2018年に聴いてよかった作品 番外編その2

 前回の続きです。GO!

 

 

Skee Mask 『Compro』(2018)

 #2「Session Add」のビルドアップの滑らかさよ…。様子見のつもりが気づいたら沼にどっぷりとハマっていた、みたいな体験ができます。沼というか……ジャケットみたいに、もやもやの中を進んでいたらあるときパッと視界が開けて……みたいな感じ。基本的には霧のようなアンビエント感覚とブレイクビーツの合わせ技で、要素だけ見れば非常に伝統的なのだけど、それをポップに新しく聴かせることに成功している。2018年屈指の温故知新レコード。

 

 

 

 

 

 

 


emamouse X yeongrak 『mouth mouse maus』(2018)

 アートワークから察せられるような、ゲテモノ(ええ…)ミュータント・ポップ。yeongrakという、たぶん海外のアーティストと、emamouseという日本人のアーティストのコラボレーションらしい。yeongrakによるジャンクでグロテスクなサウンドとemamouseのどこか懐かしさも感じるチャイルディッシュなメロディーセンスが悪魔合体して、なに、なんすかねこれ、こう、いわく言い難い音楽ができている。前にも書いたけど、エヴァ新劇場版での「翼を下さい」のような異化効果が今作においても発揮されていると思う。変な音楽だけどよく聴きました。

 

 

 

 

 

 

 


トリプルファイヤー 『スキルアップ(2014)


トリプルファイヤー "スキルアップ"(Official Music Video)

 青春ゾンビさんでのレビューでキャッチして、それから4年も経ってからハマるという…。シュールな歌詞とパフォーマンスにどうしても目が行くが、実は(実はでもないが)楽曲・アレンジがとても洗練されている。感動したのは#6「本物のキーホルダー」の間奏部分のギターソロで(ちょうど2分のところ)、あれだけ溜めたのだから爆発するのかと思ったらへなへな~で……ポップスに通じていないとこんな芸当はしないと思う。1曲選ぶなら「カモン」。個人的にはWireやParquet Courtsを思い出すノリ(どちらもセカンドのころ)。

 

 

 

 

 

 

 


Califone 『Heron King Blues』(2004)

 サウンドが良すぎる。サウンドが良すぎる(二度目)。音響カントリーとでも呼べばいいのか、サウンドが良すぎるバンドの2004年作で、たぶんディスコグラフィー上もっとも穏やかなアルバム。一音一音が存在感を持って鳴らされている。正直、ポップスとしての毒の強さというか訴求力のようなものはそんなに強くないので、ハマるって感じではないのだけど、たまに聴くとその自然で豊かな音の響きに心が洗われるような感じがします。落ち着いた飲み屋とかで流れててほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

衆道徳 『公衆道徳』(2015)

 世間は彼の「空中泥棒」名義の新作で賑わっていましたが自分はまだそこまでたどり着けていない。。 前に書いたものをそのまま持ってきますけど、「何にも縛られずに音で遊んでみたというような雰囲気が全編通して感じられるところがステキ。」まさに「音楽」といった感じです。英語よりもさらに馴染みの薄い言語で歌われるボーカルもその印象を加速させているような。コンパクトな作品ですが楽曲自体はハイパーというかかなり濃いので注意。

 

 

 

 

 

 

 


Frank Ocean 『nostalgia, ULTRA』(2011)

 リアルタイムでダウンロードしておきながらちゃんと聴くのがこのタイミングとか…まあそういうものですよ、人生って…。柔らかさとどこか透き通った、きらきらした感じが同居したサウンドが特徴。そもそもマッチョな感じがないのがいい。オープニングトラックである「strawberry swing」のラストの展開でもう、うっとりしてしまう。お気に入りの曲は「we all try」、「songs for women」(この2曲はギターの使い方がフランク~って感じがする)、「dust」。特に「dust」はヤバくて、こんなにロマンチックな曲ってなかなか無い。記憶をテーマにした曲なのかな? 曲名と慎ましく光を反射するトラックとのギャップ。泣きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 


