『ポップミュージックガイド The Rough Guide to 1080p』Web版(#41~69 + 12")

 5月29日に文学フリマ東京で頒布した『ポップミュージックガイド The Rough Guide to 1080p』のブログ記事版……の後半部です。

 

 

 注意点などについては前半部分の記事の冒頭を確認ください。

 

 

 

 

 

Saffron 

Petra I / Petra II

 

 

 ニューヨークを拠点とするプロデューサーでテクスチャ・コレクターのSaffron(旧名Spirit Guide)は、この名義でのデビュー作となるダブルカセット『Petra I』『Petra II』で、鮮明で洗練されたハウスを通して鮮やかな背景と深いカフェの状況を描いている。

 Saffronのハイブリッドなジャンル構成は、トリップホップ、ムーディーなダウンテンポ、頑丈なウォーキングペース・ハウス、クランキーなIDMに、ローキーなシネマティクスが全体に漂う。緻密なベースグルーヴとピアノラインの上に漂う滑らかな動きとムードが全体を覆い、様々なテクスチャーが現れ、偽りのない熟練した感覚と表面だけをとらえた感性が、真摯で率直な「ソウル」なトーンと混ざり合っている。

 この誠実さと、ミレニアル世代のヘッドフォンエレクトロニカに回帰した美学のブレンドは、『Petra I』と『Petra II』の両方で、方向感覚を失いながらもスムーズなエルダイトのビートとリズムセットをもたらしている。

 この2つのEPは、物憂げな背景として、または難なくメロディとリズムの前景として鮮明に存在する2つの異なるタイムラインとして機能する。主なモードは、青々としたチルアウトハウスとピアノ主体でゆったりしながらも、エモいエレクトロニカ、ジャズっぽいムードとダウンビートの記号でシャッフルされている。

 『Petra I』はGregory Wikstromの力強いピアノをベースに、Momo Ishiguroのクリアで力強いボーカルが特徴の「Blueland」を中心に構成されている。また、ドラムの音が子音を強調し、シンセティックとオーガニックのテクスチャーが混ざり合い、ファサードとディープカットの間のアンバランスを表現。オフィスやカフェだけでなく、地下鉄の中でも聴けるように設計されている。

 

5曲ずつ収録されたEPのセット。ゆったりと隙間の取られた上品なハウス。多くの楽曲で透き通った音色のピアノがフィーチャーされている。ほんのりとジャズやトリップホップのフレーバーも香る、夜のムードに最大限フォーカスした作品集で、例えるならば00年代の(Matthew)Herbertをラウンジ向けに調整したような音楽だ。すでに十分ユニークな音楽性だが、1080pというレーベルにおいては特にその音のすき間の大きさで際立っている。音をしっかりと響かせる空間的なプロダクションからはどこか大人の余裕のようなものが漂っている。思わずドレスコードを確認したくなるようなおしゃれな作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Surfing 

Surfing 

 

 

 

 

 NYのプロデューサー、Peter SegerstromことPortable Sunsetsによるストーナーハウスとレイジーなクリスタルテクノ。彼の新しいプロジェクトSurfingは、意味深長な飽和感と重厚なクラブサウンドを軸に、不条理さと狂気をはらんだヘビーなテクノを組み合わせ、とびきり生々しくカラフルな10曲が収録されている。

 このセルフタイトルのリリースは、ユーロラックの機材とMaxのパッチ、そしてPeterの声で制作されたもので、ぼやけたうんちくをはらんだエレクトロニクスを背景に、もはや意味をなさないほど何度も言葉を繰り返している。ヴォーカルは、「Glass Eye」のようなゴーストハウスドリフトの上に乗っているか(ヴォーカルの繰り返しによって、奇妙な想像力とダークなコミックの物語が構築されている)、あるいは、「BBC」やメカニックで過酷な質感の「Warlock」のようにストレートなリズムの道具として機能する。パーカッションとベースラインが中心だが、時折、Tigaの偏執的で頑固なおじさんのようなメロディーが奇妙さの中に忍び寄る。

 Dancemania、Thomas Brinkmann、DJ Assault、DNA、Steve Reich初期のテープ作品、Glossolalia、DJ Funk、そしてSFのバイブスなどの響きが、彼自身の風変わりなユーモアとずる賢い視点とともに周辺から鳴り響くドラムマシンの内部を、閉所恐怖症的にスローモーションで引きずり込んでいく。

 

ジャケットから勝手になんとなくバレアリックなサウンドなのかなと思っていたが全然違った。PlastikmanやRobert Hoodのようなミニマルでプリミティブなテクノに自身のボーカルを素材として載せたもの。ボーカルといっても歌ものではなく、特定の単語の発音をサンプリングし、変調させながら何度も繰り返していくスタイルで、作中では幻惑的な演出として機能している。武骨でストイックな印象の作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

Feingold 

Nuff Zang

 

 

 

 

 モントリオールのプロデューサーでTemple Records所属のAdam Feingoldが、Apronからのキラー12インチに続き、『Nuff Zang』で新たな感情とテクスチャーゾーンに踏み込んできた。ダブやアンビエントの要素を取り入れ、禅へのカジュアルなアプローチを試みたこの43分のリリースは、霞がかったジャックテクノ、スペースアウトしたハウス、残響のあるジャングルのリズムといった典型的な肉体的刺激を与えるムードの中に、メローで穏やかな場所を求めている。

 『Nuff Zang』を構成するトラックは、床に座ったり、立ち上がったり、夜中に半分眠ったり、時には昼間にも眠ったしているようだ。その結果、音色とヴァイブの二重性が、この作品が完全な自己のためのものであるかのような感触を生み出す。

 薄汚れたテクノやアフターアワーズ・ハイブリッドといった昨今のスタイリッシュな雰囲気の中で、Feingoldは明快かつ繊細な没入感を持ち、常にサウンドと「上」に向かうことにフォーカスしている。アンビエントなゾーナーも明るくエネルギッシュで、クラブミュージックとホームリスニングの境界線に調和している。まさに陰と陽の関係だ。

 ダブアウトしたドローンのオープニング「Night of Scorpio」は、大きなクラップとデュオトーンのハウス「Palo Santo」に自然に移行し、途中から脆いハイハットとベースのグルーヴでますますジャンプしていく。また、「Don't Fuck With My Chi」のモノクロームのガラガラ音や、コンピューターによる明るいテクスチャーの「Zang」、アルバムの最後を飾る「Offering」は、朝5時の誰もいないハウスパーティーや、泥酔した日曜の夕方にぴったりの、遠くでお香の匂いがするようなアブストラクトなダブスポットだ。

 

赤と緑のグラデーションが印象的なアートワークだが、そのサウンドモノクロームで落ち着いた印象だ。曲構造自体はクラブに対応したダンサブルなものだが、曲を構成する一つ一つの音色に落ち着きがあり、総体として非常に彩度の低い印象を聴き手に与えている。一般的なダブテクノのエフェクトを控えめにして、上品な感じで仕上げたらこのようになるだろうか(どちらかと言えばストーナーハウスの領域か)。遊びはないが全体に端正な出来で、細部まで整っているゆえに小さな音色の変化が際立って聴こえてくる。そういうことを踏まえると、アートワークの中心に大きくあしらわれた黒にもきちんと意味があるのだなと思えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

Keita Sano

Holding New Cards

 

 

 

 

 若き日をジャズと過ごし、沖縄で陶芸を学んだ「左利き」の岡山人プロデューサー、サノケイタによる、広く奇妙な異種混交ハウス&テクノの70分超大型カセット。現在、MPC、Electribe-SX、古いMTR、そして多くのエフェクターを使って音楽制作をしている。ジャズは今でも彼にインスピレーションを与えるが、このエレクトロニクスの濃密なブレンドは、独特の自由さと一定のメロディーセンス以外、ジャズの兆候をあまり感じさせない。

 「Onion Slice」はジャングルを切り刻んでミニチュアのような壮大なシンセのうねりを作り出し、「Search」は100bpmのレゲエにリバーブドラムとボーカルの断片を加えたような曲。「Escape to Bronx」ではクラシックアシッドバイブを取り入れ、「African Blue」ではゆるくパーカッシブでスローバックしたクラブのグルーヴで、サノの愉快な実験のエクスタシー全般を取り入れている。

