TOYOHIRAKUMIN [MUSIC IN THE AIR]


 日本の北海道は札幌市豊平区在住?の豊平区民TOYOHIRAKUMINによる作品。2014年リリース。

 前回ヴェイパーウェイブというジャンルに触れましたが、今回も同ジャンルの作品です。
 蒸気波要点ガイドで紹介されていた作品で、自分はガイドを読むまではこのアーティストは知りませんでした。

MUSIC IN THE AIR | Dream Catalogue
 ストリーミング視聴可。

 ガイドではヴェイパーウェイブの作品をその音楽性から例えば「未来のファンク」「歌謡曲」というような括りでさらに整理・分類していて、自分の目当ての音を探しやすくなっているのですが、今作は「ポピュラー音楽」という括りでVHS LOGOS『Mantra』やdeath's dynamic shroud.wmv『I'll Try Living Like This』(どなたかわかりませんがバンドキャンプでこの作品の音源をプレゼントしてくれた方ありがとうございましたm(__)m)と共に紹介されていました。また同誌には豊平区民の興味深いインタビューも一緒に掲載されており、そこではvektroidの『札幌コンテンポラリー』という作品を受けて(これ明らかに札幌の人が作った作品じゃないじゃん、これは札幌の人がなにかしなきゃいけないのでは?)と思ったことがヴェイパーウェイブ作品を作るきっかけと語っていて、おもしろい人だ…と思いました。




 今作は彼のアルバムとしては2作目…になるのでしょうか。インタビューによればアルバム1作目として『国道36号線』をリリースし、その後も『山への愛と思索』『奇妙な話』というミニアルバムくらいの大きさの作品をリリース。そうした後にDream Catalogueにここら辺の音源まとめてアルバムを出せないか〜と打診し、OKということで今作が作られたそうです。

Music | 豊平区民TOYOHIRAKUMIN
 豊平区民のバンドキャンプページ。

 ちょうどアーティスト本人のバンドキャンプページのあたま4作品から楽曲を持ってきてフルアルバムとして再構成した、というような感じでしょうか。もちろん今作が初出の楽曲もありますけど。




 音楽性について、フュージョンを壁一枚隔てて鳴らしたかのような、トゲがなく少しぼやけた感じの音が特徴の正統派?ラウンジミュージック、という感じです。おふざけや実験要素がほとんどないこと、派手なカットアップやそれに伴うぶつ切り感がないこと、そしてなによりメインのメロディーがはっきりと打ち出されていることから非常に聴きやすい音楽となっています。

 今作で特に優れていると感じるのはアルバムとしての流れ・構成でしょうか。わりとファンキーで元気いっぱいな前半、メロウで落ち着いた雰囲気の後半、というふうにはっきりとした流れが作り出されています。個人的なハイライトはちょうどそれらの中間にあたる「VERTIGO」〜「RENAISSANCE HOTEL」の部分ですね。特に「VERTIGO」は即効性もあり、キラーチューンと言えそうです。

 個人的に嬉しいのはその元気な部分と落ち着いた部分のバランスがちょうどいいことですね。はっきりと元気!と言える曲ってアルバムのあたま4曲だと思うんですけど、これがもっと長かったら途中で聴くのを止めていたかもしれません(ここらへんは個人差がありますね)。…いや、元気な曲に魅力がないと言ってるわけではないです。ただ自分がメロウな曲の方が好みというだけで。まあでも本作の一番の魅力は後半の穏やかな流れだと思ってはいるんですが。




 今作を聴いてるとちょうど金曜の夜、仕事を終えて仲間と飲みにいって騒ぎ、そのあとは飲み直すなりそこらをぶらつくなりしてそれぞれに穏やかな時間を過ごす……みたいなストーリーが頭に浮かんでくるんですよね。アルバムに収められている曲の大半はそれ以前に発表されていたものですが、もともとこの作品のために作られたんじゃないの?と思ってしまうくらいによくまとまっていると思います。

 まだこのアーティストに出会ってひと月も経ってないんですけど、すでにヴェイパーウェイブというジャンルの良心というようなイメージを抱きつつあります。。 今作のみからでもそのバランス感覚とソングライティングは信頼できるレベルにあるなということが充分に伝わってきます。他の作品も順次聴いていこう。。

 平和で穏やかな夜の街の空気を丁寧に真空パックしたような音楽です。夜中、なんかつまんないなーと感じたときなどにぜひ聴いてみてください。



8.3