四月馬鹿達の宴(2010)感想・評価

 フィクション・物語をめぐるRPG

 

 

 

評価:8 /10

プレイ時間:24時間

 

 

 

w.atwiki.jp

 

 フリゲ界隈でよく名前を見かけるのでプレイした。⇧のWikiにゲーム本体とパッチへのリンクがあります。

 

 カブパコヌ焦原を完全にスルーしてたのでストーリーの背景情報をいろいろと見逃してたっぽい(あとで動画でカバーしました)。行く用事なかったんだもん…。

 

 

 

 基本はドラクエとサガを足して割ったようなRPG。独自のシステムが多く、それらの中でおもしろかったものについてまず触れていく。

 

 

 

 

 

・トランシーバー

 移動中に使えるアイテムで、マザー2のヒント屋みたいな存在。プレイヤーの誘導がかなり薄いのでわりと活用した。この機能である程度カバーはされているけど、それはそれとして次にどうすればいいのか分かりにくいのは不満。

 

・ラジオ

 世界中に3~4桁の謎の数字がある。実はそれらは周波数を示していて、ラジオを使ってそれらにチューニングするといろいろな情報が得られる。ラジオを入手するまでは数字がなにを示しているのかまったく分からないのがいい。詰んだときの救済も含め、実はゲーム中でも相当重要なインフラ機能なのだが、当のラジオが入手必須なアイテムではない=プレイヤーが意図せずスルーしうるのが本当によくない。ストーリー中で必ず入手するようにするべき、というかなんなら初期から持っててもいい重要アイテム。

 ラジオから得られる情報は主人公たち以外の存在が発してるもので、自ずと世界の広がりを感じさせてよかった。

 

・料理の好み

 キャラごとに食べ物の好みがあり、また料理アイテムも異様な種類がある。好みによって効果量が大幅に変わる。キャラの個性を表現できていてよかった。好みは覚えていられなかったのでWikiで常にキャラのページを開きながらゲームをプレイしていました。

 

・属性

 文明→精霊→信仰→文明……という3すくみの関係。FGO天地人と少し似ている。FGOよりだいぶ早いけど。

 属性相性が非常に強いデザインだけど覚えられなかったので普段は意識せずにプレイしていました。

 

・MPチャージ

 本作の戦闘は基本的に全員MP0から始まり、戦闘中に「チャージ」を行うことでMPを獲得していく。珍しい仕様であり少し煩雑だけど、戦闘部分が全体的にレスポンスが良いので手間はあまり問題になっていないし、難易度的には実はよくバランスが取れている。

 MPをゼロから溜めていく(互いにその様子は可視化されている)デザインのなにがいいかと言うと、ある程度の予測が働く点だ。MPが少ないうちは大技は撃ってこないだろうとか、MP溜まってきたからそろそろ大技を警戒するか、とか。RPGのコマンド選択式戦闘にタイミングを測るおもしろさがうまく組み込まれている。

 またMPのチャージ量(チャージコマンド一回で回復するMPの量)が魔法の被ダメージ量に影響しているのもおもしろい。MPチャージ量が2倍のときは被ダメージ量も2倍で、逆に0のときは被ダメージも0という。世界観的になんとなく伝わるところがあるし、戦術的にも活用できるのでおもしろい。MPチャージ量0のときってすごく現実的というかシビアな思考に一時的になっていたりするんですかね。

 

・隊列

 移動中でも戦闘中でも隊列をフレキシブルに変えて物事にうまく対応するのがおもしろい。キャラクターが先頭のときor控えのときのみ発動するスキルがあり、それを活用するのが楽しい。例えばフィールド上の拾えるアイテムを見やすくするスキルがある。新たなフィールドを探索するときはそのスキルを持ったキャラを先頭にすればプレイが楽だし、そのキャラは探索が得意・スカウト的な技能があるんだな、とフレーバー的にも楽しめる。

 戦闘においても、主に上述した属性の影響で隊列をよく変更することになる。この敵はこの属性を持ってるから攻撃を受ける先頭のキャラはこいつにして……みたいな感じで対応するのが楽しい。

 

・レーダー式エンカウントシステム

 説明が難しいので説明は省くのだけど、本作のエンカウントシステムが、①なにも意識しなければ普通のランダムエンカウントで、②意識すればエンカウントをプレイングによって避けられる、という絶妙な塩梅になっていてよかった。