 「Everybody Does It」やタイトル曲「Holding New Cards」など、様々なムードとジャンルが混在するこの作品にはノイズが多く含まれ、特にその質感の高さが際立っている。この最新作の集大成は、一般的なノイズと飽和の概念についても考えを巡らせており、熟練と無邪気さを備え、最上の喜びを味わえる作品だ。

 

レーベル唯一の日本人アーティストによるリリース。70分弱という大作でありながら全編に渡って奇妙なアイデアで溢れている大変な力作だ。「Everybody Does It(Version)」の人を食ったようなツマミ操作など、他で見たことのないような演出やサウンドが次々と現れる。それが必ずしも快適さには繋がらないという点でやや人を選ぶが、少なくとも一時間以上はスリリングな瞬間が約束されており、それだけで十分価値がある。全体にうっすらと共通しているのはダブ/レゲエのどこかとぼけたようなムードで、おおらかな実験精神もそういったジャンルに由来しているのかもしれない。どちらかといえば夏向けの、充実した作品集だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Wywy Brix

Clear Licorice

 

 

 

 

Maltine Recordsを思い出すようなガチャガチャとしたジャケットが目を引くが、中身はひんやりとした質感のクラシックなIDMだ。中盤以降、ジャケットのようにフリークアウトする場面も見られるが、全体としてはWarpA.I.シリーズなんかとも並べられるような内容となっている。特に序盤の#2「Polydactyl」~#3「Wywy B Wywy」の流れはクールで浮遊感があり、ジャンルをリスペクトしつつも前に進めていく意志のようなものを感じるほどのクオリティだ。(視聴:https://www.youtube.com/watch?v=zW97vkPt1H0

 

 

 

 

 

 

 

 

Seth

This Is True (Sunseth​)

 

 

 

 

 SETHは、2012年にNYCのJames KがGobbyと始めたプロジェクト。SETHは気まぐれだ。SETHは半分自意識過剰で、2倍悪魔的。SETHは異次元で活動し、全く必要ないときに不安定なロープの橋をいくつもかけてくる。価値あるもののために時間を目一杯使い、息つく暇もないほどだ。

 カセットでリリースされた彼らのセカンドアルバムでは、今回は1080p経由で、SETHは自分たちが置かれたかなり厄介な場所からの出口を探っている。闇と光の要素を用いて、SETHは新たなシェルターを探し求めているー緑豊かで揮発性があり、有望だが現実味がない。その結果生まれたミニアルバム『This is True (Sunseth)』は、James Kのキラキラした心が生み出したものである。デュオのトリックと変態性が実際のサウンドを形作り、その時々の彼らの意味深い関係や互いへの感情を反映させた。

 テープはカートリッジで、マシンに挿入するとSETHのエキゾチックな領域を解き放ち、灰にまみれた夜へと燃え尽きる。ポーイング、揮発性ポーイング。

 

Gobbyの作品だけを聴いて今作に触れると、その神秘的でヒロイックな出来栄えに驚いてしまう。James Kのボーカルは、例えばJulianna BarwickやJulia Holterのような高くよく通るもので、妖精のような幻想的な空気を醸している。今作はポップス……とまではいかないが、究極的には歌ものだ。幽玄なミックスにより言葉ははっきりとは取れないが、そのエモーションは遠い異国の聴き手にもしっかりと伝わるだろう。トラックもボーカルと互いに引き立てあい、高めあっている。荘厳なエクスペリメンタル・ポップの傑作だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Journeymann Trax

Smoke Tape

 

 

 

 

Bobby Drainoの新しい名義での新作。名に「Smoke」と付くことからわかるようにぼやけたサウンドが特徴のテクノ。「Black Forest」や「Dengue(デング熱)」といった曲名や、また後者の曲では実際に鳥の鳴き声がサンプリングされていたりと、自然を連想させる要素があるのも特徴で、そういう意味で後に続くRamziの作品にも通じるところがある。浮遊感ももちろんあるが、作品の空気は湿度を含んだやや重いものだ。最後に「Ice Sheets」という名前でアンビエントなトラックを置いているところが粋である。

 

 

 

 

 

 

 

 

Nap

Uncharted

 

 

 

 

モントリオールのDaniel Rinconによる姿を掴ませないテクノ。はじめの3曲は親密でホワイトイメージなアンビエントテクノですんなりと入ってくるのだが、4曲目のゆらゆら揺れる瞑想的なトラックを過ぎると途端にアシッドで攻撃的になる。#7「Worms」ともなるとインダストリアルな質感も加わって、相当圧迫的なサウンドに(終盤には銃声のような打撃音も)。カセットのA面B面で音楽性をガラッと変える——まるで二つ人格があるかのような少し怖い作品だ。翌年にIslaというレーベルを設立し堅実に活動を続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

RAMZi

HOUTi KUSH

 

 

 

 

架空のデジタルな熱帯雨林を練り歩いているかのような音楽作品だ。作品の一大テーマはずばりエキゾチシズムで、それはさまざまな動物の鳴き声(とそれを模したサウンド)と民族的な音色・メロディーによって表現される。ぎこちないCGのアートワークも含めてかなりうさんくさい作品だが、その世界観へのこだわりは本物で、約40分間のトリップは一度も破綻することがない。強い個性の確立された作品で、無類の多様性を誇る1080pのカタログの中にあっても一際目立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

Umfang

OK

 

 

 

 

 NYのプロデューサーでDiscwoman所属のEmma OlsonことUMFANGによるアモルファスでポリリズミックなテクノパレット。ラテンドラムパターン、DJブレイク、ミニマル・パーカッションに影響を受けている。彼女の2枚目のリリースとなる『Ok』は、リズミカルな「eureka」モーメントとシンプルなメロディーとテクスチャーの微妙な組み合わせの一定のサイクルの中で、実験的で熱狂的であり、テクノを誰もが親しみやすく、堅苦しくない音楽にすることを目指している。

 この48分の作品では、これまでのMPCやVolcaのビートから、BOSS Dr. 202(Octo Octa製)を手に入れ、『Ok』のバックボーンを形成した。ここに間隔を置いて配置された様々なサンプルが周回している。アウトロ、イントロ、ボーカル、古いトランスレコードからループさせたスペイシーなシンセサウンドが、バチャータやクンビアに影響を受けたルーズでライブ感のあるリズムと噛み合い、独特の暖かみのある空間を作り出している。

 Olsonはこのリリースを本質的にDJツールのアルバムだと考えており、反復、メカニックなグルーヴ、ストレートでSF的なサウンドのパレットを駆使し、プロダクションにこだわることなく、とことんこだわった作品に仕上げている。その結果、ヘビーなクラブサウンドは超ライブで、超怪しく、そして内省的なダンスフロアに引き込まれる。

 

Discwomanの共同設立者として今や世界的な知名度を誇る彼女だが、その音楽性はかなり原始的でストイックだ。ジャケットのように空白部分のかなりある、文字通りミニマルな作風。A面にあたる部分では自身のボイスサンプルを用いて展開を形作っており、そういう意味では少し前のSurfingのリリースと通じるところがある。ハイライトのひとつは#5「shockshock」で、あえてズレさせたリズムトラックに狂ったようにサンプルが重ねられる。エクスペリメンタルでひどく印象に残る曲だ。続く#6「quickly and softly」では逆に柔らかなテクスチャーが追究されており、珍しく優し気なフィーリングが漂っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

CFCF 

The Colours Of Life

 

 

 

 

 モントリオールのMOR研究家CFCF(aka Mike Silver)はここ数年、ポップとニューエイジの過去のラグジュアリーな音楽を明確に、やさしく修正・更新することに磨きをかけてきた。7月にDriftlessからリリースされた『Radiance & Submission』に続く、41分の『The Colours of Life』でCFCFは、Phil Collinsの「Hand in Hand」やWindham Hillレーベルのかつての皮肉な高揚感をマントラのように、現代のテクスチャーの入口として機能させ、新しい真摯さを持つ驚異的に静かなピークへとカーブしている。12曲からなるこの作品は、 Silver自身が語るように、極めてリアルな物語を紡ぎ出す。