Will Long 『Long Trax 2』 (2018)

 出た当初はもう完全に前作の焼き直し、劣化コピーじゃんUNK~~~!って感じだったけど結局かなり聴いてしまった。自分は絶対にアンビエントには勝てないらしい。たぶん冬に入るコタツみたいなものだと思う。前作はリッチな音色のコードが自分的にはかなりの衝撃で、それを通過した後の耳では、そこからあまり変化のない今作の音に驚くことはできないのだけど、楽曲自体は前作同様のレベルで、充分に楽しめるものになっている。このシリーズが想起させるフィーリングはなんだかんだでいまだに唯一無二のもので、このシリーズからしか補給することができないんだよな。最終的にはそこですね。

 

 

 

 

 

 

 


Nuno Canavarro 『Plux Quba』(1998)

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www.ele-king.net

reutopia-music.blogspot.com

 度々再発されている電子音楽の名盤。2つ目のリンク先(学生時代からずっとお世話になっているブログだ)に基本的なことは書かれているので読んでください。やはり音がいい。曲によってはまるで光の粒と戯れているかのよう。白いよね……。この音楽が一番似合う場所に行ってみたい。曲っぽい曲があんましないので、人によっては受け付けないかもしれないけど、こういう音そのものを楽しむ姿勢って大事だと思う。#11「Crimine」中盤以降から最終曲までの、牧歌的で幻想的な流れが個人的ハイライト。88年の時点でこの感覚を、この純度で形にしているってのは、やっぱり異常なことだと思う。。

 

 

 

 

 

 

 


Isaac Hayes 『Hot Buttered Soul』(1969)


Walk On By by Isaac Hayes from Hot Buttered Soul

 これはもうね、プログレですプログレ。今作がプログレだってなんでみんな教えてくれなかったんです??(無茶言うな) でも実際、プログレにハマっていた高校生時代にいろんなブログ・ホームページをガラケーで読み漁っていたけど(プログレは日本では人気なのでそういうサイトもいっぱいある、ありがたい)、今作に触れているところは一つもなかったと思う。それはさておき、内容は長尺を飽きずに聴かせる構成・アレンジの光る、非常に豊かなブラック・ミュージックで、問答無用のクラシックです。クリムゾンがデビューを飾る69年にこんなに巨大で、エンターテインメント性に溢れる楽曲が存在していたのだ… 中高生時代に出会っておきたかった作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

Cocaine 80s 『Erxpress_og』(2012)

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bmr.jp

  ↑の記事内のリンク先からダウンロードできます。音楽プロデューサーNo I.D.を中心とするユニットだかコレクティブの2012年作。No I.D.って方、知らなかったけど普通に大物ですね。古くはコモンのキャリア初期から、近年ではJay-Zカニエ、Vince Staplesらと仕事をしています。そこから察せられるとおり、とても質の高いブラック・ミュージックを展開しています。ギターがサウンドの中心に据えられていて(弾き語りの曲もある)、それが自分が馴染めたポイントだったのかも。「Thiscantbeacrime」(名曲)はミックスで使わせていただきました。

 

 

 

 

 

 

 


古井戸 『古井戸の世界』(1972)

 日本人が「フォーク」と聞いて想像する音楽、だいたいこれなんじゃないか、という音。すばらしいのは抜群の歌唱力を誇るボーカルと、歌心のあるメロディー。1枚目のアルバムだけどソングライティングはオリジナルなものが完成していて(四畳半というか、もっとストリート的なものを感じます)、いくつかの曲には音楽の教科書に載ってもいいと思えるような、普遍的な良さが宿っているように思う。というか冒頭の「ごろ寝」からもう100億万点なんだよな。みんなも実際に聴けば100億万点…ってなると思う。少し寂しい感じの「待ちぼうけ」も名曲だなあ~。時間を持て余していた大学生の時分に出会いたかったですね。たぶん一番似合うと思う。

