神キャラゲー「メルクストーリア」のイベントストーリーをみんな読んでくれという話(動物の国1編)

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 「メルクストーリア」というスマホゲームのストーリーがすばらしいのでみんな読んでくれ!という話です。(めちゃ長いので記事を開くときは注意してください)

 

 

公式サイト:

mercstoria.happyelements.co.jp

 

 

 今回の記事を読む前に以前に書いた以下のメルスト紹介記事を読んでおくことをオススメします。ゲームの紹介、ゲームにおけるイベントストーリーの位置づけ、イベストを読む前の注意点などが書いてあります。

神キャラゲー「メルクストーリア」のすすめ(&個人的おすすめストーリーまとめ)その1 - ヨーグルトーン

神キャラゲー「メルクストーリア」のすすめ(&個人的おすすめストーリーまとめ)その2 - ヨーグルトーン

 

 

 以前からメルクストーリアというスマホゲーをプレイしており、そのシナリオの良さにたびたびノックダウンされていたのですが、先日ツイッターを見ていたら「あまりにもイベシナリオの質がいいので1日15分の写経を始めた。分析甲斐がすごい。」という内容のツイートが流れてきて、(それだ…!)となりました。(?)

 

 メルストの一番の魅力はストーリー(公式サイトでも「ストーリー重視」と謳われている)ですが、まっさらな状態からストーリーを楽しむためにはインストール→(ユニット育成)→クエストの攻略…というそれなりのハードルがあります。その上メインストーリーはおもしろくなるまでが長いしイベントストーリーはいっぱいあって自分の好みのテイストのシナリオに出会えるかわからないし……

 

 シナリオの良さを伝えたいのにシナリオを読めるようになるまでにけっこうハードルあって辛い……と、ここで出てくるのが「写経」というアイデアです。私がゲーム中の優れたシナリオテキストを写経(というか文字起こし)して、簡単にアクセスできるようにすればいいのでは!?

 

 いやいやそれ権利的にアウトっしょ……と自分でも思ったのですが、確認してみたらどうもオッケーらしいです。

コンテンツ利用ガイドライン | Happy Elements株式会社

2020年6月25日確認

 一応明示しておきますが、自分の目的はメルクストーリアのイベントストーリーをより多くの人に読んでもらうこと(そしてあわよくば新規ユーザーが増えて売り上げも増し、それをリソースによりメルストがゲームとしておもしろくなっていくこと)です。

 

 

 

 

 

 というわけで、以下に自分が「おもしろくて、かつ初心者向きである」と思っているイベントストーリー、動物の国1st「夜明けの王と囚われの花嫁」のテキストを掲載します。

 

公式サイトの紹介:

国や登場キャラクターの紹介、ストーリーのあらすじなどが載っているので、下を読み進める前に一度覗いておくといいと思います。

mercstoria.happyelements.co.jp

 

・キャラクターが初めてストーリーに登場したときとシーンが切り替わったときは情報整理のためにスクリーンショットを貼っておきます。その他、ここは画像があった方がいいなと思ったところに貼ってあります。

 

スクリーンショットではゲームの主人公の名前が「ヨクル」となっていますが、これは自分のプレイヤーネームです。半公式で主人公には「ユウ」という名前が付いている(ドラクエのアルスみたいな感じです)ので、以下のテキスト中では主人公の名前は「ユウ」と表記します。

 

・注意ですが、メルクストーリアでは背景、キャラ立ち絵、表情差分、テキスト、BGMと複数の要素でストーリーを表現しています(メルストに限りませんが)。本記事の書き起こしではそれらの要素が差し引かれることによって、原作の表現よりかなりニュアンスが失われています。

 今回紹介したシナリオテキストが気に入った方は、ゲームをインストールしてぜひ本来の状態でイベントストーリーを楽しんでみてください。おもしろいシナリオは何度読んでもおもしろいので…。

 

 

 

 

 

動物の国1st

 

「夜明けの王と囚われの花嫁」

 

 

 

第1話 ウルカとアルム

 

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メルク:みゅっ、ユウさん! ようやく上り坂が終わりそうなのですよ!

 

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ユウ:や、やっとか……! ……でもこのあとはこの長い坂を降りていかないといけないんだよな……。

 

ユウ:動物の国は道がちゃんとしてないから、歩きづらいし……。

 

メルク:もう一頑張りなのですよ! ほら、ここからだとこれからいく村が見え……、みゅ?

 

ユウ:どうしたんだ?

 

メルク:村が2つあるのですよ。

 

ユウ:2つ?

 

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ジャモ:お前さんたちはこのあたりの商売に付き合うのは初めてだったじゃもか。

 

ユウ:あ、ジャモさん。

 

ジャモ:あの右側にあるのがウルカ村、今回の目的地じゃも。

 

メルク:左側の村は行かないのですよ?

 

ジャモ:あそこはアルム村じゃも。残念ながら、あの村は商売には向かないのじゃも。

 

メルク:そうなのです?

 

ジャモ:一度出向いてみたじゃもが、歓迎されなかったじゃも。といっても、これから行くウルカ村も、元はアルム村と変わらなかったじゃもが……、

 

ユウ:……? それにしても、右のウルカ村って、村というか……、

 

メルク:そろそろ町といってもいいくらいなのですよ。

 

ジャモ:数年前から長の第一子が、村の方針を変えたのじゃも。

 

ジャモ:外の国の文化や技術を取り入れて、短期間でここまで村を発展させたのは、その長子の手腕と言わざるを得ないじゃも。

 

ユウ:みゅ~、すごい人なのですよ~! 何という名前の人なのです?

 

ジャモ:ハルシュ……、

 

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メルキオーガ:グルルルルゥ!

 

メルク:みゅっ!?

 

ジャモ:モモモ、モンスターじゃも~ッ!

 

メルキオーガ:グルルルルゥ!

 

ユウ:うわあっ!

 

メルク:ユウさん、逃げるのですよっ!

 

メルキオーガ:グルルルルゥ!

 

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???:下がってくれ!

 

ユウ・メルキオーガ:……!?

 

???:怪我はないか?

 

ユウ:は、はい……。

 

???:それはよかった。すまないが、少しのあいだそこで待っていてくれるか? さすがにこれだけの大物となると、私でも骨が折れる。

 

ユウ:それって……、こ、こんな大きなモンスターを1人で相手にするつもりですか!?

 

???:ははは! 私はこれでも剣の腕には自信があるんだ。

 

???:だから、心配せずにそこで安心して待っているといい。君たちには傷一つつけさせないさ。

 

ユウ:は、はい……。

 

メルク:って、なにヒロインみたいな返事してるのですよ! ユウさんも癒術士なのです! 手伝うのですよ!

 

ユウ:あ! そうだった……。

 

 

 

第2話 お見合い

 

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メルキオーガ:グルルルルゥ……。

 

メルク:モンスターが森へ帰っていくのですよ!

 

ユウ:癒せたのか……?

 

???:いや、このあたりのモンスターはもともと癒されているんだ。

 

???:だが最近、なぜかモンスターたちの気が立っているようでね。モンスターが襲ってくることも多いんだ。

 

ユウ:いったいどうして……、

 

???:さてな、モンスターも生き物だ。なにか理由があるのかもしれない。今調べさせているところだ。

 

???:それより……、君は癒術士だったか。

 

???:戦闘中は気づかなかったが、君みたいな少年が……、

 

ユウ:えっ、あ、あの……?

 

???:……。

 

ユウ:あ、あの……。

 

メルク:きっとユウさんが意外と頼りなさそうでびっくりしてるのですよ!

 

ユウ:そりゃ俺は戦えないけど!

 

???:あ、いや! そういうわけではないんだ。

 

???:いきなりすまないな。その……。

 

メルク:みゅ? 後ろでなにか動いてるのですよ!

 

ユウ:ま、まさかまだモンスターが……?

 

???:あ……っ!

 

メルク:みゅ? 収まったのですよ。

 

???:き、気にしないでくれ……。

 

???:そ、それで……、ユウ殿、といったか……、

 

ユウ:あ、はい。

 

???:この道を通るということは、もしかしてこの先の村に用だろうか?

 

メルク:みゅっ、私たちはジャモさんの商隊と一緒に……、

 

メルク:そういえばジャモさんがいないのですよ!?

 

ユウ:あれ、本当だ。どこに……、

 

ジャモ:お、終わったじゃもか……!?

 

メルク:みゅみゅっ、荷車の影に隠れていたのですよ!?

 

ジャモ:わしの仕事は戦うことではないじゃも~! 護衛の諸君、ご苦労だ……、

 

ジャモ:ハルシュト様じゃも!?

 

メルク・ユウ:……?

 

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ハルシュト:ジャモ! そうか、さっきの商人はお前だったか!

