2017年よく聴いた音楽 番外編その1

 番外編というか… 佳作編ですね。順位もなにもなく、みんな同じくらいよく聴きました。
 追記:むしろこっちが本編のように思えてきた。

The Clientele / Strange Geometry

 たぶんバンドとしての最高傑作。去年のベスト記事で初期のシングルコンピを入れましたが、あの靄のような柔らかさはそのままに楽曲やアルバムの構成が洗練されている。まるでBelle & Sebastianが『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』をやったかのような… 至高のアルペジオアルバムでもある。








Kyle Hall / From Joy

 とにもかくにも個性的な音楽。どこを切り取ってもオリジナルな音色で溢れていて、まさに孤高といった具合。楽曲の良し悪しはさておき、音色のオリジナルさだけで傑作と呼べる域に達している。あえて形容すればジャジーなマシーン・ハウス、という感じになるかな… アナログの生々しく暖かみのある音色が迫力を持って鳴らされている。








Lamp / 恋人へ、木洩陽通りにて

 たった1グループで和製カンタベリーみたいなこんがらがったポップミュージックを作り続けているLampの2ndと3rd。これだけ複雑なコード進行をこなしつつも耳馴染みの良さと歌心を両立させているのはやっぱり凄まじい。とはいいつつも、聴いた後は脳が疲れているような気がして、やっぱカロリーは相当ある音楽だと思う。どっちの作品も路線は同じ感じで… ただ単純に3rdの方がアレンジがこなれてきているような気はする。「抱きよせたい」は相当数聴きました。活動自体がすごくインディペンデントでバンドも孤高なイメージがあり、正直夢のような話だとは思うけど、彼らがアニメ・声優業界に関わることを妄想して止まない。








Fleet Foxes / Crack-Up

 ポップミュージックとしての装飾というか……前作までにあった整理・洗練された音像は鳴りを潜めて、例えばGrizzly Bear『Shields』のような、あるいはまさに本作のジャケットのような生々しく迫力のあるサウンドになったように思う。とはいえ個人的な関心事は彼らの類稀な歌心にあって、時間はかかったけれどもそれが今作においても失われていなかったことが喜ばしい。歌っていて本当に気持ちのいいメロディーを書けるバンド。








本日休演 / 本日休演、けむをまけ


 インディーの、洗練しきる前にしか作れない・宿らない空気のようなものが詰まっていてとても魅力的なのだけど、しかしそんなものに頼らずとも単純に彼らの曲作りのセンスはずば抜けていて…
 自分がその才能を確信したのはVA『From Here To Another Place』のラストを飾る「全てにさよなら」と上に貼った「夜明け」で、特に後者の曲構成はポップに精通していなければ書けないものだと思う(アウトロがロマンチックすぎて泣く)。こんな曲が形にされた以上、期待しないでいるなんてことは不可能だ。
 最後に、埜口敏博さんのご冥福をお祈りします。








Frank Zappa / Studio tan

 改めて見てみたら前回だか前々回のベストで取り上げていたらしい… まあそれはさておき(いいんかい)、今作は20分弱ある大作の「The adventures of Greggery Peccary」もさることながら後半の「Revised music for guitar & low budget orchestra」「REDUNZL」がビッグ・バンド期と75年の「Inca Roads」のちょうど中間のような音楽性でとにかくすばらしい。ぶっちゃけ、この人ひとりでカンタベリーのシーンに匹敵してしまっている。気分はさながらディズニーの映画を見ているようなもので、聴いているとザッパがミュージシャンというより魔法使いのように思えてくる。








長谷川白紙 - アイフォーン・シックス・プラス

Maltine Records - [MARU-168] 長谷川白紙 - アイフォーン・シックス・プラス:フリーダウンロード
 蓮沼執太あるいはトクマルシューゴNinja TuneやBrainfeederから作品を出したらこんな感じになるのでは?とか。はちゃめちゃなビートと不安定なコードをお化けのような、喘息のような声がまとめ上げる。「横顔 S」はヒロイックささえ感じる名曲。この一人サイバーパンクみたいなアルバムを彼は18歳で作り上げたんだ、どうする?(なにが?)








