Pépé Bradock [Nr. 60 Roof.fm]


 フランスのDJ(でよかったでしょうか)、Pépé BradockによるDJミックス。2013年発表。

Nr. 60: Pépé Bradock (Atavisme) – ROOF.FM ここからダウンロードできます。
 先日のお気に入り曲まとめでも取り上げさせてもらったのですが、その後も何度も聴いてもっと気に入ったので再度取り上げます。





 作品に出会ったきっかけは毎度のことながらRAの年末ベスト記事です。作品の概要についてはそちらでだいたい掴めるのですが、アーティストの情報があまり載っていないのでちょっと調べてみます……と、ここが詳しいようです。
Pepe Bradock | clubberia クラベリア

 ちょっと引用。

Hip Hopの楽曲制作手法と、90年代初頭にあった純粋なレイブ精神をいかに組み合わせるかを模索した。そして、フランスのレーベル、KIFからリリースされた“Deep Burnt”の大ヒットによって彼の名は世界的に知られることとなり、イリノイ州ミシガン州催眠療法士から多大な影響を受けた満州ターンテーブリストとして、世界中でDJする機会に恵まれた。‘00年、自身のレーベルAtavismeを始め、楽曲はもちろん、レーベルのアートワークやその他を含め、彼のその独特の世界観を表現している。

 中盤、『イリノイ州ミシガン州催眠療法士から多大な影響を受けた満州ターンテーブリストとして』という部分がよくわからないですが、自主レーベルAtavismeから時折作品をリリースしつつ、DJとしても活躍している方のようです。
Atavisme Label | Releases | Discogs

 またこれは引っ張ってきたところよりも前の部分の記述ですが、『彼は、テクノの主要な楽器はヴァイオリンとタンブリンだとクラバー達に説いている。』というエピソードが最高にかっこいいですね。自分は「フランス」で「オシャレ」と聞くと真っ先にセルジュ・ゲンズブール参考)が浮かんでしまう人間なのですが、この方にもなんとなく同じ"色男"のオーラを感じてしまいます。

 一応、代表曲らしいDeep Burntも貼っておきます。

 昔の音源からのサンプリングなのか、ふくよかながらもちょっとかすれたようなストリングスがいい雰囲気を出してます。終始抑制されたトーンで満ちていて上品な印象を受けます。クラシックですね。ミックスで流れたら「これ誰の曲?」ってなりそう。てか再生数すごい… そういう界隈ではほんとに有名なんでしょう。





 リリース元のRoof.fmについても少々。2008年に始まったスイスのローカルなラジオ局だそうです。
About – ROOF.FM
 ミックスを提供しているアーティストの一覧を見ると、自分でも知ってる名前がたまーに出てきますね。2009年にはKassem Mosse、2008年にはVakulaの名前があって、以前から地道に活動してたんだな…なんて実感が湧いてきました。あと「About」のところにある"ROOF.FM is dancing and dancing. Because it’s gonna be alright."という文章が最高にエモいです。





 作品の内容について。まあ先日の記事の繰り返しになるのですが、煙たいジャズから柔らかく暖かなソウルなど、ブラックミュージックを中心にまとめられたミックスです。全体で約90分という長さですがだいたい30分くらいごとに雰囲気が変わり、前半では甘さと苦みが入り混じったスモーキーなジャズが、中盤では軽快でスムースなフュージョンとソウル・ファンクがそれぞれ中心となり、また後半ではロマンチックながらも独特な世界が展開します。一番キャッチーなのは中盤でしょうか。ボーカル曲もここに集中していて馴染みやすいかと思います。



 特徴的なのは黒さの中に「和」のテイストが入っていること。改めてはじめに貼ったクラベリアのアーティスト紹介記事を見ると"日本文学を読み漁りながらも"なんて記述が出てきますし、Roof.fmのアー写にはさりげなくピンク色の「愛」なんて文字が載ってたりするので、けっこう日本の文化に思い入れがあるのかもしれません。実際日本人アーティストの曲も複数入っているのですが、二曲目のように海外アーティストによる日本を意識した曲も収録されており、いいアクセントとなっています。
 いやまあアクセントくらいならいいですけど、終盤の「叱られて」(元は日本の童謡らしいです)とかASA-CHANG&巡礼の「花」とかまでくるともう衝撃ですね。その直前の坂本龍一戦場のメリークリスマス」〜冨田勲「月の光(ドビュッシー)」〜Stevie Wonder「ある愛の伝説」という繋ぎも衝撃といえば衝撃ですが…この超ロマンチックな流れから「叱られて」はヤバいですね。おれはいつの間にか異次元に迷い込んでいたのか…と呆然となります。
 まあとは言っても前述のように二曲目で伏線というか予兆はあったわけで、改めて俯瞰で捉えるとそこまで軸はブレてないな、と思うのですが。でもASA-CHANG&巡礼「花」のチョイス… ASA-CHANG&巡礼って海外でも評価が高いというのは知っていますが自分的にはあまり馴染みがなく、それこそアニメ「悪の華」の主題歌となった「花」くらいしか知らないのですが… ペペさん(いいのかその呼び方…)はアニメを観ていたのでしょうか。調べるとアニメ放送時期が2013年4〜6月でタイミング的にも合っているんですよね。うーん気になる。。(ちなみに自分は未見です)





 ちょっと話が与太ってきたので戻りますが、今作は大胆な選曲で気楽で親し気なムードから緊張感や不穏さを孕むムードまでを表現した、非常に魅力的なミックス作品となっています。↑ではミックス終盤の特に目立つ部分についてけっこうスペースを割いていますが、それ以外の前半・中盤もすばらしい内容です(というか普段は前半〜中盤ばかりをリピートしちゃっています)。
 正直に言うと自分はあまりジャズを聴かないのですが、今作に収められた曲はどれも魅力的に聴こえました。このミックスを手掛かりにしてそれぞれのジャンルを開拓していく、というのもおもしろそうだなと思います。

 昨年のMoodymannや一昨年のDJ Kozeの「DJ-Kicks」なんかが気に入った人は今作も気に入るかもしれません。また、「ブラックミュージックよくわかんねぇ〜><」というような人にも、それぞれのジャンルのいい部分が凝縮されたような今作は向いているんじゃないかと思います。というか単純にオシャレなBGMとして超優秀です。オススメ!



8.5