『2010年代の200枚』(2016~2017年)

 いくぞいくぞ~。

 

 

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レギュレーション的なやつ

・2010年1月1日~2019年8月25日(『紙版~』の発行日)に発表された作品からチョイス

・チョイスにあたっての指標は以下の3つ

 「音楽性のユニークさ」「作品の完成度」「自分の好み」

 

 作品はそれぞれの年ごとにアルファベット順(あいうえお順)で並んでいます。

 

 

 

 

 

 2016

 

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A Made Up Sound / A Made Up Sound (A Made Up Sound)

 "2562"としてベース・ミュージックも作っているオランダ人プロデューサーDave HuismansがA Made Up Sound名義で2009~2016年にかけて発表した楽曲をまとめたコンピレーション。(強いて言うならテクノになるのだろうが)特定のスタイルに捉われないダンス・ミュージックで、先の読めない個性的なトラックが詰まっている。純粋なエレクトロニック・ミュージックという意味ではAutechreなども彷彿とさせる。サウンドのクオリティは維持しつつ、王道な展開と実験的な展開を自由に行き来するセンスが魅力。

 

 

 

 

 

 

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A Tribe Called Quest / We got it from Here... Thank You 4 Your service

(Epic)

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 アメリカの伝説的ヒップホップ・グループによる、18年ぶりの新作。これだけ間が空いたにもかかわらず過去作との音楽的連続性が保たれているのがすごい(意味がわからない)。ブランクを感じさせない、まさにA Tribe Called Questサウンドである。ドープすぎない絶妙なポップセンス、どんな状況にもフィットしてしまうスムースさ、そしてなによりクールでもあり大らかでもあるお洒落なユーモア……このバランス感覚には驚嘆するしかない。気合の入った前半も、リラックスしたムードの中盤以降の流れも最高。ああ…

 

 

 

 

 

 

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András* Presents... H.O.D. / House Of Dad (House Of Dad)

 メルボルン出身のプロデューサーAndrew Wilsonによる2016年作。「父の家」というタイトル通り、アーティストの父(配管工らしい)の家にまつわるファニーな具体音をフィーチャーしたハウス/アンビエント。ドアを開閉するときのキィー…という音やトイレの排水音といった環境音が、ニューエイジリバイバルを牽引した柔らかなサウンドに軽やかさ・ポップさを加えより魅力的なものにしている。ふざけているようなサウンドだがその根底には父に対する愛情や尊敬が感じられる。個人的にはキャリア最高傑作。

 

 

 

 

 

 

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ayU tokiO / 新たなる解 (AWDR/LR2)

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 日本のSSW猪爪東風(イノツメアユ)によるソロ・プロジェクトの1st。全編豊かなメロディーに溢れる王道のポップス。常に歌=メロディーが中心にあり、楽曲を先導していく。そのため、例えばブルースを聴くときのような、コードとグルーヴに頼った聴き方は合わない。ホーンやコーラスの多用される的確なアレンジからはもはやポップス職人的なイメージも。サウンドA&Mレコードなどのソフトロックが近いらしい(疎い分野なので断言はできない)。いずれにせよ今作の一番の魅力は豊かなメロディと類まれなソングライティングで、特にアルバム終盤の3曲でそのことが実感できるだろう。

 

 

 

 

 

 

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Blood Orange / Freetown Sound (Domino)

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 イギリス出身のSSW/プロデューサーDev HynesのBlood Orange名義による3rd。柔らかなエフェクト処理の施された洗練されたR&Bで、例えるならば現代のベッドルームで作られたPrince『Dirty Mind』といった趣。サウンドはシンプルで実験的なところはなく、充実したソングライティングをじっくり堪能することができる。曲数は多い(全17曲)がどれも3分程度とコンパクトにまとまっており、滑らかなサウンドに身を任せていると知らず知らずのうちにアルバム終盤まできてしまっている。孤独な夜のお供に。

 

 

 

 

 

 

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Cass McCombs / Mangy Love (Anti-)

