Lamp [ランプ幻想]


 日本のバンドによる4枚目のアルバム。2008年発表。
 Lampというバンドに出会ったきっかけは「青春ゾンビ」という名前のブログの2014年のベストアルバム記事だったように思います。

2014 BEST ALBUMS 30 - 青春ゾンビ

 このブログをどこで知ったかというのはあやふやなのですが(エレキングだったかな〜)、わりと音楽の好みが似ている感触があって、音楽作品を取り扱った記事を当時はよく読んでいました。最近は映像作品の記事が多くてそんなに見ることはなくなりましたが、それでも年間ベストの記事は毎年アップしてくれるのでいつも参考にしています。



 このブログがLampの『ゆめ』というアルバムを2014年のベストに選んでいるのを見て、それからすぐにネットで検索して「さち子」という曲(MV)をYouTubeで視聴して衝撃を受けた記憶がある。


 Lampを布教するとき一番最初に聴かせたい。完全に魔法がかかってますね。。

 その後Lampの音源を探して地元のツタヤへ行って『ランプ幻想』と『東京ユウトピア通信』を見つけることができたけど、それ以前の作品はどこにも見つからず… とりあえずアマゾンのほしいものリストに入れて放置していたのだけど、しばらくしてLampの公式通販(バンドキャンプ)を発見。アマゾンで中古の値段(これがまためっちゃ高いのです)を一年以上観測したけど下がることがほぼなかったためフィジカルは諦めて公式のダウンロード購入に踏み切ったのが2016年の終盤。そこから時系列準に作品を聴いていってリアルタイムに追いついたのが最近の話です(ただし『東京ユウトピア通信』のみビミョウに消化不良……カロリーが高いんです)。






 バンド自体の来歴についてはこの記事が参考になります。(と言いつつ自分もちょうど今見つけて読んだのですが)

【コラム】Lamp 『東京ユウトピア通信』(第1回)|HMV&BOOKS onlineニュース

 音楽性についてはその記事の4回目に記述があるとおり、「ボサノヴァと日本語のポップスを混ぜたもの」で、その説明のとおりおしゃれで耳馴染みのよい音楽を作られています。線の細いボーカルは少し頼りなさげではありますが繊細な美しさがあります。アレンジはスムーズで洗練されており、彼らが多くの良質なポップス作品を踏まえてきていることを窺わせます。特にリズム面はキャリアの初期から充実しており、どの曲にも常に一定以上のリズム的な求心力があります。この点はボサノヴァをマスターした彼らの真骨頂の一つと言えそうです。

 とはいえここまでなら最近流行りのシティポップバンドか〜で終わってしまいそうです。しかし、彼らには他のバンド・アーティストにはない独自の強み…もとい特徴があり、それが「コードに対する並外れたセンス」です。

 …と、ここまで書いておきながらなんですが、自分はそんなコード周りを言語化する能力がないので… とりあえず参考になりそうな記事のリンクを貼っておきます。

無人島 〜俺の10枚〜 【Lamp編】|HMV&BOOKS onlineニュース

 HMVが地味に(?)続けていた特集“無人島 〜俺の10枚〜”(復活しないかな…)のLamp編で、バンドの中心人物であろう染谷大陽氏が10枚を選んでいます。無人島ということでなんとなく自然や野生というイメージのあるブラジル産の作品でほとんどが占められていますが、ここで挙げられた作品が彼らのコードのセンスに影響を与えたのだろうと思います。まあこれらの他にも一般的なポップスのルーツもあるはずで、だから実際にLampの作品で聴ける音楽性はこれらの作品とまったく同じ!ということにはなっていないのですが、それでも特にリズム、コード周りに関しては確実に影響が感じられます。



 余談ですが、以前自分は勝手に彼らのルーツがカンタベリーにあるんじゃないかと思っていました。というのもそれまでボサノヴァとかをまともに聴いたことがなかったから… それまで自分が聴いてきた音楽の中ではカンタベリーとして括られる音楽が一番彼らの作る音楽に近いのではと思えました。改めて聴いても特にそのコードを自在に行き来するメロディーラインなどは近いものを感じます。


 下に貼った「儚き春の一幕」と聴き比べてみてください。

 雰囲気としてはジャズ(カンタベリー)とボサノヴァLamp)の違いかな… でもこれ(カンタベリー)、彼らのルーツではないらしいんだよなあ… 染谷氏のツイートに「カンタベリー」って検索かけてみてもそれらしい発言は出てこないし。。 まあ別にいいんですけどね、それはそれとして自分はカンタベリーがすごく好きなので、カンタベリー歌謡みたいなことをやってくれる方が出てこないかなーといつも思っております。もういるのかな? いたら教えてください。。