 ただこれも完璧な解ではないっぽく、マップを落ち着いて眺めることができない(敵のほうから自機に近づいてくるので)。しかしそれを差し引いてもいい感じだなと思った。

 

・装備を灰に

 装備を犠牲にしてキャラクターの能力を上げたり新たなスキルを覚えることができる。使わない装備にも売る以外の使い道を作れていてよかった。普通に能力値を上げるよりも特定の装備を灰にした方がコスパがよかったりして、そういうのを探る楽しみがある。

 

 

 

 

 

 よくない、苦しめられたシステムも残念ながらあるので、私のストレス解消も兼ねて触れていきます。

 

・装備を灰に

 灰にしたときになにが起こるのか分からないので、貴重な装備の場合は誰に装備させた状態で灰にしたら一番いいのか検証しなければならないのが非常にストレス。特定のキャラに装備させて灰にしたときだけスキルを覚える(他のキャラの場合は単にステ上昇で終わり)、みたいなパターンもあり気軽に触ることのできないシステムになっている。結局有志によるWikiを参照することで対応した。

 よかった点でも触れたシステムだが、総合的に見れば現状ではデメリットが勝っていると思う。おもしろさよりもプレイヤーにかかる負担の方が大きくなってしまっていると思う。ステータス上昇に使う場合は装備を消費するけど、スキル獲得の場合は消費しない(リスクなく全キャラでスキル獲得するかどうかを試せる)みたいな工夫がないと使う気になれないシステム。

 

・パーティーの並び順の変更の仕方

 これは自分が外れ値な気もするが。「作戦会議メモ」で並び順を変更できることに終盤まで気づかなかった。アイテムを拾って、その場ですぐに効果を確認するという習慣があればこうはならなかっただろう。(ラジオ同様、そもそもスルーしうるアイテムでもありそこも問題)

 序盤は並び順を変える必要性もそんなにないし、なんなら「あなた」がパーティーに加入してからもそこまで問題はない。問題になったのはいつものメンツと「再会」したときだった。再会した順に並び順が決定してしまう。普段と並び順が変わるのでプレイ感覚も変わってしまい困った。そこでネットで並び順を変える方法を調べて解決した。

 並び順を変える必要性の薄い序盤で「作戦会議メモ」を入手させるのではなく、パーティーが4人になったタイミングで「作戦会議メモ」を入手させればいいのでは。あるいはアイテム入手時にチュートリアルで並び順の変更をやってほしかった。もっと言うならそもそもこの機能をアイテムに依存させる必要がないだろ。アイテムを使わなくてもメニュー画面で自由に並び順を変えられるようにしてほしかった。

 

・墓守姫関連

 初見で敗北してもそのままストーリーが進んだのでそのまま進めてしまった。インフォームドコンセントの問題。こんなに分岐の影響が大きいなら事前に説明してほしかった。一番簡単な解決策は「(墓守姫に)負けたらゲームオーバーにすること」だと思う(つまり無駄に分岐させないこと)。現状は負けてもストーリーが進められちゃうし、普通にやったら負ける戦闘バランスにもなっている。フリーシナリオ的なあれなのかもしれないが……フリーシナリオを貫くのなら敗北したまま進めたときは「旅の途中」に墓守姫の影を出すなよ(アプデで追加されたものかもしれないけど!)。

 フリーシナリオってどっちの択にも味があるから成立するもので。墓守姫関連は勝ったら味がするけど負けたら味が全部なくなるものなのでそもそもイーブンな択として成立してない。おれは墓守姫関連の実装の仕方はよくないと思う。

 

・スキルの説明

 戦闘中にスキルの効果が確認できない。単純に不親切。あと自分が習得しているわけではない武器固有のスキル(その武器を装備しているときだけ使えるスキル)の説明を見る手段がゲーム中に無いのも不親切。

 

・マップの移動がだるい

 砂漠と雪山が悪い。フレーバー通りなので仕方ない面もある。

 

 

 

 

 

 個別に取り上げるのはこれくらいにして総評に入ろう。

 