 「この作品を書き始めたのは2011年の前半。僕はパリで当時のガールフレンドとワンルームの小さなアパートに数ヶ月住んでいて、ラップトップ以外のちゃんとした音楽機材は持っていなかった。Windham HillやInnovative Communicationsらへんの、本当にありふれた音楽にのめり込んでいたんだ。『Colours of Life』の最初のリフは、Phil Collinsの『Face Value』収録の「Hand in Hand」にすごくインスピレーションを受けてる。この曲は、Roland CR-78のループと汎地球的な楽観的音色で構成された、超シンプルで陳腐な曲なんだ。で、そういう音楽のレコードを作るというアイデアを思いついた。自分が聴いているものをたくさん取り入れて、待ち時間のBGMのような最高に心地よいもので、ある意味では許容できる限りでチーズの端まで押しやろうとしながらもとても誠実で、皮肉ではなく実際に純粋に楽しい音楽であるような、そんなレコードを作ろうと思いついたんだ。

 最初は1曲だったんだけど、何かのきっかけでその1曲が別の曲に変化して、さらに別の曲になって、最終的には12曲の純粋なポップインストゥルメンタルが互いにつながっていくことになったんだ。1曲あたり2〜3分なのを大きな構成にすることで、1曲では追求できないような、小さいシンプルなコード進行やメロディーを書けたんだよね。ここで迷走し、ここで具体的になる、ということができた。前述のPhilのトラックやManuel Gottsching、Suzanne Ciani、そしてたくさんのバレアリックトラックなど、明らかに影響を受けているものがたくさんあって。だからこの作品作りは本当に楽しくて、その夏に完成させていくつかのレーベルに売り込みに行ったよ。

 最終的には、RVNG Intlの友人であるMattに送って、2010年にEP『The River』をリリースした。彼は、いくつかの曲に他のシンガーを迎えるというアイディアを持っていた。そして本当に素晴らしい人たちが参加してくれたんだけど、ここでは詳しく言わないけど、残念ながらそのプロジェクトは失敗に終わったんだ。そのコラボレーターの一人、Dip in the Poolは、80年代に日本で活躍したイケてるポップバンドで、信じられないほどスイートで、このレコードのために素晴らしい曲を2曲書いてくれた。彼らの作品の一部は、ここでも『Rain Dance』と『Intimacy』というムーヴメントに残っていて、僕が書いたコードに木村達司が手を加えてくれて、ほんとにすごく良くなったんだ。」 

 

本作についてはプレスリリースでアーティスト自身が細かに語っている(のであまり書くことがない)。上で実際に名前が挙げられているがManuel Göttschingの『E2-E4』をWindham Hill風に作り直したような作品で、便宜上12のトラックに分けられているがそれらは全てシームレスに繋がっている。驚くべきはその滑らかさと完成度で、細部まで隙なくぴかぴかに磨き上げられている。日本でも人気の作品で、PLANCHAから独自にCDがリリースされたほどだ。2019年には本作の続編とされる『Liquid Colours』もリリースされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

Dialect 

Gowanus Drifts

 

 

 

 

 「焼け落ちた巨大な輸送用倉庫の隣にイケアストア、ホールフーズの隣にスクワット、外に死んだ犬のいるアルチザンフラワーショップ。ゴミは風に乗り、霧笛が水面を吹き抜ける。サイレン、ポルノショップ、倉庫、刑務所、犬の吠え声、駐車場、ファーストフード、高速道路、焼き払われたマッサージ店、古タイヤ、金網、空きビル、バス発着場、流れる生ごみ...。」

 Tasty Morselsからリリースされた前作『Advanced Myth』の「オンラインミックス」のようなコンセプトを引き継ぎ、よりダークで豊かな雰囲気、質感、ムードとグロテスクな美しさの旅に出たアブストラクトアーティストDialect (別名Andrew PM Hunt) は、そんな困惑したエクスタシーを表現している。

 ブルックリンのレッドフック付近で録音されたこの曲は、故郷のリバプールを思い出させる造船所のポストインダストリアルな風景に魅了されている。特にゴワヌスはアメリカ的でありながら、イーストリバーの対岸にあるウォール街の象徴的なスカイラインとは全く対照的に感じる。ゴワヌスは、雑草や土が噴出したひび割れた歩道をカミソリの針金が吹き、空のビルボードと巨大な高架橋が頭上に迫り、老朽化して朽ち果てている。

 40分のスナップショット『Gowanus Drifts』では、これらのイメージをサクッと聴ける。この作品はハントにとっての、ゴング、クラスター、タンジェリン・ドリームなどのサイケデリックな探求に始まり、ASMR、アンボクシング・ビデオ、Xboxゲームプレイ・レコーディングなどのオンライン文化における深いネットワーク音楽のムーブメントにまでおよぶドローン連続体のような存在だ。

 Dialectは、チターの即興演奏、フィールドレコーディング、サクソフォンコンポジションを彫刻的に扱い、ゆるやかな流動性をもって互いに分解・再構築する。天使のようなヴォーカルがDialectの独特の焦げたFMシンセから立ち上がり、半ば記憶されたReichianのループが水面を漂い、スモッグのような風に乗って漂うのである。

 

ブルックリンのゴワヌスという地域をコンセプトに据えた抽象的かつエクスペリメンタルなアンビエント。犬の鳴き声で幕を開ける本作は、プレスリリースの第一段落と同様にゴワヌスの風景や文化の変遷を表現しているらしい。注目すべきはサウンドの引き出しの多さで、OPNのような電子音のアルペジオが出てきたかと思えば牧歌的なギターのストロークとホーンが重ねられ、高圧的なドローンに潰されるやいなや神聖なコーラスワークに包まれる(その遠くで騒がしいレイブが開かれている)。…脈絡のない夢のようでまったく掴みどころがないのだが、それゆえに何度も聴きたくなる。そんな作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

I Am Just A Pupil

12 Hours Full Relaxation

 

 

 

 

 ノースカロライナ州在住のJoshua Clarkによるニューエイジ/コメディーテープ。瞑想的なアンビエンス、静謐なストリングスのループ、話し言葉のサンプルをデジタル化したクリップは、超美的啓示の中に紛れ込み、ユーモアとリアルの間のスイートスポットに位置している。

 『12 Hours』は、真正性の概念をあざ笑うかのごとく、それに加担することで、究極に誠実で感動的な40分間の輝かしく臨場感のある小曲を目指しヒーリング音楽のハイブリッドに行き着いたのである。クラシックの美学とPat MethenyスタイルによるRPGサウンドトラックのポストアイロンニックが融合で自由への扉が開かれる。

 この作品は、YouTube、テープ、レコードのサンプルから、テクノロジーは当然として、この世の地獄、中毒、暴力、怒り、解離、不条理、ユーモアについての平和なゾーンを構築することに焦点を当てた一連のヴィネットだ。

 

サウンドだけ見れば非常に上質なニューエイジイージーリスニング。ピアノやハープなどの室内楽的な楽器による優し気な音色が耳を撫でていく。しかし、1曲目の大胆な会話劇?を聴けば分かるように、本作にはストーリーがある。プレスリリースにて「New Age / Comedy」と形容されているように、その物語はもしかしたら(サウンドの雰囲気に似合わず)滑稽なものなのかもしれないが、いずれにせよ英語を聴きとれる人の方が本作を楽しめるだろう。とはいえインスト部分だけでも充分魅力的で、例えばColleenMax Richterのファンが喜びそうな内容だ。休日の朝、窓を開いたままにして聴きたいような、開放的な作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

Trust Image

Rory's World

 

 

 

 

 NYCのプロデューサー、Trust Imageによるハイブリッドな理想と夢に満ちた雰囲気のソウルフルなローラー。中西部のルーツを感じさせるファンタジックなジャングルテープ 『Rory's World』では、イマジネーションとナイーブさがHDドラム&ベースに加工され、初期のGood LookingのバイブスとCloud 9のアップリフターが耳を傾けるだろう。

 95年に発売されたMetalheadzにインスパイアされたカセットテープのパレットを発展させたこの新譜は、ゲットーハウスやデトロイトゲットーテックの系統に加え、最近のジャンルの曖昧さが感じられる。デトロイトにインスパイアされた 『Doing U Wrong』は、『Dream Cast』の前半にあるダンスマニア風のドラムにつながり、スピリチュアルなメロディーを織り交ぜた作品となっている。『Sun』は午前7時の野原でのレイブ。その野原は純粋に想像上のもので、ファミコンの 『Little Nemo's Dreamworld』のNESセッションとFruity Loopsの制作の合間に、中西部のベッドルームプロデューサーが思い描く夢のようなものだ。

