TV on the Radio [Return To Cookie Mountain]


 アメリカはブルックリンを拠点に活動するバンド、TV on the Radioのセカンドアルバム。




参考リンク:
【レビュー】 TV on the Radio『Return to Cookie Mountain』 ロック・ミュージック・レビュー・ブログ 放課後、図書館からロック・ミュージック。
マサ太郎氏による充実のレビュー。

現代ロックミュージックの、これが最先端
アマゾンに投稿されているレビューで、たぶん一番わかりやすい。自分の感覚に近いです。

TV On The Radio "Return To Cookie Mountain" | Back To Back

00年代以降のUSインディを把握したいなら、まずはTV・オン・ザ・レディオを聴こう! 前編:「00年代NYの音」を定義したバンド | The Sign Magazine
サイン・マガジンによる、TV on the Radioを00年代の流れの中で捉えなおす特集。

なぜ世界はデヴィッド・シーテックから目が離せないのか? 彼の外仕事を通じてその謎に迫ろう! - TOWER RECORDS ONLINE
Dave Sitek - Wikipedia
バンドの中心メンバーの一人、Dave Sitekの関連作について。





 2006年、というと自分はまだ中学生で、クイーンやらNINやら椎名林檎やらを狂ったように聴いていた時期ですね。一学年にクラスが2つしかないような田舎の中学校に通っていて、家にはネットも繋がってなかったので当然知る由もなかったのですが、TV on the Radio(以下TVOTR)のこのセカンドアルバムは当時はちゃめちゃな高評価を受けていたようです。

参考:https://www.metacritic.com/browse/albums/score/metascore/year/filtered?sort=desc&year_selected=2006
 メタクリティックの集計では2006年に出た作品の中で5番目に評価の高かった作品ということになっていますね。

 自分が彼らの存在を認知するのは2008年の『Dear Science』でして、『Return to〜』は大学に入ってから、ディスコグラフィーをさかのぼる形で聴いたのでした。







 上にも書いた通り、アマゾンに投稿されているジャック・サザーランドさんのレビューがとても分かりやすいです。以下、引用。


TV ON THE RADIOというグループは、正しくミクスチャー、これ以上は無いと言える程の徹底したグツグツごった煮サウンドを聴かせる。ハードロック、オルタナティヴ、インダストリアル、R&B、ヒップホップ、ファンク、ダブ、ワールドミュージックetcetc...

 繰り返しになりますが、まさしくごった煮なサウンドです。いろいろなサウンドが混ぜ合わされた結果、音の闇鍋とも言うべきカオスな音像が形作られています。特にごった煮感を際立たせているのがその音響(?)で、とにかく圧が強い。一つ一つの音がもう大迫力なんですけど、それらが同時に鳴らされるともう音で空間が押し潰されたような感じになってきます。そんなに狭いところで鳴ってる感じはしないのですが、音が音なのでもう圧迫感がすごい…

 そして、おもしろいのがサウンドから受ける視覚的な印象が「黒い」こと。ブラックミュージック的、というわけではなく、単純に今作のサウンドを聴いていると黒っぽいイメージが浮かんでくる、ということです。いやまあ感じ方は人によるんですけど、なんというか色の三原色みたいな感じですね。たぶん上で述べたような圧の強い、高密度のサウンドがそう感じさせているのだと思います。似たような印象を受ける作品としてはMassive Attackの『Mezzanine』が浮かびます(こちらはジャケットからきている部分もありそうですが)。






 かっこええ…。今年で発売20周年らしいですね。



 Massive Attackとは交流もあるようで、今作を受けての話だったのかはわかりませんが、Massive Attackの2010年作『Heligoland』にTVOTRのボーカルであるTunde Adebimpeが参加しています。






 非常に理知的なイメージで語られることが多い(実際そうなんでしょうけど)ため、もしかしたら頭でっかちでとっつきにくい印象があるかもしれませんが、楽曲自体はわかりやすいものが多いです。数回聴けば自分で歌えるくらいになるのではないでしょうか。リズムは比較的シンプルですし、なによりもメインとなるボーカルのメロディーがはっきりしています。

 これもまた感覚的な物言いなんですけど、メロディーと歌唱になんというかヒロイックなところがあって、例えるならジギー・スターダストを演じているDavid Bowieのような……背後にドラマを感じさせる、とても表現力のあるボーカルだと思います。その上であの意味深な歌詞ですよ。エモすぎる……
 いや正直歌詞の意味はあんまし分かってないんですけどね、それでも冒頭に貼った、アルバムのオープニングトラックである「I Was A Lover」なんかは、冒頭の"I was a lover, before this war"の1フレーズだけでもう鳥肌が立ってしまいます。。




 #3「Province」もエモい。David Bowieがボーカルで参加しています。コーラスの"That love is the province of the brave"なんて感動ものでしょう。愛は勇気の領域…… ユーフォリックなフレーズを奏でるギター・ピアノやゴスペルチックなボーカルからは祝祭感のようなものも感じられます。個人的には#7「Dirtywhirl」と並んで今作のベストトラックです。






 重量級のサウンドに親しみやすくエモーショナルなボーカルの乗った、非常にパワフルなロックアルバムです。Radioheadとよく比較される彼らですが、先鋭的かつ折衷的なサウンドメイキングと普遍的な良さの宿るソングライティングを両立させるところが一番の共通点なのかもしれません。傑作。



9.1