『2010年代の200枚』(2018~2019年)

 年を経るにつれて枚数が減っていく。自分が聴き切れていないので…。

 

 

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レギュレーション的なやつ

・2010年1月1日~2019年8月25日(『紙版~』の発行日)に発表された作品からチョイス

・チョイスにあたっての指標は以下の3つ

 「音楽性のユニークさ」「作品の完成度」「自分の好み」

 

 作品はそれぞれの年ごとにアルファベット順(あいうえお順)で並んでいます。

 

 

 

 

 

 2018

 

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AIKATSU☆STARS! / BRILLIANT☆STARS、STARS☆SHOWER (Lantis)

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 日本のアーケードゲームおよびアニメ作品である『アイカツスターズ!』の楽曲をまとめたベストアルバム。MONACAが音楽を担当した前シリーズに引き続きエレクトロニックな質感のサウンドが特徴。おすすめ曲を挙げていきます…。「みつばちのキス」フレッシュな王道アイドルポップ。「おねがいメリー」きらり☆ふわふわなドリーム・ポップ。「Bon Bon Boyage!」Lone的なきらめくサウンドのEDM。「森のひかりのピルエット」変態的なコード進行。子供が聴くんだぞ?「Message of a Rainbow」初期中村一義を彷彿とさせるハイトーンが光る。

 

 

 

 

 

 

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AOTQ / e​-​muzak (Local Visions)

 今もっとも勢いのある島根のネット・レーベル「Local Visions」のカタログ・ナンバー1を飾る、謎の日本人?による(おそらく)デビュー作。「muzak」というワードが示すように機能的なヴァーチャル・ラウンジ・ミュージック。全ての曲が切れ目なく繋がっており、柔らかく浮遊感のあるサウンドも相まってずっと浸っていたくなる。特筆すべきはクオリティ・コントロールで、すべての曲・あらゆる瞬間でクオリティが均一に保たれており、綻び一つない完璧な作品世界が築かれている。完璧なアルバム。

 

 

 

 

 

 

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DJ Bus Replacement Service / いろんなDJMix

 イギリスのDoris Wooという人物(あのSurgeonの妻でもある)のDJ名義であり、オリジナルの楽曲は(おそらく)作っていないのだが、そのDJスタイルがあまりに個性的なので取り上げる。全てのギグで北朝鮮の最高指導者・金正恩のコスチュームを身に着けるというエピソードも意味不明なのだが、プレイする曲も出所不明の謎な曲ばかりで、とにかくおもしろいのだ。その"おもしろい"というのも興味深い的な意味ではなくギャグ的な意味であり、DJというよりはもはや漫談芸人的なイメージである。笑いたいときに。

 

 

 

 

 

 

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Earl Sweatshirt / Some Rap Songs (Columbia)

 OFWGKTAのメンバーでもあるラッパー/プロデューサーによる3rd。MadlibJ Dillaに影響を受けたラフでヨレたビートが特徴のヒップホップ。トラックの持つ独特のグルーヴがすさまじく、集中して聴いていると悪酔いしそうになってくるため、どちらかといえばラップの方を意識して聴いた方がバランス的にはいいかもしれない。約25分という短い作品だが中身は濃密で、聴き終わると少しぐったりしてしまう。今作の音楽性が気に入ったなら、盟友であるMIKEの作品も聴いてみることを勧める。

 

 

 

 

 

 

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emamouse ✕ yeongrak / Mouth Mouse Maus (Quantum Natives)

 emamouseという日本のアーティストとyeongrakというニュージーランドのトラックメーカー?によるコラボ作。トラックはなんとも形容し難い…バイオハザードのゾンビのようなグロテスクな印象のあるアバンギャルドなものなのだが、そこに乗っかるメロディーにはチャイルディッシュでキュートなセンスがあり、それらが合わさることでとても奇妙な音楽ができている。Gobbyのような意味不明さとポップさが同居した作品。Soundcloudのページからダウンロードできる。

 

 

 

 

 

 

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Kanye West / ye (Def Jam Recordings)