 アメリカのミュージシャン/SSWによる8thアルバム。ジャケットのイメージ通りの重苦しさと底の見えないメロウな感覚が同居した作品。サウンドはこもったような響きで雰囲気も暗いのだが、ソングライティングがキャリアベストと言えるほどに充実しており、特に#3「Laughter Is The Best Medicine」からの数曲の流れは絶品である。「Low Flyin' Bird」は一度でも聴けば虜になってしまうほどキャッチーな一面を持つアンセム。「It」はリズムマシンと教会風の荘厳なコーラスが耳を引く壮大な曲(Radioheadの「The Tourist」を思い出す)。ここまでスケールの大きい、エモーショナルな曲も書けるのか、と驚いた記憶がある。

 

 

 

 

 

 

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David Bowie / Blackstar (Columbia)

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 イギリスのミュージシャン/SSWの遺作となった28枚目のアルバム。グラマラスでヒロイックなソングライティングは70年代に発表された名作群を思わせる(「★」は現代版の「The Width Of A Circle」なのでは、とか)。Maria Schneider率いるジャズ・バンドのメンバーを招いて録音されたサウンドには本人のボーカルに負けない迫力があり、「Sue (Or In A Season Of Crime)」では圧巻のプレイを見せつける。死の淵にあったとは思えないほどにエネルギッシュで"艶"のある作品であり、まだ命が続いていれば新たな代表作として扱われていただろう。

 

 

 

 

 

 

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DJ Metatron / 2 the Sky (Giegling)

 ドイツのDJ/プロデューサーが2016年に発表したEP。ジャケットの十字架が象徴するように敬虔でスピリチュアルなディープ・ハウス。主要な楽曲は2つあり、「2 The Sky (Metatron's What If There's No End And No Beginning Mix)」は祝祭的な空気でゆっくりと高みに昇っていく。前年のDJミックスで初披露された「2 Bad (Metatron's What If Madness Is Our Only Relief Mix)」は沈痛なムードで始まり、やがて入ってくるストリングスがそれをポジティブで力強いものに塗り替えていく。アーティスト独自の魅力が綺麗にまとまった作品。2018年発表のDJ healer名義の作品ではこの方向性をさらに推し進めている。

 

 

 

 

 

 

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Foodman / Ez Minzoku (Orange Milk)

 日本のプロデューサーによる2016年作。ジューク/フットワークの細かなにリズムに乗って奇妙でコミカルな音が打ち鳴らされる、エクスペリメンタルなポップ。すき間を意識した自由自在で予測不可能な楽曲は適度な緊張感があり、耳が引き寄せられる。ヘンテコなサウンドが詰まったアルバムの中においては「Mid Summer Night」のような比較的まともなポップソングがいつも以上にキラキラして聴こえてくる。実験的だが個人的には2016年でもっともフレッシュに響いた作品。軽やかでユーモアがある。

 

 

 

 

 

 

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Fp-Oner / 6 (Mule Musiq)

 ニューヨークのDJ/プロデューサーFred PeterkinのFp-Oner名義の作品。柔らかさのあるアンビエント寄りのディープ・ハウス。内省的・神秘的なムード、聴き手を包み込むようなサウンドと、ディープ・ハウスのイメージ通りの作品。実験的なところの少ない、とても聴きやすい作風である。とても手の早い作家で、10年代も様々な名義で多くの作品を残しているがサウンドの方向性はあまり変わらず、どれか一つの作品を楽しめれば他の作品も同様に楽しむことができる。このジャンルにおける良心のようなアーティストと思っている。

 

 

 

 

 

 

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Frank Ocean / Blonde (Boys Don't Cry)

 アメリカのSSWによる二枚目のスタジオアルバム(blondとも表記される)。内省的なR&B。繊細な表現が多く、作品・楽曲を掴むのにある程度の聴き込みが必要という点で『Pet Sounds』などとも比較される(自分自身、心の底から気に入るまで一年以上かかった)。しかしそれに見合う感動の約束されたすばらしい作品で、アルバム前半部分…特に「Solo」~「Skyline To」~「Self Control」の流れは絶品。今作以降に発表された(アルバムに収録されるかわからない)シングル群も必聴。CDは「Boys Don't Cry」という限定の雑誌に同梱されている。

 

 

 

 

 

 

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Kyle Hall / From Joy (Wild Oats)