 

ハルシュト:久しいな! お前が来るまでにもう季節が2つ過ぎてしまったぞ。

 

ジャモ:その代わりまたいろいろな商品を仕入れてきましたじゃも! 今回の品々も、きっとハルシュト様のお気に召すと思われますじゃも。

 

ハルシュト:お前の目は確かだからな。楽しみにしていよう。

 

メルク:えっと……お知り合いなのですよ?

 

ジャモ:……! この方こそ、さっき話したウルカ村の長の子、ハルシュト様じゃも!

 

ユウ:あの村を発展させたっていう……、

 

ハルシュト:それは村の者たちの功績でもあるが……、

 

ハルシュト:いかにもウルカ村の犬族の長、ハクシュトが長子、ハルシュトは私の名だ。

 

メルク:ということは……、す、すごい人なのですよ!

 

ハルシュト:ジャモ……、また話を盛ったな?

 

ジャモ:そんなことはないじゃも! ハルシュト様はウルカ村で、いや犬族で初の……、

 

ハルシュト:もういい。

 

ハルシュト:ともかく、ちょうど良かった。ジャモの護衛なら行先はウルカ村だろう? よければ私の家に招待したいのだが、……迷惑だろうか?

 

メルク:そんなことないのですよ! でもどうしてなのです?

 

ハルシュト:いろいろ話を聞きたくてな。

 

ハルシュト:モンスターを癒す力を持つ癒術士……、我がウルカが栄えているのもその癒術の恩恵が大きい。それに……、

 

ハルシュト:……その、ユウ殿には話したいこともある。

 

ユウ:え、俺ですか? ……そういうことなら、わかりました。

 

メルク:やったあ、なのですよ! ハルシュトさんのおうちが楽しみなのですよ!

 

 

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???:いいですかお嬢様。ここでは一層アルムの長の娘としての自覚をもって、大人の女性らしく……、

 

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???:ウルカ村って私たちの村とは全然違うなあ……。

 

???:いくらウルカの者たちとて、私たちと同じ犬族。そこまで習慣が変わる、などということもないはずですから、お嬢様も……、

 

???:見たことないものもたくさん……、

 

???:で・す・か・ら! お嬢様もアルムの娘らしくしていれば今回のお見合いも……、

 

???:わあ、ベルナー! あれ見て!

 

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ベルナー:お嬢様! 私はお嬢様のためを思って大事な話を……、

 

???:もー、わかってる! ちゃんと聞いてるってば。

 

???:結局は今回のお見合いを成功させて、ウルカにアルムを助けてもらおうって話でしょ?

 

???:確かに、アルムは生まれる子供の数も少ないし、モンスターを避けて狩りをするせいで食べ物だって豊かとは言えない。

 

???:反面、ウルカの豊かさは箱入り娘の私にだってひと目でわかる。

 

???:安心してよ、ちゃんとアルムの長の娘として、女らしく、役目を果たすから。

 

???:ベルナーもそう望んでるんでしょ?

 

ベルナー:……もちろん、これはお嬢様のためになることですから。

 

ベルナー:それに、相手の方はこの村を発展に導いた、次期長として申し分のない犬族であるとの報告も上がっております。

 

ベルナー:強い犬族と結婚し、家庭を守ることこそ、アルムの娘の幸せ。

 

ベルナー:……リイリお嬢様、私はあなたに幸せになって頂きたいのです。

 

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リイリ:それはもう何度も聞いたよ。

 

リイリ:ね、相手の方の名前はなんだった? 結婚相手の名前くらい、覚えておかなきゃね。

 

ベルナー:……ハルシュト殿です。

 

リイリ:ハルシュト様、かあ……。どんな人なんだろう。

 

リイリ:……? なんだか外が騒がしいような……。

 

ベルナー:お嬢様はここでお待ちを。私が様子を見て参ります。

 

リイリ:……。これが最後のチャンス……。

 

リイリ:……ウルカに嫁げば、もうアルムには帰れない……。

 

 

 

第3話 ベランダにて

 

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???:ハルシュト様! いったい今までどちらに……、もしやまたスティト様を探しに出られたのですか?

 

???:お一人で何かあればと、このテナーが何度も申し上げましたのに……!

 

ハルシュト:すまない、心配をかけたようだな。

 

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テナー:ああ、そうです、お伝えせねばならぬことが……! 昨夜、アルムの姫君がお着きになりまして……!

 

ハルシュト:アルムが?

 

テナー:は、はい。今はお部屋におられ……、おや、後ろの方々は……? 失礼ながら犬族ではないようですが……。

 

ハルシュト:ああ、テナーも知っているだろう。商人のジャモと、……そして、癒術士の者たちだ。

 

テナー:癒術士ですかな!?

 

ハルシュト:そうだ。手厚くもてなしてくれ。

 

テナー:……わかりました、ハルシュト様に従います。

 

ハルシュト:頼む。

 

ハルシュト:……しかし、もうアルムの者たちが……。予定より早いな。

 

テナー:アルムの番犬、ベルナー殿がご一緒のようです。かの者の強さは我がウルカでも有名ですからね。

 

ハルシュト:そうか……。テナー、見合いは予定通り2日後に行う。一日早く着いたからといって、早めるわけにはいかない。

 

テナー:し、しかし……、

 

ハルシュト:どうにもならなければ、私がアルムに頭を下げよう。

 

テナー:そんな……。

 

テナー:わ、わかりました……。ハルシュト様がそこまでおっしゃるなら。

 

ハルシュト:ああ。

 

ハルシュト:ジャモ、ユウ殿たちも、少しごたごたしていて申し訳ない。さっそく部屋に案内させよう。

 

 

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テナー:こちらの部屋がお二人の部屋になります。

 

メルク:素敵な部屋なのですよー! みゅっ、見るのですよユウさん! そこから外が眺められるのですよ!

 

テナー:そこのベランダは部屋内から死角ができるため、その昔、許されぬ恋人たちが親に隠れて逢瀬を交わすために使われていたという話もあります。

 

 

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ユウ:へえー、ここで……、……。

 

リイリ:……!

 

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リイリ:し、……しーっ!

 

メルク・ユウ:……。

 

テナー:ユウ殿?

 

 

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ユウ:あ、いえ……、

 

テナー:ベランダがお気に召しましたか?

 

ユウ:えっ、はい!

 

ユウ:あそこで恋人たちが会ってたなんて、ロ、ロマンを感じますよね!

 

テナー:……! おお、ユウ殿はロマンの分かる方でらっしゃる!

 

テナー:いやはや、このテナー。今までこのロマンを分かち合う相手に会えずにいましてな。犬族は実用的でないものには価値を見いださないのです……。

 

テナー:お恥ずかしい話、私はハルシュト様のお言葉を疑っておりました。王国の民とわかりあえるはずもないと……。

 

テナー:王国や外の国の技術で我がウルカが栄えているとはわかってはいるのですが、ただちにそういう変化に馴染むのは難しいことです。

 

テナー:しかし、いくら私が変わり者とはいえ、このようにして王国の者と同じ気持ちを抱くことができる……。

 

テナー:ハルシュト様のお言葉が、今なら理解できそうな気がしております。

 

ユウ:は、はあ……。

 

テナー:おや、すみません。長々とお話してしまって。

 

テナー:ここに来る前にモンスターが暴れていたと聞きました。今日はゆっくりと休んでくださいませ。

 

 

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メルク:ユウ:……。

 

リイリ:……はあ、見つかるかと思った……! ありがとう、匿ってくれて……、

 

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リイリ:ってあれ!? 耳がない!

 

ユウ:そりゃそうだろ。俺たちは王国から来たんだから。

 

リイリ:王国……!?

 

リイリ:……なんだかベルナーから聞いていたのとちょっと違う気が……。

 

ユウ:それにしてもあんなところでどうしたんだ?

 

メルク:ま、まさか許されぬ恋の逢瀬を……!

 

リイリ:あはは、違うよ! 逆!

 

ユウ:逆?

 

リイリ:そう、逆……。……私、このままだと好きでもない人と結婚させられるんだ。

 

リイリ:ちゃんとするつもりだったのに、気がついたら部屋から逃げて、ここに……。

 

メルク:……。

 

リイリ:……勢いのまま、ここまで来ちゃったけど、……これからどうしよう。

 

メルク:……こ、ここは……。

 

リイリ:ここは……?

 

メルク:一度逃げてみるのも1つの手なのですよ!

 

リイリ:逃げる?

 

ユウ:おい、メルク……!

 

メルク:ユウさんはいいのですよ!? 好きでもない相手との結婚なんて……! 私は絶対に嫌なのですよ!

 

ユウ:そりゃわかるけど……。

 

リイリ:でも、私が結婚しないとたくさんの人が困ることになる……。

 

メルク:……その人たちのために結婚するにしても、今のままじゃきっとダメなのですよ。

 

メルク:一度逃げて、考えるのです。

 

メルク:そして本当に結婚してもいいと思ったら、戻ればいいのですよ!

