KIRINJI『crepuscular』

 

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 Lamp冨田ラボにハマったときからずっと聴かなきゃな~と思っているキリンジ。委員長のアルバムに提供した「部屋とジャングル」がめちゃくちゃ良かったので新しいアルバムは聴こう!と思って聴いたのですが……今確認したら「部屋とジャングル」は現KIRINJIではなく昔脱退した弟の方の作だったらしい。なんと……。でもこの夏に銀行で偶然、一度だけ聴いたNHKみんなのうたの新曲、V6「素敵な夜」がまためちゃくちゃ良かったのですが、こちらはちゃんと現KIRINJIの作だったので、これでチャラということで……(何が?)

 

 新作、サウンド的に統一感あるし、よくまとまった作品だと思います。一番良いのはアルバムの掴みが超強いこと。具体的に言うと1曲目2曲目に神曲配置してるのがすごく効いてると思う。1曲目2曲目ではっきりと名盤を予感させてくるので、聴き手は(これはキたかも、とりあえず一周聴こう)ってなるんですよ。で、アルバムを一周、まともに聴かせることができたらもう「勝ち」じゃないですか? 「勝ち」なんですよ!

 

 全体的にエレクトリックな質感。サウンド的にラフなところがなく、そのせいかなんとなく内に籠っているような空気がある。アルバム中盤(#4~#7)が顕著だけれど、楽曲も内向きにこんがらがっている感じがあり(雰囲気で伝われ)、特に#5「曖昧me」#7「ブロッコロマネスコ」は聴いていると出口のない迷路をずっとぐるぐるしているような気分になる。

 

 というかぶっちゃけ、アルバム中盤のこのもやもやしたフィーリングは、続く(映画『鳩の撃退法』の主題歌にもなった)#8「爆ぜる心臓 feat. Awich」への布石だと思う。もやもやをこの曲でぶっ飛ばす、というアルバム単位での大きな仕掛け。で、これは蛇足っちゃ蛇足なんだけど、この仕掛けが機能するには中心となる「爆ぜる心臓」でちゃんとブレイクスルーしなきゃいけなくて……つまり、「爆ぜる心臓」が刺さらない人にはアルバムの印象もなんかモヤっとしたものになっちゃうかも、ということ。というか自分が少しそんな感じになっています。

 

 傑作アルバムだと思います。個人的にこのアルバムの音楽性をまとめると「シティポップと(プログレサブジャンルとしての)チェンバーロックの融合」みたいな感じになりそう。「ただの風邪」と「気化猫」の二曲が特に刺さっています。普段そんな元気じゃないからアンニュイな感じの曲の方が馴染む…。「ただの風邪」は曲名の由来が知りたい。「気化猫」は二番のサビの「生まれて初めて聴く音楽かも ハハ、違うか」という歌詞に少し本心の存在を期待してしまう。歌詞の前後も読むとただの冗談みたいなニュアンスっぽいのだけど。でも同時にこの不確かな猫って音楽のメタファーなんじゃないの、とも思ったりする。