SONGS & FRIENDS 小坂忠『ほうろう』

 音楽プロデューサーの武部聡志が選ぶ「100年後も聴き続けてほしい名アルバム」を、その音楽のDNAを世代を超えて受け継ぐアーティストたちが集まり、1曲目から全て再現する一夜限りのコンサートです。
武部聡志プロデュース アルバムコンセプトライブ「新日本製薬 presents SONGS & FRIENDS」第2弾 小坂忠「ほうろう」開催決定!!|株式会社キョードーメディアスのプレスリリースより引用)

 観てきました。簡単に振り返っていきます。

 職場ではラジオで常にJ-WAVEが流れているのですが、そこから偶然小坂忠の『ほうろう』の楽曲が流れてきまして。そもそもラジオで小坂忠が流れること自体が珍しいので耳を傾けると、どうやらなにかのイベントのCMらしい。音量が小さくて聞き取れなかったため、スマホで少し調べてみたらなんと、『ほうろう』の再現ライブ!?をやるらしく… その日はもうイベントの4日前だったのですが、その場ですぐにチケットの申し込みをしたら普通に取れたので、行ってきました。

 会場は東京国際フォーラム。新潟に住んでいたころからテレビのCMでよく耳にしていたため、名前だけはとても馴染みがあるのですが、実際に行くのは初めてです。ホールがなんかいっぱいあった。新潟で例えるなら「りゅーとぴあ」周辺みたいな感じ。数あるホールの中でも今回は最大のホールAを使うようで、調べてみると座席数はなんと5,012席。まあ数字だけ示されても実感が湧かないんですけど、比較として置いておくと、りゅーとぴあのコンサートホールの座席数が1,884席らしいです(新潟の人にしか伝わらない…)。

SONGS & FRIENDS produced by 武部聡志 | 音楽 | WOWOWオンライン


 そもそも今回のイベントについてあんま知らなかったのですが、今回で二回目の、名盤再現シリーズものらしいです。1回目は今年の3月に行われていて、そのときは荒井由実の『ひこうき雲』を再現したそうです。イベントプロデューサーの武部聡志についても知らなくて… 昔からメジャーなフィールドで、作編曲・プロデュースで活躍されてきた方だそうです。ウィキを眺めて個人的に気になった仕事を挙げると、テレビドラマ『ビーチボーイズ』の音楽、『僕らの音楽』と『FNS歌謡祭』の音楽監督、アニメ映画『コクリコ坂から』の音楽など… 音楽を広い範囲に発信する際のキーパーソンと言えそうです。実際、今回のコンサートの内容も来年の春にWOWOWで放送するらしいので… こういうコンセプトの番組、普通に地上波でもやってほしいですね。

 今回のコンサートについて、アルバムを1曲目から全て再現すると説明されていますが、曲の順番まで再現する訳ではありませんでした。アルバム単位での再現ではなくて、曲単位での再現という感じですね。最終的には、アルバム収録曲のすべてを小坂忠が関わる形で演奏した…のかな?たぶん。
 基本的には、アーティスト登場〜数曲演奏〜アーティスト交代、の繰り返しです。『ほうろう』収録曲に比べてゲストの方が多いので、同じ曲をアレンジを変えて二度演奏することもありました(ちゃんと曲順的に間を開けているので二度目も新鮮に聴くことができました)。

 それでは、以下、流れに沿って感想を軽く書いていきます。ただ内容はうろ覚え(そもそも当日の体調があんま良くなかったんすよ)な部分もあるので……軽めの感想になりますし、間違っている部分もあるかもしれません。あと、『ほうろう』以外の曲もやったのですが、中には自分の知らない曲もありまして(たぶん、より後のアルバムの曲だと思います)… まあ、分からない曲はわからんって書きますので…





〜開演前〜
 これは無視していい部分です。開演前に会場にBGMが流れていたのですが、それがところどころ音飛びしているようで気になりました。もしかしてレコードを再生してるのか? 待機中ヒマだったこともあってやたらと気になりました。BGMは知らない曲だったけどたぶん70年代くらいのロックとソウルが流れていました。




1.Asiah / ???(知らない曲)
 小坂忠の娘であるエイジアがゴスペルチックで力強い歌唱を披露。彼女自身の曲か、もしくは忠さんの後期の曲かと思われる。





2〜3.小坂忠とフォージョーハーフ / 好きなんだから、どろんこまつり
 フォージョーハーフが生で観れるの!? 事前情報をまったくチェックしていなかったのでビックリしました。このメンツによるアルバム『もっともっと』は去年出会ったばかりの作品ですが既に自分にとって超絶重要盤になっているので… しかも「どろんこまつり」!? 小坂忠の初期作がBOXセットでリイシューされた際になぜかわからんけど(詩に差別用語があるからという説がある)収録を見送られたこの曲を? ありがたや… 小坂忠とフォージョーハーフなので『ありがとう』ではなく『もっともっと』のアレンジでの再現でした。
 あとこれは蛇足ですが、どろんこまつりって曲の雰囲気がceroの「21世紀の日照りの都に雨が降る」になんとなく似てるなー「日照りの里にどしゃぶりの雨」なんてフレーズが出てくるし……と思っていたんですけど、今調べてみたらほんとに影響を受けていたようで…(ソース:第22回 やけ×cero対談! | OOPS! -- 特集・コラム) 聴けば聴くほど似てるなあと思っていた。どちらもすごく好きな曲です。