 

リイリ:……。

 

ユウ:……。

 

ユウ:逃げるったって、どこに逃げるんだよ? 誰から逃げてるのか知らないけど、この村の人なんだろ? 村にいたんじゃ、すぐ見つかるぞ。

 

メルク:こうなったら森なのですよ!

 

ユウ:森!? そんなこと言っても、森にはモンスターが……、まさか……。

 

メルク:そのまさかなのです! 私たちも一緒に逃げればいいのですよ!

 

ユウ:はあ!? そうは言ってもな……。

 

リイリ:……。その子の言うとおりかもしれない。

 

ユウ:え?

 

リイリ:お願い、私を連れて逃げてくれませんか!

 

 

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ベルナー:(騒ぎはウルカの長子が帰られたことに対してだったか……)

 

ベルナー:(後ろに王国の者を連れていたようだが、ハルシュト殿は本気で外の者と手を取り合うつもりなのか。あのような得体の知れぬ力を使う者たちと……)

 

ベルナー:(だとすれば、お嬢様は本当にウルカで幸せに……)

 

ベルナー:……? ナーク、どうかしたか?

 

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ナーク:ベルナー様! それが、先ほどからお嬢様の返事がなく……、

 

ベルナー:なに?

 

ナーク:私はずっと扉の前におりましたので、お嬢様は必ず部屋に居られるはずなので

すが……!

 

ベルナー:……!

 

 

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ハルシュト:……、ユウ殿……。ユウ殿か……。

 

テナー:ハ、ハルシュト様! 大変です! アルムの姫様がさらわれました!

 

ハルシュト:……どういうことだ?

 

テナー:は、はい! あ、いえ、ベルナー殿がそうおっしゃられておりまして!

 

テナー:なんでも、ユウ殿たちがリイリお嬢様を連れ去ったのだと……。

 

ハルシュト:それで、ベルナー殿は?

 

テナー:すぐさま、ユウ殿を追いかけて屋敷を出られました。

 

ハルシュト:そうか……。

 

ハルシュト:真相はともかく、ウルカで起こったことだ。私も動かねばなるまい。まずはベルナー殿に合流する。

 

テナー:……いくら王国の者とはいえ、本当にユウ殿たちなのでしょうか?

 

ハルシュト:さてな……。

 

ハルシュト:なにはともあれ、私もベルナー殿と共に愛しい人を追いかけるとしよう。そうすれば真相もわかるだろうしな。

 

テナー:い、愛しい人……?

 

 

 

第4話 アルムの花嫁

 

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リイリ:ねえねえ!

 

ユウ:……?

 

リイリ:さっきの何!? どうやってモンスターを大人しくさせたの!?

 

ユウ:ああ、あれは癒術っていって、モンスターの心を癒してるんだ。

 

リイリ:癒す? モンスターは私たちを襲う恐ろしい敵だってベルナーが言ってた。 それを癒すの?

 

メルク:癒したモンスターはむやみに人間に襲いかからなくなるのですよ! そうすればモンスターとも一緒に暮らしていけるのです!

 

リイリ:一緒に暮らす!?

 

リイリ:やっぱり王国の人ってヘン! ベルナーが言ってたとおり! よくあんな怖い生き物と一緒に暮らせるね。

 

リイリ:あっ、でもウルカに嫁いだら、これから私もそうしなくちゃいけないのか……。

 

メルク:確かにハルシュトさんは、ウルカ村への道すがら、いつか王国みたいにモンスターと助け合って暮らせる村にしたいって言ってたのですよ。

 

リイリ:……ん? あなたたち、ハルシュト様を知ってるの?

 

メルク:今朝知り合ったのですよ! リイリさんこそ、知り合いなのです?

 

リイリ:知ってるもなにも……、私のお見合い相手だよ。

 

メルク:そ、そうだったのですよ……!?

 

ユウ:だとしたら、もしかしてリイリって……、

 

リイリ:えっと、な、内緒にしててごめんね。私はアルムの長、リリトアの一人娘、リイリ・アル・クヌ・アルム。

 

リイリ:今回のお見合いは、アルムとウルカの同盟の証として、長の子供同士が婚姻を結ぶためのものなんだ……。

 

ユウ:ということは……、今頃ウルカ村は大騒ぎだな……。

 

リイリ:ご、ごめんなさい……。……でも私、メルクちゃんの言葉、本当にその通りだと思ったんだ。

 

リイリ:私には覚悟が足りない。だから逃げ出しちゃったんだ……。

 

リイリ:こんな中途半端のままじゃ、結婚してもうまくいきっこない。大切なことだからこそ、私、しっかり心を決めなきゃいけないんだ。

 

ユウ:そうは言っても、長の一人娘ならきっとみんな必死に探してるだろうし、すぐ森にまで来るんじゃないか……?

 

リイリ:ありえる……。特にベルナーなんて……。

 

ユウ:とりあえず、まだ誰も追っ手が来ないうちに……、

 

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???:……んあ?

 

メルク:って、さっそく見つかってるのですよ!?

 

???:……アンタたち、見ない顔だなあ。こんなところでどうしたんだ?

 

リイリ:……あれ?

 

メルク:もしかして、追っ手ではないのです……?

 

???:追っ手? ……追われてるのか?

 

ユウ:あっ、えーっと……、

 

???:……ウチ、来る?

 

ユウ:え?

 

???:……ついてきて。

 

ユウ:え、ええ……!?

 

 

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ベルナー:ああああ……。もうずいぶん長い間、お嬢様の顔を見ていない……! 私がお側に居なかったばっかりに……!

 

ベルナー:ハッ、もしや今頃王国の悪党どもに酷い目に合わされているのでは……!

 

ベルナー:お嬢様はアルム一、いや、犬族、いや、世界一美しく聡明なお方だからな……!

 

ベルナー:悪党どもが一時の気の迷いを起こして、お嬢様に不埒な真似をしていないとも限らない……。

 

ベルナー:いや、むしろあの可憐な姿を前にそんなことを思わない方がおかしい……!

 

ベルナー:ああ、お嬢様! 申し訳ありません、私が、私がお側を離れなければ……! すぐに見つけ出して、悪党どもを八つ裂きに……、

 

ハルシュト:あらぶっているところ申し訳ないが、まだ二刻も経っていないぞ。

 

ベルナー:……!

 

ベルナー:ハルシュト殿……。あなたはなぜそうも落ちついていられるのだ……!

 

ベルナー:お嬢様の身に何かあれば、犬族の、世界の大いなる損失だぞ……?

 

ハルシュト:そうは言ってもな、私にはどうもユウ殿が悪意を持ってリイリ殿をさらったようには思えないのだ。

 

ベルナー:悪意を持っているか持っていないかは関係ない。お嬢様のあの美しさの前では、どんな清廉な男でも気の迷いが起きないわけがない。

 

ベルナー:ああ、お嬢様、早く見つけ出してお救いしなくては……!

 

ハルシュト:……。

 

テナー:ハルシュト様!

 

ハルシュト:テナー、どうした?

 

テナー:……スティト様の件なのですが、さっぱり行方がつかめません。いったいどこへ行かれたのか……。

 

ハルシュト:そうか。私が今朝、森を見回っても見つからなかったからな……。あいつの隠れ癖にも困ったものだ。

 

ハルシュト:気持ちはわからないでもないがな……。

 

テナー:……ご幼少の頃は、なにか叱られそうなことをする度隠れておりましたな……。

 

ハルシュト:今度は叱るべきことなど何もないというのに、……気にしすぎるのもあいつの悪い癖だ。

 

テナー:もう三月もお帰りになられないとは……、やはり長のお言葉をお気になさっているのでしょう……。

 

ハルシュト:父上はあれであいつのことを心配しているのだ。不器用なお方だから、ああいう言い方とやり方しかできない。

 

ハルシュト:アルムとの見合いを勝手に決めたのも、あいつが戻りやすくするためだろう。……勝手に決められた方はたまったものじゃないがな。

 

ハルシュト:まったく、どうしてあれでフォローできたつもりでいるのか、私にはわからん。

 

ハルシュト:……とにかく、リイリ殿を探しながら、一応私もあいつを探してみる。テナーの方でも探しておいてくれ。

 

は、はい! テナー:ああ、それと、もう一つ頼まれていたことなのですが……、

 

ハルシュト:もうわかったのか? 仕事が早いな。

 

テナー:いえ、たまたまアルムから来ていたナークという青年にモンスターに関する伝承を聞きまして……、

 

 

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メルク:それにしても随分森の奥のようなのですよ。スティトさんはこんなところに住んでいるのです?

 

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スティト:住んでる、というか……、まあ、住んでる。

 

リイリ:ヘンな答え。

 

リイリ:それにしても、このあたり私の村に少し似てるなあ。

 

メルク:そうなのです?

