国府達矢 [ロック転生]

 どうやら新作が出るようで。ありがたいことです。

 自分も一般的なルートというか…七尾旅人経由でたどり着いた人間です。「Ψ人生おかわりΨ」という七尾旅人のブログやインタビューなどで言及があったように思うけど(今はもう観れない感じ…?)、とはいえそれだけで音源を入手する気になれたかというとそうでもなく、というのも『ロック転生』は流通量が少ないのか基本プレミア価格で取引されているからです。

 それでもスヌーザー#64の「日本のロック/ポップ・アルバム究極の150枚」という特集で今作が#108に選ばれていたこと(この数字、改めて考えると仏教的な意味も込めていたのか…?)が最後の一押しになって購入に踏み切ることができました。約3000yen也…(一応安くなったタイミングを狙ったつもり)まあ普通のフルアルバムと同等の値段ですね。それでこの内容なら買ったかいがあったと言えるでしょう。

 参考:”snoozer”2007年12月号 『日本のロック/ポップ・アルバム究極の150枚』 - みどりのろうごくblog





 音楽性について言うと、曼荼羅のように幾重にも重ねられたギターリフをどことなく和を感じさせるメロディーの歌でまとめ上げたロック、というような感じになるでしょうか。音の重ねようがすごく、場面によっては……例えば#2「躁タレヤ」序盤のストロークをめっちゃ重ねたと思われるところなんかでは音がまるでお寺の鐘のように聴こえてきたりします。残響… このめっちゃ重ねるというところでマイブラなんかも連想されるのですけど、こちらは過剰にノイズを媒介していないので結構イメージは変わってきます。あっちは音の壁というか、面で迫ってくるような感じですけど、こちらははちゃめちゃに重なった「線」の塊という感じ。それこそ曼荼羅のイメージ画像みたいな… そういえばKing Crimson『Discipline』のジャケットのシンボルにも近いかもしれない。音楽性も若干…

 ぶっちゃけるともっと近いイメージのアーティストが既に頭に浮かんでいて、それがSteve Gunnです。似たような方向性で自分もお気に入りの人ですが、彼が有名になり始めたのは多分2014年頃だと思うので……ロック転生からは10年以上も後のことなんですね。ほえ〜


 2014年作『Way Out Weather』より。

 かなり前に彼(Steve Gunn)についての記事を読んでいてギターラーガなんて言葉が出てきたような気がしていたんですけど改めてそれで検索してもなにもヒットしませんでした。あれ…? ラーガというのはインド古典音楽の音楽理論に現れる旋法だそうです(辞書的な説明…)。Steve Gunnの作るリフはそうでもないような感じですけど、国府達矢のものについてはわりと似たようなところがあるかなーと思うので参考用に動画を貼っておきます。仏教つながりですかね。


 5分過ぎあたりからそれっぽくなってくる。

 で、国府達矢の魅力はギターだけじゃないんですよ。声! ボーカルがまためちゃくちゃいいんです。七尾旅人のボーカルは独特でありながら超自由で飛び跳ねたりしていてすごいんですけど、こちらは逆に超王道というか… あっちがちょっとアバンギャルドな風味もあるのに対し、こちらはもっとポピュラーな歌謡曲の系譜で、もはや演歌の領域に入りつつある。こぶしが利いているんですよね。その節回しが独特で、これが実際に合わせて歌ってみるとすごく気持ちいいのです。歌う気持ちよさというよりは、「声」を出す気持ちよさで、小・中学校の頃の音楽の授業を思い出す。原始的な快感。海外勢で言えばMy Morning Jacketとか、Fleet Foxesとかの歌が近いかもしれない。おおらかで、また感覚的な物言いだけど大地を感じる。
 日本では、自分の最近のお気に入りである折坂悠太が近く感じる。こちらはブルースとかソウルといったニュアンスが混じってるような気もするけど… こぶしの部分なんかはやはり似ている。


 『ざわめき』めっちゃいいぞ!(ここで書くかい)





 参考に関連作をちらっと挙げると… ロックブッダ名義のシングル『+1Dイん庶民』(2011)。なんとなく音像がシャープになった印象。基本的な音楽性は変わらないけど、レゲエっぽいノリとか、ラップっぽいもの(どちらかというとお経?)をやっていてちょっと冒険している。曲的にはロック転生よりも入り組んでおり、少し風通しが悪くなったかもしれない。とはいえやはり個性的な音楽。

 salyuコーネリアスプロデュースの『s(o)un(d)beams』しか聴いたことないのだけど、彼女の歌唱には国府達矢の影響があるなと感じる。Wikiにある程度提供曲がまとめられているのでそのうち聴いてみたい。

 七尾旅人の『911 Fantasia』。disc2の「ソウルミュージシャンたち」で「天河越え」のギターリフがサンプリングされている。そもそもこの3枚組の大作自体が国府達矢に触発されて作られたものらしい。ちょっと上にも書いたスヌーザー#64の七尾旅人インタビューより引用。9.11を受けての話。

ただ1コ覚えてるのは、国府が異常に悲しんでたってこと。テロの映像を観て、なんかもう、我がことのように悲しんでるわけですよ。で、この時、既に99年頃から目を見張るようだった彼の音楽的な進展が、一気に加速して、もうほとんど発明と言ってしまってよいレベルまでいったんです。ライブ行くたびに衝撃が増して。地球の裏側で起こったことに対して、ここまで胸を痛めて、それで音楽のフォルムがどんどん変わっていってるっていうのは見物だったよ。(中略)国府の音楽だけはポップ・ミュージックの新たな展開として凝視せざるを得なかったの。

 あとツイのまとめなんかもあった:国府達矢さん、復活へのカウントダウン。 - Togetter





 いやー人生なにが起こるかわからないですね。気がつけばもうすぐハンターの新巻も出るようですし。…話が逸れました。とにかく国府達矢のこの作品、見逃されるには惜しい逸品です。単純にすごくいいのでもっと多くの人に聴いてほしいのですが、流通が…… というところに朗報が。 

 まあ実際どうなるかは分からないですけど。リマスターや完全版もいいですが、とりあえず普通に作品が手に入るようになればいいなと思います。

 自分的にはまさに事件! というようなニュースを受けて衝動的に書いてしまいました。果たして今年中に3作きちんと出るのか? いや1枚でも出ればお祭りですよ。とにかく期待して3/21を待ちましょう。どうせなら七尾旅人も今年なにか出さないかな…ってまだLEFT HAND DIARIESをちゃんと聴いていないんだった。こっち聴きながら待ってます…



9.0