そこに高橋幸宏も加わって… 4曲目「からす」
 MCで、小坂忠は当時フォージョーハーフのドラマーとして高橋を誘っていたと話すが、高橋によるとドラマーではなくギターでスカウトされていたとのこと(しかし下手だったからクビになったらしい)。「からす」はボーカルのハモりが気持ちいい、とてもかっこいい曲。「ありがとう」のアレンジ。
(補足:『ありがとう』が1st、『もっともっと』が2ndで、両者は収録曲の多くが被っている。ただし後者はライブ録音なのです)





 ここで小坂らが退場、続いてゲストによるオリジナルなアレンジを加えた小坂楽曲のライブ。

5.さかいゆう / 氷雨月のスケッチ
 ブラックミュージックの要素を大胆に取り入れたアレンジで超かっこよかった。




6.田島貴男 / 流星都市
 うお、こんな序盤でこの名曲を…。比較的原曲に沿ったアレンジ。というか原曲が完成されてるからな。エネルギッシュに歌い上げる。




7〜8.槇原敬之 / 風来坊、機関車
 MCでここまでの3人が3人とも言っていたのがゲストが豪華すぎるということ。なにかの間違いで神様の国に来てしまった……みたいなことをみんなが言う。まあ自分も後で実感することになるんですけど…
 基本バックのバンドは同じなので、ブラック風味のAORというような音楽的な味わいは共通してるんですけどね。「風来坊」ではアウトロの開放的な、ユーフォリックなアレンジが最高にはまっていました。えっ、てかこの曲やってくれるの? めちゃくちゃ好きな曲だったので嬉しかった。
 続く「機関車」は本人曰く「スライ風のアレンジ」とのこと。細かく刻まれる存在感のあるベースとワウギターがたしかにそれっぽい。原曲のレイドバックした感じではなく、ハキハキしたスムーズなアレンジ。ベースとギターは粘ってますが。
 ちなみに槇原敬之は今回のライブのオファーをいただいてから『ほうろう』を聴き始めたらしいです。




9.Char / ???
 熱いか冷たいか〜ってずっと歌っていました(曲情報)。Charも名前は知りつつも今まで聴いたことのない存在だったんですけど、今回のライブで初めて聴きました。結論、超かっこいい。てかボーカルとギターどっちも一流なの卑怯だった。スターとしての風格がある。イケオジだ。華々しいんだよね、ステージに上がった瞬間から空気が変わっちゃう。見た目の影響もめっちゃあるけどね…(見た目が他の誰よりイケメン)




10.ここまでのゲストみんな / ???
 これもゴスペル導入後の小坂の楽曲と思われる。ボーカルを交代しつつループし、だんだん盛り上がっていく。祝祭感があり、前半のエンディングという空気が出ていた。いい曲。





 一休み的な感じで動画を貼ってみる。

 ここで小坂忠が再登場しここまでの感想みたいなものを語る。そして荒井由実(昔の名義ですね)が入場し、小坂と二人で昔話。
ユーミンが中学生のころからの付き合い!? 六本木のクラブでエイプリル・フールのライブを見たのが馴れ初めだとか。
・当時の小坂忠らは完全にヒッピースタイルで、ロン毛でパンタロンでチャイナサンダル履いて……という感じだったらしい。
・小坂がミュージカル『ヘアー』のオーディションを受けた際、細野がギターで伴奏してくれたらしい。そのおかげで受かったとの談(小坂)。でも細野は後で松本に小言を言われたとか…
ユーミンはっぴいえんどのボーカルに誘われてたんでしょ?」小坂「(細野らと)将来の話はしていたけど、はっきりとは決まっていなかった」ユ「そう?でも松本さんはそう言ってたよ」小「そうなの?だったらはっきり言ってほしかったなあ笑 そしたらオーディション受けなかったのに」ユ「ほんとに?笑」 昔の笑い話といった感じの語り口。
ユーミンは『ありがとう』に2曲で参加。当時はピアノを弾いていたけど周りにもっと上手い人がいたので(矢野顕子など)だんだんピアノが弾けなくなっちゃったらしい(最近の話?)
と言いつつ、ユーミンによるピアノ伴奏で「みちくさ」を披露。(#11)




 続いてBEGINが登場。小坂忠はBEGINが開催している「うたの日コンサート」に何年か前に参加したらしい。なんか一時は沖縄への移住も考えたとか…

12.BEGIN&小坂忠 / ボン・ボヤージ波止場
 アコースティック寄りの編成。ピアノがベースを担当していたのだけどこれがよくハマっていた。ゆったりとした曲だけどもどのパートもリズムを自在に乗りこなしていてとても豊かに聴こえてくる。音源がほしいです。