 

リイリ:ほら、あの木。あれは私たちの村じゃ、いろんなことに使われてるんだ。

 

リイリ:それに、実には硬い殻があるんだけど、中身はとっても美味しいんだよ! 昔エルナーと一緒に食べたんだー。

 

ユウ:へえ。ということは、ここはアルムの村とウルカの村の中間あたりなのかもな……。

 

ユウ:まあ、もうここがどこかも俺にはわからないんだけど……。

 

メルク:確かに木がたくさん茂っていて、どこからきたのかもう見分けがつかないのです。

 

メルク:……みゅ?

 

ユウ:どうしたんだ?

 

メルク:向こうの木の下に、なにか倒れているのですよ!

 

リイリ:モンスター!?

 

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ガルシャン:……。

 

スティト:……怪我してる。

 

リイリ:……! モンスターを、連れて行くの?

 

スティト:怪我、してるし。多分この怪我……、

 

ユウ:……えーっと、俺も運ぶの手伝うよ。気絶してるみたいだし、重いだろ?

 

スティト:ん。

 

リイリ:……。

 

 

 

第5話 王と番犬

 

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スティト:ウチ、ここ。オレはこのモンスターを手当してくるから、適当に待ってて。

 

ユウ:……俺も手伝うよ。リイリはメルクと一緒に待っててくれ。

 

リイリ:あ、うん。

 

メルク:ユウさんも成長したのですよ~。

 

リイリ:ねえ、王国って本当の本当にモンスターと一緒に暮らしてるの?

 

メルク:もちろんなのですよ!

 

メルク:荷車を引いてもらったり、お店の看板モンスターになってもらったり、いろいろ助けてもらっているのです!

 

リイリ:ふうん……。

 

メルク:リイリさんのところでは、モンスターと暮らしたりしないのですよ?

 

リイリ:うん。ベルナーはいつも、モンスターは人間を襲う恐ろしい生き物だから、近づくなって言ってた。

 

リイリ:たまに私の村にモンスターが襲ってくることもあったし……。だから、王国の人たちがモンスターと仲良く暮らしてるなんて到底信じられなかった。

 

リイリ:……でも、ウルカでは違うんだね。怪我してるモンスターをためらいなく助けるんだなあ……。

 

メルク:リイリさん……。

 

メルク:リイリさんも一度王国に来てみるといいのですよ。

 

リイリ:え?

 

メルク:そうしたらモンスターがどんなふうに人間と助け合ってるか、きっとわかるはずなのですよ!

 

メルク:リイリさんはまだモンスターのことをよく知らないから怖がってるのです!

 

リイリ:でも、ベルナーは……、……!

 

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リイリ:私、ベルナーの言ってたことしか、モンスターについて知らないや……。

 

リイリ:ベルナーがずっと言ってたからモンスターが怖いものだって思ってたけど……、もしかしたら違うのかな……。

 

メルク:ベルナーさん、なのですよ?

 

リイリ:ベルナーは私のお目付け役なんだ。

 

リイリ:とっても口うるさくて、心配性で、時々面倒くさいけど、子供の頃からずっと私の世話をしてくれた……、

 

リイリ:大事な人なの。

 

リイリ:ベルナーは私の幸せが、ウルカに嫁いで女らしく家庭を守ることだって言うけど、私、本当はそれが幸せだとは思えない。

 

リイリ:だって、私……、家で大人しく裁縫や料理をすることより、外で男の子みたいに駆け回ってる方がずっと楽しい。

 

リイリ:……私、やっぱり、ウルカに嫁ぎたくないなあ……。

 

メルク:リイリさん……。

 

リイリ:なんてね! こんなんじゃ、長の娘として失格だよね! ベルナーに何度も長の娘として女性らしくって言われてるのに。

 

メルク:……。

 

スティト:女性らしくする必要はあるのか?

 

リイリ:スティト……。

 

メルク:ユウさん、手当はもう終わったのですよ?

 

ユウ:ん、ああ。向こうで寝かせてある

 

リイリ:でも、犬族の伝統では女性は家庭を守るものだって……。

 

スティト:その伝統に合理性はあるのか?

 

リイリ:え?

 

スティト:やりたいことをやればいい。

 

リイリ:やりたいこと……。

 

スティト:例えばオレは……、それ。

 

メルク:玉、なのですよ?

 

スティト:一度しか見たこともないし、構造も良く知らないんだが、和の国というところには花火という夜空に咲く火の花があるそうだ。

 

スティト:オレはそれを再現したい。

 

リイリ:……? よくわからないけど、それは何の役に立つの?

 

スティト:……父上もそう言っていた。そんな実用性のないものにいつまでかかずらっているつもりだ、と……。

 

スティト:……ただ美しい。それじゃいけないか?

 

リイリ:……、スティトはそれが大事だと思うの?

 

スティト:ああ。……だから犬族の男らしくないと言われても、オレはこれがしたかった。

 

スティト:好きだから。

 

リイリ:そっかあ……。スティトは自分のしたいことをやってるんだね。

 

スティト:……その代わり、オレは村を犠牲にしてる。

 

リイリ:え?

 

スティト:いや。

 

スティト:……今日はもう寝る。眠い。

 

リイリ:あっ、ちょっと!?

 

スティト:オヤスミ。

 

リイリ:マ、マイペースぅ!

 

 

--------------------------------

 

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ベルナー:……オジョウ、サマ……。オジョ、サマ……。

 

ハルシュト:……ベルナー殿、正気に戻ってくれ。

 

ベルナー:ハハ、ハ……、正気だと……!? お嬢様の居場所がもう半日も分からないんだぞ。

 

ベルナー:もし今この瞬間にも、お嬢様が私に助けを求めていたら……、

 

ベルナー:そう思うと私は、俺は……!

 

ハルシュト:……ベルナー殿はいい加減過保護が過ぎるのでは? リイリ殿も犬族の娘、自分の身くらい自分で守れるだろう。

 

ベルナー:……、たしかにお嬢様には剣術をお教えしたが、あくまでそれは護身のためのもの。本来犬族の娘は男に戦いを任せ、自分は家を守るものだ。

 

ハルシュト:なぜ? 別に女が戦ってもいいだろう。

 

ベルナー:何を言っている。女性は強い犬族と結婚し、守られていればいい。それが一番の幸せだろう。

 

ハルシュト:……幸せ、な。本当にそうだと思うか?

 

ベルナー:……?

 

ハルシュト:リイリ殿が本当は裁縫や料理ではなく、剣術や狩りが好きだとしたら、それは本当に幸せか?

 

ベルナー:……!

 

ベルナー:……、幸せに決まっているだろう。女性は弱い。男が守るべきだ。剣術や狩りなど、すべきではない。

 

ハルシュト:……!

 

ベルナー:ハルシュト殿!?

 

ハルシュト:手合わせ願おう、アルムの番犬よ。あなたからは、傲慢が感じられる。

 

ベルナー:傲慢……?

 

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ハルシュト:全ての女性が守られるだけの存在ではない。ベルナー殿のそれは、ただの思い込みだ。

 

ベルナー:なにを言っている……。それ以上はいくらリイリお嬢様の見合い相手とて、許すことはできない。

 

ハルシュト:……!

 

ハルシュト:……なるほどな。

 

ベルナー:……?

 

ハルシュト:ベルナー殿、あなたはリイリ殿の番犬でありたいだけだ。アルムではなく。

 

ハルシュト:……私と戦え。勝てば、1ついいことを教えてやる。

 

ベルナー:……!

 

ハルシュト:……これでも駄目か? 尻尾とは裏腹に忍耐強い男だな。

 

ハルシュト:それなら、先にもう1つ別のいいことを教えてやろう。

 

ハルシュト:……私はお前が嫌いだ。

 

ベルナー:……!

 

ベルナー:……奇遇だな。

 

ベルナー:俺もあなたが気に食わなかった!

 

ハルシュト:ははッ、ようやく認めたな!

 

 

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ベルナー:……ッ!

 

ハルシュト:……引き分けか。

 

ベルナー:……何が目的だ。

 

ハルシュト:決着は引き分けだったが、まあ、いいだろう。

 

ベルナー:ハルシュト殿!

 

ハルシュト:1つ教えてやる。私は……、

 

ハルシュト・ベルナー:「」

 

ベルナー:……は?

 

 

 

第6話 好きの代償

 

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ガルシャン:……。

 

リイリ:……ね、寝てるよね……?

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:わ……っ!

 

リイリ:……。

 

リイリ:お、おはよう……!

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……!

 

リイリ:か、顔をそむけられた……!

 

スティト:そりゃ、アンタがまだそいつを怖がってるから。

 

リイリ:スティト! 早起きだね。

 

リイリ:……別に、いいもん。モンスターと仲良くなんてしない。

 

リイリ:何考えてるのかわからないし、向こうだって私のことなんて好きじゃないだろうし。

 

スティト:……。

 

リイリ:……って、返事くらいしてよぉ!

