Papers, Please(2013)感想・評価

 間違い探し~ポイント&クリック出入国管理アドベンチャー

 

 

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評価:8 /10

プレイ時間:7時間(エンディング:BAD数個以外は19のみ)

 

 Vがけっこうやっているということだけ認知していて、だからなんとなく気軽なゲームなのかなと思ってたけど実際やってみたらかなりハードなゲーム性で、初日のプレイは14日目くらいで挫折。一度寝てメンタルを回復し翌朝にリベンジ。とはいえ心は折れていたのでもうネットの攻略情報を解禁し、革命エンドっぽいエンディング19のみを目指してプレイ。到達して即終了。

 

 一番のベースとなるゲームプレイ……入国審査の仕事が個人的にかなり辛く、その点で嫌だけど、同時に価値があると思わせるゲームだった。

 

 単純にゲームとして難しい。発言や書類の整合を確認する、視覚+論理な間違い探しゲーは非常に神経を使う。基本的にリアル寄りなので、完璧にこなしたところでおめでとう!みたいな爽快な演出はなく、業務時間が終わるまで延々と入国審査をこなすことになる。ただ淡々と。いや現実の仕事すぎる(せめて昼休憩くれ)。

 そしてゲームバランスもかなりシビア。主人公はゲーム内で文字通り生活を送っている。その日に審査した人数分だけ日当がもらえるのだけど、それらは家賃や生活費で容赦なく削られていく。家賃が払えなくなったり扶養している家族たちを死なせるとゲームオーバーで……バランスがシビアというのはこの収入と支出のバランスのことで、少しでも仕事を怠けたり(収入が減ったり)散財したり(支出が増えたり)すると簡単にゲームオーバーになる。一応オプションでイージーモードもあって、それは毎日追加で20クレジットがもらえるというもので、まさにこのバランスを緩和するものとなっている。

 

 この難易度のバランスは実際に体験しないと伝わらないと思うのだけど、個人的にはかなり厳しいもので、自分の能力では常に本気で入国審査の仕事に向き合う必要があった。前述の(せめて昼休憩くれ)も冗談めかしてはいるが内心では本気だ。それくらい入国審査の仕事は過酷で消耗する。

 単純な仕事の難しさに加えてお金関係のプレッシャーもある。常に自転車操業のためできるだけお金を稼ぎたいのだ。しかし時間は限られている。自分にできることはただ業務に習熟して時間あたりにこなす審査の数を増やすことだけ。しかし焦りすぎてもいけない。一定回数審査をミスると罰金があるのだ。シビアなゲームバランスがプレイヤーにスピードと正確さを要求する。

 その上で、世界の情勢はドラスティックに変化していく。それに合わせて一日単位で審査の内容も変わっていくのだ。あの国で病が流行っている→そこの出身者は一時的に入国禁止ね→ワクチン打ってたら入国していいよ、それを証明する書類持ってきてね……という具合に。書類が増えれば確認する箇所も増える。はじめは数か所確認すればよかった仕事が、最終的には十以上もの箇所を確認しなくてはいけなくなる。ふざけるな、いい加減にしろ、こんな仕事やってられねえ~。自分はマジでそう思いながらプレイしていました。業務内容何倍にも複雑になってるんだから給与上げろや! それでもクリアのためには……とリアルの体力をすり減らしながらプレイしていたんです。

 

 そんなふうに世界の過酷さに蝕まれていくと……だんだんと自分の精神が変容していくんですよね。革命運動に対する印象が変わったり、賄賂が本当にありがたく思えてくるんですよ。上で「一定回数審査をミスると罰金」と書きましたが、それは言い換えれば「一定回数までは罰金なしでどんな人物も入国させられる」ということで…。それを活かせば賄賂の分をそのまま収入にすることもできるんです(不正があるから賄賂を渡してくるわけで、またシステム上不正は絶対に感知されるので、賄賂マンを通すということは1ミスするということと同義です)。

 もちろん、ここらへんの塩梅は各々の倫理観というかゲームプレイにかかっているのですが、自分は普通に生活苦しかったし仕事で精神が磨り減りなにもかも嫌になってたので、(先払いのものに限って)賄賂は受け取ってましたし、隠れて革命運動の手助けもしていました。娘を殺されて復讐の鬼みたいになった人も審査通した。みんながやりたいことがやれればいいと思って。

 

 ……とまあ、こんな感じのゲームです。こうやって文章に落とし込んで改めて振り返ると少しゾッとしますね。個人的にはゲームというよりはシミュレーターであり(なにせプレイヤーの快楽を一顧だにしないのだ)、遊びというよりは体験でした。これが実際の入管の仕事にどれだけ近いのか/共産主義社会主義国家にどれだけ近いのか、というのは自分では判断できないのですが、「現実の過酷さを前に自分の精神・価値観が歪めさせられていく」という体験ができることだけでも作品として一定の評価ができると思います。いやこんな体験したくないけども。

 そんな体験を生み出しているのがシビアなゲームバランスとあらゆる面でのリアル志向で。神は細部に宿るというか、そういう細かな作り込みもすごいけど、もちろん全ての土台となっている、ミニマルに完成されたゲームデザインもすごいと思います。すべてを一つの画面に収める潔さ、美しさ。とはいえ3つの視点が組み込まれているので情報量としては非常に濃密なのですが。というか今Steamストアページ確認したんですけど、公式では「A Dystopian Document Thriller」と説明されているんですね。うん、そうだわ…。

 

 ということで、気持ちよくはない!のだけど、とにかくユニークなデザインのゲームで、もたらされる体験もとても独特なものなっています。そのことだけでも8点以上は固いでしょう。人によってはもっと高評価なこともあるかと思いますが、自分はマジで入管の作業が嫌になったので8点です。プレイに対して報酬が少なすぎて根本的に楽しくない(=仕事の再現としてはよくできている)。長時間プレイしてるとだんだん呼吸が浅くなってきて、否応なく体力の消耗を自覚させられる。

 

 実況プレイの普及した現代ではまた新たな魅力が発掘されつつある作品とも思います。「間違い探し」というゲームデザインが視聴者の間接的なゲームプレイを可能にしているのですね。目さえあれば(100%とはいかないまでもある程度)楽しめるので、プレイヤーだけでなくそれを見ている人もゲームに参加できるという。これがYouTuber/VTuber界隈に本作が愛される理由なんだと思います。そういう意味では少し前に軽い感想を書いた(『I'm on Observation Duty』~)『8番出口』にまで繋がる線を見て取ることもできると思います。

 

 あと直近でプレイした『Please, Don't Touch Anything』にもデザイン的な繋がりがありました。そっちに本作のオマージュみたいなのがあって(スペシャルサンクスにもLucas Popeの名前が出てくるし)、それがあったからこそ続けて本作をプレイした部分もあるんですけど。しかし『Please~』の開発元はロシアのFour Quartersなので、そこにまで本作がちゃんと届いていたことは感慨深いですね。今や現実がゲームを追い抜いちゃってますが…。