 全体的に説明が足りていない不親切な作りだが、ゲームを進めていくうちに自然にシステムへの理解を深められるような作りにもある程度はなっていたとも思う。具体的に言えば、ゲームシステムの細かな説明が作中世界に広く散らされている。いろんなマップのいろんなNPCキャラがシステムについて教えてくれるようになっている。おかげで情報が一度に大量に入ってきて混乱するということはなかったが、一方で「この情報はもっと早く教えておいてくれよ」と感じることも多くあった(イツキのカウンター技の挙動とかね)。

 一応、プレイヤーに提供する情報の順番などはちゃんと考えられているように思う。場面場面で必要な情報は、出会ったNPCには話かけるなど探索をちゃんとしていれば得られるようになっていたと思う。でも基本的に、システム面の情報は早めに詳しく知っておきたかった(ここらへんは人によるかも)。

 

 なんというか、自然なテリングを意識している感じがした。システムメッセージなど無機質な伝達方法は極力排し、ゲーム内でのロールプレイ的な体験……キャラとの会話などから情報が得られるように作られていたと思う。そしてこのような工夫はゲームを自分のことのように体験してほしいという思いから……分かりやすく言えば没入感を高めるために為されていたと思う。

 

 

 

 戦闘部分に関してはうまくバランスが取れていたと思う。システムは難しいが、理解さえできればパズル的に楽しめた。『不思議の城のヘレン』や『帝国魔導院決闘科』などに連なる、パズルにRPG的な(=育成・強化による)柔軟性を付加した優れたデザイン。育成すればゴリ押せるし、育成をしなくても工夫すれば突破できるという理想的な難易度を作れていたと思う。終盤のボスラッシュ(でもないけど)……忘却王立劇団員戦は戦闘システムの理解度チェックみたいな感じでおもしろかった。

 

 

 

 ここは個人的に刺さったシーン。今までのすべては冒険だった。なんで強い理由もなく宇佐見ちゃんを追っかけているのだろう……と思いながら序盤中盤をプレイしていたので、ここで「獣の耳の子も」と言及されてハッとした。たしかにケモ耳ってファンタジー……

 

 

 ここまでこまごま書いてきたけど、このゲームの一番のキモはストーリーだと思う。かなり複雑なストーリーラインを持つ作品で、自分自身、作中での出来事を時系列順に具体的に把握できているわけではないのだが、それでもはっきりと伝わる姿勢があって、それが「フィクション・物語の肯定」だった。

 

 おもしろいのが「フィクションは人類の生存において不要なものだ」という認識からスタートしているらしいところ。そんなシビアな認識がありながら、それでもフィクションから、物語から離れられない作品の在り様にどうしようもなく愛を感じてしまう。「四月馬鹿達の宴」というタイトルも、フィクションや物語の「余分で刹那的で儚い、でも楽しい」という性質を端的に示していて、クリア後に振り返ると深い味わいがする。エイプリルフールなんてまさにそうだよね。まったく余分な、やらなくていい、だけど楽しいこと……

 

 序盤~中盤のストーリーが微妙、というかあまり脈絡や必然性がないのだけど、そのことにも理由がちゃんと用意されている。ゲーム全体がコンセプトに基づいてまとまっている、その時点で名作でしょう。その上でメタ的な視点・構造も組み込んだストーリーや、セーブや戦闘などのシステムも巻き込んだ演出があり、刺さる人には刺さると思う。

 

 それでも個人的な評価を8点止まりにしているのは、これは自分の身体が古式ゆかしいRPGのシステムについていけなくなってしまっているからです。もう無理なんだ、かったるいおつかいとか作業とか……身体が受け付けないんだよ……。

 だからこの古式ゆかしいRPGスタイルすらも新鮮に感じられる、ゲーム経験値の少ない時期に体験した方がいい作品……かもしれないが、初心者には各種システムが難しすぎる気もするし、メタみもあるストーリーも難解かも。難しいね。

 

 なかなかクセが強いですが、フィクションや物語に対してなんらか思い入れのある人には刺さるであろう作品です。リファレンスとしては『ボクと魔王』やミヒャエル・エンデの諸作……『モモ』や『はてしない物語』などがあるようです(どれも自分は通ってないです)。

 自分が触れた中では物語テーマということでメルストの機械の国3rdが近かったかな。本作のファンはぜひ触れてみてほしい。おれもモモとかボクと魔王に触れてみるので…。

 

 

 

 

 

よかった記事:

 

haxigo.hatenablog.jp

 

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