 

リイリ:何してるの? それ何? 昨日持ってた玉に似てる。

 

スティト:……ん。

 

リイリ:……。

 

スティト:……。

 

リイリ:ねー! ねーってば!

 

スティト:……。

 

リイリ:もー! いいよ、もう! 勝手にそのへんにある物見ちゃうから!

 

リイリ:なんだろ、これ。木? だけどすごい四角くて、なんだか複雑そう。

 

スティト:和の国のカラクリ。

 

リイリ:へ?

 

スティト:商人が一度、持ってきてくれた。勝手にお茶を入れてくれる。

 

リイリ:……!

 

リイリ:すごい……! なにこれ……!

 

リイリ:ねえ! スティトの作ってる花火っていうのも、こんな感じなの!?

 

スティト:違う。オレのは空に打ち上げて、花を咲かせる。

 

リイリ:そうだっけ。このカラクリをみたら、なんだかスティトの作ってる花火っていうのも見たくなってきちゃった。

 

リイリ:ね! それっていつ完成するの?

 

スティト:……さあ。

 

リイリ:もー、マイペースなんだから! オレの気の向くままってやつ?

 

スティト:いや、本当にいつ完成するのかわからない。

 

リイリ:どうして?

 

スティト:本当は火薬を詰める……、けど、ここじゃ木が燃える可能性がある。だから、空中で消える魔法の火を使う。

 

リイリ:な、なるほど? 魔法の火ね、うんうん。

 

スティト:ただ、その魔法の火に耐えられる素材が見つからない。

 

リイリ:な、なるほど?

 

リイリ:……って、全然わかんないし! もっとわかりやすく!

 

スティト:……つまり、この玉に、魔法の火の素を詰めて、空に打ち上げる。けど、この玉の殻を作る素材が見つからない。

 

リイリ:う、うーん。なんとなくわかったような……。

 

リイリ:とりあえず、丈夫な素材がないってこと?

 

スティト:そう。

 

スティト:……もうずいぶん長いこと試行錯誤してる。けど、まだうまくいかない。

 

リイリ:なるほどね……。

 

リイリ:ね! 私にいい考えがあるよ! そういう時は、体を動かせばいいの!

 

スティト:えっ……。オレ、運動はあんまり……、

 

リイリ:もー、犬族の男でしょ? 戦えなきゃ!

 

リイリ:私も裁縫とかうまくいかないときは、体を動かして気分転換するの!

 

リイリ:ホラ、剣を1つ貸したげる!

 

スティト:……。

 

リイリ:いくよっ!

 

スティト:……っ!

 

スティト:だから、オレは剣なんて使えないんだって……っ!

 

リイリ:受け方が下手! そんなんじゃ剣が傷ついちゃう!

 

スティト:ちょ、まっ……! うわああああ……!

 

 

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リイリ:ハイ、私の勝ち! あはは、久しぶりに手合わせしたなあ!

 

リイリ:昔はベルナーが父様には内緒で遊んでくれたけど、最近はもうずっと女らしくしろって口うるさいんだよね……。

 

スティト:……。

 

リイリ:それにしても、戦えない犬族の男なんて初めて見た。犬族の男は戦うのが役目なんでしょ?

 

スティト:……オレは昔からこういうのより、勉強してるほうが好きだったから。

 

リイリ:みんなに何も言われなかった?

 

スティト:言われた。

 

スティト:けど……、私も好きなことをするから、お前も好きなことをしろって言ってくれた人がいた。

 

リイリ:……。

 

スティト:アンタがもし、自分の好きなことのために生きたいなら、ここに住めばいい。

 

リイリ:え?

 

スティト:事情はよく知らないが……、好きでもないウルカの者と結婚しないといけないんだろう?

 

リイリ:……うん。

 

スティト:この場所はウルカの者も知らない、オレだけのアトリエだ。誰にも邪魔されず、好きなことができる。

 

リイリ:……。

 

スティト:アンタは剣が好きなんだろう?

 

リイリ:……うん!

 

リイリ:それからかけっこも!

 

リイリ:……アルムの森を抜けるとね、広い草原があるんだ。背の高い草の間を走ると、とっても気持ちがよくってね。ベルナーが私を見失っては、いつも血眼で探してたっけ。

 

リイリ:そして村を囲む森は、深く茂っていて……、子供の頃はよくかくれんぼをしたな。

 

リイリ:うっかり森の奥に行っちゃって、帰れなくなったこともあった。

 

リイリ:その時は村のみんなが総出で探してくれてね、ベルナーにすごく叱られちゃった。

 

リイリ:でも、そのあと無事でよかったって、みんなでご飯を食べて……。

 

スティト:……。

 

 

リイリ:……私、剣も好きだけど……、アルムのみんなも好きだよ。

 

リイリ:……だから、ここにはいられない。

 

スティト:……。

 

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リイリ:ウルカに戻らなきゃ。それが私の役目、なんだね……。

 

スティト:……そうか。

 

リイリ:……うん。私、村の役に立ちたいんだ。

 

スティト:……。

 

スティト:わかるよ。

 

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ユウ:……。

 

 

 

第7話 真実の在処は

 

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ハルシュト:昨夜は悪かったな。少し、冷静さを欠いていたようだ。

 

ハルシュト:……だが、私は女が戦っても男が研究をしてもいいと思う。

 

ハルシュト:女だから、男だからと好きなこともできない慣習は、もう捨てても生きられる時代が来ようとしていると、私は感じるのだ。

 

ベルナー:……癒術とやらのおかげで?

 

ハルシュト:ああ。モンスターという脅威が、以前ほど危機的なものでなくなってきているのは、王国の差し向ける、癒術士たちのおかげだろう。

 

ハルシュト:モンスターという外敵がいなくなれば、より村は栄える。

 

ベルナー:……モンスターは敵だ。今までも、……これからも。

 

ベルナー:アルムは長いあいだ奴らと戦ってきた。今更手を取り合うことなど、想像もできない。

 

ハルシュト:……頑固な男だな。変わることに今更もなにもないだろう。

 

ベルナー:ずっとそう信じてきたものを覆すのは難しい。私はお嬢様が、アルムのしきたりに従えば幸せになれるとずっとそう信じてきた。

 

ベルナー:……だからこそ、私はお嬢様をウルカまでお連れしたんだ。

 

ハルシュト:……。

 

ベルナー:……本当は、気づいていた。お嬢様の幸せは、そんなところにない。野を駆け、剣を振る姿こそ……。

 

ベルナー:……。お嬢様はウルカでなら自由に……、幸せになれるのだろうな。

 

ハルシュト:……。

 

 

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ガルシャン:……。

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:ね、ねえ、どうしてウルカ村へ行くのに、モンスターも一緒なの……!?

 

スティト:手当はしたから、元の住処までついでに送ってるだけ。

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:ふ、ふんだ!

 

ガルシャン:……。

 

メルク:相変わらず、リイリさんはモンスターが苦手のようなのですよ……。

 

ユウ:でも、はじめみたいに、むやみに怖がってるわけでもなさそうだし、少しは慣れたんじゃないか?

 

メルク:そう言われれば……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:グルル……、

 

リイリ:はわわっ!

 

メルク:どうしたのですよ!?

 

ガルシャン:グルルルル……ッ。

 

リイリ:ほら……! やっぱりモンスターはモンスターじゃない~!

 

スティト:待って、後ろに……!

 

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ピピヒナ:ピピィ!

 

ガルシャン:グルルルル……!

 

リイリ:……!

 

メルク:も、モンスターなのですよ~!

 

 

 

第8話 さよならと約束

 

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リイリ:さっき唸ってたのって、私の後ろにいたモンスターに向かってだったんだ……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……もしかして、助けてくれた……?

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……、あ、ありがとう……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:あっ! どこいくの!?

 

スティト:ここらがあのモンスターの住処だから。

 

リイリ:あ、そっか……。おうちに帰ったんだ。

 

リイリ:……私も、戻らなきゃね。

 

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ユウ:……それでいいのか?

 

リイリ:え?

 

ユウ:リイリが結婚しなくても、ウルカとアルムが協力することはできないのか?

 

リイリ:……無理だよ。犬族にとって、同盟の証は長の子供同士が結婚すること。

 

リイリ:それは昔からの風習だもん。今更変えられないよ。

 

ユウ:リイリが変えればいい。

 

リイリ:……私が?

 

ユウ:今朝のリイリは楽しそうだった。それにアルムが好きだって言ってた。結婚したらアルムには戻れないんだろ?

 

ユウ:それでいいのかよ。

 

リイリ:……でも、今までずっとそうしてきたものを変えるなんて……、

 

ユウ:王国だってモンスターと暮らすなんて昔は考えたこともなかったと思う。

 

リイリ:……!

