完璧すぎて逆にスルーされる話

 

 

 ベストリストって……ディケイドのものとか、大規模なものはそうでもないけど、単年度くらいの規模のものだとかなり選者の趣味や思想(音楽的なものに限らない)が反映されるじゃないですか多分。そういうベストリストのような場を「ある思想や主張を世に問う場」だとするとき、とてもよくまとまった、完成度の高い、完璧と思えるような作品って地味にスルーされがちな気がします。なぜなら作品に特定の思想や主張を仮託させにくいから。尖っていたり偏っていたりする作品の方がなにかを仮託させやすい……選者・メディアとしての立場やスタンスといったものをはっきりと示しやすいと思います。

 あとはそもそも世に問う価値があるか?という問題(?)もある。完成度の高い作品をなんらかのランキングのトップに置いたとして……「完成度の高さ」という評価の指標なんてみんな持ってるに決まってるじゃないですか。完成度を重視する価値観をあらためて世に示したところで……なんにもならんやろ、みたいな……ね。

 

 また、別にそういう改まった場じゃなくても、日常的な音楽談義であっても、完璧な作品は話題に上がりにくいと思う。ツッコミどころがないから。人間はみんなツッコミが大好き。ツッコミどころがない=語りしろがない、という訳ではないけど、目立つツッコミどころがあった方がやはり会話は弾むだろう。

 

www.youtube.com すごい恰好 ぜったい職質される

 

 ……というようなことをですね、プリンス『Dirty Mind』を聴くたびに思うのでした。一応書いておきますが、「完璧な作品」概念を下げているわけではないです。自分としてはむしろ逆のスタンス……スルーされがちだからもっかいちゃんと見てくれ、またはスルーされがちだということを意識しておいてくれ、といったことを主張したい。個人的には『Innervisions』とかマジで完璧だと思うのですが、これがトップに置いてあるリストとか見たことなくないですか。

 

 蛇足ですが、「語りしろ」って言葉を今回ふつーに使いましたけど、これ、伝わっているでしょうか。おそらく……まだ辞書とかに載ってない言葉で、自分もツイッターで初めて見かけた言葉なんですけど、使ってみるとかなり便利な概念でして。意味はたぶん「(それについての)なにかを語る余地」みたいな感じだと思うんですけど。その作品についてどれだけ語るポイント・トピックがあるか。この「しろ」って「のりしろ」「伸びしろ」の「しろ」ですよね。あまり普及していない言葉・概念だと思うので一応記しておきます。