渚にて [こんな感じ / Feel]


 日本のバンド、渚にての四枚目のアルバム。2001年作。


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ニッポンノアングラロック
interview with Nagisa Ni Te また正月かあ!  | 渚にて、(柴山伸二)、インタヴュー | ele-king

 2014年にHarmonia「Deluxe」とよく似たジャケットの「遠泳」というアルバムを発表した際にエレキングで取り上げられていて、それで知ったという人も多そうなこのバンド。自分が初めて知ったのは例にもれずピッチフォークで(Nagisa Ni Te: Feel Album Review | Pitchfork)、たまたま見かけたときに(日本のバンドだ、珍しいなー)と記憶していたものを、これまたたまたま実家に帰った際に寄った田舎のブックオフで見つけたのがきっかけだった。どうも誰かがまとめて渚にて関連作を売り払ったらしく、ほぼ全ての作品があったのだけど、全部買うだけのお金を持っていなかった当時の自分はとりあえずピッチで一番点数の高かった「こんな感じ」を買ったのであった。

 音楽性としてはサイケデリック・フォークって感じなんだけど、なによりも特徴的なのはその"遅さ"だと思う。とにかくテンポが遅い。日本版スロウコアとでもいうか。ただスロウコアといって想像されるようなシリアスさはなくて、逆にどこまでものどかな雰囲気がある…のだけれども、同時にちょっとした緊張感もある不思議。てきとうな速さよりもゆっくりめのペースの方が維持するのに集中がいるような気もしていてそういうのに由来するものなのかもとか思ったり。まあどんなテンポでもきちんと休符が鳴らされていればいいんですけど。なんにせよこの独特のスローテンポとすき間の多さには一度ハマるとなかなか抜け出せないような魅力があります。

 また、素朴ながらも力強い柴山伸二のボーカルもすばらしい。特にアルバムのはじめと終わりを飾る「川をわたる歌のうた」、「星々」はやばい。どこまでも伸びていくボーカルに圧倒されます。竹田雅子のボーカルも無垢な響きで味があります。
 全体的に音数が絞られている中、ギターのツボを押さえたプレイも光ります。個人的に大好きなのが#6「朝顔」のギター。頭士奈生樹(すごい名前)て人が弾いてるんですけど、曲後半のギターソロとか感動ものです。学生時代一人でこっそり練習したりするほどお気に入りでした。このソロだけでも聴いてほしい…(がんばって入手してください)



 自分が田んぼに囲まれたような田舎で育ったということが影響してるのか、どうもこういうのどかなサウンドには抗えません。しかしそれを抜きにしても、とてもよくできた作品です。たぶん(上でもちょっと触れたけど)アルバムのはじめと終わりがしっかりしてるのが大きいと思う。「川をわたる歌のうた」も「星々」も、どっちもすばらしい曲なんだもの。
 あともうひとつはメロディーやサウンドのオリジナルさ。いやまあ公式サイト見てわかるとおり柴山さんは非常に熱心なリスナーであるわけで、他の音楽から影響を受けてないわけがないんだけど、今作の音・メロディーは他に似てるものがあまりないというか、唯一無二な感じがします。いや探せばあるだろうけども! でもなんか今作を聴いてると、(この音は日本からしか生まれなかっただろうな〜)なんて思ってしまうんです。

 Sam PrekopSam Prekop」、Radicalfashion「Odori」に続く、学生時代に見つけた掘り出し物の一つで、とても気に入っている作品です。ちょうど今くらいの季節が一番合うんじゃないかな。どこかで見かけたらぜひ聴いてみてください。



9.0