 

ユウ:だから……、

 

……、……!

 

リイリ:人の声……。

 

ユウ:リイリ……。

 

リイリ:……ありがとう、ユウ。でも私、行くよ。

 

リイリ:習わしを変えるなんて無理だ。ずっとそうしてきたことにはきっとなにかの意味がある。そう思いたいんだ。

 

ユウ:……。

 

リイリ:じゃあ、今朝も言ったけど、ユウたちはしばらくアトリエで待っててね。

 

リイリ:ベルナーは心配性だから、ユウたちが私をさらったんだと思ってるだろうし誤解をとかなきゃ大変なことになっちゃう。

 

メルク:わかったのですよ。……リイリさん、気をつけていくのですよ。

 

リイリ:うん。

 

リイリ:……あ、そうだ。スティトにいいこと教えてあげる。

 

スティト:……?

 

リイリ:アトリエに行くまでの道に生えてた木の実、覚えてる?

 

スティト:ああ、あの殻が硬いっていう……。

 

リイリ:あの殻は左斜めに回しながら力を入れると簡単に開くんだよ。

 

スティト:……?

 

リイリ:ベルナーあ、あの殻は魔法にも耐えられるくらい丈夫だって言ってた。もしかしたら、花火の殻になるかもしれないと思って。

 

スティト:……試してみる。

 

リイリ:うん! 完成したらきっと打ち上げてね。

 

リイリ:空に咲く花なら、ウルカでも、どこにいても、絶対見えるはずだから!

 

リイリ:そうしたら、私、どんなに落ち込んでてもすぐに元気になると思う!

 

スティト:……ああ。

 

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リイリ:約束だからね! じゃあ……、さよなら!

 

 

 

第9話 居場所

 

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ユウ:このくらいでいいか?

 

スティト:うん。ありがとう。

 

メルク:この木の実があれば、花火が完成するかもなのです?

 

スティト:そう。やってみないとまだわからないけど……。

 

スティト:でも、……花火を打ち上げられたら、オレも少しは、役に立てるような気がする。

 

メルク:みゅっ、私も花火を見たいのですよ! さあアトリエに戻るのですよ!

 

ユウ:そうだな……、ん?

 

ピピヒナ:ピィィ……!

 

メルク:モ、モンスターなのです!?

 

ユウ:癒されてるって聞いてたけど、さっきといい……、

 

スティト:いつもと様子が違う。

 

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ピピヒナ・ピピヒナ・ピピヒナ:ピィィ……、

 

メルク:みゅわわわわ、ユウさん、スティトさん! 囲まれかけているのですよ!

 

スティト:まずい、囲まれる前に逃げないと……、

 

ピピヒナ:ピイィッ!

 

ユウ:うわっ!?

 

メルク:みゅっ!?

 

スティト:……!?

 

 

 

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ガルシャン:……。

 

ガルシャン:……。(画面外へ移動)

 

 

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ユウ:いたたたた……。モ、モンスターは……!?

 

スティト:どうやら、穴に落ちたみたいだ。茂みに隠れて穴に気づかなかった……。

 

メルク:モンスターたちもここまでは来ないみたいなのですよ。

 

スティト:けど、穴が深すぎ。ここから自力で上がるのは難しい……。

 

スティト:モンスターたちもそれがわかってるから、降りてこないのかもしれない。

 

ユウ:このまま穴から出られないのはまずいな。誰かにここにいることを知らせないと……。

 

メルク:でもどうやって知らせるのです? こんな森の奥に人なんてめったに来ないのですよ。

 

ユウ:……なにか目印になるものがあれば……。遠くからでも見えるような……、

 

ユウ:……!

 

メルク:何か思いついたのですよ!?

 

ユウ:花火だ……!

 

スティト:……! 確かに、少しなら材料はある……。

 

スティト:けど、まだあれは……、

 

スティト:いや、……やってみるよ。

 

 

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ベルナー:お嬢様! 自ら王国の者についていくなど……! どうしてそんな危険な真似をなさったのです!

 

リイリ:……勝手に部屋を出たことはごめんなさい。ベルナーにも心配かけたし、ウルカの人たちに迷惑かけたこともわかってる。

 

ベルナー:お嬢様……、

 

リイリ:でも、ユウもメルクも危険な人じゃなかった。たしかに癒術っていうよくわからない術は使ってたけど……

 

リイリ:だけど! ベルナーが言ってたような、危険な人じゃなかったよ!

 

ベルナー:……しかし、王国の民は私たちの理解の範疇を超えています。

 

ベルナー:モンスターと共存するなど……、我々には受け入れがたいことです。

 

リイリ:……そりゃ、モンスターは怖いけど……、でも、あのモンスターは……、

 

ぐるるるるっ!

 

モンスターが村に!

 

ベルナー:こっちへ来るか……! お嬢様は私の後ろへ……!

 

リイリ:へっ!?

 

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ガルシャン:ぐるるるる……、

 

ベルナー:癒されたモンスターは人間を襲わないなどと……、やはりモンスターは敵でしかないのだ……!

 

ガルシャン:ぐるるっ……!

 

ベルナー:攻撃してこない……?

 

ガルシャン:……。

 

ベルナー:来ないのならこちらから……っ、

 

リイリ:待って!

 

ベルナー:お嬢様! 危険ですから後ろへ……ッ!

 

リイリ:……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……助けを求めてる……?

 

ガルシャン:ぐるる……。

 

リイリ:……ユウたちが危ないの? そうなの!?

 

ガルシャン:……。

 

ベルナー:お嬢様、相手はモンスターですよ……!? 言葉など通じるはずが……、

 

リイリ:ベルナーは黙ってて!

 

ベルナー:……!

 

リイリ:……彼は必死に伝えようとしてる。だから攻撃してこない……。

 

ガルシャン:……。

 

リイリ:……!

 

リイリ:……私を信じてくれてるんだ……。

 

リイリ:……なんで今まで気づかなかったのかな。あなたの目、ベルナーとよく似てる。……今ならわかるよ。

 

リイリ:……私もあなたを信じる。私をユウたちのところへ案内して。

 

ベルナー:……お嬢様、まさかモンスターが本当に助けを求めてるなんて……、

 

リイリ:……わたし、ユウたちと会うまでは、王国の人はベルナーが言ってる通りの人なんだって思ってた。

 

リイリ:でも違った。彼らは優しかった。一緒にご飯を食べて、話して、眠った。

 

リイリ:犬族となんにも変わらない。モンスターだってそうだよ。人間と同じ、恩を受ければ報いたい気持ちがある。

 

リイリ:だから今、ユウたちを助けるために、一匹でここまできたんだよ。

 

リイリ:私はこのモンスターに一度助けられた。

 

リイリ:だから、今度は私が恩に報いる番だ。

 

ベルナー:お嬢様、しかしモンスターはずっと昔から私たちの敵で……!

 

リイリ:……ベルナーの気持ちもわかるよ。けど私、ようやくわかったんだ。

 

リイリ:私たちは変わるべきだよ。

 

リイリ:癒術を中心にして、モンスターも王国も変わり始めてる。今までの慣習や風習は、みんな変わる前の世界のものだもの。

 

リイリ:世界が変わるなら、私たちも変わらなきゃ。

 

ベルナー:全てが、変わると……?

 

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ハルシュト:変わらないものもあるだろうさ。

 

リイリ:ハルシュト様。

 

ハルシュト:アルムの言い伝えに、星輝りの夜は森に入るなというものがあるらしいな。ナークという青年から聞いた。

 

ベルナー:あ、ああ。

 

ハルシュト:おそらくそれはモンスターの生態を表したものだ。

 

ハルシュト:最近癒されているにもかかわらず、気が立っているモンスターを見かける。

 

ハルシュト:星輝りの夜とは、数年に一度やってくる、今の季節のことだそうだな。

 

ハルシュト:テナーは、今がモンスターの子育ての時期なのだろうと言っていた。それで過剰反応しているのだと。

 

ハルシュト:……こんなふうに、昔ながらの言い伝えが意味をなしていることもある。残すものは残し、変わるものは変わればいい。

 

ハルシュト:人間はそう簡単に変われないのだからな。

 

ベルナー:……。

 

リイリ:……。

 

ベルナー:お嬢様と初めてお会いした日が懐かしい。……あれからもう、10年が経っていたのですね。

 

リイリ:ベルナー……。

 

ベルナー:このベルナー、アルムの番犬として、アルムの長が娘、リイリ様に従います。

 

 

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ユウ:スティト……。

 

スティト:……ん?

 

ユウ:ここ見てくれ。

 

スティト:オレはいま忙し……、

 

スティト:大きな爪跡……?

 

ユウ:もしかしたら、この穴……、なにか大きなモンスターの住処かも……。

 

スティト:……。

 

メルク:や、家主が帰ってきたら……。

 

スティト:い、急ごう……。

 

 

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ピピヒナ:ピイイィ!

