「Diggin’ In The VIDEO GAME MUSIC」トーク内容まとめ その1

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http://www.dommune.com/reserve/2019/0702/

 7月2日にDOMMUNEで行われたele-king books Presents『ゲーム音楽ディスクガイドーDiggin' In The Discs』刊行記念特番「Diggin’ In The VIDEO GAME MUSIC」内でのトークで語られた内容を個人的にまとめてみました。

 

 

はじめに

 

 去る5月31日にele-king booksから『ゲーム音楽ディスクガイドーDiggin' In The Discs』が刊行されました。くわしくは以下。

www.ele-king.net

 

 ゲーム関連の音楽作品を950枚!選出し、充実のレビューと共にまとめあげたすごい本です。自分は6月のはじめに本書を入手してからちょくちょくチェックさせてもらっているんですが… なにがすごいって取り上げている作品数や領域の広さもそうなんですけど、一本一本のレビューが愛を感じさせつつもものすごく高品質なんですね(一例)。作品自体の音楽性はもちろん、パーソネル・作曲家の情報や製作当時の状況など、「掘り」に使える情報が端的に、かつ高密度でまとまっているんですね(実際に本書をパラパラと眺めてもらうと、その情報の詰め込み具合がわかると思います)。個人的にはここに収められた文章にはレビューのお手本みたいな印象を持っていて、そういう意味でも非常におすすめな一冊なのですが…

 

 このゲーム音楽ディスクガイドの刊行を記念した特番が、7月2日にDommuneで放送されました。自分は自宅で個人的に録画しつつ番組を楽しんでいたのですが、番組内でのトークの内容が非常に興味深かったため、ブログの方で少しまとめることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

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 番組の様子。人物左から井上、Alixkun、hally、フクタケ。(敬称略)

 

番組出演人物:田中 “hally” 治久、Alixkun(from France)、DJフクタケ(FARDRAUT PROJECT)、井上尚昭 (電子遊戯音盤堂) そして選曲で糸田屯。Dommune側として宇川直宏

ツイッターアカウントはこちらにまとめておきました

 

(Alixkun、どなたか知らないまま番組を見たので、音から名前を勝手に「アリックス(くん)」と思い込んでいたのですが、調べてみたら違いました。というか、日本産ハウス・ミュージック再評価の流れを作っている張本人で、すごいお方でした。)

www.ele-king.net

 

 以下、時系列順に気になったトピックをまとめていきます…。

 

 

 

・90年代終わり~00年代初頭あたりのインターネット黎明期に 、ゲーム音楽のレビューをネット上にアップしている人がけっこういたらしい。井上さんはその一人。当時は音楽をゲームの内容に絡めて語る論調が多数派だったらしいが、その中で井上さんは純粋に音楽のみについての文章を書いていたそう。ディスクガイド監修のhally氏には彼の文章が刺激的に映ったらしい。そしてそのスタンスは今回のガイドにも受け継がれている。

 

ゲーム音楽を紹介する商業の書籍は日本でまだ10冊出ていないくらいであり、しかもそのほとんどが↑でも書いたような、音楽をゲームの内容と絡めて語るタイプだったらしい。そうではなく純粋にゲーム「音楽」について語ろうと思って作った本が今回のディスクガイドとのこと。

参考:hally氏のブログ記事

vorcuration.blogspot.com

 

 

・hally氏には時期的にもそういう需要(純粋に音楽面にフォーカスしたゲーム音楽批評の需要)が高まってきているのではないかという思いがあったそうで、そう思い始めたきっかけとなったものとして2014年に公開された、日本のゲーム音楽の歴史と魅力を探るドキュメンタリー・シリーズ『DIGGIN' IN THE CARTS』を挙げている。

 

www.redbullmusicacademy.jp

 

・この番組のヒットによって、ゲーム音楽をゲームのメディアだけではなく、音楽メディアも注目し始める、というような状況が生まれてきた。(井上「外国の人にこれ作られたらやることないっすよねえ…」 フクタケ「自分たちの中から生まれてきた文化のはずなのに、もう、こう世界中のものになっているという、嬉しさ半分悔しさ半分」)

 

・Alixkunによると、日本の文化(主にアニメ・ゲーム)に影響を受けて育った世代が、大人になって安定して創作に打ち込めるような年齢になったのがちょうどDIGGIN'~の発表された2014年あたりなのではないか、とのこと。

 

 

 

・また一般論として、自国の文化の良さに自国民は気づきにくいのかも?という話題が持ち上がった。Alixkunの母国フランスでは「フレンチタッチ」と呼ばれる独特なスタイルのハウス・ミュージックが有名だが、これが盛り上がったのもUK・アメリカから発見されたことがきっかけだったらしい(それまではこのスタイルがオリジナルなものという認識もなかったとか)。