Move D + Benjamin Brunn / Let's Call It A Day

 RAが2008年に彼らの音楽を「Arthropod-house(節足動物ハウス)」なんて形容していたけれどもそれは本当に的を射ていて、本作は時間を経るにつれてその形をウネウネと変えていく。でも節足動物というのは…ちょっと… 一応アルバムタイトルから察せられるように、時間によって移り変わっていくなにかを表現したかったのだろう。曲名にもあるように、例えば電車の窓から見える景色とか、流れていく雲の形とか… 音楽的には次作にあたる「Songs From The Beehive」よりもアンビエント色が強く、日常で聴けるものになっている。曲単位のインパクトはまだしも、アルバムとしてはこちらの方がよくまとまっていると思う。








Okada Takuro / ノスタルジア

 正直に書く、ぶっちゃけメロディが弱いと思う(森は生きている時代からだが…)。とはいえサウンドはおそらく彼の頭の中にある理想のものになっていると思うし、メロディの弱さを差し引いても本作は傑作に値すると思う。
 比較的シンプルな展開を見せるアルバム前半が、メロディの弱さ故に個人的にはちょっと微妙な印象なのだけど、後半の5曲はこんがらがった展開がそれをカバーしてなお魅力的に聴こえ、こちらの方をよりリピートした。
 (蛇足)今作の3曲目を聴きながら、そういえばグリズリー・ベアの新譜聴いてないな、と思いました。








DJ Sprinkles / Midtown 120 Blues、Queerifications & Ruins

 この人は…… 本当に激しい感情を持ちつつも、超人的なバランス感覚でそれを制御しているように感じる。おおらかというか、スケールがものすごくでかいんだけど、破綻しているところが一つもない。常人ならここまで膨らませると穴の一つや二つできそうなものだけど… …なんかすごく感覚的に語っていますけど、この人の音楽を聴いているとそういう印象を持つんだよなあ。。
 『Midtown 120 Blues』は『Long Trax』と一緒に公式の通販で入手。『Queerifications & Ruins』は2、3年前に入手したけど真面目に聴いたのは2017年から。RAのレビューの方が読んでで聴いてみたくなると思うので読んでください。前者が気に入れば後者もやがて気に入るでしょう。なんというか、一般的なポップミュージックよりもずっと大きな音楽です。








台風クラブ / 初期の台風クラブ

 そんなに耳障りのいい音楽ではないけれど、なんだかんだ回数聴いたのは適度にポップでコンパクトに引き締まった楽曲故か。「春は昔」なんてキラーチューンもあるし、バンドとしてのグルーヴもあるし、まさに大型新人といったところ。Parquet Courtsのように快進撃を続けてほしい。








蓮沼執太 / メロディーズ

 前から名前は伺っていたけど今作で初めて聴く。軽快さや小気味よさにフォーカスしたサウンドが特徴で、常にフラットなテンションも相まって、いつでも・どこでもフィットするような音楽に仕上がっている。今作の隣に作品を置くとしたらVampire Weekendの1stだとかSam Prekopのソロ作とかになるんじゃないかなー。テンション的にはレイ・ハラカミなんかも置けるかもしれない。このまま一人The Sea And Cakeとかやってくれないだろうか(老害みたいなこと言ってる…) 名盤だと思います。








Aleksi Perälä / Contact

Contact | Aleksi Perälä
 アナログな質感を持ったドローン・アンビエント作品。無色というかプレーンな印象で、この手の作品にしては短めの収録時間もあってなんの抵抗もなく通り過ぎ、いつの間にか終わっている。音色自体はわりとふくよかで、瞑想みたいな空気もなくはないけど、日常で普通に聴ける雰囲気だと思う。掴みどころがないので飽きにくく、何度も聴ける。とても優良な作品だと思う。