 

リイリ:やっぱりハルシュト様の言ってたとおり、モンスターの気が立ってる……!

 

ハルシュト:歩いた先からモンスターに喧嘩を売られていては、ろくに進めないな……。

 

ベルナー:お嬢様、私にお任……、

 

ガルシャン:ぐるるっ!

 

リイリ:え? 何かしてくれるの?

 

ガルシャン:ぐるる。

 

ベルナー:……。

 

リイリ:わかった、任せる!

 

ガルシャン:ぐるる……!

 

ガルシャン:ガルルルルルゥッ!

 

ピピヒナ・ピピヒナ・ピピヒナ:ピイィ……!

 

リイリ:モンスターが!

 

ベルナー:今の鳴き声は一体……!

 

ハルシュト:おそらく今の声で森中のモンスターを挑発したんだ。いわば囮だな。ほら……、すぐさま集まってきたぞ……!

 

メルキオーガ:グルルルルルルゥ!

 

リイリ:……お、大きい……!

 

ハルシュト:これは驚いた。昨日のモンスターじゃないか。……どうやらこの森のボスのようだな。

 

ハルシュト:……なら、話は早い。

 

ガルシャン:グルルッ!

 

リイリ:え?

 

ハルシュト:ここは私たちに任せて、君は行ってくれ。

 

リイリ:で、でもこんな大きなモンスター相手に……!

 

ベルナー:お嬢様、私はアルムの番犬ですよ。この程度、造作もありません。

 

ベルナー:……それに、ハルシュト殿は私の知る限り、最も優れた剣士です。

 

リイリ:……、わかった。ベルナー、頼んだからね……!

 

ベルナー:……。

 

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ベルナー:お嬢様からの激励を頂いた以上、負けるわけにはいかないな……。

 

ハルシュト:……ブレない男だな。

 

ハルシュト:……だが、嫌いじゃない。

 

ベルナー:私はただ、お嬢様のために動くまでだ。

 

ガルシャン:グルルルルル!

 

メルキオーガ:グルルルル!

 

ハルシュト:私も愛しい人と弟のためだ。お前に負けるわけにはいかない。

 

ハルシュト:さあ、昨日の再戦といこうか。

 

メルキオーガ:グルルルルルゥッ!

 

 

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リイリ:たしかこっちの方角……、

 

リイリ:……ってそもそもどんな風に危険なのかわからないし!?

 

リイリ:どうしよう……。

 

リイリ:……、でも、とにかく探すしかない……! ユウたちは、私の友達なんだも

ん……!

 

リイリ:ユウ! スティト! メルクーっ!

 

リイリ:お願いだから、返事して……!

 

 

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ユウ:今の鳴き声……。

 

メルク:あの助けたモンスターの声に似ていたのですよ。

 

ユウ:上では何か起きてるのか……?

 

スティト:……できた。あとは、打ち上げる準備をするだけ。

 

メルク:スティトさん、すごいのですよ! これで……、

 

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メルキオーガ:グルルルルゥ!

 

ユウ:な……ッ!?

 

メルク:洞窟の奥に潜んでいたのですよ!?

 

スティト:怒ってる……。このままだと、まずい。

 

ユウ:どうすれば……!

 

……! ……!

 

スティト:……!

 

ユウ:スティト?

 

スティト:誰かが呼んでる。

 

ユウ:え?

 

スティト:こんなオレでも、まだ探してくれる人がいたんだな。

 

ユウ:って、今はそれどころじゃ……、

 

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スティト:……ユウ、時間稼ぎしてくれ。

 

ユウ:え?

 

スティト:オレは花火を打ち上げるから。

 

ユウ:……。

 

ユウ:わかった。

 

 

 

第10話 夜明けの微笑み

 

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ハルシュト・ベルナー:……。

 

ガルシャン・メルキオーガ:……。

 

ハルシュト:スティト……。

 

ベルナー:モンスターも、あの花を美しいと思う心があるというのか……。

 

ガルシャン:……。

 

 

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ユウ:火が……、

 

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スティト:……、オレは、ここにいるよ。

 

 

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リイリ:……。綺麗。あの火の花の下にいるんだね。

 

リイリ:会えたら真っ先に、とっても綺麗な花火だったって言うから、待ってて!

 

 

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メルク:リイリさんたちのおかげで助かったのですよー!

 

リイリ:えへへ、でもハルシュト様やベルナー、あと、彼のおかげだよ。

 

ガルシャン:ぐるる。

 

ベルナー:……。

 

ハルシュト:モンスターに嫉妬してどうする。

 

メルク:でも、リイリさん、結局結婚するのですよ……?

 

リイリ:……ううん。

 

メルク:みゅ?

 

リイリ:あの、ハルシュト様。

 

ハルシュト:……?

 

リイリ:犬族は同盟を結ぶ証として、長の子供同士が結婚するのが習わし……、でも……、

 

ハルシュト:……あっ。

 

リイリ:私とハルシュト様が婚姻せずとも、同盟を結ぶことは可能なのではないでしょうか……? 互いに意に沿わぬ結婚をするよりも……、

 

ハルシュト:そのことだが……、

 

さっきの火の花はなんじゃもー!

 

ハルシュト:ジャモ!?

 

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ジャモ:さ、さっき村から森の方で火の花が咲くのが見えたじゃも! あれは一体何じゃも!?

 

ハルシュト:ああ、驚かせてすまない。あれは花火と言って……、

 

ジャモ:そんなことはわかってるじゃも! わしが聞きたいのはあの花火を作ったのは誰かということじゃも!

 

スティト:……オレ、だけど。

 

ジャモ:おお! あの花火、素晴らしいじゃも!

 

ジャモ:これまで単色の花火しか見たことはなかったじゃもが、あれは複数の色が混ざっていたじゃも!

 

ジャモ:まだあんな花火を売ってるところはないじゃも! ぜひ、わしに商品化して売って欲しいじゃもー!

 

スティト:ええ……!?

 

ジャモ:あれはこれからこの村の名物になるかもしれないじゃも! じゃもじゃも、こっちで詳しい話をするじゃも!

 

スティト:あ、あの……、姉さん……!

 

ハルシュト:よかったじゃないか、スティト。お前の発明は役に立つそうだぞ?

 

ジャモ:そうじゃも! これで大儲け……、いや、お客さんを喜ばせることができるじゃも!

 

ハルシュト:だそうだ。

 

ハルシュト:別に売り物にしたくないなら断ればいい。私はあの美しい花火がみられるだけで十分だ。きっと村の者もそう思っている。

 

ハルシュト:……もともと、私は好きでこうしてるんだ。お前のためじゃない。だから、……私や村に負い目を感じる必要はない。

 

ハルシュト:もうお前を探すのは疲れたよ。

 

スティト:……うん。

 

スティト:……オレも、もう一人で隠れているのは疲れた。

 

ジャモ:ま、待つじゃも! 話だけでも……!

 

スティト:断るとは言ってない。

 

ジャモ:……!

 

ジャモ:じゃも、あっちで詳しく聞かせて欲しいじゃも!

 

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リイリ・メルク・ユウ:……姉さん?

 

ハルシュト:ははは、言うのを忘れていて申し訳ない。

 

ハルシュト:私はハルシュト・トファ・ヤクト・ウルカ。ウルカ村の長、ハクシュトが

長女だ。

 

リイリ:お、女の人……!? ということは……、私のお見合い相手って……。

 

ベルナー:申し訳ありません、お嬢様!

 

ベルナー:ハルシュト殿が男性の格好をしているため、調べの者が長男であると勘違いしたようで……、

 

リイリ:ま、待ってよ。それじゃあウルカの方はどういうつもりで……。

 

ハルシュト:長男と見合いがしたいと書状が来たから、てっきりスティトのことかと。

 

リイリ:じゃ、じゃあ……、あ、あれ? スティトがお見合い相手で、でもスティトは知らなくて……、え? え?

 

ハルシュト:スティトは見合いが決まる前から行方知れずでな……。誰もあいつの居場所がわからず、そもそも見合いの話も伝えられなかったんだ。

 

リイリ:ということは……。

 

ハルシュト:このような入れ違いもあったことだ。今回の見合いの話はなしになるだろう。

 

リイリ:ど、同盟は……!

 

ハルシュト:リイリ殿がさっきおっしゃっていただろう? 婚姻などせずとも同盟は結べる。

 

リイリ:……!

 

ハルシュト:それに、リイリ殿とは気が合いそうだ。

 

ハルシュト:剣が得意と聞く。私もそうなんだ。今度手合わせでもどうかな。

 

リイリ:……!

 

リイリ:はい!

 

 

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リイリ:ね、ベルナー! あの花火素敵じゃない!?

