5lack×Olive Oil [50]


ぼくがヒップホップについて語れることなんてほとんどないんだけれど。ヒップホップに対して特別な感情がなにもない。なんというか、思い入れ、とかこだわり、とかそういうものが。ぼくはただただ己の快楽に忠実なだけで、音楽に求めるものだって音の快楽が中心だし。

ぼく自身についていえば、ヒップホップというジャンルはあまり頻繁に聴くものではない。理由としては、メッセージ性が強いものが多いということがある。これについては別にヒップホップに限らないんだけど、主張の強いものって、ただ受け流すだけでもエネルギーを使う。
他の理由を無理やりに挙げるならば、・・・これはまた身も蓋もないのだけど、自分の好みの「声」の持ち主がなかなかいないということだ。といっても、今思いつくだけでも片手じゃ足りない数いるんだけど。自分の好みなんてたかが知れてるので、探せばふつうに見つかるんだろうけどね。

ぼくの音楽の評価基準として一番大きなものは音の気持ちよさだ。そして、当然だけどその評価対象には「声」も入ってくる。特にヒップホップは、なんというかな・・・ 音全体の中での、「声」が占める割合が大きいジャンルだと思う。だから他の音楽よりも、「声」が作品の評価に与える影響が大きい。
個人的には、トラックを抜きにして、ラップだけを聴いたときでも心地いいかどうか、ってのが重要だと思う。いやトラックも重要だけど。たぶん、多くの作品ではラップしてる時間よりもトラックが流れてる時間の方が長いだろうから。

まあ、どっちも重要ってことですね。自分は洋楽に慣れていて、洋楽は邦楽よりもインストゥルメンタルの割合が大きい傾向が(たぶん)あるので、自分もインストゥルメンタル(=トラック)の方にまず耳がいってしまいますが。


・・・ほんとうは、「〜〜〜だから、自分が聴けるヒップホップはレアなんだぜ!」という感じに話を持っていって、そこから作品の話につなげるつもりだったのですが、うまくいきませんでした。だから自分の好みなんてたかが知れてるって。
いいや、本題に入って。5lack×Olive Oilの「50」です。いつものように参考リンクぺたり。
5lack×olive oil『5 0』 - 青春ゾンビ
5lack×Olive Oil - 50  | スラック、オリーヴ・オイル | ele-king

トラックについて、後者から引用。

オリーヴ・オイルのトラックがまず良いのだ。それが買った理由のかなり多くを占めている。BUNのような、ここ数年のあいだに注目を集め、国際的な支持を得ている日本のビートメイカーたちの軌跡を追っていくと、彼らの多くがオリーヴ・オイルと関わっていることがわかる、と話してくれたのは三田格だったが、彼がいま重要人物なのは、フライロー以降の耳にはとくに納得のいく話ではないだろうか。
 とにかく僕は、繊細にして大胆、実験的にして郷愁的な、チルアウトでありながらビートがしっかりした、そしてドライでありながら叙情性のあるオリーヴ・オイルのトラックに惹きつけられたのだ。

まさしくその通りです。とにかくトラックがいい。耳が喜ぶ。海外の音にもまったく引けをとっていない(というかもう世界トップクラスのように思うけど)。本当に不思議なトラックです。この最高のトラックに5lackの自在なラップが乗るんですよ。悪いわけないじゃん!
ラップについては、ぼくは語る言葉を持たないんですけど、やっぱこの独特の曖昧模糊としたフロウがいいんでしょうね。境界がわからない。音的に言えばやわらかくて尖ったところがない。これが今作のメロウなトラックに合っている。詩の内容については前者のリンクを見てください。

あと今回それ以上にすばらしいのはアルバムの構成、曲順でしょう。いつもテキトーといいつつしっかりとした流れを作ってきた5lackですけど、今回はチームワークということもあってか、今まで以上にまとまった内容になってます。特に#6「鼓動」からラストまでの落ち着いた流れ(もうアルバムの半分以上占めてるんですけど)はため息が出るほどです。「HUSSHSARD / 50」〜「AMADEVIL」なんて感動的ですらある。どこか言いようのない郷愁を感じさせる、ホームから離れてしまった人のための子守唄。


ぼくがスラックを知ったのはどうやら大学に入る前のことらしい。スヌーザーの#77、2009年の年間ベストアルバムを扱った号で、野田努がその年のサウンドトラックに一番に上げていたのがスラックだった。そこでは彼は「この22歳の素晴らしい才能に関しては、タワレコとか、レコード店で働いている人達はすでに気が付いている。僕は彼は、日本のマイク・スキナーだと思っているが、フィッシュマンズシーダが手を組んだようなヒップホップだとも言える。そんな信じられないようなことが起きてるんだ。」というふうに書かれていた。
それから彼の作品を聴きはじめていったけど、どこか乗り切れなかったんだよね。自分の経験値が足りてなかったというのもあるけど。彼の作る音楽はあまりに微妙で、ぼくじゃつかみきれなかった。
それがこの作品にきて、最高にはまったんだよね。なにが違うんだろう。。経験積んだってのはあるけど、それよりもこの作品が他の作品に比べてメロディアスだってことがあるんじゃなかろうか。

自分にとっては、この作品がスラックの現時点でのベストです。それどころか、10年代の日本のヒップホップでのベストの作品だと思う。まあ門外漢のぼくの意見なので参考程度に留めておいてほしいですけど。そもそもヒップホップって枠内じゃなくて、ポップミュージック全体で見ても、これほどの作品は稀です。
あーまとめ方わからん。もう前段の話まったくつながってないしね! とにかく聴け!ってこと。保障するから、なんかいろいろ。で、これ聴いて、ベッドでいい夢見ればいいんだ。おやすみ



9.1