 デトロイトのDJ/プロデューサーによる2nd。アーティストが18~19歳の頃に作成されたトラックを改めて録音した作品で、当時住んでいた父親の家の立地していた通り(Joy Road)から名前が取られている。フレッシュな感性を覗かせるメロウなハウスで、音楽一家だというアーティストの家族からの影響か、随所からジャズの要素が感じられる。前作に続き今作もオリジナリティのあるサウンドで、そのファットでロウな音色は独特な暖かみがある。

 

 

 

 

 

 

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Lawrence / Yoyogi Park (Mule Musiq)

 ハンブルクのプロデューサーPeter Kerstenによる2016年作。控えめで透明感のあるハウス。主張の小さい、慎ましやかなサウンドで、雑味のない透き通った音色からは雪の結晶のようなものを連想する。無機的というかクールな感覚がありチルアウトにもってこい。Fred Pと同様に安定したペースで高クオリティな作品を作り続けている(タイトルに日本由来のモチーフが見られるところも同様だが、これはレーベル(Mule~)によるところもあるかもしれない)。この手のサウンドが気に入ったら本人も運営するDialやSmallvilleといったレーベルもチェックするといい。

 

 

 

 

 

 

 

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LSDXOXO / Fuck Marry Kill (GHE20G0TH1K)

 ブルックリンで活動するDJ/プロデューサーによるミックステープ。ボルチモア・ブレイクやジャージー・クラブといったジャンルの系譜にある、猥雑で危険な雰囲気のあるサンプリング主体のダンス・ミュージック。多少ラフだがジューク/フットワークなどと同じくストリートの緊張感があり、生々しい迫力がある。サウンドはパワフルなビートが中心であり、空間を埋めるような音遣いがないため風通しがよく、ジャケットやボイスサンプルとは裏腹にフレッシュな印象がある。

 

 

 

 

 

 

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Oren Ambarchi / Hubris (Editions Mego)

 オーストラリアのミュージシャン/コンポーザーによる2016年作。陶酔的、かつ破壊的なSteve Reich直系のミニマル・ミュージック。タイトルと同名の曲が3パートに分けられて収録されており、Part1はミュートしたギターが中心の点描的ミニマル。Part2はギターの、アクセントのずらされたアルペジオが聴き手を幻惑させるインタールード的小曲。目玉のPart3はPart1を下敷きにドラム・シンセ・ギターなど各楽器がフリーキーで熱狂的な演奏を繰り広げる。Lindsay、Villalobos、Whitmanなど錚々たるメンバーが参加しているが、それらの名前に負けないすばらしい内容となっている。魅力がわかりやすいのもいい。

 

 

 

 

 

 

 

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Radiohead / A Moon Shaped Pool (XL)

 イギリスのロックバンドによる5年ぶり5th。堂々とした華々しい「Burn the Witch」で幕を開けるも、それ以降は豊かながらも繊細な表現が続いていく。とても細かなアレンジがされており、聴けば聴くほど、(聴き手が)集中すればするほどに作品は味わいを増していく。もはや音楽の総合芸術といった趣があり、バンド演奏の比重は減ってきているように思うのだが、それでもバンド由来のグルーヴがしっかり感じられるところがおもしろい。音楽性は『In Rainbows』と『The King Of Limbs』を混ぜて、そこに(主にストリングスによる)映画音楽のエッセンスを加えたような感じ。

 

 

 

 

 

 

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Salami Rose Joe Louis / son of a sauce! (Hot Record Société)

 カリフォルニア出身のSSWのデビュー作。日に焼けて褪せてしまったかのようなマジカルな音色が魅力のベッドルーム・ポップ。The Caretaker的な経年劣化演出の施されたサウンドはノスタルジーを強く喚起する。Lo-fi Hip Hopも彷彿とさせる軽やかに揺れるグルーヴはハンモックに揺られているようで、1~2分の短い曲が脈絡なく続いていくアルバムの構成ははまるで夢を見ているかのよう。Jerry Paperに並ぶ現代の桃源郷サウンドがここにある。

 

 

 

 

 

 

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Segue / Over The Mountains (Silent Season)

