Real Estate『Daniel』

https://realestate.bandcamp.com/album/daniel

 

 

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 率直に言えば、『Atlas』以降少し物足りなく感じていたReal Estateの新作が非常に良かった。

 

 真っ先に伝わるのは録音の良さ。今までもクリーンで爽やかな印象を持っていたサウンド面だが、今作のそれはまた一段階上を行っている。汚れたところが一つもないのだ。今作を聴いてから過去作を聴くとシンプルに(あれ、音質悪い…?)なんて思ってしまったりする。当たり前だけどデータとしての音質は変わっていなくて、ただサウンドデザインの方向性が変わっただけなのだけど(ドリーミーからクリーンへ)。方向性の違うものを単一の評価軸に当てはめるのもナンセンスだが、しかし一聴して音が印象に残るのは明らかに本作の方で、そういう意味で本作を録音物として上に置くことはできるだろう。

 

 音が曲よりも優れる面の一つは「早さ」で、音の連なりである曲よりもずっと早く聴き手の心を掴むことができる。アルバム全体に丁寧なプロダクションの行きわたった本作には一瞬で周囲の空気を変える魔法のような力が備わっている。調べたところ、Kacey Musgraves『Golden Hour』でグラミーを獲ったDaniel Tashianが本作のプロデュースも担当していて、そのことがこの変化をもたらしたのかもしれない。

 

mikiki.tokyo.jp

 

 サウンド面と同じくらい良いのがアンサンブル……というかリズム面のアレンジで、アルバム全編にわたって小気味いいリズムが溢れている。柔らかく清潔なサウンドが居心地の良さを、小気味いいリズムがちょうどいい快感・中毒性を生んでいて、共にアルバムを離れがたいものにしている。本作のドラムは地味だが最高の仕事をしていると思う。

 

 #3「Water Underground」で合いの手のように挟まるコーラスにあざとさのようなものを感じながらも(名曲ですが!)、自分が一聴して引き込まれたのはアルバム中盤、#5「Interior」~#6「Freeze Brain」で大きく沈みこむところだった。聴き始めた当初の自分にとってはここがアルバムのハイライトで、ここを目指してアルバムを回数聴くうちにまた道中の楽曲も気に入って、ゆっくりとアルバム自体がお気に入りになっていったのだった。

 最近では最後の#10「Market Street」~#11「You Are Here」もハイライトに思えてきていて、もうこんなんアルバム全部好きじゃん、ってなってます。

 

 上に貼ったMikikiの記事でも言及されているが、本作のリファレンスにはアメリカン・ロックの理想の一つであるR.E.M.『Automatic for the People』があるらしい。流行に流されない、時代を超えた良さを捉えているという意味で確かに繋がりを感じる。タイムレスな魅力を備えた傑作だと思います。