Lily Konigsberg and Andréa Schiavelli / Good Time Now

 ジェントルで牧歌的で……野原を駆ける女の子の姿が脳裏に浮かぶ、そんな作品。もろにベルセバで、『69 Love Songs』で、『Night Falls Over Kortedala』です。好きになるに決まっている。あえて特徴を挙げれば、曲単位というよりはそれらの連なりでなにか表現してるように思います。一曲一曲が短く、どんどん場面が移り変わっていきます。








Luomo / Vocalcity

 セクシーでディープで、反復がもたらす陶酔感をとことん堪能できる名盤。非の打ちどころがねえ… 完璧すぎて書くことがない。完璧すぎて書くことがないというのは嘘です。作品のオーラ(なにそれ?)的には『Loop-finding-jazz-records』と似たようなものを感じている。もしかしたら『Loveless』みたいにそのジャンルを終わらせる最終兵器なのかもしれない。終わったら困るので終わりませんが。ストイックすぎてGASの2nd・3rdみたいな空気も出てきてます。濃密さで言えばヴィラロボスの『Dependent And Happy』にも匹敵する。すごいですね。








Stephen Malkmus / Face the Truth

 ペイヴメントでなんか達観した音楽やってた人がやたらエモくなって帰ってきた。といってこれがソロ1stという訳でもないのだけど。まだこんがらがってるんだけど、ところどころ無理な姿勢のままブーストかけて傷つきながらも突破していく。明らかにこちらを挑発している1曲目のイントロや、そもそものボーカルのテンションからなんか生まれ直したらしいことが伝わる。全体の平均で言えば、もしかしたら楽曲の質はバンド最終作よりも上なんじゃないか?








Lone / Emerald Fantasy Tracks

 前回同様、音楽性についてはエレキングの記事を参照くだちい。良作と知りつつも前半でお腹いっぱいになってしまいしっかりとした評価を下せなかった作品。だいたいの予想の通り、後半の方がドリーミーな感触が強く自分の好みでした。後ろ3曲の流れですね〜… 傑作です傑作。








beirut / No No No

 基本的に熱かった『The Flying Club Cup』の信者なのだけど、穏やかさもここまでくると芸術になりますね。一曲だけ抜き出すなら「Perth」ですけど、このアルバムの流れに沿って聴いた方が何倍もよく聴こえます。サウンドとしては今までのように管楽器のおおらかな音色もありつつ、『Realpeople Holland』で見られたようなころころとしたキーボードも加わり、全体としては小気味よくまとまっています。もしかすると蓮沼執太は今作を参照していたのでは、とかとか。








R.E.M. / Murmur、Reckoning

 今まであっさりしすぎてて聴けなかったR.E.M.、馴染んできたらめちゃくちゃよくなってきた。曲が完璧… オルタナティブロック(あんま分かってないまま使うぞ)の原型という感じが確かにする。ロック再誕… クラシックというよりはスタンダード。これを聴いた後だと確かにレディオヘッドは影響受けてるなーと思います。アレンジは完璧なんだけど、フォーキーというか音が薄っぺらいので今の音に慣れた耳だと馴染みにくいと思う。でもそれを乗り越えるだけの価値はあります。








Cornelius / Mellow Waves

 良いです。良いです全然。年間ベストにコーネリアスの新譜入れる奴〜〜〜みたいな言葉を見かけたような気がするけど、なにがおかしいねんという感じだ。依然音作りに関しては孤高の境地にいると感じる。全体的にしっとりとした音使いがお気に入りなんだけど、特に抵抗なくスラっと流れていく後ろ4曲が好み。一番リピートした曲は「The Rain Song」で、歌もいいがだんだん強まっていく雨の様子を表現した伴奏がすばらしい。「あなたがいるなら」は貫禄の名曲だし……傑作だよぉ〜〜〜。








 おーん、改めてなんでリスト入ってないんだ?という作品ばかりですね、なんでだろう…? いや選べなかったんですよ、みんながみんな好きな作品だったから。2017年の音楽生活は充実していたんだなあ… その2へ続きます。