 『Rory's World』には、同じように目を見開いた創作の陶酔感がある。彼のドラム編集は、Nu-GrooveやKMSといったレーベルの奇妙なクロスオーバーレイビー/ブレイクビーツハウスに似ており、10年(オンとオフ)にわたるジャングルでの熟練を経て、このカセットではクレイジーなドラム編集を控え、テクニカルになりすぎず、頭でっかちになりすぎず(“something people in Moschino can fuck with”(Moschinoを着た人たちがヤレるもの))を避け、最大限に洗練され、夢のあるものを目指している。

 

今まで1080pでも大々的にフィーチャーされることのなかったジャングルというジャンルにフォーカスした作品。個人的にジャングルは、その神秘的なコードワークで好きになった側面が強くあるのだけど、今作でもその鎮静と高揚のあいだを突くようなコード感覚は健在だ(ジャンル全体で特定のコード感覚が共有されているのが興味深くはある)。世間一般でのジャングル像を見事に体現した王道かつトラディショナルな出来で、正直に言えばあまり冒険的な要素はないのだが、(当時)最も勢いのあったレーベルのひとつから、ほぼ無名の新人アーティストが、しかもアルバム単位で作品を出したということ自体が、ジャンル愛好者にとっては大きなニュースであったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

Co La

No No

 

 

 

 

 

 Baltimore’s Co Laは、Matt Papichのクリエイティブクロークであり、連帯感と精神病が入り乱れるクラブミュージック環境を構築している。

 2013年の『Moody Coup』の湿った下草から生まれた『No No』は、2014年の北東部の深い凍結の間に作られたトラックを集めたもの。音的にはクリアで絶縁されていない、クラッキングだ。No Noは、アメリカのニュースサイクル(f5症候群)である終わりのないサイコドラマに対するPapichの関心を反映していて、対処戦略として機能する聴覚的/演奏的ユーモアのスタイルで覆われ、それ以外は斜めの音世界の修飾だ。

 Co Laの過去の作品は、物理的な空間、デザイン、オブジェクトの印象を幅広い音楽形態に置き換えることに重点を置いていた。現在のPapichはその関心を内側に向け、地球上の生命の感覚的、感情的側面を調査している。言語は基本的なもので、くしゃみ、赤ちゃんの泣き声、アルファベット、リンゴをかじる音、笑い声、悲鳴などだ。シンプルな記号にもかかわらず、No Noには内容が刻まれている。基本的な恐怖や欲望を指し示し、スクランブルして、奇妙に感情的で異質な次元、これまでクラブ音楽にはなかった行為を生み出しているのだ。

 クラブカルチャーは一般的に現実世界からの逃避を提供するものであり、単純な反転がNo Noの焦点だ。ボルチモアの実験的クラブ環境(Club Undo)の中心的存在であるCo Laは、ライフルスコープを額に直接当てたり、ジップカーで仮設サウンドシステムを構築するなど、パーティを抽象化して知的な対立を引き起こす。収録された彼の音楽とパフォーマンスは、クールな体験の中にドラマを誘い、リスナーの期待をかき立てる。

 

たまにあるカセットのみ1080pからのリリース。メインのリリースはDaniel Lopatinの主催するSoftwareからで、本作で聴ける解像度の高いデジタルな音色はSoftwareのカラーに則するものだ。内容は小さなサンプリングベースのエクスペリメンタルなポップ。細かなリズムに乗せて細切れの奇妙なサンプリングを配置していくスタイルで、メロディーではなくリズムが楽曲を推進していく。ダンスという指向性を失ったMatmos、あるいは日本人というアイデンティティを喪失した食品まつり a.k.a foodmanのようなイメージだ。抽象的すぎたりリズムしかないような楽曲はやや辛いが、よりマクロな構造が練られた楽曲は大変に魅力的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Physical Therapy

Physical Therapy Presents...

Kirk The Flirt & Peter Pressure

 

 

 

 ベルリンを拠点とするPhysical Therapyは、Kirk the FlirtとPeter Pressureという2人のクールな客として、1080pでのデビューのためにニュージャージーに豪華に帰ってきた。ニュージャージー州イングウッドにあるClub One WestでDJをしているのを見たのがきっかけでこの2人に出会い、何度もしつこくメールを送っていたら、デモ音源を送ってくれることになった(という話。)

 NJガレージをこよなく愛するこの2人は、ニュージャージー・ハウスの黄金期には遅すぎて生まれた単なるDJパートナーではなく、長年の親友なのだ。このコレクションは、ジャージー・ハウスとアシッド・ディスコ・エディットの8曲で、彼らの長年にわたる関係の温かみと奇妙さが反映されている。

 未発表作品のバックログから、エモーショナルなスウィンギングガレージ、奇妙なハウス、独特のディスコサウンドを検証する。ウルトラアップハウスの 『Teddy Bear』、スモーキーな 『Never Ever Give Up』、ニヤリとする 『Poodle』や 『The Eye』などのエディットには、往年のNJクラブへの憧れと今後への衝動が込められている。

 

Allergy Seasonを主宰する活動的なPhysical Therapy……のおそらくは未発表曲集で、なぜこういう名義を、こういうストーリーを用意したのかは不明だが、なんにせよ楽し気でわかりやすいダンスミュージックだ。包み込まれるようなアンビエンスも、キメの細かいテクスチャーもない(=ベッドルームをターゲットにしていない)が、やや遅めのBPMと大ぶりなサウンドが老若男女を問わず踊りに誘う。ニュージャージーがダンスミュージック的に重要な地域なのかということもわからないのだが、もしこのような音楽が流行っていたのだとしたら、非常に大らかな気風の地域だったのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

Beta Librae

Swope Park

 

 

 

 

 カンザス出身のプロデューサーBeta Librae(別名 Bailey Hoffman)は、ヘッドフォンでニューラルレースを装着し、アシッドとダブテイストのテクノの深く生命力のある静止状態にゾーニングするデビュー作『Swope Park』を発表した。

 この9曲のローキークラッシャーは、アクアティックなテクスチャーとルーズでフリーフォームなシーケンスでループし、おなじみのアシッドパラダイムと幅広い熱狂的な感覚の間に特定のエネルギーを見出すことができる。Slavaのパフォーマンスがミニマルなセットアップの最初のインスピレーションとなり、Hoffmanはトロピカル/エレクトロニックバンドLemonadeのアパートの部屋を間借りして毎日彼らの練習を聞いているうちに、さらに想像力をかき立てられた。

 Hoffmanの実験は流動的で循環的であり、Korg Electribeを使った新しい実験の直接的な結果として生まれたものである。サンプラーの空きスロットの無限の可能性は、それを自分の脳の延長として捉え、どんな音でも搭載することができ、もちろん非常に人間的な手つきでそのすべてを操作するという、古典的なサイボーグの理想像で扱われている。

 

シンプルでアシッディーなテクノ。そのシンプルさから上述のLNS『Maligne Range』を連想したりもする。本作もおそらくは限られた機材で制作されており、それゆえに音色面で統一感がある。正直、まだ音や曲に個性が現れるような段階ではないと思われるが、1080pには貪欲に新たな才能を発掘するという側面があり、その一環として捉えるとこのようなリリースにも好感が持てる。「完成させること」がなにより難しい創作の世界で、初手でこのような規模の作品をものにすることがいかにすごいことか。その地位を確立した後にもジャンルを「耕す」リリースを続けるレーベルの姿勢も良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

Damon Eliza Palermo

Clouds of David

 

 

 

 

 ロサンゼルスのDamon Eliza Palermoによるクラシックなアンビエントテープ。豪華で堅実なハウス/ディスコプロジェクトMagic Touchから一転、『Clouds of David』ではクリスタルな没入感に包まれ、軽いパーカッションと息を飲むような深青色の旋律で満たされた森のような雰囲気が展開されている。

 Palermoはすでに本名でニューエイジ系の作品をいくつか発表しているが(『Enigmatic Ocean』等の自家製CD-Rミックス)、このc58が彼のアンビエント作品の最初のフルリリースとなる。『Clouds of David』は、CocteauやKompaktのようなフィルターを通して振り返るだけでなく、自身がシューゲイザークラウトロックに興味を持っていた10数年前の大学時代に立ち寄ってみたものだという。

 Palermoは主にYamaha SU700を使用し、シンセ、サンプル、Komplete 10プラグインを用いて2週間ほどでこれら9曲を制作。本物のギターやピアノは使用せず、ポストロックの記憶、故郷ミシガンの冬、モノラルなメタモダン-ビジョン、iPhoneレンズを通して記録した季節や悲しみの表情を深く漂わせている。

