Sufjan Stevens ‎[Songs For Christmas]


 アメリカのシンガー・ソングライター、Sufjan Stevens(スフィアン・スティーブンス)によるEP5枚組のクリスマスソング集。2006年発表。




 記事のオープニングとしてとりあえずこの動画を観てみてほしい。雰囲気出るので!(この曲自体は2012年にリリースされた今作の続編『Silver & Gold』に収録されています)


参考リンク:
『Songs For Christmas』/Sufjan Stevens | 裸足になって公園で
Sufjan Stevens『Silver & Gold Songs For Christmas, Vol. 6-10』 - 青春ゾンビ




 2001年から2006年までの間に、1年にEP1枚というペースで録音された、全42曲(!)収録のBOXセット。半分くらいの曲はトラディショナルなクリスマス・ソングで、残りはスフィアンのオリジナルです。なんとなく年を経るにつれてオリジナルの割合が増えていくような気がします。
 これだけ入っているとどこから手を付けていいか迷ってしまいますが、CD1枚はだいたい20分弱くらいの収録時間なので、印象よりもずっと気軽に聴き通していくことができます。
 
 とはいえなんだかんだ曲数多いので……ここから自分のお気に入りの曲だけ時系列順にピックアップして、簡単にコメントを付けていきます。





(ディスク番号-曲番号)

1-3. O Come, O Come Emmanuel
 クリスマス・ソングといえばとにもかくにもハッピー!なイメージがあって、それは本作でもある程度あてはまるのですが、ディスク2くらいまでは比較的地味なサウンドが続きます。そして中でもディスク1は……けっこう暗いです。最初に聴くときはディスク2以降から入った方が無難かも。
 暗いというより敬虔な…と言った方が近いかもしれません。慎ましいサウンドのフォーク。





1-5. It's Christmas! Let's Be Glad!
 アップテンポでテンション高めで「Let's Be Glad!」という感じなのだけど、なぜかコーラスのボーカルなどそこかしこに破れかぶれ感が出ていておもしろい。ギターの音色もかなり歪んでいたりして。この曲に限らず、ディスク1ではキャリア初期の(?)、少しワイルドな感じのボーカルが聴きどころです。





2-2. Put The Lights On The Tree

 ディスク2からサウンドがより多彩でカラフルになり、また楽曲もポップさを増してきます。イントロのかわいらしい鍵盤?の音が印象的な曲で、音数がぐっと増える間奏部分で(スフィアンっぽい!)と感じる人もいるのではないでしょうか。コーラス部分のボーカルも女声が増え、響きが柔らかくなっています。





2-3. Come Thou Fount Of Every Blessing
 シンプルなメロディーをパートを増やしつつ繰り返していき、だんだん盛り上がっていくタイプの曲。合唱の重厚さと、スフィアン印のハモりのメロディーの美しさを堪能することができます。





3-2. Come On! Let`s Boogey To The Elf Dance!
 2番以降の一捻りある展開がすばらしい、壮大な曲。盛り上がりのある曲なのでライブバージョンなんかがあれば聴いてみたい。録音がすごくラフで、ある意味すでにライブ感がある。





3-5. That Was The Worst Christmas Ever!

 高音のコーラスがとても美しい、基本、ギターの弾き語りの曲。この曲における儚げなフィーリングは『Illinois』収録の名曲「Casimir Pulaski Day」にまで受け継がれていると思う。キャリアでも屈指の美しさを持つ曲。





4-1. The Little Drummer Boy
 2004年を飛ばして2005年に録音されたディスク4の1番の曲。2004年は『Illinois』の製作で忙しかったらしい(つまりここからは『Illinois』以降の録音ということになる)。自分は知らなかったけれど、有名なクリスマス・ソングで多くのアーティストにプレイされているらしい。シンプルな伴奏に柔らかいボーカルが乗る、とてもやさしい雰囲気の曲。





4-3. Hey Guys! It's Christmas Time!
 ディスク4以降は一つ一つの楽曲のクオリティが格段に上がっています。この曲ではノイジーなギターがさく裂するパートと、優し気なボーカルが主役のパートが交互に繰り返されます。『Illinois』収録曲「The Man Of Metropolis Steals Our Hearts」のクリスマスバージョンといった感じ。





5-2. Get Behind Me, Santa!

 ディスク5は他のディスクよりも10分ほど収録時間が長く(約35分)、全体のクオリティも含めて一枚のフルアルバムとして扱っていいと思います。これから何か始まるぞ!という予感たっぷりな、豪華で底抜けに明るい、最高のオープニングトラック。ディズニーの映画とかで流れてそう。この曲を聴くとクリスマスパーティーを開きたくなります。これ一曲でお茶の間で流れる『ホーム・アローン』に匹敵する。





5-4. Christmas In July、5-6. Jupiter Winter
 ディスク4の時点でもそうだったんですけど、もう完全にフォークの域を脱しています。ストリングスの優美な音色が耳にやさしいオーケストラル・ポップ。どちらの曲にも少しラフな部分があって、もしかしたら組曲的な楽曲の1パートだったのかな、とか思ったりする。アレンジがとても豊かでスフィアン〜〜〜!という感じ。





 クリスマス・ソングはやっぱり特別な感じがしますね。祝祭感がね、すごくて……適当に流しているだけで幸せな気分になってしまう。巷で流れているような派手なクリスマス・ソングはデパートや商店街といったような人がとにかく大勢いるロケーションでは映えるんですけど、家で一人で聴くとなるとちょっと無理してる感じが出るんですよね。その点、スフィアンのクリスマス・ソングは等身大で自然な空気があるので、逆に一般家庭くらいのスケールの場所でめちゃくちゃに映えるんです。自分がもし飲み屋で働いたりしていたら絶対流すやつ。親密でリラックスした雰囲気を作ることができます。

 全体にシンプルで聴きやすい楽曲が多いのですが、アレンジの部分にはどうしようもなくスフィアンのエッセンスが滲んでいて……この軽やかさと豊かさが自然に同居しているところが本作のユニークな点かもしれません。



 クリスマスということで取り上げましたが、このタイミングで記事を上げてもフィジカルを入手している時間的余裕がないですよね(BOXにはステッカーやコード譜付きの歌詞ブックレットなどCD以外にもいろいろと詰まっていて、まさにクリスマスプレゼントといった趣なのです)。しかし昔ならいざ知らず、今ならばストリーミングのサービスなどを利用することで、音楽部分はいつでもどこでも楽しめますので… ぜひ聴いてみてください。



8.5