ウェイトレス(無重量)ってどんな音? Logos『Cold Mission』の感想(メモ消化4)


 Logos(James Parker)とMumdanceは、自分たちの作る音楽のことを「ウェイトレス(無重量)」と呼んでいるらしい(かっこいい…)。このかっこいい呼び名を持つ音楽はいったいどんな音楽なのか、Logosのファーストアルバム『Cold Mission』を聴いて思ったことをちょっと書いてみます。



参考記事:
RA Podcast: RA.456 Logos
RA Reviews: Logos - Cold Mission on Keysound Recordings (Album)
LOGOS『Cold Mission』(Keysound) - COOKIE SCENE



 『Cold Mission』の音楽性について、上に貼ったリンク先から引用します。

「同作はたくましいコード、撃鉄を起こす音、重低音といったグライムの核となる部分だけを残し、その他の要素を取り払ったものが真空に浮かんだような作品であった。」

「各トラックからは活き活きとした要素が取り除かれ、時折、刻まれるハイハットやタイミングのずらされた乱れたベースラインが鳴らされてはいるものの、どこかに掴まっていなければならない程に底無しのディープな様相を醸し出している。」


 実際に曲も聴いてみてください。

 無音状態から打撃音とともに薄靄のようなコードがフェードインし、やがてドラムサウンドとジャングルのようなぶっといベースが入ってきます。ドラムもベースもはちゃめちゃな存在感でもって鳴らされているのですが、ハウスの四つ打ちのように恒常的に存在することはなく、たびたび姿を消します。曲中に出てくるサウンドは基本このコードとドラムとベースのみなので、ドラムとベースが消えるとコードのぼやーっとした音だけの、無風地帯というかまるでエアポケットみたいな状態が現出します。
 今作ではこのエアポケットみたいなほとんど音のない瞬間が作品のかなりの部分を占めており、大きな特徴となっています。それに対するドラムサンプルはどの音も強烈で、まるで宇宙空間かのような無音部分とそこにくっきりと浮かぶパワフルなドラムサウンドコントラストが今作の魅力の一つと言えそうです。

 今作は他にも特徴があって、それが独特なタイミングで鳴らされるビートです。先ほど書いたようにたびたび姿を消す今作のドラムですが、こちらの予想外のタイミングで鳴らされることがしばしば……というかほとんどです。とはいえ、完全に自由なタイミングでというわけではなく、きちんとリズムに乗って鳴らされています。




 実はこの「リズムに乗りつつもこちらの予想を外してくるビート」がウェイトレス・サウンドの肝なのではないか、と思います。

 どういうことかというと……実際に自分がリズムに乗っている場面を想像してください。自分たちは未来に鳴らされる音(たとえば何らかのリフだったり、はたまた休符だったり…ダンス・ミュージックならビートの一部になるでしょう)を半ば無意識レベルで予想してリズムに乗っていると思うんですが、まさに足でリズムをとっている最中に予想外のビートが来たらどうなるでしょうか。普段ならそこで鳴るはずの音がない(あるいはぞの逆)……たぶん混乱しますよね。足でリズムを取っていた場合は柔道の崩しと言いますか、なんというか宙ぶらりんな状態になると思います。

 この宙ぶらりんな状態をビートによって意図的に起こす音楽がウェイトレス・サウンドなのではないでしょうか。

 このような状態を作るにはなによりも聴き手の予想を外すことが重要になってくると思うのですが、そのためにはまず聴き手に音を想像させなければならない訳で…… リズムに対するメタ的な視点がなければできないような、とても手の込んだ作品だと思います。




 はじめは単純に宇宙っぽいサウンド――やたらと多い無音部分や、広大な空間をイメージさせるような音の響きなどからの連想でウェイトレスと呼んだのかなーと思ったのですが(というかいまだにこっちの可能性の方が大きいような)、しかし今回提示したような解釈もこれはこれでロマンがあっていいのではないでしょうか。
 個人的にはアルバム最初の4曲がお気に入りで、今作の音楽的特徴がもっともよく出ていると思います(LP版は1曲目と4曲目が収録されていないので注意)。

 なんにせよ、Jam City『Classical Curves』におけるリズム面の実験をさらに推し進めたような今作のサウンドは非常にユニークかつ魅力的です。おもしろいリズムを求めている人にぜひ聴いてもらいたい作品です。