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 アメリカのラッパー/プロデューサーによる8th。ジャケットに書かれた「I hate being Bi-Polar, it’s awesome(躁鬱でいるのは辛く、最高だ)」という文言が示すように分裂的な側面の現れた作品。アルバムは殺伐とした前半とソウルフルで祝祭的な後半(#4~)とに分かれるが、全体としては今までになく内省的な仕上がりとなっている。全7曲で25分を切るコンパクトな作品で、まとまりもよいためついリピートしてしまう(なにより過去作と比べてサウンド的にマッチョな部分が少ない)。最終曲「Violent Crimes」はミニマルでメロウな名曲。

 

 

 

 

 

 

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Meitei/冥丁 / Kwaidan/怪談 (Evening Chants)

 広島で活動するアーティストのデビュー作。「失われた日本の雰囲気」へとフォーカスした幽玄なエレクトロニカ/アンビエント。空気感を大事にした繊細なエレクトロニカに日本の古い怪談を読み上げる音声が乗る。音声は淡々としたもので過度にエモーショナルになることはない。物理メディア由来のノイズやフィールドレコーディングしたと思われる自然の音も趣深い。オリエンタルで幻想的な雰囲気が魅力的な、ユニークな作品。翌年にリリースされた『Komachi』は水の音に焦点を当てた作品となっており、こちらもおすすめ。

 

 

 

 

 

 

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Noname / Room 25 (self-released)

 シカゴ出身のラッパー/プロデューサーによるデビュー・スタジオアルバム。穏やかなムードのトラックに口語調の滑らかなフロウが乗るヒップホップ。サウンドはより生音志向になりリッチな響きに。抑制されたテンションによる洗練された表現が光る。脅迫的・圧迫的なところのないオシャレなサウンドなので普段ヒップホップを聴かない人も楽しめるのではないだろうか。なにより掴みの1曲目「Self」が最高にキャッチーである。今作ほどの深みはないが前作の『Telefone』もポップな傑作。どちらもフリーダウンロード。

 

 

 

 

 

 

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Pendant / Make Me Know You Sweet (West Mineral Ltd.)

 Huerco S.の名義で知られるアメリカのプロデューサーが新たに立ち上げたレーベルから名義を変えてリリースした作品。ダブ由来のズブズブな音響の中で奇妙な効果音が渦を巻く。基本、メロディーはなく、煙のような掴み切れない音の塊に包まれるのみなのだが、散りばめられた謎の物音とサイケデリックな音響効果が聴き手を深いトリップに誘う。アンビエントの皮を被ったサイケデリック・ミュージック。『Selected Ambient Works Volume II』やGasの諸作などに並ぶ、異様にディープな作品である。

 

 

 

 

 

 

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Sarah Davachi / Let Night Come On Bells End The Day (Recital)

 非常に創作ペースの早いカナダのアーティストによる2018年作。メロトロンと電子オルガンによる柔らかなドローンとバロック音楽を組み合わせたアンビエント。オルガンの音色や少し籠った音響は教会のスピリチュアルで荘厳なイメージに繋がる。根底にあるのはÉliane Radigueのようなストイックなドローン・サウンドであり、最終曲「Hours in the Evening」において本家に匹敵する瞑想的サウンドを堪能することができる。流していると霧がかかった西洋の街並みが浮かんでくる。

 

 

 

 

 

 

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Skee Mask / Compro (Ilian Tape)

 ドイツのDJ/プロデューサーによる2nd。霧のようなアンビエンスをまとった勢いのあるエレクトロニック・ミュージック。本作を構成する要素はIDMにジャングル、アンビエントブレイクビーツ…という、90年代を彷彿とさせる伝統的なものばかりなのだが、それらをうまく組み合わせてポップで新しいサウンドを生み出しているところが魅力である。全編にわたってメロディアスで親しみやすく、普段この手の音楽を聴かない層にも受けそうだ(Pitchforkの本作に対する高評価がそのことを如実に示している)。

 

 

 

 

 

 

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Stephen Malkmus and The Jicks / Sparkle Hard (Matador)

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 元Pavementのフロントマン率いるバンドの2018年作。バンド・アンサンブルもストリングスなどのアレンジもビシッと決まった豊かなロック。「Future Suite」や「Refute」といった入り組んだ楽曲を、そうとは感じさせずにサラッと弾きこなすさまがカッコいい。音色もサウンドもリズムもどれも一捻り加えてあり一筋縄ではいかないのだが、そのことがキャッチーさを生んでもいる。この気の利いた予想の外し方に円熟を感じずにはいられない。最高の年のとり方をしている。キャリア屈指の充実作。