 

霧に包まれ、ダブの海に沈んだ——言い方は悪いが「よくある」アンビエント。究極的にはその人の曲の趣味が出てくるエレクトロニカとは違って、気持ちのいい音ができればある程度曲構造は無視できるアンビエントは、特に多様な「気持ちのいい音」が出揃った現代ではなかなか特徴や個性といったものが生じにくいジャンルなのかもしれない(暴論です)。自分がどちらかといえば曲構造に興味のある人間(だからAngel 1などを評価している)なのでやや見る目が厳しくなっている。ドローンとダブ、フィールドレコーディングを組み合わせた王道のスタイルで、例えばLoscilやBrock Van Wey(Bvdub)のようなアーティストを連想する。

 

 

 

 

 

 

 

 

LNS 

Maligne Range

 

 

 

 

バンクーバーのLaura Sparrowによるデビュー作。シンプルな編成のクラシックなIDM。サンプリングなど飛び道具的なサウンドは無く、純粋に楽曲で勝負している。楽曲も音も基本に忠実な印象で、ともすれば(普通!)と切って捨てられてしまいそうだが、そうならないことには理由がある。サウンド、ムード、クオリティの統一感だ。端的に言えば「丁寧」なのだが、「神は細部に宿る」とはよく言ったもので、それこそが本作に魂とも呼べるものを宿している。現在はアーティスト自身のbandcampページで配信している。

 

 

 

 

 

 

 

 

Betonkust & Palmbomen II

Center Parcs EP

 

 

 

 

 オランダのプロデューサーBetonkustとPalmbomen IIによる夢見るエレクトロとクランチーなIDMの新しいコラボレーションは、オランダのCenter Parcs De Eemhofというホリデーパークにて、ある雨の週末にレコーディングされた。バンガローは彼らのものだけで、亜熱帯のスイミングパラダイスは完全に放棄されていた——この6曲のEPへの完璧なゾーンでありコンセプチュアルな背景である。

 『Center Parcs』のほとんどの瞬間は現実を探し求めてくだらない可塑性のサウンドをかき分けている。オープナーである「Leo Mirjam」は、この公園の実際のテレビコマーシャルから引用されたもので、EPの残りの色褪せた余暇は、幸福なアンビエントの「Aqua Mundo」や超感情的でスローモーな「24x33」のように、より物憂げできらびやかなものとなっている。

 

ホリデーパークという耳慣れない概念について、自分も馴染みがないので情報が正確かわからないのだが、宿泊施設とレジャー施設が合体したようなもので、休日に車で行って泊りがけで遊んでくるらしい。本作はオランダのとある閑散としたホリデーパークでの体験を元にしているようで、基本的にはメロディアスなIDM~ハウスなのだが、ほんのりバレアリックな感もありつつもどこか空虚な空気が漂っている。グレーを基調としたアートワークが印象的だが、その音楽からも、例えば曇りの日に出かける遠足みたいな、すこし寂しい感じがするのだ。2018年にオランダのDekmantelから本作を拡張したLPがリリースされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

Body-san

Shining The Money Ball

 

 

 

 

 カンザスシティのBody-sanことBrandon Knockeによるエレクトロニックグルーヴといかしたコードのスムーズで良い空気のマリアージュは、100% Silkからのリリースに続き、人の声や会話、風景に彩られた10曲を収録している。

 『Shining The Money Ball』は、洗練されたシンセティックな自然主義(これらのシンセには水と動物のヴァイブがたくさんある)で、ジャズファンク、1970年代以降のライブラリーミュージックからインスピレーションを得ており、また、曖昧で特定できないが「完全犯罪」的な映画のようなナラティブも作り出している。

 過去には、DiscovererとしてDigitalis(RIP)やVCO Recordingsといった実験的なレーベルからリリースするなど、様々な名義で幅広いエレクトロニック・ミュージックを発表してきましたが、それらは全てModern Hug productionsという包括的な制作名でファイルされている。

 

デジタルながら暖かい音色のIDM~ハウス。かっちりとした展開があり、また常にメロディアスなために大変聴きやすい。インタールードを適度に挟んだアルバムの構成からもある程度のリスニング志向が窺える。特にインタールード楽曲で顕著だが、物音や人の音声のサンプリングも特徴で、その点も含めてKhotinとは音楽性でかなり通じるところがある。個人的にはレーベルでも屈指の作曲能力の持ち主だと思っているが、今作がLNRDCROYやKhotinほどのヒットにならなかった原因は「(彼らほどの)印象的な音色を作れなかった」ことにあるのではないか。いや今作の音も十分気持ちいいのだが、あの二作は一線超えたレベルで輝いていたと思う。「曲」は時間に依存した形式なので良さが伝わるまでにどうしても時間がかかるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

James K

Pet

 

 

 

 

SETH以来の登場となるJames Kのフルアルバム。ヴォーカルの表現力にさらに磨きをかけ、エレポップとエクスペリメンタルなアンビエントの中間の興味深い領域を開拓している。そのアートワークからGrimesを連想するが、あそこまでのポップさはなくともスタイル自体は似ており、言ってしまえばGrimesと(前回も挙げた)Julianna Barwickを足して割ったような音楽性だ。現状ではやや自身の声に依存しているような向きがあり、このまま作曲やインストゥルメントに習熟すれば……と明るい想像をしたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

You're Me

Plant Cell Division

 

 

 

 

バンクーバーのScott GaileyとYu Suのデュオによる浮遊感のあるテクノ~アンビエント。楽曲の構造に影響するほどの大胆なツマミ操作もといエフェクト処理があり(#3#4あたりではAndy Stottの名前も浮かぶ)、そういう意味で一線を越えて実験的ではあるのだが、メロディー・コード的な誘導が常にあるために聴き心地はかなりポップだ。中盤でビートレスな曇った領域に突入し、最終曲#8「Soft Opening」で再び活気を取り戻していくというアルバム全体の構成もハマっている。これがデビュー作とは思えないクオリティだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Elka

Chants

 

 

 

 

 バンクーバーのプロデューサー、Elka aka Elan Benaroch(あるいは""ESB"")による内向的なハウスのフルレングスカセットで、遥か彼方のヴァイブと神秘的なタッチのシーケンスが、この名義でのデビューアルバム『Chants』に収録されている。

 ポリフォニックス、不機嫌なビートボックス、テープエコー、レリックラックマウントとアナログテープを使って、ドラムマシンのリズムとエモーショナルな雰囲気を組み合わせ、クラシックハウスの構造、デトロイト、メロディックテクノの合図から、ふらふらとした平穏を見出している。

 アクアティックなパッドと調和的なレイヤリングの下には、『Chants』への明白な切なさと希望に満ちた色があり、特に旅と動きの感覚に焦点を当てている。East Hastingsにある彼のスタジオで昨年録音されたもので、地下にある孤立したアルコーブでは、時代遅れの電子機器がその役割を果たし続け、このパッケージに意図しないノスタルジアを与えている。

 

幻想的なコードが揺らぐ機能的なテクノ~ディープハウス。音の質感はやや内向的……というか柔らかめではあるが、曲構造はベーシックなクラブミュージックのそれであり、現場でミックスされた形で触れるのが一番自然なように感じる。機敏に動くベースラインが象徴的だがわりと忙しない音楽で、しかし同時にスッキリとした印象もあり、それにはクリーンな音色が関係しているのかもしれない。なんというかハキハキとした音楽で、もしかしたらオフィスやニュース番組の背景にもフィットするように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

¬ b

Reflection Disc 1&2 2012-2016

 

 

 

 

アメリカのプロデューサーLee Bannonのイニシャルを取り、「L」を反転した名義…なのだろう。調べてもあまり情報が出てこないのだが、なんとなく2012~2016年の間に制作された未発表曲をまとめたものなのだと思う。いかんせん大きなリリースのため全容は掴めないが、数曲聴いただけでも飛び抜けたサウンドデザインのセンスを感じる。作中のどの音もくっきりと際立っていて埋没することがない。曲名も匿名的で掴みどころがないが、時間をかけて聴き込む価値はあるように思う。現在はNinja Tuneにて配信されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

DJ Voilà

Aimless Summer

 

 

 

 

