░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ [▣世界から解放され▣]


(アートワークがもう……)
 Internet Clubの人(一番有名な名義がこれだと思うので、とりあえず…)の、░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░名義での作品。2012年にセルフ・リリースされた。



参考リンク:
▣世界から解放され▣ | INTERNET CLUB
 ↑バンドキャンプのページ。一応値段が設定してあるけどこれはアーティスト支援用のもので、ページのそこかしこに書いてあるように、音源データはネットのあちらこちらに転がっています。
░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ - ▣世界から解放され▣ | ただたん
DIES IRAE:░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ [▣世界から解放され▣]




 日本の昔のテレビCMやその他よくわからん音源をサンプリングし、ピッチを上げたり下げたりして繋ぎ合わせるというヴェイパーウェイヴ伝統の手法で作られた作品。今作は伝統を築いた側の作品だけど…



 今作で特徴的なのは音の質感で、まったく具体的でない表現で申し訳ないのだけど、精彩を欠いた、感情のない、まるで人類がいなくなった後の街から流れてきているかのような空虚な音色が全編を支配している。



『prism genesis


 同じような手法で同時期に作られたVektroidのFuji Grid TV名義の作品『prism genesis』と比べると雰囲気が全然異なることが分かると思う(あちらの方がずっとポップでキャッチーなのだ)。ポイントはおそらく音源の加工の仕方で、Fuji Grid TVの方は(░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░に比べて)そこまで音に手を入れてないんじゃないか。これはネガティブな意味ではなく、元の音源の良さをうまく活かしているということです。

 そもそもCMって大衆に広めていくことが目的なので、音的には一度聞いただけで頭から離れなくなるようなキャッチーなものが多いはずで。それを素材にしたならばよほど変なことをしない限りは―――つまり素材の良さ(キャッチーさ)をわざと損ねるような真似をしなければ、できる作品も自然とキャッチーなものになるんじゃないかと思う。

 しかし、実際に『▣世界から解放され▣』を聴いてみると…… これがもう全然ポップでもキャッチーでもなくて困惑してしまう。繰り返しで構築された曲(と呼んでいいのか?)自体もそうなんだけど、なにより音が死んでいる。元の音源にはあったであろう鮮やかな響きはすべて失われ色褪せてしまっている。ノイズという名のウイルスに侵されたゾンビみたいな音…… でもゾンビは一応活動するからな、もっと無機的で空虚な……





 おもしろいのはこの死んだ音色が聴いているとだんだん心地よく感じられるようになることで……いや音自体は気持ちよくないかな、なんだろう…… 言葉にしにくいのだけど、なんというか半分くらい環境音のような感じで自分はこの作品を受容していて…。その、目的もなくただそこに存在しているだけ、みたいな音の在り方が、例えば寂しいからなんとなく点けてるだけのお茶の間のテレビみたいな感じで、非常に微弱なレベルではあるのだけれど、聴き手の気持ちを紛らわせてくれる。



 自分が似たような印象を感じるものとしてはThe Caretakerの音楽がある(特に00年代までのもの)。彼の音楽にも空虚で不気味な感覚があるのだけど、部屋で流していると不思議と穏やかな心持ちになってくる。(参考:The Caretaker ──ザ・ケアテイカーが新作、並びに故マーク・フィッシャーへ捧げられたアルバムの再発盤をリリース | ele-king アーティストの概要・経歴が書いてあります。)


 99年の一作目『Selected Memories From The Haunted Ballroom』より「Dream Waltz」。

 そもそもサウンドの元々のコンセプトが「the Haunted Ballroom」=おばけの舞踏会場なので、そのサウンドが空虚な響きを持つのも道理という感じがする。改めて考えると製作の手法にも似たようなところがあるかもしれない。The Caretakerがサンプリング元を大昔のSP盤ではなく、日本のお茶の間で流れるテレビ放送にしたとしたら……



 もうひとつ似たような空気を感じるものがあって、それが昔のゲームのバグプレイ動画。音量を下げ、コメントを消してずっと流しているとだんだん「そういう感じ」になってくる。


 ニコニコ動画より『バグプレイであそぼう! その17』 1:45あたりからのファミコン時代のものの方が「そういう感じ」がある。

 サンプリング元を昔のテレビCMから昔のゲームに変えたようなもので、本質的には似たところがあると思う。つべにも動画が上がっているが(おそらく製作者とは別の人の手による)、そちらではコメントを消すことができないので注意。





 「プロミセス「▣世界から解放され▣」」


 作品を掴みやすくするためにアルバム(?)の流れについて一応書いておく。参考として貼ったリンク先でも触れられているけれど、前半部分は比較的ポップな味わいがあり、特に#3「✭✰✭PRIMETIME今日のプログラミングLATENIGHT✭✰✭」(なんやねんこの名前は…)はアルバム中唯一のポップソングとでも呼べそうな出来。後半はアンビエント色を強めていき……アンビエント色というかむしろ虚無感ですけど……それはタイトルトラックでもある#9「プロミセス「▣世界から解放され▣」」でピークを迎える。個人的には#2〜#3、#7〜#9の流れがポップとアンビエントのそれぞれの面におけるハイライトだと思う。





 ポピュラー音楽におけるダウナーな要素を突き詰めていった結果、虚無にたどり着いた作品。……いや実際にそういう意識で作っていたのかは分からず、自分が勝手に感じているだけですが。本当の虚無ってたぶん無音だと思いますが、実際に存在している音でここまで虚無感を出せるのもすごいなと思う。
 そして本作は聴き手に穏やかな気持ちと虚無感はわりと近い存在だということを教えてくれる。個人的に本作はアンビエント・ミュージック、あるいはサイケデリック・ミュージックの極北だと思っている。



8.3





追記:さっきツイッター眺めてたらこんなん流れてきた。

 タイムリー! やっぱこの曲はポップですよね。というか捨てアカ氏本当にホースリールだったの…?