 

 

 

 

 

 

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小袋成彬 / 分離派の夏 (Epic Records Japan)

 日本のSSW/プロデューサーのデビュー作。内省的で現代的なR&B。自在な節回しの自由闊達なボーカル(高音部における表現力がすさまじい)と繊細かつ劇的なソングライティングが魅力で、思わずアメリカにはFrank Oceanがいるが日本には小袋成彬がいる(ロンドンに移住しましたが…)、なんて言ってみたくなる。シンプルだが的確な、柔らかなビートに抒情的なギターとキーボードの乗っかる空間的なサウンドは10年代のR&Bにおける王道と呼べるもの。一曲選ぶなら「Daydreaming in Guam」。芸術的な歌詞も趣深い。

 

 

 

 

 

 

 

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折坂悠太 / ざわめき (ORISAKAYUTA)

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 日本のSSWの2ndミニアルバム。オーガニックでフレッシュなサウンドで奏でられる伝統的な歌謡曲。一聴すると清楚で素朴な印象ながらも、その実圧倒的な表現力を持つ歌唱がすばらしい。特大声量のボーカルから繰り出されるコブシの効いた独特の節回しには深い情感が詰まっている。楽曲にははるか昔から存在していたかのようなスタンダード感がある。演歌や歌謡曲といった日本の伝統的な音楽を現代的な感性でアップデートしてみせた傑作。特に1曲目「芍薬」の勢いには特筆すべきものがあり、ぜひ一度MVを視聴してみてほしい。

 

 

 

 

 

 

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2019

 

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Helado Negro / This Is How You Smile (Rvng Intl.)

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 エクアドル移民のルーツを持つアメリカのSSWによる6th。ややトロピカルなムードのある内省的なフォーク作品。英語とスペイン語の入り混じるボーカルにはエキゾチックな味わいがあるし、マリンバやスティール・パンといった楽器が牧歌的な空気を醸し出しているが、『Carrie & Lowell』に通じる繊細さが作品の根底にはある。MVの作られた「Running」で顕著だが、アルバム全体から感じられる大らかで柔らかいフィーリングが一番の魅力だ。#9「November 7」以降の穏やかな流れは絶品。控えめながら鮮やかな感性のにじむ作品。

 

 

 

 

 

 

 

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Moodymann / SINNER (KDJ)

 デトロイトのDJ/プロデューサーによる2018年作。黒さにあふれたソウルフルなディープ・ハウス。冒頭の「I'll Provide」が典型だが印象的なコードを巧みに使って緊張感を維持することに成功している。今まで以上に親密な空気があり、特に「Downtown」~「Deeper Shadow」のリラックスしたムードには抗いがたい魅力がある。適度なボリュームで一曲一曲がかっちりと作られているので掴みやすく、とっつきやすい。そういう意味で初心者にも勧めやすい作品だ。デジタルとフィジカルで収録曲が違うので注意。

 

 

 

 

 

 

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Thom Yorke / Anima (XL Recordings)

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 イギリスのバンドRadioheadのフロントマンのソロ3rd。身体性と構築美を備えたダイナミックなエレクトロニック・ミュージック。『The King Of Limbs』に通じるミニマルなビートを基礎に、ミステリアスなコードで楽曲を展開していく。ゆっくり時間をかけてビルドアップするタイプの楽曲が多く、ライブが映えそうだ。#2・#3がそういった形式の典型で、また前半のクライマックスでもあるので、とりあえずここまで通しで聴いてみるといい。壮大な楽曲が揃う中、リリカルな歌ものの#5「I Am a Very Rude Person」が軽やかに響く。

 

 

 

 

 

 

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Weyes Blood / Titanic Rising (Sub Pop)

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 アメリカのSSWによるレーベル移籍後初となる4th。映画にもなったタイタニック号の沈没をモチーフに作られた、豪華でファンタジックなチェンバー・ポップ。かなり複雑なコード進行を軽やかに聴かせる充実のソングライティング。暖かみのある音色のストリングスやキーボードによる華麗なアレンジからはポップスの王道を往くという意思のようなものを感じる。穏やかな海を思わせる深みのあるボーカルも含め、タイタニック号の名を冠すにふさわしいサウンド・楽曲である。堂々たる傑作。

 

 

  

 

 

 

 

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2018年:14枚

2019年:4枚