 

 

 

 

 

 

 


Angel 1 『Liberal(2013)

 1080pから出ていた『Allegra Bin 1』が好きすぎていまだに追っている(追えてない)Angel 1の、2013年にexo tapesからリリースされた作品。つまり『Allegra~』よりも前の作品なのだけど、ベストに挙げたToki Nakayamaと同じく完全に楽曲で勝負というスタイルで、そういう意味では『Allegra~』の正統な前作と言えそう。『Allegra~』は異次元レベルの傑作で、あれに比べると今作はまだ尋常の域に収まっている感じだけど、それでも楽曲のレベルは非常に高い。メインの音色が柔らかめなのでカナダのふわふわハウス勢(?)のファンなどにもおすすめしたい。

 

 

 

 

 

 

 


GAROGARO(1971)

 古井戸に続き、同年代の日本のフォーク・グループの1st。CSN&Yに倣っためっちゃくちゃ綺麗なコーラス・ワークが特徴。古井戸とは違い、ポップスとしてなんというか、きちんとオシャレをしている。メジャーな、華やかな空気がある。どの曲もシングルカットできそうなくらい強く、代わりにそれぞれの曲の雰囲気はバラバラで、ぶっちゃけアルバムという括りで捉える必要性は薄いと思う。一曲選ぶなら冒頭の「一人で行くさ」で、これ一曲だけでも個人的な日本のポップス史に名を残す。

 

 

 

 

 

 

 


Noname 『Room 25』(2018)

 おおー、結局Metacriticの集計で2018年のベストになったんですね。個人的には珍しく(もないけど)Pitchforkと同じくらいの点数評価なんですけど、まあ自分のはリリックガン無視での評価なんであれなんですけど…。一発でビビっときたのは#1「Self」と#6「Regal」で、どちらも最高のフレーズ・最高のループで極楽~……という感じなのだが、どちらも曲としては少し雑というか、あくまで「トラック」に留まっている感じで、そこが少しもったいないなと思わなくもない(ある意味では贅沢だ)。ああー、でもやっぱり歌詞が大切なのかな、今の自分の感触だとどう考えても90以上はいかないもんなー。うーん。

 

 

 

 

 

 

 

 
Kendrick Lamar 『To Pimp A Butterfly』(2015)

Kendrick Lamar - These Walls (Explicit) ft. Bilal, Anna Wise, Thundercat

 はじめは頑張って聴いてたけど、そのうちに気持ちよくなってきて頑張らなくても聴けるようになった。雰囲気の統一感すごいし、これだけ長くても飽きずにダレずに聴けるし、やっぱりすごい(語彙)……のだけど。やはり総体としては自分の好みではないんだな。周りの評価に異論はないし自分でも傑作と思っているけど、それはそれとしてfavoriteではない。まあそういうこともあります。一応、曲単位ではfavoriteもあって、#5「These Walls」と#8「For Sale? (Interlude)」はめっちゃ聴きました。でもこの二曲は他の人もみんな好きな気がしますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

Frank Ocean 『Blonde』(2016)


Frank Ocean - Self Control

 実は2018年、めっちゃこれ聴いてたんすよ…。発表当時より聴いてた。というのもようやく曲の形が掴めてきたから。特に#5「Solo」、#6「Skyline To」、#7「Self Control」の3曲が掴めたのが大きい。アルバム中で一番いいのがこの3曲の流れだと思う。結果として、アルバムの前半(#8まで)に限って言えば、この十年間(に留まるかわからんけど)でトップの出来だと思うようになった。「Skyline To」「Self Control」の美しさが本当に筆舌に尽くしがたい。小袋成彬~!!!(なんなんだ)

 

 

 

 

 

 はい、これで年間ベスト終わりです。今年は2010年代最後の年なので、年末には1年間のベストアルバムに加えてここ10年間のベストアルバムをテーマにしたリストが出回るのではないでしょうか。今から楽しみですね。