 DJ Voilà(aka Simon Chioini)はケベック出身で、そしてこの作品はモントリオールの夏への頌歌である——クラシックなアンビエント/エクスペリメンタルジャンルの語彙をクラブベースの断片に落とし込んだ、爽やかで鮮やかなリリースだ。

 『Aimless Summer』の最初のモードは繊細だ。タイトルはFenneszのEndless Summerを賞賛しているが、Logosの『Cold Mission』やTojiko Norikoの『Solo』からもヒントを得ている。Voilàは、「Some Jazz」や「Club Extérieur」などのビート重視のトラックで、靄やアトモスフェリックなゾーンの合間にグライムやハウスの要素をちらつかせている。

 音楽は旅行中に録音したものをベースに、いくつかのアナログシンセとたくさんのDX7を乗せている。このミックスは非常にシャープなハイエンドにフォーカスしており、夏、無目的、レジャー、様々な天候、様々なムード、時間の経過、気候の経過、愛、日常といった感情のぼやけた物語と進行に独自の色を添えている。

 

珍しく1曲目からかましてくる気合いの入ったリリースだ。曲名からなんとなく意図が読めるもののかなり実験的なサウンドの#1・#2を過ぎると、今度はまっとうなクラブ仕様のトラックでちょっとした優等生ぶりをアピールする。音の定位にも配慮した充実の内容だ。その後も冗談か本気かよくわからないが、おもしろくクセのあるトラックが続いていく。ミニマルなジャケットが冗談に思えるほどの軽やかな遊び心に満ちた作品だ。サウンドの目指すイメージを捉えるためにも曲名は意識して聴くといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Complete Walkthru

Complete Walkthru

 

 

 

 

 Max McFerrenは2014年の『Club Amniotics』から始まったMCFERRDOG三部作の完成を回避し、代わりに初期のテクノのパイオニアストーリーテリングと喜劇的ライフスタイルの考察に大きく触発されて分岐した道を歩み、再びカセット形式で1080pに帰還した。

 『Complete Walkthru』は、マクファーレンの過去の作品を導いていた直感的なモチベーションから一転している。この作品では、より親密なエレクトロニックの領域に、より自己を反映したムードを見出すことができる。ブレイクに彩られたハウス、ディープでウォンキーなテクノ旅行、明るいメロディーのループ、そして超怪しく高揚感のあるボーカルが、この2面の9トラックを構成している。

 ストーリーテリングとコメディーへの考察によって規定されたサウンドへの予備調査に焦点を当て、精神は特にMaxがもたらす爽快なタッチで聴くことができる。この二流のプロローグは、ジャコ・パストリアスの悲劇を、私たちのために誰かがゲームをしているのを見るかのように見せてくれる。ただの「よいしょ」の「よい」だ。

 

Max McFerrenの新たな名義でのセルフタイトル作。テイストの統一よりも新たな音楽性の追究を優先し、既存のセルフイメージからの脱却・刷新を行っている。#2「Blatant Doug」でのAphexライクな牧歌的なサウンドや#7「Performative Grief」での荘厳でシリアスなストリングスなど、随所で興味深い音が現れる。とはいえ元来のユーモラスな気質は健在で、その軽いフットワークでさまざまな音楽性を飛び越えていくところが一番の魅力だろう。ジャケットどおりのどこかおかしくてカラフルな作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Alpha Barry

Love

 

 

 

 

ここまでの1080p作品の情報は基本的に公式のbandcampページとDiscogsのページを参考にしていたのだが、そのどちらにも載っていない#69のリリースとして今作がある。いやDiscogsにすら載っていないのだから「ある」と断言しづらいのだが、とりあえずBleepにてこの作品(シングル)が入手できる。内容はソウルフルなサンプルにスタッターを効かせた、dj newtownを彷彿とさせるキャッチーなポップ。出自が謎のわりにアンセムのような風格のある名曲なのがニクい。そして結局これは誰なんだ。

 

 

 

 

 

 

・12インチヴァイナルでリリースされた作品

(Project Pablo『I Want To Believe』は同名の過去作とほぼ同内容なので割愛します。)

 

 

 

 

 

 

Max McFerren

Sipps

 

 

 

 

 デジタルのみ。12インチ盤はRub A Dubの配給により世界中の多くのストアで発売中!

 Max McFerrenが1080pで3回目(本名では初めて)の登録を行い、『Sipps』12インチにて、4曲の奇妙なアシッドとファンク調の高揚感でリスクを冒しながら人生に打ち込んでいる。ニューヨークのチャイナタウンの未来が完全に不透明な時期に制作された本作で、McFerrenはブレイクとアシッドの純粋な生態系を探求し、「take me to your dealer」タイプのエイリアンファンクの語彙を利用して、彼自身の声を未知の場所に推し進めている。

 『Sipps』はある種の調査である。彼のこれまでのMCFERRDOGテープの軽薄さと、より実生活と実名をベースにしたクラブでの言葉を統合し、自分の音楽の中で何が最も「自分」であるかを見極めようとする考えがはっきりと聞こえる。初めて地球に降り立ち、友達を作ってみて、その過程で自分について学んでいるのだ。

 

MCFERRDOG名義で二枚のアルバムを出した後にリリースされた12インチ。Sipp(s)とは「啜る(すする)」という意味の英語らしく、もしかしたらプレスリリースの文章のように自身をエイリアンと重ねているのかもしれない。MCFERRDOG名義での遊び心を抑え、よりダンスフロアにフォーカスしたアシッディーなテクノ。タグに「funk」と付けられているが、改めて考えればこのビヨビヨとしたアシッドなサウンドは粘るギターやベースのそれと似ているかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

Mall Grab

Elegy

 

 

 

 

 オーストラリアのニューカッスルからの酔わせるようなテクノの最高峰。今年前半に驚異的な生産量を記録したプロデューサーJordon Alexanderが、Collect CallからのEPに続き4曲の新曲をリリース。

 Mall Grabの幽玄さは、お馴染みのナイトドライブの感覚と、薬漬けのStrictly Rhythmのヴァイブが混ざり合ったものだ。ハウスとテクノの最近の神秘的体験と同様に、昔のThree 6 Mafiaのミックステープに敬意を表した、控えめで美しい、“めちゃハイになった”内省的性質である。

 ボーカルトラック「Awake」の色褪せた脅威から始まり、ヘビーでローファイな4/4 120テクノへとステップアップしていくこのEPは、「Elegy」で霞がかった汗だくで生き生きとしたゾーンへと進み、B面ではより晴れやかで目覚めたばかりのような「Never」、そしてメロディアスなドリフトへとぼやけていくスローバーナー「Drive」まで、ノスタルジーに覆われ、幅広い要素が取り込まれている。

 

盤面の鮮やかな紫が音楽性を象徴しているかのような、幽玄なディープハウス。『100% Galcher』チックな朴訥としたボーカルが乗るA1「Awake」からロウでぼやけた感覚が表出する。A2「Never」の優しい音色のコードなど、全体的にクラシックなサウンドが追究されている。Collect-CallからのデビューEP『Feel U』に並ぶ充実の内容で、一年足らずでこのクオリティの作品を連発されたらそりゃ注目されると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

Via App

7 Headed

 

 

 

 

ニューヨークのDylan Scheerによる5曲入り12インチ。ベッドルームなんて知ったこっちゃないストレンジで尖った感性はここでさらに研ぎ澄まされている。A1の「Baby K Interaction」はまだスムーズな印象だが、以降のトラックからは捻りに捻った奇妙なサウンドが飛び出してくる。B2「Poison」ではまさに毒のような危険な領域へ突っ込んでいる(ボイスサンプルが怖すぎる)。意味はわからないが楽曲は練られており、全体のクオリティは『Dangerous Game』以上。おもしろいのでぜひ一聴をおすすめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Earth Boys

Welcome 2 Earth

 

 

 

 

 地球を拠点とするプロデューサーJulian DuronとMichael Sherburnが、時代を超えたチルなグルーヴに彩られた巨大な12インチで1080pに着陸。Earth Boysはヴィンテージハウス、スムースジャズブレイクビーツの深い靄の中でそれぞれのトラックを構築する。彼らの特徴であるふざけたサウンドを作り出すため、メーディーなボーカルやアナログ機材を蓄積しているのだ。

 「Welcome 2 Earth」は、アップビートなメロディーとキャッチーなフックを提供し、パパハウス、ブランチハウス、ミレニアルジャズといった新ジャンルへの傾倒は、彼らのスタジオワークの要である楽しさの創出へと繋がっている。