 ここで高橋幸宏再登場。MCは沖縄の人たちの話。沖縄の人はあまり海は泳がない(海は眺めるもの、とのこと)し、昼間は表に出てこないらしい。

13.BEGIN&高橋幸宏小坂忠 / ありがとう
 話によると以前にも何度か高橋幸宏とこの曲を演っているらしい。ボーカルの層が厚くなっている。この二曲はアコースティックな音色がとても良く作用していたと思う。




 MC。『ほうろう』のストリングス・ホーンのアレンジを矢野誠に依頼しにお宅に伺った。玄関でインターホンを鳴らすと出てきたのはなんと矢野顕子だった……という流れで矢野顕子が登場。

14.矢野顕子小坂忠 / つるべ糸
 「みちくさ」と同じく伴奏はピアノのみ。小坂忠のボーカルはノリに乗っている。前MCでユーミンが「矢野顕子さんのピアノは神業的」と言っていたのだけど、本当にめちゃめちゃ上手い(素人の耳ですが)。というかMCの間も即興でなんかずっとピアノを弾いているのですが、それがまたすごくきれいで…
 楽曲を聴くときに矢野顕子は自分がピアノを一緒にプレイしているつもりで聴くらしく、楽曲のその次の展開や自分のピアノのプレイも想像しながら聴いているという。そして今回、かつて自分が参加した『ほうろう』を改めて聴き直した際に、録音とまったく同じ展開を想像したのだそう。「だから、あまり進歩がない笑」と言っていたけどなんだろう、当時から完成されていたということか…




 続いて同じ編成で15.「I'm Believing You」(?) 少年院にライブに行ったときに「誰も信じてくれない」と言う少年がいて、彼に触発されて書いた曲らしい。歌唱が熱く、若々しい。今何歳やねん。(70歳です)




 そこから小坂忠による長い、細野晴臣と『ほうろう』という作品についての語り。ここは気軽なおしゃべりではなく、ちゃんと準備されてきたものなので、今後のテレビでの放送や(もしあるのなら)発売される音源にも収録されるんだと思う。そろそろ書くの疲れてきたのでここでは詳細については書きません。というか実際にライブに行っていた自分が疲れてきたのもこの辺りからで、ここから先は(も)記憶があやふやです。目を開けていられなかったんですよね〜…




 そして『ほうろう』を録音したティン・パン・アレーの面々が登場し(細野以外)、『ほうろう』楽曲をプレイしていく。たぶんここからがコンサートのクライマックス。

16〜17.ティン・パン・アレー小坂忠 / 流星都市、氷雨月のスケッチ
 最高。おわり。




 吉田美奈子登場。MCもそこそこにつぎの曲、18.「しらけちまうぜ」へ。吉田美奈子のコーラスの存在感が凄すぎて…ちょっと怖かったです。




 尾崎亜美登場。あんま知らなくて申し訳ない! 同じ編成で19.「機関車」。元から歌詞がけっこう怖い感じだったのだけど、尾崎亜美吉田美奈子が加わってコーラスのところなどはもう異様なレベルの迫力が出ている。というか吉田美奈子の歌声やばいよ。




 ようやく……ようやく細野晴臣登場。

20〜21.ティンパン(+細野)&吉田美奈子小坂忠 / 風来坊、ほうろう
 今回の最強編成。言うことなし!




 そしてエンディングへ…。合唱隊と一緒に22.「???」(その後の小坂の曲? ゴスペル。)。途中で小坂忠の語りが入る。今回のコンサートの裏コンセプト『奇跡』について。




 終わり!アンコール! 今までのメンバー全員参加で23.「ゆうがたラブ」! そういえばやってなかったねこの曲! ある意味コンサートから現実に戻るのにうってつけな曲。

 そして最後に武部聡志ピアノ伴奏で24.「???」。もしかしたら合唱団がオープニングで歌っていた曲? You are so Beautiful〜と繰り返す。





 非常に……非っ常〜〜〜豪華なステージでした。ゲスト陣あたまおかしいでしょ。一日にまとめて見るようなメンツじゃない。双眼鏡なりなんなり持ってきてちゃんと見たかった…(本当はライブ前に家に寄って持ってくるつもりだったが急な残業でパアになった)(隣の人めっちゃ使って見ててうらやましかった)。内容はテレビで放送することもあって超しっかりしたもので(紅白とかそういう感じ)、一部の隙もなかったです。全体で三時間超のライブでしたが、小坂さんは最後までパワフルにやり切っていましたね(ぼくはしんでました)。というか後半に進むにしたがってパフォーマンスがどんどん良くなっていたように思います。スゴ。どうでもいいけど細野、ユーミン、矢野、吉田の存在感が異常で、完全に妖怪のそれだった(失礼)。
 最後になりますが、小坂忠の『ほうろう』は完全無欠の名盤なのでまだ聴いてない人は聴いた方がいいですよ。



 追記:今検索したら公式のライブレポートがネットに上がってました。→新日本製薬 presents SONGS & FRIENDS 小坂忠「ほうろう」オフィシャルライブレポート もっと早く見つけてればよかった!