 バンクーバーのプロデューサーJordan Sauerによる2016年作。メロディアスなアンビエント~ダブ・テクノ。ふわふわのシンセとダブ由来の遠く響く音響が組み合わされたサウンドは大きなスケールを感じさせる。ゆっくりとしたテンポで地味ながら確実に変化を続ける雄大サウンドは、聴いているとまるで空高くから雲に包まれた山々を定点観測しているかのような気分になる。あるいは鳥の視点になって山の間を飛び回っているかのような……雲を抜けるとそこにはまた別の壮大な景色が広がっているのだ。マスタリングはPoleことStefan Betke。

 

 

 

 

 

 

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Shy Layers / Shy Layers (Growing Bin)

 ブルックリン~アトランタで活動するJD Walshによるソロ・ユニットのデビュー作。2015~16年にリリースされた2枚のEP(投げ銭制で公開されている)をまとめ、さらに「SEG」という新曲を加えた内容。トロピカルなフィーリングを湛えたシンセ・ポップ。Mark Barrottの作品と通じるところがあるが、あちらがより情景描写的なのに対しこちらはより機能的で、有り体に言えばポップである(なにより歌が出てくる)。サウンドの軽やかさとアルバム全編に流れるリラックスしたムードが魅力。

 

 

 

 

 

 

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Solange / A Seat at the Table (Columbia)

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 アメリカのSSWによる8年ぶり3rd。内省的なアンビエントR&B。広く空間・音のすき間を意識して作られたサウンドは洗練されており、最低限の音でファンクネスやアンビエンスが表現されている。アルバムはインタールードを挟みつつ滑らかに流れていく。「F.U.B.U.」~「Borderline (An Ode to Self Care)」の流れには何度感動させられたことか。自然体なのか敢えて抑制的になっているのか判断つかないが、全体が落ち着いたトーンで統一されており、それゆえにむしろエモく聴こえるという部分がある。10年代屈指の美しい作品。

 

 

 

 

 

 

 

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Steve Gunn / Eyes On The Lines (Matador)

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 ブルックリンを拠点として活動するミュージシャン/SSWの2016年作。ギターのリフで楽曲をドライブさせるギター・ロック。それぞれのフレーズにはギターという楽器の構造・特性が色濃く出ており、ギター・ロックというよりはギター・ミュージックと呼んだ方がしっくりくる。どちらかといえばJohn FaheyやRobbie Bashoといったアーティストの系譜にある(現代なら山本精一がスタイルとしては近いか)。各フレーズは有機的に繋がっており、リズムも豊か、またボーカルにも味がある。伝統的な感性と現代的な感性を自然に融合させた稀有な作品である。

 

 

 

 

 

 

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Steve Mason / Meet The Humans (Double Six)

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 The Beta Bandの元フロントマンであるイギリス出身のアーティストの3rd。リバーブのかけられた空間的な音遣いが特徴的なユーフォリックなロック。聴き手を包み込むような音響はRadiohead「Subterranean Homesick Alien」などを思わせる。こういう柔らかさと清涼感の同居したサウンドには弱い。ストリングスを使用した王道なアレンジも堂に入っている。全体的に驚きはないがよくまとまっている。ここまで衒いなくポジティブなムードを提示した作品も珍しいような気もする。『OK Computer』のファンはぜひ。

 

 

 

 

 

 

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Various / Chromophore (Slow Life)

 ベルリン拠点のレーベルの初のコンピレーション。そのサウンドに時代の先を往くような先鋭的なところはないが、代わりにレコード・ディグで培われた(クルーのほとんどが名の知れたディガーらしい)センスが作品にタイムレスな魅力を付与している。(現在はどうかわからないが)当時レーベルからリリースされていた楽曲はほとんどがS.Moreiraによってプロデュースされており、そのS.MoreiraはPeacefrogやGuidance Recordingsといった10年以上も昔の(時代を超えて愛されている)ハウス・レーベルのサウンドから影響を受けていたようだ。soundcloudにアップされているミックス群にもレーベルの美学は貫かれている。

 

 

 

 

 

 

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Will Long / Long Trax (Comatonse Recordings)

