Camberwell Now [The Ghost Trade]


 元This HeatのドラマーCharles Haywardが中心となって結成されたバンドの1stアルバム。
Reutopia-Music: Camberwell Now : All's Well
CDコレクターは止められない!
THE GHOST TRADE: LIMITED GATEFOLD JACKET/COLOR VINYL - 180g LIMITED VINYL/24/96 REMASTER/CAMBERWELL NOW/キャンバーウェル・ナウ|PROGRESSIVE ROCK|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net
CAMBERWELL NOW/All's Well (1982-86/Comp.) (キャンバーウェル・ナウ/UK)

 This Heatの諸作で強烈な印象を残しているチャールズ・ヘイワード…… といっても自分はそんなに馴染みがあったわけでもなく、かろうじて触れていたのが2ndの『Deceit』で。まあそれだけでもものすごいインパクトがあって、その録音風景がどういうものだったのかはわからないですが、最終的にできた作品(Deceit)の放つ空気や雰囲気というものが本当に今まで感じたことのないもので… で、さらになんなんだ〜!と思うことがあって、彼ら、この混沌とした空気の中に時おりすごくきれいだったりポップだったりする瞬間を挟んでくるんですよね、、 そういう、わけわからんところにいきなり整然としたものを提示されると、なんかもう心がぐちゃぐちゃになるんですよ〜〜〜いいように翻弄されている……




 これは普通にかっこいい曲です。



 話がずれてきたので戻しますが、Camberwell NowというのはそのThis Heatのメンバーだったヘイワード氏が次に結成したバンドです。そして『The Ghost Trade』は彼らの唯一のアルバムなのですが、自分はそれを単品で持ってるわけではなく、『The Ghost Trade』の曲が丸ごと収録されている『All's Well』という名前の編集盤を入手して聴いています(今回貼ってるジャケット画像もその編集盤のものです)。というのも今現在ふつうに流通してるのがこれだけなんですよ…と思いきや、上に貼ったディスクユニオンのページを見るとどうやら知らない内に『The Ghost Trade』単品でリイシューされていたようですね。あのリイシュー専門レーベルとして有名なLight In The Atticの元から。。






 アルバムの内容に話を移します。This Heatからの変化として一番大きいのは、圧迫的なノイズや歌というよりはむしろ叫び声に近いボーカルなどの暴力的・前衛的なサウンドが後退したことです。聴き手にプレッシャーをかけるようななんというか「怖い」サウンドはほとんどなくなり、普通のロックアルバムとして聴けるようになっています。そして代わりに表に出てきたのが運動神経抜群のバンドアンサンブルとヘイワード氏独特の歌心です。




 #1「Working Nights」



 元々手数の多い迫力あるプレイで鳴らしていたヘイワード氏ですが、ここではギター・ベースもそれに負けじと追随してきており、結果的にとても忙しない音楽が出来上がっています。まあその忙しない感じが自分のツボなのですが… 上に貼った曲(「Working Nights」)の随所で聴かれるトレモロとスラーを使ったギターのリフが象徴的です。こういうリフはThis Heatの時代でも出てきていましたが(たとえばこれ)独特の味わいがあります。自分はこういう忙しない感じのロックが本当にツボで(二度目)…例えば昨年出会った中ではMeat Puppetsの『Up On The Sun』が挙がりますし、日本のロックだとあの伝説的なINUとかがですね、もうめちゃくちゃに好きなんですよね。最近見つけた鉱脈だとMinutemenと、そこから繋がるリズム的に一歩踏み込んだハードコアなどがありまして、そこらへんも聴いていかにゃならんなと思っているのですが、(中略)




 #6「The Ghost Trade」



 上で触れた、もはや人力テクノみたいな感じもある怒涛のアンサンブルも聴きどころなのですが、それと同じくらいに魅力的なのがヘイワード氏のボーカルです。上述の「Working Nights」も転調後、4分半くらいからの展開は鳥肌が立つほどかっこいいですね。てかこんなエモい曲書けるんだ…… ヘイワード氏はThis Heatの前にはカンタベリーに分類されるバンドに在籍していたことがあり(参考)、そのことが今作の楽曲のメロディーにも影響を与えているように思います。自分が特にカンタベリー味を感じるのは最終曲の「The Ghost Trade」で、ソフツ…というよりはRobert Wyattの「Moon in June」のように、ポジティブとネガティブの境界でゆらゆらしているような歌メロが本当に好みです。


 このバンドのおもしろい部分として、フィールド・レコーディングなど、テープを使って様々な効果を演出する役割のメンバーがいまして(Stephen Rickardさん)、彼が楽曲に独特の奇妙な雰囲気を付けています。4曲目の「Speculative Fiction」では彼が録音したであろう人の声が他の楽器と同じくらいの存在感を示していますし、「Working Nights」や「The Ghost Trade」ではアンサンブル以外の音が楽曲のヒロイックな空気を引き立てることに成功しています。どうでもいいですが「Working Nights」のイントロ聴くとdeerhunterの「Dr. Glass」って曲を思い出します。





 カンタベリーを経由しているからか、自分の偏愛するちゃかぽこアルバムの中でも特異な存在感を放っているアルバムです。ちゃかぽこアルバムってのは音の小気味よさが全てを解決してくれるみたいなところがあるんですけど、今作には単純に気持ちいいだけで終わらないある種シリアスな空気があります(歌詞とか読んでませんが、おそらくちゃんとコンセプトもあるのでしょう)。とはいえこのまるで痙攣しているかのような入り組んだリズムはやはり魅力的で、ここまで細かいリズムを持ったロック作品も珍しいと思います。なにはともあれ最高にかっこいいロックアルバムです。いいぞ。



9.1