、加工された「アー」という声。ふつうならシンセあたりの役割になるんだろうけど、そこをこういう変わった音を使うことで、なんかもう、その、最高なんすよ…。めちゃくちゃハマっていて、とにかく印象に残る。このEPと聞いて真っ先に浮かぶのがFluorescent Greyのピアノだかギターのすごくシンプルなアルペジオか、この「アー」って音だもん。



 うん、やっぱり自分が一番気に入っているのはこの"音"の部分ですね。新しくて、気持ちいい音。

 「ポップ」にとって必要不可欠なものとして「新しさ」があると自分は思っていて。例えば聴いたことのないような展開、流れとか。でその方面に力を入れてるのがいわゆる(S)SWっていう認識で。
 今の例は曲方面についての話で、また当然だけど「音」についてもそれがあてはまる。
 今まで聴いたことのないような音、あるいは聴いたことはあるけど今までにない使われ方だとか。そういうのがあるとどうも「ポップだ」と感じてしまうようで(自分の場合)。

 少し前だと、例えばOPNの「Replica」だとか、PC Music周辺だとかは当時の自分にとってものすごく「ポップ」だった(OPNのすごさの一つは新しい音を作り「続けて」いるところなんすよ)。でこの「ポップ」を一番完璧に表現した作品がデヴィッド・ボウイの「Low」なんだよな〜〜〜という話はひとまず置いておいて。Deerhunterの魅力の一つはその「音に対する探究心」なんだよな、という話でした。

 彼らの作品の中で今作が特に優れているというわけではなくて、他の作品でも同等以上の冒険をしてるんですけど、ただ今作の音が一番ファニーでポップなように思います。聴き逃してる人がいたら要チェックですよ。



8.9