 Celerという名義でも活動しているアメリカ出身、東京在住のアーティストによる初の本名名義のアルバム。柔らかで洗練された瞑想的なディープ・ハウス。一番の特徴は(Stars Of The Lidを彷彿とさせる)メロディーの1ループの異様な長さで、聴き手がメロディー・コードの流れを掴む頃には時間間隔がよりスロウな方向に歪められている。すき間のたっぷり取られた超シンプルなサウンドだが、聴いた印象はまさに"体験"と呼ぶにふさわしいディープなものである。レーベル主宰のDJ Sprinklesによる全トラックのオーバーダブ・バージョンも同時収録。

 

 

 

 

 

 

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吉田省念 / 黄金の館 (P-Vine)

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 京都出身のミュージシャン/SSWによる、ロックバンド「くるり」脱退後のソロ・アルバム。凛とした佇まいのギター・ロック。オープニングを飾るインスト・ナンバー「黄金の館」を聴けばギター・サウンドへのこだわりは伝わるだろう。しかしながら本作の中心にあるのはギターではなく、本人による素直で飾らない、おおらかな「歌」である。落ち着いた声質だが「夏がくる」「青い空」などの疾走感のある曲では熱く歌い上げることも。(広すぎない)空間を感じさせる録音による風通しのいいサウンドも魅力。瑞々しい傑作。

 

 

 

 

 

 

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蓮沼執太 / メロディーズ (B.J.L.×AWDR/LR2)

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 東京出身のマルチメディア・アーティストによる2016年作。環境音・電子音を主体とした作品を作ってきていた(テレビやラジオなどで知らずに彼の音楽に触れている人もいるだろう)が、今作は自身のボーカルとポップスの方法論を取り入れた「歌もの」の作品となっている。前半と後半で多少質感が異なり、前半がアコースティックでからっと、後半がエレクトリックでしっとりという具合。しかし軽やかさ・細かな音の小気味よさは全編で共通しており、アルバムの大きな魅力となっている。個人的にはCorneliusのポジションに最も近い存在と思っている。

 

 

 

 

 

 

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2017

 

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Cornelius / Mellow Waves (Warner Music Japan)

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 東京出身のアーティストの約10年ぶりの6th。タイトルの通りメロウな空気の歌ものアルバム。クリアで緻密な立体音響は健在で、オープニングの「あなたがいるなら」から遺憾なく発揮されている。実験的な面は控えめな一方、いつになくSSWとして・ギタリストとしての側面が強く出ており、わりと親しみやすい。流れが悪いと感じる部分もある(#7以降は文句なし)が佳曲の揃った良いアルバムである。「あなたがいるなら」は音響・ギター・ソングライティングと三拍子揃った名曲。雨が似合うアルバムでもある。

 

 

 

 

 

 

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DeepChord Presents Echospace / live in detroit [ghost in the sound]

(echospace [detroit]) 

 Rod ModellとStephen Hitchellによるユニットの10周年を記念したリリースで、2013年にデトロイトで行われたライブセットをリマスタリングしたもの。ダブ・テクノ自体とても硬派な音楽ジャンルだが、本作ではライブならではの展開の妙やダイナミズムといったものが加わり、よりフレッシュでエモーショナルな響きを獲得している。もちろん、気づいたら景色が変わっていたというようなトリップ・ミュージックとしての側面も健在だ。

 

 

 

 

 

 

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Fleet Foxes / Crack-Up (Nonesuch)

 シアトルを拠点に活動するバンドの3rd。厳かな響きのあるフォーク・ロック。静と動を自在に行き来するダイナミックな楽曲はGrizzly Bear『Veckatimest』を彷彿とさせる。全体的にシリアスなムードの中でボーカルのメロディーの朗らかさ・ハーモニーの美しさが際立っている。独特なこもった音響はまるで教会や洞窟で鳴らされているかのようであり、分離は悪いが生々しい迫力がある(よく聴くと細かな音も入っていることに気づく)。聴きやすさよりも芸術的・音楽的な追究を取ったバンドの心意気も評価したい。

 

 

 

 

 

 

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Jonny Nash & Suzanne Kraft / Passive Aggressive (Melody As Truth)