 

ベルナー:ええ、お嬢様。……とても、お綺麗です。

 

リイリ:明日、ユウたちがここを出るからって、スティトが張り切ってるんだろうな。いいなあ、私も旅とかしてみたいなあ……。

 

ベルナー:……。

 

リイリ:……? どうしたの? いつもなら小言のひとつやふたつ言いそうなのに。

 

ベルナー:いえ、お嬢様の成長ぶりはしっかり拝見させていただきましたから……。私は、もう……。

 

リイリ:……。

 

リイリ:……ね、ハルシュト様も言ってたけど、私も、全てが変わらなくたっていいと思うの。

 

リイリ:……でも、それを判断するには、私はまだ知らないことがたくさんある。

 

リイリ:実はね、あの花火が完成したのだって、ベルナーが私に教えてくれたあの実のおかげなんだよ。

 

リイリ:それに、まだまだ剣技じゃベルナーに勝てないし……。今回1人で森に出てみて、ベルナーが私を守ってくれてたこと改めてわかった気がする。

 

ベルナー:しかし、それは……、

 

リイリ:だからね、ベルナー!

 

ベルナー:……?

 

リイリ:ずっと私のそばにいてね。

 

ベルナー:……。

 

リイリ:あなたみたいな人が私には必要なの。

 

リイリ:私が変わるものを見つけて、あなたが変わらないものを見つける。

 

リイリ:それってとってもいいコンビだと思わない?

 

ベルナー:……。

 

ベルナー:……はい、お嬢様。どこまでもこのベルナー、お嬢様とご一緒します。

 

リイリ:末永くよろしくねっ、ベルナー!

 

 

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メルク:みゅーっ! 花火ってこんなふうになっていたのですよ!? 綺麗なのです、すごいのです、感動なのですよーっ!

 

テナー:フフ、そんなにはしゃぐと私の手から落ちてしまいますよ。しかし、本当に綺麗なものですなあ。これもまた、ロマンですな。

 

ナーク:……ロマン……。悪くないな……。

 

メルク:みゅみゅ? テナーさんもナークさんも尻尾が揺れているのですよ?

 

ナーク:あっ……! ま、またベルナー様に未熟者って言われる……!

 

メルク:……?

 

テナー:我々は尻尾や耳に感情が現れてしまうのですよ。尻尾がああして揺れるのは、好きなものを前にした時ですな。

 

テナー:普段は動かないように気をつけているのですが、今回ばかりは抑えきれませんでした。

 

メルク:そうなのです!? ということは、初めて会ったときのハルシュトさんは……、

 

メルク:みゅ? そういえば2人はどこに行ったのですよ? こんなに綺麗な花火なのに、もったいないのですよ!

 

スティト:……特等席で見てる。

 

メルク:スティトさん! 花火を上げていたのではないのですよ!?

 

スティト:仕込みは終わってるから、あとはみんながやってくれるって……。

 

テナー:フフ、なんだかんだ言いつつ、みな、花火に興味があるのですな。

 

ナーク:こんなに美しいものを見たのは初めてだからな。それも仕方な……、

 

ナーク:あ、も、もちろん世界で一番美しいのはお嬢様だぞ……!? ベルナー様には秘密に……!

 

テナー:スティト様。

 

スティト:……?

 

テナー:テナーは思うのです。確かにウルカを発展させたのはハルシュト様です。

 

テナー:……しかし、これからのウルカが変わるとしたら、それはスティト様の花火が始まりなのではないかと。

 

スティト:……。

 

テナー:あの火の花をここから離れた、アルムの民も見ていることでしょう。そして、森のモンスターも、動物さえも。

 

テナー:……あの火の花を美しいと思う心に、きっと違いなどない。それをあの火の花が、教えてくれたのです。

 

スティト:……そうか。

 

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テナー:そうですとも。

 

 

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ユウ:ハルシュトさんがまさか女の人だったとは、思いもよりませんでした。

 

ハルシュト:そうか? 別に男の振りをしていたわけではないんだが。

 

ユウ:いや、その、……すごくかっこよかったので……。

 

ハルシュト:……、

 

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ハルシュト:そ、そうか。

 

ユウ:俺は全然戦えないから……、って、あれ。

 

ハルシュト:な、なんだ?

 

ユウ:さっきから動いていたのって、ハルシュトさんの尻尾だったんですね。ずっと何かなあって思ってたんです。

 

ハルシュト:……!

 

ハルシュト:これは、その……、

 

ハルシュト:気にしないでくれ。尻尾の運動だ!

 

ユウ:そ、そうなんですか……。

 

ハルシュト:それで、……その、ユウ殿。

 

ユウ:あ、そう言えば森であった時に、何か話したいことがあるって言ってましたよね?

 

ハルシュト:……その、私は……。

 

ユウ:……?

 

ハルシュト:私は……!

 

ユウ:……?

 

ハルシュト:……、

 

ハルシュト:私のことはハーシュと呼んで欲しい。

 

ユウ:え?

 

ハルシュト:いや、私の名前は呼びづらいだろう? ハーシュというのは愛称なんだ。よければそちらで呼んでもらいたい。

 

ユウ:あ、はい……。えっと、ハーシュさん、でいいですか?

 

ハルシュト:……ああ。

 

ハルシュト:ありがとう、ユウ殿。

 

ユウ:そう言えば話って……、

 

ハルシュト:そうだったな。話というのは、また我がウルカの村に訪れて欲しいということなんだ。

 

ハルシュト:まだウルカでも癒術士は珍しいからな。はやくウルカの民に癒術士やモンスターに慣れて欲しいんだ。

 

ユウ:ハーシュさんは気が早いですね……!

 

ユウ:でも、そういうことならわかりました。またいつか、ウルカにきますから、その時はまたよろしくお願いしますね。

 

ハルシュト:ああ。

 

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ハルシュト:……待ってる。

 

 

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ベルナー:……旅立ったな。

 

ハルシュト:……。

 

ベルナー:ハルシュト殿ほどの人でも、尻尾と耳をごまかすのは難しいご様子だな。

 

ハルシュト:ベルナー殿こそ、この間は尻尾がずいぶんうるさかったことをお忘れのようだが……、

 

ベルナー:ふ、お嬢様の一大事だ。そんな時に尻尾にまで構っていられるものか。

 

ハルシュト:そうだろう。私にとってもそうだ。

 

ハルシュト:ベルナー殿……、私はこれまで直感で生きてきた。ジャモと取引するときも、戦いのときも、そして、あの少年とあったときも。

 

ハルシュト:私の直感が、彼こそ私の運命だと教えてくれたのだ。そんな相手のことで、尻尾にかまけている暇はない。

 

ベルナー:……まさかハルシュト殿が一目惚れするたちだったとは思わなかった。

 

ハルシュト:恋は落ちるものだと、テナーが言っていた。落ちるのは一瞬だろう?

 

ハルシュト:そう思えば、全ての恋は一目惚れだ。一瞬一瞬新たな相手に出会っているのだから。

 

ベルナー:……悔しいが、そのとおりだ。

 

ハルシュト:そうだろう? 私の気持ちがわかってくれたようで嬉しいよ。

 

ベルナー:ああ。私もお嬢様の一日一日の成長を全て書き留めているからな。

 

ベルナー:日々美しく進化なさるお嬢様の変化には、毎度目を奪われずにはいられない。

 

ハルシュト:……まさかその日記……。

 

ベルナー:お嬢様の成長記録だ。

 

ハルシュト:……。

 

ベルナー:……お嬢様には内密にしておいてくれ。

 

ベルナー:……ところで、それほどまでの相手なら、なぜ想いを告げなかった。

 

ハルシュト:早すぎる。

 

ベルナー:一目惚れに早いもなにも……、

 

ハルシュト:違う。

 

ハルシュト:ウルカも昔に比べれば王国に対して寛容になったとは言え、さすがに私が王国の者と結婚することには反対するだろう。

 

ベルナー:……どこまでもウルカのためだな。ブレない人だ。

 

ハルシュト:はははは! 当たり前だろう。私はそういう生き方を選んだ。ベルナー殿もそうだろう?

 

ハルシュト:……だが、かといってユウ殿を諦めるつもりもない。

 

ハルシュト:いずれ、ウルカはもっと発展する。多くの商人や旅人が訪れ、村の者も様々な価値観に触れ、変わっていくだろう。

 

ハルシュト:それまで私は待てばいい。

 

ハルシュト:時代は変わり始めたばかりだ。いつか先入観や思い込みなしに、人々が触れ合える日が来る。

 

ハルシュト:その日が、私の想いを告げる日だ。それを待つのも、そう悪くない。

 

ハルシュト:だろう?

 

ベルナー:あんな年下の少年に、本気だな……。

 

ハルシュト:……!

 

ハルシュト:とりわけベルナー殿には言われたくない。

 

 

 

(終)

 

 

 

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