広島在住のアーティストMeitei / 冥丁が2018~2019年に発表した作品。
作品概要:
以下リンク先を参照ください。
『Kwaidan / 怪談』
(プレイヤーを埋め込む段になったらアートワークが変わって驚いた。そんなことできるのか。。)
・初聴時の感想
Meitei、初聴だけど思ったよりカジュアルな印象
— にんず (@ninz51) 2019年7月10日
リーディングのある曲はリーディングが骨の役割を担っていて それ以外の音はフレーバーに徹している感じ(まさに怪談) 逆にリーディングがない曲は構造がしっかりと形作られているようで、こっちはこっちで魅力的
— にんず (@ninz51) 2019年7月10日
肝となるリーディングが熱の無い、機械的で淡々としたもので、それゆえにアンビエントとしても機能している これがもっと芝居がかったものだったら、落ち着いたリスニングは難しかったろう
— にんず (@ninz51) 2019年7月10日
基本はheftyやらtomlabやらを彷彿とさせるアブストラクトなエレクトロニカで、そこに怪談の音声のサンプリングを乗っけてエキゾチックな味付けを施した感じ。なのでエレクトロニカのファンはスムースに入れると思う。そういう意味でけっこう00年代の音のイメージがある。
— にんず (@ninz51) 2019年7月10日
いやー夏に合いそうなサウンド
— にんず (@ninz51) 2019年7月10日
いかにもなアルバムタイトルやアーティスト名、何よりそのおどろおどろしいアートワークから勝手にThe Haxan Cloakや、Univers Zeroなどの暗黒チェンバー・ロック勢のようなをホラー映画的なサウンドを想像していたが、実際はとても穏やかなサウンドでありいい意味で裏切られた。
おそらく全体の基盤にあるのはクリック/グリッチ通過後のエレクトロニカのサウンドで、本作ではそこにどことなく時代を感じさせる環境音?のサンプリングや、日本の怪談の録音音声が乗っかる。
本作の一番の特徴と言えそうな怪談を読み上げる音声は、#2「Curio / 骨董」のように、楽曲のその他の要素に対して従属的に(フレーバー的に)使われることもあれば、#3「Touba / 塔婆」のように楽曲の中心に据えられたりもする。リーディングの音声か、それ以外のサウンドか、どちらが楽曲の中心にあるかを考えながら聴くと楽曲を掴みやすいような気がする。
怪談というと自分の場合、稲川淳二のような臨場感たっぷりなものを想像してしまうのだが、本作におけるリーディングはそれとは逆に、機械的とも呼べそうなほど淡々としたものである。怪談よりは文学作品の朗読に合いそうな調子で……まあつまり聞き手を怖がらせることが目的なのではなく、リーディングを含めたサウンド全体で"ある雰囲気"を浮かび上がらせることが目的なのだと思う。…というか冥丁というプロジェクトがそういうものとして説明されていますね、既に。
リーディングは淡々とはしているものの非常にリズミカルであり、このことがリーディングを「恒常的なもの」「意識しなくともそこにあるもの」として、聞き流すことのできるものにしているように思う。音の響きとしては珍しいもののはずなのに、あまり耳に引っかからずに流れていくのは、それが「淡々と」していてかつ「リズミカル」だからなのだろう。
アブストラクトなサウンドや曲構造の総体として立ちのぼってくる幻想的な雰囲気が魅力的な作品。作中で読み上げられる言葉が日本語のため、なによりも日本人が楽しめる作品でもあるのかも、とも思いました。
『Komachi』
こちらは軽く。
・『Kwaidan / 怪談』で存在感を放っていた怪談のリーディングに代わり、今作では色んなタイプの「水の音」が全編に渡ってフィーチャーされている。
・またそれと同時に純粋な電子音のサウンド全体に占める割合も上がっており、いわゆる「アンビエント/エレクトロニカ」のサウンドに近づいた印象。おそらく今までよりも広い層にリーチするのではないか。
・電子音はrei harakamiなんかを彷彿とさせるアタックの丸いもので、「水滴」を連想したりもする。それとは別に鳴らされている水の具体音もあって、全体としてとても涼し気なイメージ。チルアウトにもってこい。
・#7「Maboroshi」では変調されたボイスサンプルが登場し、楽曲をサイケデリックに彩っている。
・#9「Myo」ノスタルジックで純粋な響き。Nuno Canavarro『Plux Quba』を思い出すなど。
・作品全体のハイライトは約9分ある#10「Kawanabe Kyosai [Pt.I] 」で、アブストラクトな他の曲と異なりはっきりとした曲構造を持ち、特定のメロディーを繰り返しながらゆっくり盛り上がっていく。
・最終曲「Utano」では#2「Ike」で鳴らされていたカエルの鳴き声などの自然の音が再び鳴らされており、トリップから戻ってきたという感じがする。この自然の音は日本の田舎で夜中に聞こえる音そのもので(たぶん)、人によっては懐かしく思ったりするのではないか。
・本作を一言で表すなら、「夜の水辺のアルバム」でしょうか。
・個人的にはsora『re.sort』やrei harakami『[lust]』と似たような空気を感じます。bandcampページでの紹介文によれば横田進や竹村延和からの流れの上にあるものとして捉えられたりもしているようです。そちらはあまり自分は聴けてないので、聴いてこうかなーと思いました。
[lust]はこういうちょっと暗めの曲の方が好き。
最後に、bandcampページでの紹介文(英語)を翻訳サービスに突っ込んだものを載せておきます。
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冥丁は自分のことを古い魂と考えており、往々にして過去の習慣や儀式に没頭しています。最近、冥丁は最愛の99歳の祖母を亡くしたが、彼女は日本の伝統的な雰囲気を体験し理解している最後の一人だと考えていた。彼の音楽と芸術は、彼が「失われた日本のムード」と呼ぶ世代を経るごとに、集団的な日本人意識から抜け出ていくと信じている時代と美意識に光を当てたいという願望によって動かされている。彼は亡き祖母に小町を捧げることにした。
繊細で遠く、時代を超越したこだまする小町は、ホワイトノイズ、複雑なフィールド録音、流れる水の催眠音であふれています。小町の系譜は、日本の情緒的先駆者80年代と、横田進、竹村延和などの90年代の牧歌的なサンプルアーチストたちのプリズムを通して、牧歌的なJ-Dillaのように現代的でありながらも、浮世絵や雅楽の流れをたどることができる。
12曲はそれぞれ独立したソニックジオラマで構成され、懐かしさを感じるとともに、現代日本社会の新旧二分法を探求するために作られました。作家の川端康成、夏目漱石の作品をはじめ、小津安二郎、宮崎駿など、日本の伝統的な家庭生活にしみじみとした静寂に魅了された作家の作品を思い起こさせる物語が至るところにある。
『Kwaidan / 怪談』 7.7
『Komachi』 8.2