 オランダを拠点として活動する二人のアーティストのコラボ作。柔らかな音色がゆっくりと漂うアンビエント。牧歌的な音色のシンセやピアノ、ウッドベースがゆったりと空間を埋めていく。全体の空気感・時間間隔は『Music For Airports』と地続きの王道なもので、サウンド的には少しジャズのフレーバーが混じっている。ドローン通過後のセンスが基底にあり、ゆるやかに変化する持続音や複数の音が混じりながら減衰していくさまを意識して聴くといい。

 

 

 

 

 

 

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Khotin / New Tab (self-released)

 カナダ出身のアーティストの2nd。純粋な音の響きと環境音的な軽やかな音遣いにフォーカスしたアンビエント。作曲の比重は高くなく、ただぼや~っと音が鳴らされているだけとも言えるのだが、それだけでも十分に気持ちいいという音色の作り込みがすばらしい。作品のそこここに配置された人の話し声には電子音を日常に馴染ませる効果があり、作品をフレンドリーなものにしている。終盤、#8「Fever Loop」からビートが入ってきてアルバムはにわかに活気づくが、特に終曲「New Window」の爽やかさは特筆すべきものがあり、90年代半ばのAphex Twinを彷彿とさせるほどである。

 

 

 

 

 

 

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King Gizzard And The Lizard Wizard with Mild High Club / Sketches Of Brunswick East (Flightless)

 超ハイペースで活動を続けるオーストラリアのバンドとLAのSSW/マルチ・プレイヤーによる共作。ビンテージな音色がきらめくジャジーサイケデリック・ロック。まるで70年代にタイムスリップしたかのようなサウンドに驚く。陰影のある複雑な展開を滑らかに、かつオシャレに聴かせるセンスはカンタベリー・ロックに通じるものがある。なにより嬉しいのは全編通じて非常にメロディアスなことで、とても聴きやすい作品となっている。ファン向けに書いておくと、ゴングとハットフィールズのいいとこどりをしたような作品。

 

 

 

 

 

 

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Lee Gamble / Mnestic Pressure (Hyperdub)

 ロンドンを拠点に活動するDJ/プロデューサーの2017年作。現代的で折衷的なエレクトロニック・ミュージックで、正直あまり言語化できていない。Actressのような掴めなさ・(影響元の多さからくる)闇鍋感があるがあそこまで抽象的ではなく……実際サウンド的に一番近いのはAutechreだろう。わからないなりに繰り返し聴けるのはサウンド・楽曲の根底に(自分の好きな)IDM・ジャングルの要素があるからだと思われる。緻密で複雑なアルバムで難解だが、時折現れる美しい瞬間に心を惹かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

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Lily Konigsberg & Andrea Schiavelli / Good Time Now (Ramp Local)

 ニューヨークで活動する二人のアーティストの連名名義の作品で、それぞれの手による楽曲が交互に配置されている。Konigsbergの提供曲には彼女の属する別のユニット(Lily and Horn Horse)での相棒であるMatt Normanによってホーンが高らかに響くバロック・ポップ風のアレンジが為されている。Andrea Schiavelliの提供曲はギターのきらめく軽やかなバンドサウンド(深みのある低音のボーカルが良い)。The Magnetic Fields やBelle & Sebastianに通じる牧歌的な雰囲気の良質なポップス・コレクション。

 

 

 

 

 

 

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Machine Girl / .​.​.​BECAUSE IM YOUNG ARROGANT AND HATE EVERYTHING YOU STAND FOR (Orange Milk)

 ニューヨークを拠点とするMatt Stephensonによるプロジェクトの2017年作。異常なテンションのブレイクコア。デジタルなサウンドはDeath Gripsを思わせるが楽曲はあちらよりもテンポが速く、より躁的である。ジャケットからも読み取れるが内容もゲームから影響を受けた部分があり、時おり顔を出すポップでエモな瞬間にコロッとやられてしまう。3分未満の曲がほとんどでアルバムはテンポ良く進んでいく。痛快なエクストリーム・ミュージック。

 

 

 

 

 

 

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Standing On The Corner / RED BURNS (self-released)