 DuronとSherburnはDUST、Christian Surfer、Toddといった他のプロジェクトでも頻繁にコラボレーションを行っており、『Welcome 2 Earth』ではJohn Barclay (DUST) とLemon D (Planet Earth, Metalheadz, Kickin Records)がコラボレートしている。Bossa Nova Civic Clubでのレギュラー・パーティーや多彩なDJセットでも知られるEarth Boysは、宇宙全体を地獄のようにハイにするという重大な使命を持ってNYCのストリートを熱狂させているのである。

 

どうも、地球を拠点とする暇人のmuimixです。冗談はさておき、上質なディープハウスがコンパクトにまとめられた名作EPです。ことごとくツボを押さえた展開で聴き手をゆっくり持ち上げていく。ベースラインはやや地味かもしれないが代わりにウワモノの自由な飛翔をつぶさに捉えることができる。特にB面のメロウに、メロディアスに羽ばたいていく様子は感動的。A2「Should B Wit U」ではまるで宇宙と交信しているかのような電子音がフィーチャーされている。Earth Boysは実際はニューヨークのブルックリンを拠点としているようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

Khotin

Baikal Acid

 

 

 

 

 エドモントンを拠点に活動するプロデューサーKhotinは、2014年にリリースしたカセット『Hello World』と同様な雲に頭を突っ込み、ディープで内省的な707ハウスの4トラック12インチを発表した。

 『Baikal Acid』は両面とも内省的だ。A面では冬の推移する領域「Recycle」のビートにフォーカスしたアンビエントなリワークをフィーチャーしている。B面では同様にメロディが前面に押し出され、EPのタイトルトラックと「Human Voice」はダンスに適した孤立主義と現実の深夜の雑多なムードの連続する現実をさらに強めている。

 

Baikal……ロシアの世界最深の湖か、それにあやかった(?)ロシアの清涼飲料水。…くらいしかヒットしません。『Hello World』での爽やかさはさておいて、ここではダンスさせる機能は備えつつも内省的な空気が追究されている。アシッドみはベースラインに現れる程度で、全体としてはディープハウス寄り。A2「Recycle (Drift Mix)」はA1をビートレスにしたアンビエントトラック。ハイライトはB1の「Human Voice」で、後半、自由に振る舞う高音のパートが出てくるとにおもむろに切なさがこみ上げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

Sasha Jan Rezzie

All My Dreams

 

 

 

 

 ブルックリンのプロデューサー、Sasha Desree、Jan Woo、Rezzie Avissarが贈る、超エモーショナルでメロディー飽和のヘビーヒッター5トラック。Sasha Jan Rezzieは、未来から来たクラシックなハウスボーイズバンドだ。

 デビュー12インチ『All My Dreams』は濃密かつグラグラで、ディープハウスとプログレッシブハウス、ブレイクに曲げられたテクノでフィルターされた、はっきりとハイになったロマンティックな感情が詰め込まれている。霞がかかった、熱狂的なハウスのピークが、啓示的でやりすぎなボーカルサンプルと衝突し、薄紫色の群れによって変異させられる。

 

やたらヒロイックな曲名からも感じられるが、少しむさ苦しいほどの「エモ」が詰め込まれた作品だ。まだ1曲目は控えめだが、それ以降はやや過剰なサウンドが展開される。プレスリリースでも触れられているが、A2「Wild Heart」を聴くとたしかにボーカルサンプルを重ねすぎに感じたりする。ロマンに溢れた、情熱的なディープハウス。

 

 

 

 

 

 

 

 

Ex-Terrestrial

Paraworld

 

 

 

 

 モントリオールのAdam Feingoldによる高高度を目指すメロウな新作は、昨年1080pからリリースされたカセット『Nuff Zang』に続き、チルビエントとシェイク&ブレイクを組み合わせたEx-Terrestrial名義の4トラック12インチに滑り込んでいく。

 『Paraworld』は、ミレニアル世代のダウンビートの領域と自然主義的なアンビエントIDMを回想する。水中を通過する太陽光と屈折する青い色彩の焼き付けられたヴィジョンは、00年代初頭のインストゥルメンタルの平和と安定を反映している。

 2015年の夏から初秋にかけて、Yamaha CS 1Xを中心に、Juno 60を数台使用して録音された。

 

Feingold名義の上品なダブテクノから打って変わってWarpのArtificial Intelligenceシリーズを思わせるようなクラシックなIDMへ。A1「Paraworld」なんかは初期のAphex Twinの未発表曲かと勘違いしそうな出来だ。スタイルを変えた一発目でこのサウンドの完成度なので、相当に優れたセンスを持っていると思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

Zozi

Mellow Vibe

 

 

 

 

Sophie Sweetland(aka D. Tiffany)のZozi名義の12インチ。名義変更に伴い音楽性もハウスからジャングル~ドラムンベースへと変化。直球なタイトルで、特にA面でまさにメロウなムードが追究されている。タイトルトラックのA1はそのメロウさによって見出され、Leon VynehallのDJ-Kicksにて使用されている。とはいえジャンルが持つ猥雑で狂騒的な側面(ドラムとボイスサンプルが顕著だ)も追究されており、ぶっちゃけA2以降のトラック(つまりタイトルトラック以外)はわりと激しいサウンドだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Perfume Advert

Big Gete Star

 

 

 

 

 ミドルズブラの若者、Aaron TurnerとTom BrownがPerfume Advertとして1080pに帰ってきた。このレーベルの初期のカセットリリースとしては画期的と言える作品(2013年の『Tulpa』)に続き、テックハウスと深いレイヤーのハウス、極めてヘビーなナイトドライブの空気とより抽象的な魅力的なフィーリングを、脈打つ質感と彼ら独特のよどんだ宇宙で鮮やかに洗い上げた作品である。

 このトラックは、彼らがサルフォードに移る前にBoroで作曲・録音された最後の数曲であり、過去数年にわたりベッドルームからサウンドを持ち出し、クラブやフェスティバルで実験した結果である。芸術的な影響は、「タルパ」と同じ奇抜なSFの領域にとどまっており、サンドワームがいたるところに登場し、以下のようなものが描かれている;バラードの落書きや映画化、天野喜孝初期のシュールでテキスタイルを多用した作品やファンタジーのドリームスケープ、フィリップ・K・ディックディストピアで近未来の予言、鳥山明のキャラクターやストーリーテリングに対する異常に活発でオーバーなアプローチなど。

 

基本的なテクスチャーやアプローチは『Tulpa』からそう変わってはいない。が、ビビッドな音色が多少増え、以前よりもう少しダンスフロアに踏み込んだような作品となっている。プレスリリースの後半部で語られている内容は、正直そのサウンドからは想像することが難しいのだが、しかし作品や曲の名前が描く世界観はたしかにユニークではある(「Mirror Shield」というような曲名はあまり見かけることはないだろう)。

 

 

 

 

 

 

 

 

J. Albert

Strictly J

 

 

 

 

 NYCの多作なプロデューサー、J AlbertことJio Albertの4つの新しいルーズで美しい都会的なハウスグルーヴのマントラはいつも通りシンプルであること、そしてもちろん「Strictly J」であることだ。

 DJ Osom名義でSoundcloudからリリースしているグライムビートに加え、Jioは最近のBlack Opalからのリリースで朦朧としたジャングルを探求し、また自身のレーベルExotic Dance Recordsからのリリースを12インチで再発する。

 『Strictly J』は、SohoのHot Musicの雰囲気が漂うゾーンに、クラシックハウスを無骨にアレンジしたものだ。忙しいパーカッション、狂ったダウンタウンビート、ストップ&スタート、散り散りのブレイク、そして奇妙にさわやかなメロディーが特徴なこれらのトラックは夏のためのゆったりとしたいかしたダウンである。

 興味深いことに、私は去年の夏、クイーンズ区リッジウッドにあるJioの部屋を間借りしており、私が技術サポートの仕事をしている間、彼がこれらのトラックを制作している隣に座っていたのである。彼は当時、Buddy RichやBill Evans、Jeremy Steigをたくさん聴いていた。

 

