七尾旅人 「ひきがたり・ものがたり Vol.1 蜂雀 (ハミングバード)」

七尾旅人のサードアルバムですか。彼のディスコグラフィ上ではインパクトのある作品に挟まれていて、ちょっと影が薄いかな〜・・・ なんて、ぼくは思ってはいませんが、世間一般ではもしかしたら思われているのかもなと思ってのチョイス。前作は二枚組みで次作は三枚組みでして、まあたしかに衝撃度で言えば劣っているのかもしれませんけど、中身の濃さではまったく負けていません。

「世間一般じゃ影が薄いかも」なんて書きましたけど、ちょっと調べたらすぐこんな力の入った評を見つけました。阿部嘉昭ファンサイト: 七尾旅人『蜂雀』評世間一般での実際の認知度は知りませんけど、まあこの作品が強烈な力を持っていることは確かでしょう。あとは参考としてこれも(七尾旅人~ひきがたり・ものがたり vol.1 蜂雀(ハミングバード) | 縮まらない『何か』を僕らは知っている)。

まだ全部読んだわけではないけれど、先に貼ったほうの記事読めばもうよくない?という感じがしますね。まあてきとうに書きますけど。
まずサウンドについてですけど、今までのものよりずっと音の数が減って、もはや骨だけと言えるくらいになりました。大部分はアコースティックで、電子音はときたま使われるくらい。それでも、全体の音数をほんっとうに絞ってるので、相当の存在感を伴って響いてきます。というか、音響は今までで一番こだわってると思います。「ただの」弾き語り作品じゃないです。
そしてアルバム全体でテンポがゆっくりです。個人的にはロウなどのスロウコアを思い出す。この作品がスロウコア勢と違うところは曲の濃さですね。だいたい組曲的になっていて、一曲の中で二転三転する。
音数が絞られることで一音一音が、また曲のよさが引き立つようになったということです。一枚目二枚目がどちらかといえばいろいろと過剰な作品だったので、流れ的にはわりと自然なのかもしれません。

歌詞については、実際に音と一緒に感じてほしいのであまり書きませんが、タイトルに「ものがたり」なんて言葉が入っていることから察せられるように、とても力の入ったものになっています。今までもずっとそうでしたけど!

個人的には#2「月の輪」後半や#5「まほろば」(空気公団の山崎ゆかりさんがボーカルで参加してます)後半のミニマムな弾き語りでなんともいえない気持ちになってしまいます。美しい、といっていいのか。この方向の極致。


あとこの作品は、サウンド的に聴きやすいこともあって非常に長持ちします。この表現よくないんですけど!聴いた回数一番多いはず。まあ他の作品も長持ちするんですけど、あれらはそもそも全体を把握するだけでとても時間がかかるので。サウンド以外でも、やっぱり曲がめちゃくちゃいいので。たぶん、これからもずっと。

これもまた個人的な、感覚の話ですけど、このアルバムはファーストと同じくらい「天才」を感じます。セカンドにも感じるんですけど、あれはそれ以上に「職人」を感じてしまう。どっちがいい悪いではないですし、どれも同じくらい好きなのでまあ気にしないでください。

大学生時代とてもよく聴いた、大事な一枚です。たとえばgroupersakana、ニック・ドレイクを聴くときのようにこの作品を聴いていました。「おやすみタイニーズ」なんて超名曲もありますし、彼のファンでなくとも必聴です。



9.1