参考:https://www.redbull.com/jp-ja/it-happened-here-the-rise-of-french-touch

 

・外国からの発見・評価されたものとしてYMOに話が繋がる。(自分がYMOに疎いのでここら辺はうまくまとめられていないかもしれないです。)YMOはコンセプトの時点からエキゾチックさを押し出しており(白でも黒でもない黄色をバンド名に冠している)、それを武器として海外でヒットし、またその海外人気を逆輸入する形で日本でもヒットした。

エキゾチック:異国の情緒・味わいを持つさま。

 

YMOのデビューアルバムにはアーケードゲームの『サーカス』と『スペースインベーダー』の音楽をシンセサイザーで再現した楽曲が収録されているが、なぜゲーム音楽(由来の楽曲)がアルバムに収録されたかというと、当時はゲーム音楽もエキゾチックな存在だったから。

 ・(ちょっと横道)インベーダーやパックマンはそもそも異次元からきた存在であり、そういう意味では究極のエキゾと呼べる存在なのでは…。

 

 

 

 

 

 少しAlixkunへの質問タイム。

・hally氏からAlixkunへ、「当時自分の国のゲーム音楽の作曲家って知っていた?」

・Alixkun「80~90年代に出ていたゲームのほとんどは日本から出ていたため、知られていたのも日本の音楽プロデューサーだった。」

 

・フクタケ氏からAlixkunへ、「当時、リアルタイムで遊んでいた時期から、そのゲームが日本のものという認識はあった?」

・Alixkun「あった。子どもの頃はソフトよりハードの方が注目されていて、そのときハードは日本のセガ任天堂のものしかなかったので、日本のゲームだという認識が強かった。」 hally「日本人が気づかぬうちに日本のソフトが世界を制していたみたいな……」

 

・Alixkun「日本は気づいてなかったが、80~90年代から世界中の子どもが日本のゲームやアニメで育っていた。」 宇川「フランスだとキャプテンハーロック松本零士原作のテレビアニメ)がめちゃくちゃ放送されていたらしい。だからダフトパンク松本零士リスペクトで東映動画にMVの制作お願いしたり… 他にもグレンダイザー(『UFOロボ グレンダイザー』)がフランスでなんかめちゃくちゃ受けていた?とか…」

 

 フレンチタッチ代表。

www.youtube.com

 

 

 

 

 ここからしばらく海外での日本のコンテンツの受容のされ方について。

・日本のコンテンツは中東にも響いている。キャプテン翼が中東で人気らしい。そこから日本のゲームに触れてゲーム音楽レーベル(Brave Wave Productions)を立ち上げたプロデューサーがクウェート人だったりする(おそらく会長のMOHAMMED TAHERのこと)。世界レベルで勢いのあるゲーム音楽レーベルらしい。

 

www.bravewave.net

 Bandcampのページでは30枚ほどの作品がアップされている。

 

 

 キャプ翼×クウェート、検索するとたしかに記事がヒットする。

www.mofa.go.jp

www.mofa.go.jp

 



・Alixkun「キャプテン翼といえばイニエスタ。超有名プレイヤーだけど今日本のチームでプレイしている(現在Jリーグヴィッセル神戸所属)。それはキャプテン翼が好きだったかららしい。キャプテン翼が生まれた国でキャプテン翼みたいにプレイしたいと…」

 

 そうだったんだ…

www.soccer-king.jp

 

人造人間キカイダーはハワイですごく人気らしい。 キカイダーショーといえばハワイなのだとか。(これも検索するとヒットします)

 

キャンディ・キャンディアルプスの少女ハイジなど、日本の作品であるが海外では放送当時そうと思われてなかったアニメ作品があったらしい。理由として、作中人物が日本人じゃないこと、きちんとロケハンをしていて背景がしっかりしていたことなどが上がっていた。

 

 

 

・『LSD』という、ヨーロッパなどでカルト的な人気を誇る変わったゲームがあり、近年再び人気が再燃してきている。その流れで、その『LSD』の音楽を手掛けた佐藤理(おさむ)の初期作品『Objectless』(1983年にEP-4佐藤薫主宰のレーベル〈Skating Pears〉からカセットでリリースされていた)が、Vinyl-on-demandというノイズ~アバンギャルド系のレーベルからリイシューされるという出来事があった。

 

・宇川「ゲーム音楽のファンによってある作品が「新しい文脈で」復活した例と言えないか」 hally「ゲーム音楽を通して他の音楽を再評価するということもある。レンズ的な働きというか…」

 

ototoy.jp

 

Vinyl-on-demand:https://www.vod-records.com/

 

・DIGGIN'~には佐藤理と共にケンイシイも出演しているが、それは佐藤との同世代という繋がりからだったらしい。

 