 話を戻して… 繊細なボーカルワークとポップスの王道を行く洗練されたアレンジ、そしてボサノヴァなどの南米音楽譲りのリズム・コードの感覚がLampの音楽性の基本的な部分を成していると思います。『ランプ幻想』においてもそれらは健在であるのですが、今作ではそれらに加えてさらに、なんというか……なんかメロディーにパラメーターを全振りしたみたいな音楽性になっているんですよね。

 どういうことかというと、今まで以上にメロディーがサウンドの中心にあるんですよね。そしてそれを実現するためにメロディーのパート(基本的にはボーカル)以外のパートの存在感が全体的に控えめになっています。音量も音数も、今までの作品と比べると差がはっきりと分かるくらいに抑えられています。メロディーとそれ以外の音の存在感の比率が、従来は5:5くらいだったのが今作では7:3くらいになっているような…
 そのおかげでメロディーの美しさ、ボーカルの美しさがよりはっきりと伝わってくるようになりました。もともとどこか翳があるような綺麗なメロディーを書くバンドでしたが、今作ではそのセンスが過去最高に研ぎ澄まされているように思います。そしてツボは押さえつつも決してメロディーの邪魔はしない絶妙なアレンジにも職人のこだわりのようなものを感じます。

 上記の変化によって、サウンドの聴きどころのようなものが整理されて、長く聴いていても疲れなくなったことも個人的には嬉しいポイントです。今までの作品はどのパートもイケイケで(といってもポップスとしては普通のレベルなのですが)、また曲自体もけっこう複雑なものが多いため、2、3曲聴いただけでも気持ち的におなか一杯になっていたのですが、今作はいくらリピートしても疲れるということがありません。…まあでもこの点は「退屈になった」と見ることもできるので、あくまで自分個人の話ということになるのですが。。



 実はこのアルバムの各曲についてLampのメンバー3人がコメントしたものをまとめた記事が公式で上がっています。コメントというかほぼ解説で、楽曲の理解に役立つので本作を聴く際には一度見ておくといいかと思います。

『ランプ幻想』 メンバーの各曲コメント | こぬか雨はコーヒーカップの中へ

 上記の記事を踏まえて、個人的に印象に残った曲について少し。。

1. 儚き春の一幕



 珍しい繰り返しのないポップス。ころころと移り変わっていくメロディーを追っているとだんだんまるで短い映像作品を観ているかのような気分になってきます。派手さはないけれど美しい瞬間が次々に現れては消えていく、本作を象徴するような曲だと思っています。いろいろなフィーリングを自在に、かつ滑らかに繋いで流れていくメロディーとコードが本当にすばらしい(自分がカンタベリーみを感じる部分でもある)。

6. 白昼夢
 作中一番賑やか…というかロックしている曲。オルガン?の音色もあって年代物のような雰囲気が出ている。個人的には他の穏やかな曲の方が好みなのだけど、収録曲の中で一番シンプルな作りをしていて実際とてもキャッチーなので、アルバム全体を捉える際の足がかりというか休憩所として機能しているかもしれない。それまでの流れをリセットさせるくらいに他の曲とは雰囲気が違っていて、実際にレコードではA面B面の境に位置している(B面の1曲目という位置づけ)。

7. 日本少年の夏
 これは……何風というんだろう、非常に独特な儚いメロディーが特徴の曲。陽炎のように揺らぐ香保里嬢のボーカルがすごい。それぞれのフレーズの一番最後、音(声)が減衰していく部分(リリースと言うんでしょうか)の表現が本当にすごい。分かりやすい部分を挙げると、2番のサビの『「さようなら」 ゆらゆら 浮かんで行く』の最後の最後とか。他に似ている曲が浮かばない不思議な曲。たぶん一番リピートしている。



 その他、参考になる記事のリンクを貼っておきます。
いちにの: 不定期Lamp紹介 - 4thアルバム「ランプ幻想」
 べた褒めだけど完全に同意。

高瀬大介の思い出のプラグインは刹那い記憶 : ランプ幻想 - livedoor Blog(ブログ)
 ランプ幻想とビーチボーイズブライアン・ウィルソン)の「Surfs Up」とを比較している。確かに曲も空気も似ている…

Lampの『ランプ幻想』に大はまり中 : アルカンタラの熱い夏
 Lampキリンジを絶賛しているという話。うおーおれはキリンジを聴かねばならない。






 ひたすらに美しいメロディーに浸ることができる、日本語のポップスの名盤です。4枚目にして真にオリジナルな作品……まさしく彼らにしか作ることのできない作品になっていると思います。一見すると地味で掴みどころのない作品のように思えるのですが、実際は繊細ながらも豊かな表現にあふれており、聴けば聴くほどに今までよりも良く聴こえるようになっています。音楽に美しさを求める人にはぜひ聴いてほしい作品です。



9.0