思わせぶりというスタイル 『分離派の夏』に関する雑文(メモ消化1)


 小袋成彬『分離派の夏』を聴いて思ったことのメモです。


 曲の構成について、ブリッジとかコーラスという概念をなんとなく掴んだので使っていこうと思います。
参考:
日本だけ特殊? 曲のセクションの呼び方について | DAW LESSON
曲構成での「ブリッジ」って結局何なの?調査結果と考察! | 音の最果てに残すもの



 これは自分の性癖の話なんですけど、ブリッジで盛り上げるだけ盛り上げておきながらコーラスがすごくあっさり、もしくは無いっていう思わせぶりな構成が自分のツボらしいです。(選ばれた乙女やピングドラムが好きなのは思わせぶりだから…)



 はちゃめちゃに好きな#4「Daydreaming in Guam」について、この曲のコーラスはたぶん「白い肌が勲章なのさ 二人の 二人だけの」のところだと思うのだけど、そもそもがすごく短い上に、一回目ではその前のヴァース・ブリッジとテンションが完全に地続きでコーラス(サビ)という感じがしないし、しかも途中で終わる(「二人の…」で終わる)。最後なんかはブリッジでめちゃくちゃ溜めてきて、コーラスで爆発するのかと思いきやそのまま出てこないで終わる(だがそれがいい…)。

 同じく大好きな#8「GOODBOY」。なんとコーラスなし! いやまあ実際は解釈次第で、一応、「騒いだり冷めたり 一体何人 ぼくがいるんだ」の部分をコーラスと見ることもできるけど、自分の感覚ではブリッジの一部と捉えた方が据わりがいい。理由の一つとしてはクレッシェンドがある。このフレーズのところでは音量も音高も(これから盛り上がるぜ〜!)という感じでどんどん上がっていくんですけど、それって自分の今までの経験ではブリッジにより多く見られる特徴なので(ブリッジでクレッシェンド、コーラスでフォルテという雑なイメージ)。その部分をブリッジと捉えた上で続けるけど、ブリッジでこれ以上ないほどに高まった直後に、まるでそれまでのことがなにもなかったかのようにイントロのフラットなテンションに戻る。これがね、本当にエモいの。。 例えば、普段はいい子で周りに通してるけど時おり本当の自分が出る(でも一瞬で元に戻る)キャラみたいな感じで……


(ここから蛇足)
 とにかくこういう思わせぶりな音楽が…好き。お話で例えるなら、誰かに片思いしている男の子なり女の子なりがいて、好きになった経緯やら告白の練習シーンやらがじっくり映されるんだけど、まさにこれからクライマックス、本人を呼び出し、向かい合って見つめ合って口を開いた───というところで告白シーンをカットして数年後…とかあるいはほんのちょびっとだけ映したり、普通に映すけど音声なし、とか、そういう表現ですよねこれ。表現というか演出というか。
(蛇足終わり)


 思わせぶりな楽曲が好き、というお話でした。今作の影響元として一番大きいのはFrank Oceanの『blonde』なんじゃないかと勝手に思っていますが、『blonde』に近いサウンドは他でも聴けると思うけど、『blonde』に近い楽曲はとてもレアなんじゃないかと思います。近いというか、きちんと日本語の歌に昇華されているのですが。
 楽曲についてばっかり書いてますけど歌詞も最高で、これがまた意味深で思わせぶりなんです。日本語ネイティブでよかった〜と思えるくらい魅力的な歌詞が、楽曲や歌唱に有機的に結びついています。

 コーラス部分が地味だと楽曲が掴みにくかったりするので、それが原因で聴いてもよくわからんかった…となっちゃう場合もあるかもしれないんですけど、そういう人もめげずにもう一度聴いてみてほしいです。もちろん、まだ聞いたことのない人にもぜひチャレンジしてほしいです。超いいですよ、この作品。