 

 

 

・hally「日本のゲーム音楽について欧米人が積極的に発信し始めたのが90年代終わりくらいで、その頃まで海外での影響力に日本人は気づいていなかった。そこから動画共有サービスの登場などにより、ネット上で日本のゲーム音楽にアクセスしやすくなっていき、2014年にはもうシティポップと同様に「聴こうと思ったら聴ける」というような状況になったのが大きいのかなと」

 

 

・宇川「(ゲーム音楽を考える上で)重要なのが物語があること。『LSD』に物語があるかと言えば少し難しいかもしれないけど、物語込みで電子音楽として独自の発展を遂げているのがゲーム音楽」 hally「物語というとゲームそのものが持っている物語があるが、それ以外にも作家・ミュージシャンの側の物語というものもあって、そちら側の物語を読み解くという作業が始まってきているのかなと」

・宇川「それに加えてゲームのプレイヤー側の物語もある。そのゲームをプレイしていた頃の自分の物語…」 hally「それらの複数の物語を接合させることがDIGGIN'~の頃から徐々に起こり始めたのではないか。そういう意味では今回のディスクガイドは作家の側の物語(この作家は他にもこういうことをやっている、当時はこういう状況だった、など)についてけっこうフォーカスして書いている」

 

 

 

 

ツイッターの投稿より宇川「90年代に細野の『ビデオゲームミュージック』を再評価したきっかけはアレック・エンパイアのDJ? アレック・エンパイアスーパーゼビウスと共にドイツでもプレスされていた?」

 

・hally「90年代はチップチューンというもう一つの物語=流れが生まれていて、アレックはそれに先鞭をつけるような役割もしていた。アレックはNintendo Teenage Robotsという名義でチップチューン作品も出している。

 チップチューンという文脈を通したゲーム音楽の再評価がその時期……90年代終わり頃から00年代初頭にあった。チップチューンという盛り上がりは完全にヨーロッパ側からスタートした」

 

www.youtube.com

 

・ドイツやスイス中心にマイクロミュージック(Micro Music)というシーンが当時あり、エレクトロと80年代のゲーム音楽をくっつけるような試みをしていたらしい。(おそらくチップチューンの文脈の話)

 

 

 

 

 閑話休題?…いやむしろ本流。ゲーム音楽批評の話。

ツイッターの投稿より宇川「80年代くらいのゲーム音盤のレビューは雑だった? ゲーム音楽のヴァイナルが出て愛聴されていたにも拘わらず批評性が保たれていないレビューが多かった?」 フクタケ「書き手が若かったというのもある」 hally「音楽の専門家じゃないゲームライターが片手間に書いたようなものもあった」

 
・hally「CDジャーナルの、ゲーム音楽作品が出たときの一言コメントがひどかった。めちゃくちゃなんか、ゲーム音楽のことをバカにしていた」 フクタケ「そもそも論評のまな板の上に載せてないみたいな」 井上「雑な扱いを受けていたという…」hally「雑な扱いならまだいいんだけど、ここをこうして出直してこいみたいなコメントがあった」 時代…

 

・宇川「90年代のミューマガにおけるダンスミュージックの扱いもひどかった。ヒップホップはギリギリオーケーだったらしいがハウスはダメだった。ソドムという日本のバンドが、キャリア上でハードコア・パンクからハウスへと音楽性を変えたことがあったが、その際の作品の評価が誌上で0点だった。ダンスミュージック、ハウス・テクノに厳しかった」 hally「ダンスミュージックは音楽じゃないみたいな言い方が当時よくあった」


・hally「そういうことはゲーム音楽にもあって、90年代のはじめ頃にゲーム音楽の中にもダンスミュージックが流入してくるのだが、そうするとそれまでのロックやフュージョンに馴染んでいた人たちからの拒絶反応というか反発があった。こんなの音楽じゃない、とか言われたり…また逆にいやこれこそが最新の音楽だ、と言う人たちもいたりして……」


・宇川「12インチでトラックを買ってそれをリアルタイムでエディットする文化がアルバム単位で評価できるかという話。ちなみにその次の号のミューマガは電子音楽特集で、ダンスミュージックもいっぱい入っていた(というか宇川自身が製作に参加していたらしい)。時代は変わるということで…」

 

・hally「ゲーム音楽がこれだけ普及してきてても、ゲーム音楽に対する批評っていうのはあまり育たずにここまで来てしまっていて。例えば思想系・哲学系の本で音楽を取り上げるものはけっこうあるが、その中でゲーム音楽が語られることは皆無に等しかったと思う。これからはちょっとそういうのが変わってくるんじゃないかなあと」

 

 


 

 

 …と、ここまででトーク全体の1/3くらいです。疲れたので続きはまた後日。