 ブルックリンを拠点に活動するジャズ~ヒップホップグループの2nd。約1時間で36曲もの短い曲が流れていくコラージュ的な作品。AメロBメロサビ~といったポップスの形式に囚われない自由で気ままなイメージのアルバムで、雰囲気のある印象的なフレーズが思いつきの鼻歌のように流れていく(このスタイルはSolange『When I Get Home』にも引き継がれていく)。ふわふわして掴みどころがないが、ビンテージな音色のギターとエレピが中心の、そのヨレヨレのグルーヴから立ちのぼる弛緩した空気には抗いがたい魅力がある。

 

 

 

 

 

 

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Toiret Status / Nyoi Plunger (Noumenal Loom)

 日本の山口県在住のIsamu Yorichikaによるユニットの2017年作。エクスペリメンタルで反射神経の良いエレクトロニック・ミュージック。奔放なリズムに乗ってコミカルでキュートな音が連鎖していくさまは、例えるなら「音のピタゴラスイッチ」。予測不可能性が魅力で、作品にフレッシュさを、聴き手に驚きをもたらしている。高音のストリングスが出てくると『Richard D. James Album』収録曲のようなイメージも。取っ散らかってはいるが、それがむしろ風通しの良さを生んでいる。軽やかで自由な作品。

 

 

 

 

 

 

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Tyler, The Creator / Scum Fuck Flower Boy (Columbia)

 OFWGKTAの首魁による4th。内省的なトーンでまとめられたヒップホップ。アルバムのリード・シングルとなった「911 / Mr. Lonely」が象徴するように「孤独」がテーマの一つで、全編にメロウなムードが漂っている。個人的にはどこか寂し気な曲調で退屈について歌う「Boredom」が自身の状況にも被るのもありとても刺さった(ぜひ歌詞と一緒に味わってほしい)。ポジティブなイメージの強いタイラーがこういう作品を作ること自体が味わい深く、本人も今まで以上に魅力的に映る。働き始めた20代に響く内容ではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

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Visible Cloaks / Reassemblage (Rvng Intl.)

 ポートランドのデュオによる2nd。音色はOPN『R Plus Seven』、James Ferraro『Far Side Virtual』に通じる人工的で潔癖なもので、楽曲も『R Plus~』に近い抽象的なものなのだが、こちらはよりオリエンタルな空気がある。メンバーのSpencer Doranはかつて『Fairlights、Mallets&Bamboo』という、1980~86年の日本産ニューエイジアンビエントにフォーカスしたミックスを発表しており、その彼の趣味が今作にも反映されている。そのため、どちらかと言えば海外のリスナーに受けるサウンドなのかもしれないが、日本の若い世代にも新鮮に響くだろう。

 

 

 

 

 

 

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VRTUA / LOUD FORMATIONS (Beer On The Rug)

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 アメリカはデンバーを拠点に活動するBobby Spiecherのソロ・ユニットによるデビュー作。セガメガドライブの音源を使用したビビッドなサウンドが特徴の機能的なエレクトロニカ。序盤の数曲では昔のゲームにおけるバグ的な現象が音で表現されており耳を引く。MVの作られている「斜め」を視聴してみてほしいのだが、全編この曲と同様にメロディアスで、はっきりとした雰囲気を持っており…まあ、もうほとんどゲーム音楽である(それもとびきりキャッチーな)。自分の中ではMaxoやGraham Kartnaと同じ系譜にある。残念ながら現在レーベルの都合でBandcampページが閉鎖中。

 

 

 

 

 

 

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Zebra3 / Warm Blanket (Lynn)

 Zebra3という謎のアーティストによるミックステープ。日常系のアニメの1カットのようなアートワークが象徴的な、生活感のあるイージーリスニング。おもちゃのようなキュートな音色、たっぷりとすき間の取られたコミカルなアレンジにシンプルでわかりやすいメロディーと、これももうほとんどアニメのBGMである。ミックスされた曲の中にはSFCゲーム音楽のような曲やデジタルなヒップホップのような曲もあるのだが、日常系な曲が一番魅力的。とにかくのどかで癒されるのだ。2018年には続編も発表されている。

 

 

 

 

 

 

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2016年:26枚

2017年:15枚