4トラック平均約7分と少し長尺だが、どのトラックも一捻りある興味深い展開を見せる。特にA1「Pangs」は中盤以降、意図的なリズムの崩壊などを交え一際スリリングに展開する。楽曲の展開はもちろん、パーカッションの音色やリズムの組み方などに独自の要素……というか強いDIY感があり、それが作品を際立たせている。ややストレンジな印象はあるがその手作り感には非常に好感が持てるし、それこそがやがてアーティストの個性となっていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

Image Man

Glance

 

 

 

 

 重要な新人レーベルSUNAL/PERABOBからのリリースに続く、ニューヨーク出身のImage Manによる幻想的なハウスとテクノ。ループとドラムマシンで構築された、風当たりの強い逆説的なトラック(それらは全てライブ録音された)を収録した12インチだ。

 『Glance』は奇妙でドラッギーな退廃的領域へ遠く推移する。そこではディスコ、ソウル、古代のポップスのサンプルの反射を、彼自身のプリミティブな陶酔の中にループさせる。 スローモーなダウンビートで始まる "More "から始まり、より不安なリズムの "Else "は後半に響いてくる、残響のあるサンプルのプールへと濾過されていく。

 「われわれは当たり前のように聞こえてくる音を信頼する——音楽は私たちを迷わせることはないでしょう? 感情というものは、私たちを迷わせる。感覚の欲望、永遠に続くことへの願望、変化の懇願、エクスタシーの期待。鏡をひと目見ればわかる。」

 

レーベルとしては珍しい、いわゆるブラックミュージックの要素を持った作品で、A面にて直接的にソウルからのサンプリングが使用されている。B面ではエレクトリックなサウンドに回帰し、B1では柔らかなサウンドで快適さを、B2では過剰なサウンドでドラッギーさを追求している。Glance(一瞥)というタイトルのわりに攻めた内容だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Umfang

Riffs

 

 

 

 

 UMFANGのヴァイナルデビュー作『Riffs』は、昨年1080pでリリースされたカセット『Ok』に続く、ソフトなバンガーとビートレスな運動が特徴だ。この5曲入りの12インチにて、ブルックリン在住のプロデューサーはあらゆるところでアンビエントにトリップし、パーカッションと同様にテクスチャーを調査している。

 MicrokorgをXoxboxでシーケンスする能力を発見したことで全てが変わり、これらのトラックは鮮やかな形を取り、以前のポリリズミックなテクノ・フットワークの思考から論理的に進歩し、風景のようなイメージに対してシンプルなメロディで4/4を回避している。

 UMFANGは、多作なDJであるEmma Olsonで、Discwomanの共同設立者であり、Bossa Nova Civic Clubで地元の新しい才能とヴァイナルへの愛情に焦点を当てた月例レジデンス、Technofeminismを計画している。

 

二作続けてこういう音楽性ならば、それはもうアーティストの個性なのだろう。少ないサウンドの持続的な変化で聴かせる、ミニマルである意味ハードコアなテクノ。近い例を挙げるならPlastikman「Helikopter」で、全体のトラック数を絞ることで聴き手の耳を特定のサウンドの細かな運動にフォーカスさせるスタイル。音楽以外で例えるなら、それは例えばピントの絞られた定点カメラを覗くような体験だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

Minimal Violence

Night Gym

 

 

 

 

 バンクーバー出身のAshlee LukとLida Pのデュオ、minimal violenceによる衝動的で直感的なハードウェアハウス&テクノ。『Night Gym』に収録されている5つのトラックは都会の風景のサウンドトラックだ。質感のあるシンセ、重いキック、緻密なポリリズムが融合し、デュオ独自のアウトサイダーハウスを形成している。

 ミニマル・シンセとシカゴ・ハウスから影響を受けたというNight Gymは、ダブリンを拠点とするFirst Second LabelからのセルフタイトルのEPに続いてリリースされ、パンクとテクノの間に横たわる交差を綿密に検証している。

 2016年2月から3月にかけてデュオのホームスタジオで録音された本作では、ライブのワークフローの本能的な性質がデュオの創造的プロセスにおいて重要な役割を担っている。ハードウェア(SH-101、TR-606/505/707、Waldorf Blofeld、Juno-60、DX-21、MPC1000)に加え、Abletonで編集・操作したサンプルを使用した本作は、デュオの多様な関心と協力的な気質を示す一例である。

 NONPOROUSのグラフィックデザイナーであるKevin McCaugheyが、Night Gymのビジュアルを担当。彼はまた12インチに付属するポスターのデザインと、Boot Boys Bizで販売される限定生産のロングスリーブTシャツのスクリーンプリントも手がけている。

 

極端に太い音色のキック(ガバキックというらしい)が印象的な、攻撃的なテクノ。というかキック以外のサウンドも軒並み太く、一部では普通に音割れしているように見受けられる。「Night Gym」とはその名の通り夜のスポーツジムで、今作の音の太さももしかしたらそのジムのイメージからきているのかもしれない。健康のために鍛えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

Luis

Dreamt Takes

 

 

 

 

 NYのプロデューサーLuis aka Brian PineyroによるIDM12インチの快適で暖かなブランケット。距離と分離をテーマにした4曲の新曲が、街灯りのエレクトロドリフターと思慮深いブレイクとして形になっている。

 避難民やさまざまなレベルの行方不明者から様々なインスピレーションを受け、DJ Xanax、DJ Python、DJ Weyとしての活動を基盤としているLuisは、ヘッドフォンエレクトロニカの秘境のエモーショナルな面により深く入り込み、暖かさと孤独を均等に表現し、深いベースと淡いメロディーに沈んでいくようなムードを作り出している。

 

近年世界的に活躍しているDJ Pythonの別名義の作品で、彼のバックグラウンドに強くIDMがあることを窺わせる。ベッドルームと親和性のある柔らかなサウンドで統一されているが楽曲はバラエティに富んでいる。ジャグジーのような泡立った電子音がフィーチャーされたB1「Talk Me Down」はかなり個性的だ。ブレイクビーツやドリルンベースなどリズム面での実験もあり、全4曲ながら多様なスタイルの詰まった充実した作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Jayda G

Sixth Spirit Of The Bay

 

 

 

 

 カナダのプロデューサーJayda Gによる軽快でアクアマリンなハウス・グルーヴに、モントリオールのデュオCafe Lanaiのトラック「Girl Music」のリワーク2曲からなる楽しい12インチ。

 2016年の春から夏にかけて制作された『Sixth Spirit』には、現在の経験に基づく暖かさと気楽さが吹き込まれており、オンタリオ州の若い科学者としての最初の現地調査のノスタルジアにループバックしている。

 カナダの森林がこれらの曲を通して息づいている。その動きとグルーヴは、彼女がその昔に経験した好奇心と学習の感覚をエミュレートしている。「あの現地調査は一生忘れられない冒険でした。」

 

一部でセクシーなボーカルをフィーチャーした軽やかなハウス。蛇と鳥が大きくあしらわれたジャケットもそうだが、そのサウンドからもどこかトロピカル、あるいはバレアリックなフィーリングが感じられる。カナダのオンタリオ州の豊かな自然を反映しているようだ。全体的にパーカッシブな、明るく爽やかな内容で、外出時のBGMなんかにもフィットするだろう。晴れた日に窓を開けて聴きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Riohv

Green Room

 

 

 

 

 モントリオールからオタワのプロデューサーRiohv (aka Braden Thompson) によるエレクトロ、IDM、ブレイク、ハウスのグラブバッグ12インチEPは、2014年にリリースされた同様の地図を飛び越えた1080pのカセット『Moondance』に続くものだ。

 プロデューサーとしての自身の能力に自信と熟練を見出したThompsonは、より多くの楽しみを得ることができ、その後、自身のレコードのテイストを反映したサウンドに修正、更新した。このEPは、冬から春にかけてモントリオールで一挙に制作された。

 つまるところ、『Green Room』では彼が聴きたいものが作り出されている——ドリーミーでムーディーなパッドを通したアトモスフィア、重なり合うパーカッシブな要素、初期のレイブミュージックに敬意を表して。

 

揺らぐ高音と鳥のさえずりで幕を開ける、爽やかで親密なハウス。前作に引き続き柔らかく暖かなサウンドを基調としながらも、より自由なスタイルが追究されている。好戦的なジャングルに挑んだB1「Juice It」がその好例だ。前作での霞がかったアンビエンスが消え全体的にサウンドがくっきりとしており、そのことが爽やかで積極的な印象を生み出しているようだ。しかし1曲目「Redux」の爽やかさはもうこれ優勝ですね。